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雑話187「ルネサンス美術とパトロン」

15世紀から16世紀のイタリア・ルネサンスにおいて、ダ・ヴィンチやミケランジェロなどの巨匠たちが、革新的な美術を華々しく展開したことはご存知の方も多いことでしょう。


しかし、そんな天才たちの活躍も、当時隆盛を誇っていたパトロンたち抜きには実現しませんでした。


イタリア・ルネサンスの最も有名なパトロンは、フィレンツェのメディチ家でしょう。


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ヴェロッキオ周辺の工房「ロレンツォ・デ・メディチの胸像」1492年頃

”市政府を、あたかも君主であるかのようにコントロールした”といわれたコジモ・デ・メディチの孫であるロレンツォ・デ・メディチも、祖父と比べると見劣りはするものの、ルネサンス美術に対して大きな影響を及ぼしました。


その理由の一つが、ロレンツォの古代の美術品収集です。古代の美術品の中でも、彼が特に好んだのが、カメオでした。


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「タッツァ・ファルネーゼ」(表側)紀元前1、2世紀

※現存するなかで最高の古代カメオの一つ

ここでいうカメオとは、浮彫装飾を施したメノウやジャスパーといった宝石・貴石作品を指しています。


彼のコレクションの中で、最も有名なものが「タッツァ・ファルネーゼ」と呼ばれる、紅縞メノウ製の直径20㎝の杯で、現存する中で最高の古代カメオの一つだといわれているものです。


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「タッツァ・ファルネーゼ」(裏側)

※前面にメドゥーサが描かれています

制作されたのは紀元前1、2世紀とされ、表側には7人の人物とスフィンクスが彫り込まれ、ナイル川の豊饒を示しており、裏側には全面にメドゥーサが描かれています。


さて、ロレンツォの黄金時代を象徴する作品として、ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」が挙げることができますが、この作品にロレンツォのコレクションの影響が見られます。


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サンドロ・ボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」1485年頃

「ヴィーナスの誕生」の絡み合って飛ぶゼフェロス(西風)とアウラ(微風)は、タッツァ・ファルネーゼに描かれたエーゲ海の夏の風エテジアの寓意像と発想がよく似ています。


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「ヴィーナスの誕生」のゼフェロスとアウラ

そもそも人物が背景から浮き立つように描かれたボッティチェッリの作品は、カメオの構図に類似しているように見えます。


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「タッツァ・ファルネーゼ」のエテジア

さらに、この作品をメディチ家が所有していたいくつかのカメオと並べてみると、そこには単に造形上の類似性だけでなく、作品が醸し出す雰囲気にも同種のものが感じられるのです。


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ネロのシジッロ(アポロ、マルシュアスとオリュンポス)

※メディチ家の有名な古代のジェム作品

カメオがボッティチェッリにとって、重要な発想源だったとすると、ロレンツォ・デ・メディチ抜きでは、有名な「ヴィーナスの誕生」も描かれることはなかったでしょう。


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サンドロ・ボッティチェッリ「若い女性の肖像」1485年

※上の「ネロのシジッロ」に基づくカメオを胸に下げています

こうしてみると、これらのボッティチェッリの作品は、当時の美術作品がパトロンと美術家のコラボレーションによって生み出されたことを示す好例といえるでしょう。