雑話60「画材の進歩とその影響」
先日の新聞によると、エコール・ド・パリの一人で、乳白色の絵肌で知られる藤田嗣治が、戦時中に制作した作品に日本製のベビーパウダーを画材として使っていたことが発見されたそうです。
藤田の滑らかな画面は画家の活躍当時から、どのように描かれたのかが謎でしたが、今回の事実は戦時中の応急処置として手に入りやすい日用品を応用した結果かもしれません。
日本初のベビーパウダーとして発売された当時の”シッカロール”
さて、印象派の誕生に不可欠な条件としても、ある画材の発明がありました。
それはチューブ入りの油絵具です。
印象派とその前の世代であるバルビゾン派の画家たちは、手軽に持ち運びできるチューブ入りの絵具があったからこそ、屋外で描くことができるようになったといってもいいでしょう。
中世やルネッサンス時代では、絵具は画家自身やその弟子が必要に応じて顔料を砕き、油で練った自家製のものを使っていました。
その後、作った絵具を豚の膀胱などを使った皮袋に入れて保存するようになりました。
豚の膀胱を使った料理の写真
※本文とはあまり関係ありませんが、少なくとも液体を入れる容器として使えたみたいですね!
19世紀はじめには、絵具の保存用のシリンジ(注射器の針のないもの)が発明されました。
現代のシリンジの例 ※当時は真鍮製やガラス製でした
しかし、空のシリンジに絵具を充填する際の洗浄が非常に手間がかかることもあって、決して手軽に使える代物ではなかったようです。
1841年に錫製の押し出しチューブがイギリス在住のアメリカ人画家、ジョン・G・ランドによって発明されました。
その翌年には先端にねじ式キャップがついたチューブに改良されて、現在とほぼ同じ形になりました。
こうして手軽に持ち運びが出来るようになったチューブ入りの絵具を携帯して、コローやミレーなどのバルビゾン派が屋外で絵画を制作するようになりました。
ジャン=バティスト・カミーユ・コロー「モルトフォンテーヌの思い出」1864年
その時バルビゾン派の画家たちが、刻々と変化するモチーフを捉えるために使った、細部を省略しすばやく描く技法が、印象派のテクニックへと繋がっていったのです。
つまり、チューブ入りの絵具は、それがなければ印象派は誕生していないかもしれないといえるほど、印象派にとってはなくてはならないものだったのです。
