雑話62「映画で見るかつての絵画制作」
画家を描いた小説や映画はたくさんありますが、その多くはゴッホやモディリアーニなど波乱万丈に富んだ画家の人生に焦点を当てています。
しかし、特異な言動ばかりがクローズアップされてきたゆえに、画家本来のアイデンティティーである絵を描くという行為については、そのシーンも少なく、あまり参考にはなりませんでした。
映画のPRイメージ
そういう意味では、今回ご紹介する映画は当時の絵画制作がどのようなものだったかがわかる興味深い作品です。
日本でも人気の高いフェルメールの絵にまつわる物語を描いた「真珠の耳飾りの少女」は、公開が2003年と比較的最近だったため、ご覧になった方も多いかもしれません。
この映画は、タイトルでもある「真珠の耳飾りの少女(別名”青いターバンの少女”)」という絵画が描かれることになった経緯を、画家とモデルの女中との間の淡い恋物語を交えて描いています。
ヨハネス・フェルメール「真珠の耳飾りの少女」1665年頃
さて、この映画から絵画制作について、2つのことがわかります。
1つはフェルメールがモチーフの質感を出すために絶妙な配色の下塗りを行っていたことです。
フェルメールの絵画の魅力の一つはその正確な描写です。
まるで、写真のように描かれた画面は、単にデッサンが正確なだけでなく、室内に射し込む光や衣類の質感などの描写も鮮やかで、活き活きとした印象を与えます。
ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」1658-1660年
この表現の秘密の一つは彼の下塗りの技術にあったようです。
下塗りの色が実際のモチーフとは違うことに疑問を持っていた主人公は、フェルメールが制作を進めていく中でその効果に驚きます。
”偽りの色に旦那様が彩りを添えはじめたとき、あのときのことばが腑に落ちた。
旦那様が娘さんのスカートに水色を塗られると、それは青になり、ところどころ黒が透けて机の翳では濃く、窓辺に近づくほど明るさを増す。
壁のあたりに塗った薄い黄土色からは下塗りの灰色も覗く。
それが明るいけれど、決して白一色ではない壁になった。”
もう一つは当時の絵具がどのようなものであったかということです。
フェルメールの活躍した17世紀ではまだ、印象派の画家たちが使っていたチューブ入りの絵具はありませんでした。
そこで、画家は顔料を自ら粉状に砕き、それを油と混ぜ合わせて、自家製の絵具を作っていました。
絵画と同じ格好をした女優
※少女と呼ぶには色っぽすぎる?!
映画の中では様々な顔料がテーブルの上に並んでいます。
ルビー色の樹脂、アラビアゴム、ワインの酒袋、孔雀石、亜麻仁油、骨炭・・・
硬い骨炭を乳棒ですり潰すシーンでは、フェルメールに手を触れられた女中は驚きと恥じらいの表情を浮かべて・・・と、恋愛映画としても盛り上がる要素をちりばめられて、純粋に映画としても楽しめます。
また、アトリエのシーンはまるでフェルメールの絵画そのものを見ているようで、各場面での美しい映像がとても印象に残りました。
もし、まだご覧でないのなら、お薦めの映画です。
”真珠の耳飾りの少女”
2003年
イギリス映画
出演:スカーレット・ヨハンソン(モデル)、コリン・ファース(フェルメール)



