空閨残夢録 -9ページ目

空閨残夢録

上層より下層へ 
中心より辺境へ 
表面より深淵ヘ 
デカダンよりデラシネの戯言






 昨日の夕べ晩酌に、札幌市中央区すすきのにある“四文屋”という焼きとんや焼き鳥をお品書きにしている大衆酒場へ寄る。そこで甲類焼酎の味醂割りにしたモッキリを飲んだ。



  “もっきり”とは、大衆酒場で酒や焼酎などを1合ほどの容量のグラスで飲むスタイルのことで、盛り切りが転じて盛っきりと呼ばれる。東京の河童橋には、このもっきり専用グラスがある。

 


 このグラスは『角七酌』と呼ばれ、角形の円で厚みのあるガラスでできていて、倒しても簡単にはグラスの縁が欠けたり、簡単には割れない丈夫なグラスである。容量は7勺が主流で、8勺のグラスもある。また専用の受け皿もあり、7勺用は深く大きく、8勺用は小さ目である。専用の受け皿を使わずにお通しの皿、ベリー皿、韓国風の金属の小皿などを代用にしている店舗が多い。


 

 7勺の量は、尺貫法で体積の単位で0,7合である。1合は約 1,8039ℓ であるから、7勺は180×0,7=126ml の容量である。もっきりグラスには必ず受け皿にのせられて、その受け皿にこぼれるように酒を注がれる。このこぼれた酒の量とグラスの容量を合わせて正1合になる演出でもあるのが、つまりモッキリというスタイルなのである。



 モッキリには清酒の他に、甲類焼酎の梅割りで飲むスタイルがある。このモッキリ専用の梅はシロップであり、関東では茨城県水戸市の酒造会社である「明利酒類」から発売されている商品で『梅の精』が流通している。また関東で流通する甲類焼酎のシェアはキッコーマンの商品が多く占める。










 また愛知県四日市市の酒造メーカーである宮崎本店の甲類焼酎は全国的にも人気を呼ぶ商品であり、昨日いただいたモッキリはキンミヤであった。キンミヤでは亀甲宮本みりんも製造していて、この味醂割りのモッキリを呑んだ。味醂は調味料のイメージが強いけれども、本みりんならばお米のリキュールといえよう。



 さて、もっきりグラスの角七酌だけれども、七勺の容量のグラスから勺を酌と表している。七勺を“ななしゃく”と漢音で言い表すが、飲食業界では“ななせき”と呼び表す。訓では勺を“くむ”と言い表すが、現代ではあまり使用されていない言葉であろう。















 薬草や香草を原料にしたリキュールのなかでも、日本人の飲酒文化にイタリアのカンパリはかなり浸透したお酒だと思われる。このハーブ系リキュールを細分化するとビター系のお酒なのだが、“ビター/bitter”とは、英語で苦いの意で、イタリア語では“アマロ/amer” という。



 カンパリの味をシンプルに味わうとしたら「カンパリ・ソーダ」が一番だと思われる。苦味を柔らかくして飲むとしたら、オレンジ・ジュースで割ったり、「スプモーニ」なんかがよいだろう。苦味にこだわる人には「ネグロニ」をお薦めする。



 ボクはカンパリをベースにした「アメリカーノ」が昔から好きで食前によく飲んでいるカクテルのひとつ。カンパリを約30m、スィート・ヴェルモットを約30m、これを氷を入れたタンブラー・グラスにソーダ水を満たして、レモンのスライスでも入れてくれれば満足である。


 

  さて、このカンパリの赤い色は赤色系のリキュールのなかでも、一際美しい輝き放つ宝石の如しだったのだが、2007年10月から、それまでは天然色素を長らく使用されていたのが、合成色素に代替された。それは赤色2号、青色1号、黄色5号の合成着色料である。

 


 あの紅い輝きのカンパリの色彩は合成着色料では、絶対に表現できない美しい鮮紅色なのだ。それは酒瓶の裏にあるラベル表示には、「カルミン酸」という紅い天然色素が原料に使用されていることが、かつて載っていた。



 このカルミン酸とは何かというと、「コチニール」という赤色の天然着色料なのだが、コチニール色素は、アブラムシの体液で、正確には臙脂虫(えんじむし)と日本では呼ばれる虫で、中南米産のコチニール・カイガラムシ科が、紅い色の正体である。



 カンパリはイタリアのトリノで、バーテンダーをしていたガスパール・カンパリ氏が、1860年に開発した酒で、「ビッテル・アルーソ・ドランディア(オランダ風の苦味酒)」と、当初は名付けられて販売された。その後、息子のダヴィデ・カンパリが、「カンパリ」と名前を変えて現在の製造元のダヴィデ・カンパリ社を興す。






 日本の輸入元はサントリーだが、カンパリ社はチンザノ(ヴェルモット)、ウォッカのSKYYなどを傘下におさめる酒造業界の一大グループでもある。



 カンパリの製法は明らかにされていないが、原料にビターオレンジ、キャラウェイ、コリアンダー、リンドウの根などを主体に、約60種類にのぼるハーブとスパイスの材料が用いられているようだ。



 そして、このカンパリを美しく情熱的に赤く装う鮮紅色の輝きを演出してくれているのは、植物系の原料ではあらずして、動物である虫の原材料がかつては主体となっていた。



 アントラキノン・カルミン酸を主成分とするカイガラムシはサボテン科(ウチワサボテン属)のベニコイチジクなどに寄生するアブラムシみたいな雌から色素を抽出する。アステカやインカ帝国の時代からこの虫は養殖されて、装飾品や衣服の着色料とされてもいた。



 天然の赤い色素は他に、紅花、βカロチン、パプリカ色素などがあるけれど、合成のタール色素に比較すれば、人体の影響としてアレルギーや発ガン性の作用は少ないと思われる。



 女性は口紅を使うから石油系タール色素よりは、天然のコスメティツクに気を使うでしょうネ。食べなくても口から口紅の色素成分は体内へ入るリスクは大きいですからネ。



 いずれにしてもカンパリの紅きカルミン酸の輝きは失われて、合成のネオンのような赤いまたたきへと変質したカンパリは、悲しくも残念であるし、偉大な職人の誇りや、伝統の響きも喪失されたであろう。ボクはこれからはカンパリは飲まず、アメリカーノのベースはビター・ヴェルモットに代えるつもりだ。







 イタリアのハーブ系リキュールのカンパリに対して、フランスの「スーズ」が世界的に有名である。日本では「カンパリ」ほど知名度のないスーズであるが、スーズの薬草の主成分は竜胆(りんどう)である。本邦では紫色の花を咲かす竜胆は、主に生薬として根茎を漢方に胃腸薬として使用されているが、西欧でもこの仲間が同じように薬用として使われている。


 日本特産の植物でリンドウ科のトウリンドウ、または、そのほか同属植物の根および根茎が生薬となる。本来は関東以西の山野に自生していた。茎は直立か斜め上にのび、葉は対生して柄がなく、茎を抱きこむようにつく。全縁で縦に走る3本の脈が目立つ。



 源氏の家紋はリンドウの花と葉を巧みに図案化したものだ。薬になるのは根であり、秋に根を掘り取り、水洗いして日干しにしたのが生薬の竜胆である。



 日本漢方薬局方にも収載されているこの生薬は、ゲンチアナ根でも代用できる。中国産の「関竜胆」 (東北諸省産)のなかには、G.triflora PALLAS の地下部を混じている。また「雲南竜胆」、「貴州竜胆」 (雲南、貴州、四川省産) は、G.regescens Fr. の地下茎部を起源とする。



 かつては、日本産の「樺太竜胆」、または「蝦夷竜胆」と称する生薬が市販されていたらしいが、今日では市場性はないらしい。



 ゲンチアナとはリンドウ科のヨーロッパに分布または栽培される多年草で夏に黄色い花を咲かせる日本の竜胆と近縁種。







 根および根茎(若干、発酵させてから乾燥することが多い)は日本漢方薬局方に収録されている生薬ゲンチアナである。非常に苦く、苦味健胃作用がある。伝統的な漢方方剤では使わないが、西洋薬と生薬を組み合わせた処方の胃腸薬によく配合されているらしい。漢方方剤で使われる龍胆と類似した生薬であることは間違いない。



 フランスのハーブ系リキュールで、「スーズ」の主な成分にゲンチアナが原料として使われている。カンパリがイタリアのアペリティーヴォ(食前酒)なら、スーズはフランスのアペリティフ(食前酒)の代名詞である。フランスではゲンチアナをジェンシアンと発音する。



 アペリティフとは消化促進をうながす薬効のあるリキュールのことで、主に苦味を感じるお酒であり、スーズは黄色いゲンチアナの花を思わせる色彩の酒で、黄色いカンパリと表現する人も多々いる。


 スーズは1889年にフランスのフェルナン・ムローが友人のアンリー・ボルトと共同で開発したビター・アペリティフで、主原料はゲンチアナ(Gentiane)であり野生りんどうの一種である。



 フランスの中央部オーヴェルニュ地方の火山台地を主に、ジュラやノルマンディ地方の高地に自生し、成長には、20年もの月日を要するもので、収穫は初秋の時期だけとのこと・・・・・・、何となく朝鮮人参に似ている植物でもある。



 この貴重なゲンチアナの根をパリ郊外のクレティーユにある蒸留所に集荷して、細かく砕いて数ヶ月間にわたり、中性スピリッツに浸漬します。この液の一部を蒸留し、残りは抽出を続け、そしてこの2種類のアルコール液をブレンドして、これらにバニラ、オレンジのほかに3種類の香草を入れて熟成させて、砂糖と水を加えて製品化する。



 その風味はゲンチアナから生まれる独特の苦みの中にも爽やかさが感じられ、適度な甘さでユニークな味わいをもたらす。



 スーズという名前は開発者ムローの妹であるスザンヌ(Susanne)の愛称からきていて、1965年にペルノ社の傘下となり、今でも世界中で販売されている。



 米国の映画『プラーベート・ベンジャミン』の戦闘場面に、戦場となったフランスのある街で、廃墟に近い市中に教会や商店の焼け跡から、「SUZE」の広告看板が映画終盤の戦場シーンに何度となく崩壊しながら登場しているのが印象的である。 されどスーズは現在も世界的に流通している黄色い不滅の苦味酒なのである。



 スーズはピカソが愛飲したことでも有名な薬用酒で、黄色いカンパリの異名も日本ではあるが、カクテルにするならばトニックウォーター割り(Suze&Tonic)がお薦めであろう。(了)












 日本の“ラムネ”はレモネードのことで、レモネードは檸檬果汁に糖分を加えて加水した飲み物である。
つまり “Lemonade”と は、“LEMON+ADE” のことなのだが、ADE(エード)とは加水したジュースのことで、ジュースとは果汁100%のことを西欧では定義されている。然るに果汁30%の飲料はエードと法的に表現される。



 檸檬果汁に加糖して炭酸で割るとレモン・スカッシュと通常は呼ばれるが、日本ではこれをラムネと呼ばれてきた。また同じような飲み物で“サイダー” と商品登録っされている飲み物もある。これは、フランスではワインの産出が少ないノルマンディーやブルゴーニュで、シードルと呼ばれる林檎酒が作られている。またイギリスでもこのお酒は造られているが、この Cidre が、日本の三ツ矢サイダーとか、リボンシトロン、スプライトなどの炭酸飲料の通称となったわけで、もともとは林檎の醸造酒の名前である。



 北海道の余市でニッカ・ウィスキーの創業者は、スコットランドの気候と似ている積丹半島の近くに、ウィスキー蒸留所を創業した。



 ウィスキーは蒸留されると無色透明である。ブランデーもそうなのだが、あの琥珀色は樽で数年貯蔵されて色づき、色だけでなく味わいもオーク樽で深くなる。ですから、最低でも7年~8年間は出荷されずに倉庫で眠りにつくことになる。



 ニッカ・ウィスキーはこの眠っているお酒の期間に、林檎ジュースを販売して会社を興した。ニッカとは大日本果汁株式会社を略して、「日果」、つまり“ニッカ”という林檎のジュースを製造し販売していた創業が由来の会社名。

 

 林檎果汁の炭酸飲料で世界的に販路を延ばしたのが、南アフリカのアップルタイザーである。1965年 “Edmond Lombardi” によって開発された商品。アップルタイザーの名前の由来は、“Apple”and“Appetizer”という二つの単語(りんごと食前酒)を合わせた造語。



 フランスのカフェのお品書きには、米国の7upとか、日本の三ツ矢サイダーとか、リボンシトロン、スプライトなどの炭酸飲料は、Limonade 「リモナード」と呼ばれる。



 そして、レモン・スカッシュのような手作り感のある飲み物はディアボロと呼ばれて、シロップ入りのソーダー水なのだが、檸檬風味ならディアボロ・シトロン、薄荷風味ならディアボロ・マント、石榴風味ならディアボロ・グルナディーヌとなる。



 このディアボロとビールを半々に割って飲むカクテルが「パナシェ」である。カシス風味もあれば、フランボワーズの風味もあるので、ビールの苦さが苦手なお方の飲みものとなる。パナシェとは、「色彩りどり」みたいな意味のようですネ。



 ディアボロ・ジンジャーもあるようだが、製品として流通しているのは「ジンジャービアー」の商標で出回っていて、日本では英国のフェンティマンス社のジンジャービアーが現在では瓶入りで入手できる。



 カナダで1904年にカナダドライ・ペール・ジンジャーエールが瓶入りで発売され今でも人気の商品となるが、ジンジャーエールは現在では無果汁で合成香料入りの製品であるが、ジンジャービアーは生の生姜成分が入っているノンアルコール炭酸飲料。



 またジンジャービアーは炭酸ガスを加圧していない飲料で、生姜を発酵させて炭酸ガスを瓶内に封じている。つまりシャンパンの製法に似ているノンアルコールの飲み物である。







 米国のボストンで大戦後に流行り出した飲み方に“プレス・スタイル”がある。これは特にマスコミのプレス関係者から流行したのが理由らしいが、それはオールドテイラーのトニック割りや、ボストン・クーラー、ジン&トニック、モスコウ・ミュールなどのカクテルを、トニックやジンジャーエールをソーダと半々にして飲むスタイルなのである。



 このカクテルの飲み方の起源に少々ふれておこう・・・・・・




 マルチン・ルターの宗教改革運動が行われたのは1517年のことで、神聖ローマ帝国に「抗議書」こと、“プロテスタティオ”を叩き付けた宗教改革者を、つまり「抗議者」の意味でプロテスタントと呼ばれる。


 スイスで宗教改革の先陣を斬ったのがジャン・カルヴァンで、彼はフランスで「ユグノー」、オランダで「ゴイセン」、イギリスでは「プレスビディアン」と呼ばれた。



 イギリスのカルヴァン派はやがて新大陸へ伝播していき、英国系長老派と大陸系改革派に分裂するが、こと新大陸の米国を政治的に鳥瞰するに、プロテスタント諸派を把握していないと、アメリカの国政の縮図はなかなか理解できないらしい。


 カルヴァン系の長老派はあの悪しき禁酒法を生んだ原動力にもなっているほど、飲酒には厳しく、長老派教会ではお酒は禁じられている飲み物なのだが、その昔、アメリカ東部のボストンにこの教会が多かった。


 長老派教会、いわゆる “Presbyterian” の長老だか、牧師が、よくジンジャーエールを好んで飲んでいたらしいのだが、しかし、ジンジャーエールの甘味やエキス分が強過ぎたのか、これに炭酸水をジンジャーエールに加えて飲んでいた。つまり、アルコールこそ無いのだが、ジンジャーエールとソーダを混ぜ合わせた飲み方を、プレスビディアン・スタイルと呼ばれるようになる。



 ジンジャー・エールに限らず、セブン・アップやコカ・コーラも炭酸水でハーフ&ハーフにして、プレスビディアンのスタイルが流行りだして、禁酒法の時代と世界大戦も終わると、ボストン・クーラーやジン&トニック、モスコウ・ミュールなどのカクテルにもプレスビディアンのスタイルが浸透してくる。



 特にマスコミのプレス関係者がこのプレスビディアンを短く発音して、「プレス・スタイル」のカクテルを流行らせて、「オールドテーラーのトニック割りをプレス・スタイルで・・・」みたいな注文がボストンのバーで聞かれるようになる。



 ・・・・・・閑話休題




 さて、日本においては三ツ矢サイダーもウィルキンソンの炭酸水も、今では天然の発泡鉱泉水にあらずして、加圧式で炭酸ガスを充填しているが、平成16年に約100年ぶりに国内唯一の天然発泡ミネラル水の販売製造が復活した。これは会津の「芸者印万歳炭酸水」が、“aWa 心水”の商標で新たに甦った。







 この国産発泡ミネラル水は硬度167mg/Lの軟水であるが、イタリアの「サン・ペレグリノ」は硬度674mg/Lで、フランスのペリエよりも超硬水の発泡ミネラル水なのだがが、サン・ペレグリノは炭酸ガスをミネラル水に加圧しているが、ペリエは天然の炭酸水である



 20年くらい前に北海道の帯広市内にあった陶器屋で、ガラス製のソーダ・サイフォンを見かけたが、現在ではガラスは割れる危険があるので、ステンレス製のボディーが主流になっている。デザイン的な外観は硝子に金属の網で纏われた物の方が郷愁的に美しい。



 映画の“007シリーズ”で、ジェイムス・ボンド役のショーン・コネリーがソーダ・サイフォンでカクテルを作るシーンを子供の頃に初めて観た。その時はその機材がなんだか判らず不思議で印象的に記憶されている。



 これは、小さな金属製のボトルに炭酸ガスがを充填して、ボトルに入れたガスを冷水へ加圧する仕組みである。つまり原理は生ビールのサーファーと同じであり、これを小型簡易化したものである。



 その昔、銀座のバーで働いていた頃に、ジェームス・ボンドを真似てソーダサイフォンにミネラルウォーターを入れてソーダをつくり、これでカクテルを作っていたが、それはメタリックブルーの金属製のサイフォンだった。オーセンティックなバーではやはり硝子のソーダサイフォンがよく似合う。(了)





 
 





 カクテルをつくる技法は大別するに4種類ある。その①は、シェイカーで材料をシェイクして作る。その②は、ミキシング・グラスを用いてバースプーンでステアして作る。その③は、グラスに直接作るビルドという技法。その④は、ブレンダーもしくはミキサーなどの電動攪拌機で作るブレンドという方法で、これはフローズン・ダイキリなどのシャーベット状のカクテルを作る技法である。



 これらに共通することは、氷が最大の必需品であり、氷が材料として欠かせないものとなっていることだが、本日はこのなかでもかき氷のような納涼気分を味わえる④のブレンド(Blend)について特に話題とするが、その他にもパンチというカクテルがあり、このパンチの手法は4種の技法とは異なることを挙げておくが、このパンチについても述べよう。



 氷を使用するカクテルは19世紀後半に登場する。それはドイツ人のカール・フォン・リンデが製氷機を発明したのが1870年代。これを機にアメリカのニューオリンズにあるインペリアル・キャビネット・サロンで氷を活用した“ジン・フィズ”が誕生したと伝わる。



 フローズン・スタイルのカクテルが流行りだすのが、1950年代初期頃、1951年に発表されたJ・D・サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』で、主人公の17歳のホールデン少年が一番好きな飲み物として描かれている。



 電気ミキサーのことを米国ではエレクトリック・ブレンダー、または単にブレンダーと呼ぶが、そして、これを使って作るカクテルの技法を“ブレンド”と呼び表す。



 このフローズン・スタイルのカクテルは1930年代には生まれていたと伝わるが、アーネースト・ヘミングウェイの晩年の好物としても特に有名である。ヘミングウェイのよく飲んだのは“フローズン・ダイキリ”である。







 さて、ボクの個人的なフローズン・ダイキリのアレンジしたレシピを紹介しておこう。夏には少々ミント風味で「フローズン・ダイキリ」に清涼感を与えてる。そのレシピは以下に・・・・・・

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ホワイト・ラム=60ml

レモン・ジュース=45ml

シュガー・シロップ=20ml

コアントロー=10ml

ホワイト・ミント・リキュール=2dash

クラッシュド・アイス=500cc(1カップ)


以上の材料をバー・ブレンダーもしくはミキサーで攪拌する。ミントの葉を大きめのソーサー型シャンパングラスに飾って、ストローを添えて供する。

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 ミキサーが無ければ、氷をアイスピックの柄で、布に包んだキューブアイスをクラッシュして、かき氷風にいただくカクテルもある。それは「フラッペ」というスタイルで、お好みのリキュールをクラッシュした氷を入れたフラッペ・グラスに注いで味わうが、ボクはリキュールのシャルトリューズのヴェールを好んでフラッペでやる。グラスはオン・ザ・ロックのものにしてもらう。女性はミントのリキュールなどをフラッペ・グラスか、もしくは、ソーサー型のシャンパン・グラスにストロー付きで飲むのが絵になろう。


 さて、パンチというカクテルは、大勢の人が集うパーティーなどで主に作られる。パンチ・ボールに大量の酒や副材料にブロック・アイスを入れて、パンチ・カップに提供してサービスされる。



 ボクはスペインの家庭でよく飲まれる“サングリア”をパンチにしてよく提供していた。・・・・・・そのレシピも載せておこう。

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赤ワイン=1ボトル

ブランデー=30ml

コアントロー=30ml

クレーム・ド・カシス=30ml

オレンジ・ジ ュース=180ml

レモン・ジュース=30ml

シュガー・シロップ=60ml

シナモン少々とオレンジ・ピールやレモン・ピールなどを一晩ほど漬け込み出来上がり。(約15人分)

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 このサングリアを凍らせて、それをかき氷状にして、夏は楽しむこともできる。これは本場のスペインでは“グラニサード”というが、サングリアを冷凍庫で凍結すると、これを“ソルベツ・デ・サングリア”となるわけだ。さらに、それを“かき氷”にすると“グラニサード・デ・サングリア”となる。



 もちろん、サングリアに限らずに赤ワインでもカヴァでも、またジュースやアイスコーヒーでもグラニサードとして楽しむことはできるわけである。












 フランスでは“ディアボロ・マント”といって、暑い夏の日に、ママがおいしい薄荷ソーダ水を子供たちに作ってくれるようだ。ディアボロとはシロップ入りの炭酸水で、マントはミントのことである。



 つまり、Diabolo mentheと は「ミント風味のディアボロ」という意味で、炭酸水ではなくて、普通の水で割ったものは Menthe a leau(アクサン略)=「マンタ・ロー」と呼ばれている。


 薄荷入りのリキュールでは、南フランスのトゥールーズ市郊外にあるレヴェル町で、1796年に創製された「ペパーミント・ジェット」が有名である。このランプ型のボトル瓶はポール・セザンヌが静物画に描いているのもよく知られている。










 Pippermint Get 27 は緑色のリキュールで、Get 31 は無色透明の製品であるが、どちらも微妙に風味が違う。原料のミントの差もあるが、他に添加されているハーブの違いが大きい。いずれも上質のフレッシュ・ミント・キャンディーの味わいがする。



 アメリカには「ミント・ジュレップ」というスタンダードなカクテルがある。ベースはバーボン・ウィスキーなので、メーカーズ・マークとアーリータイムスの製品にはミント風味のものがある。


 ラム・ベースのカクテルで Mojito (モヒート)はライムにミント・リーフを角砂糖と潰してスマッシュのような飲み物で、日本ではミント・ジュレップよりは人気があるようだ。










 米国のケンタッキーはバーボン・ウィスキー発祥の地である。良質な酒を造るには澄みきった水が欠かせない。ケンタッキー州は「ライムストーン・ウォーター」と呼ばれる石灰岩の泉から湧き出る優れた水があり、肥沃な大地が良質なバーボンの原料となるライ麦、コーン、大麦が収穫される神に選ばれた土地柄なのである。



 そして、ケンタッキーを開拓した移民たちの中に、優れた酒造りの技をもった者がいたこともバーボン誕生の重要な要素だ。自然に恵まれた原材料と、人の技術が、開拓の歴史のなかで培われた酒こそがバーボン・ウィスキーというスピリッツにある。


 このバーボンをベースに数々のカクテルが生まれた。なかでも「ミントジュレップ」は18世紀末に生まれたカクテルで清涼感あふれる飲み物であろう。そのレシピは・・・・・・、グラスにミントリーフと角砂糖を入れて、マドラーでよく潰してから、そこへクラッシュド・アイスを入れてから、バーボンを注いでステアし、ミントを飾って供する。



 お好みで水か炭酸水を加えたり、あらかじめミント風味にしたシュガーシロップでの作り方もあり、レシピは様々だが、そもそも“ジュレップ”という古典的なカクテルは、ワインやシャンパンもしくはブランデー、ジン、ラムなどのスピリッツ類をベースにして、新鮮なミントに砂糖とクラッシュド・アイスを加えるロング・ドリンクであるが、“ミントジュレップ”というばバーボンベースが今では定番である。


 アーリータイムスとメーカーズマークというメーカーには、すでにミントジュレップの風味になったレディミックスが市販されている。これだとグラスに氷を入れてボトルから酒を注ぎミントの葉をあしらえば出来上がりである。このような規格品はケンタッキーダービーに重宝している。









 “ケンタッキーダービー”とは、今から約130年前に創設されたアメリカ競馬の由緒あるレース。毎年5月第一土曜日にケンタッキー州のチャーチルダウンズ競馬場で開催される。地元では「ダービー・ウィーク」と呼ばれて楽しまれている。ケンタッキーの風物詩として有名なイベントだ。


 このダービーで公式ドリンクとして飲まれているのが“ミントジュレップ”である。このカクテルを、ハンドメイドカクテルとしてボトリングされているものが、ダービーの開催期間だけで何万杯も飲まれる。アーリータイムスの銘柄だけでも開催中にはなんと約8万杯も飲まれているうという。



 アーリータイムズ・ミントジュレップカクテルのレディミックス 32,000カップ分(約7,600ℓ)、クラッシュド・アイス(60t)がこの日だけで使われ、ケンタッキーダービーの最後を飾る、優勝者を讃えた州知事の乾杯にも、このアーリータイムズのミント・ジュレップを使うのが伝統となっているようだ。ここ10年くいボトルの絵柄が毎年変わりながらオフィシャルドリンクとして指定されている。


 ミントは大別するとペパーミント系とスペアミント系があり、カクテルのレシピにはミントの種類まで指定されていないが、生の葉を使用するとスペアミントは苦味が出て気になるかもしれないので、ペパーミントを使うのが無難であろう思われる。





 薄荷つまりミントは日本に自生しているので、かつて、北海道の北見地方では農家で多く生産されて世界中に、その精油成分を輸出していた時期もある。健胃や駆風に生薬として使われていた紫蘇科の多年草の植物として重宝されていた。


 薄荷という言葉が今ではすたれて、ハッカはミントという言葉で表さられる現代の紫蘇科の植物であるが、本邦でも天然に野生によくみられる植物なのである。