日本の“ラムネ”はレモネードのことで、レモネードは檸檬果汁に糖分を加えて加水した飲み物である。
つまり “Lemonade”と は、“LEMON+ADE” のことなのだが、ADE(エード)とは加水したジュースのことで、ジュースとは果汁100%のことを西欧では定義されている。然るに果汁30%の飲料はエードと法的に表現される。
檸檬果汁に加糖して炭酸で割るとレモン・スカッシュと通常は呼ばれるが、日本ではこれをラムネと呼ばれてきた。また同じような飲み物で“サイダー” と商品登録っされている飲み物もある。これは、フランスではワインの産出が少ないノルマンディーやブルゴーニュで、シードルと呼ばれる林檎酒が作られている。またイギリスでもこのお酒は造られているが、この Cidre が、日本の三ツ矢サイダーとか、リボンシトロン、スプライトなどの炭酸飲料の通称となったわけで、もともとは林檎の醸造酒の名前である。
北海道の余市でニッカ・ウィスキーの創業者は、スコットランドの気候と似ている積丹半島の近くに、ウィスキー蒸留所を創業した。
ウィスキーは蒸留されると無色透明である。ブランデーもそうなのだが、あの琥珀色は樽で数年貯蔵されて色づき、色だけでなく味わいもオーク樽で深くなる。ですから、最低でも7年~8年間は出荷されずに倉庫で眠りにつくことになる。
ニッカ・ウィスキーはこの眠っているお酒の期間に、林檎ジュースを販売して会社を興した。ニッカとは大日本果汁株式会社を略して、「日果」、つまり“ニッカ”という林檎のジュースを製造し販売していた創業が由来の会社名。
林檎果汁の炭酸飲料で世界的に販路を延ばしたのが、南アフリカのアップルタイザーである。1965年 “Edmond Lombardi” によって開発された商品。アップルタイザーの名前の由来は、“Apple”and“Appetizer”という二つの単語(りんごと食前酒)を合わせた造語。
フランスのカフェのお品書きには、米国の7upとか、日本の三ツ矢サイダーとか、リボンシトロン、スプライトなどの炭酸飲料は、Limonade 「リモナード」と呼ばれる。
そして、レモン・スカッシュのような手作り感のある飲み物はディアボロと呼ばれて、シロップ入りのソーダー水なのだが、檸檬風味ならディアボロ・シトロン、薄荷風味ならディアボロ・マント、石榴風味ならディアボロ・グルナディーヌとなる。
このディアボロとビールを半々に割って飲むカクテルが「パナシェ」である。カシス風味もあれば、フランボワーズの風味もあるので、ビールの苦さが苦手なお方の飲みものとなる。パナシェとは、「色彩りどり」みたいな意味のようですネ。
ディアボロ・ジンジャーもあるようだが、製品として流通しているのは「ジンジャービアー」の商標で出回っていて、日本では英国のフェンティマンス社のジンジャービアーが現在では瓶入りで入手できる。
カナダで1904年にカナダドライ・ペール・ジンジャーエールが瓶入りで発売され今でも人気の商品となるが、ジンジャーエールは現在では無果汁で合成香料入りの製品であるが、ジンジャービアーは生の生姜成分が入っているノンアルコール炭酸飲料。
またジンジャービアーは炭酸ガスを加圧していない飲料で、生姜を発酵させて炭酸ガスを瓶内に封じている。つまりシャンパンの製法に似ているノンアルコールの飲み物である。
米国のボストンで大戦後に流行り出した飲み方に“プレス・スタイル”がある。これは特にマスコミのプレス関係者から流行したのが理由らしいが、それはオールドテイラーのトニック割りや、ボストン・クーラー、ジン&トニック、モスコウ・ミュールなどのカクテルを、トニックやジンジャーエールをソーダと半々にして飲むスタイルなのである。
このカクテルの飲み方の起源に少々ふれておこう・・・・・・
マルチン・ルターの宗教改革運動が行われたのは1517年のことで、神聖ローマ帝国に「抗議書」こと、“プロテスタティオ”を叩き付けた宗教改革者を、つまり「抗議者」の意味でプロテスタントと呼ばれる。
スイスで宗教改革の先陣を斬ったのがジャン・カルヴァンで、彼はフランスで「ユグノー」、オランダで「ゴイセン」、イギリスでは「プレスビディアン」と呼ばれた。
イギリスのカルヴァン派はやがて新大陸へ伝播していき、英国系長老派と大陸系改革派に分裂するが、こと新大陸の米国を政治的に鳥瞰するに、プロテスタント諸派を把握していないと、アメリカの国政の縮図はなかなか理解できないらしい。
カルヴァン系の長老派はあの悪しき禁酒法を生んだ原動力にもなっているほど、飲酒には厳しく、長老派教会ではお酒は禁じられている飲み物なのだが、その昔、アメリカ東部のボストンにこの教会が多かった。
長老派教会、いわゆる “Presbyterian” の長老だか、牧師が、よくジンジャーエールを好んで飲んでいたらしいのだが、しかし、ジンジャーエールの甘味やエキス分が強過ぎたのか、これに炭酸水をジンジャーエールに加えて飲んでいた。つまり、アルコールこそ無いのだが、ジンジャーエールとソーダを混ぜ合わせた飲み方を、プレスビディアン・スタイルと呼ばれるようになる。
ジンジャー・エールに限らず、セブン・アップやコカ・コーラも炭酸水でハーフ&ハーフにして、プレスビディアンのスタイルが流行りだして、禁酒法の時代と世界大戦も終わると、ボストン・クーラーやジン&トニック、モスコウ・ミュールなどのカクテルにもプレスビディアンのスタイルが浸透してくる。
特にマスコミのプレス関係者がこのプレスビディアンを短く発音して、「プレス・スタイル」のカクテルを流行らせて、「オールドテーラーのトニック割りをプレス・スタイルで・・・」みたいな注文がボストンのバーで聞かれるようになる。
・・・・・・閑話休題
さて、日本においては三ツ矢サイダーもウィルキンソンの炭酸水も、今では天然の発泡鉱泉水にあらずして、加圧式で炭酸ガスを充填しているが、平成16年に約100年ぶりに国内唯一の天然発泡ミネラル水の販売製造が復活した。これは会津の「芸者印万歳炭酸水」が、“aWa 心水”の商標で新たに甦った。
この国産発泡ミネラル水は硬度167mg/Lの軟水であるが、イタリアの「サン・ペレグリノ」は硬度674mg/Lで、フランスのペリエよりも超硬水の発泡ミネラル水なのだがが、サン・ペレグリノは炭酸ガスをミネラル水に加圧しているが、ペリエは天然の炭酸水である
20年くらい前に北海道の帯広市内にあった陶器屋で、ガラス製のソーダ・サイフォンを見かけたが、現在ではガラスは割れる危険があるので、ステンレス製のボディーが主流になっている。デザイン的な外観は硝子に金属の網で纏われた物の方が郷愁的に美しい。
映画の“007シリーズ”で、ジェイムス・ボンド役のショーン・コネリーがソーダ・サイフォンでカクテルを作るシーンを子供の頃に初めて観た。その時はその機材がなんだか判らず不思議で印象的に記憶されている。
これは、小さな金属製のボトルに炭酸ガスがを充填して、ボトルに入れたガスを冷水へ加圧する仕組みである。つまり原理は生ビールのサーファーと同じであり、これを小型簡易化したものである。
その昔、銀座のバーで働いていた頃に、ジェームス・ボンドを真似てソーダサイフォンにミネラルウォーターを入れてソーダをつくり、これでカクテルを作っていたが、それはメタリックブルーの金属製のサイフォンだった。オーセンティックなバーではやはり硝子のソーダサイフォンがよく似合う。(了)