カクテル閑話放題 その1『薄荷』 | 空閨残夢録

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 フランスでは“ディアボロ・マント”といって、暑い夏の日に、ママがおいしい薄荷ソーダ水を子供たちに作ってくれるようだ。ディアボロとはシロップ入りの炭酸水で、マントはミントのことである。



 つまり、Diabolo mentheと は「ミント風味のディアボロ」という意味で、炭酸水ではなくて、普通の水で割ったものは Menthe a leau(アクサン略)=「マンタ・ロー」と呼ばれている。


 薄荷入りのリキュールでは、南フランスのトゥールーズ市郊外にあるレヴェル町で、1796年に創製された「ペパーミント・ジェット」が有名である。このランプ型のボトル瓶はポール・セザンヌが静物画に描いているのもよく知られている。










 Pippermint Get 27 は緑色のリキュールで、Get 31 は無色透明の製品であるが、どちらも微妙に風味が違う。原料のミントの差もあるが、他に添加されているハーブの違いが大きい。いずれも上質のフレッシュ・ミント・キャンディーの味わいがする。



 アメリカには「ミント・ジュレップ」というスタンダードなカクテルがある。ベースはバーボン・ウィスキーなので、メーカーズ・マークとアーリータイムスの製品にはミント風味のものがある。


 ラム・ベースのカクテルで Mojito (モヒート)はライムにミント・リーフを角砂糖と潰してスマッシュのような飲み物で、日本ではミント・ジュレップよりは人気があるようだ。










 米国のケンタッキーはバーボン・ウィスキー発祥の地である。良質な酒を造るには澄みきった水が欠かせない。ケンタッキー州は「ライムストーン・ウォーター」と呼ばれる石灰岩の泉から湧き出る優れた水があり、肥沃な大地が良質なバーボンの原料となるライ麦、コーン、大麦が収穫される神に選ばれた土地柄なのである。



 そして、ケンタッキーを開拓した移民たちの中に、優れた酒造りの技をもった者がいたこともバーボン誕生の重要な要素だ。自然に恵まれた原材料と、人の技術が、開拓の歴史のなかで培われた酒こそがバーボン・ウィスキーというスピリッツにある。


 このバーボンをベースに数々のカクテルが生まれた。なかでも「ミントジュレップ」は18世紀末に生まれたカクテルで清涼感あふれる飲み物であろう。そのレシピは・・・・・・、グラスにミントリーフと角砂糖を入れて、マドラーでよく潰してから、そこへクラッシュド・アイスを入れてから、バーボンを注いでステアし、ミントを飾って供する。



 お好みで水か炭酸水を加えたり、あらかじめミント風味にしたシュガーシロップでの作り方もあり、レシピは様々だが、そもそも“ジュレップ”という古典的なカクテルは、ワインやシャンパンもしくはブランデー、ジン、ラムなどのスピリッツ類をベースにして、新鮮なミントに砂糖とクラッシュド・アイスを加えるロング・ドリンクであるが、“ミントジュレップ”というばバーボンベースが今では定番である。


 アーリータイムスとメーカーズマークというメーカーには、すでにミントジュレップの風味になったレディミックスが市販されている。これだとグラスに氷を入れてボトルから酒を注ぎミントの葉をあしらえば出来上がりである。このような規格品はケンタッキーダービーに重宝している。









 “ケンタッキーダービー”とは、今から約130年前に創設されたアメリカ競馬の由緒あるレース。毎年5月第一土曜日にケンタッキー州のチャーチルダウンズ競馬場で開催される。地元では「ダービー・ウィーク」と呼ばれて楽しまれている。ケンタッキーの風物詩として有名なイベントだ。


 このダービーで公式ドリンクとして飲まれているのが“ミントジュレップ”である。このカクテルを、ハンドメイドカクテルとしてボトリングされているものが、ダービーの開催期間だけで何万杯も飲まれる。アーリータイムスの銘柄だけでも開催中にはなんと約8万杯も飲まれているうという。



 アーリータイムズ・ミントジュレップカクテルのレディミックス 32,000カップ分(約7,600ℓ)、クラッシュド・アイス(60t)がこの日だけで使われ、ケンタッキーダービーの最後を飾る、優勝者を讃えた州知事の乾杯にも、このアーリータイムズのミント・ジュレップを使うのが伝統となっているようだ。ここ10年くいボトルの絵柄が毎年変わりながらオフィシャルドリンクとして指定されている。


 ミントは大別するとペパーミント系とスペアミント系があり、カクテルのレシピにはミントの種類まで指定されていないが、生の葉を使用するとスペアミントは苦味が出て気になるかもしれないので、ペパーミントを使うのが無難であろう思われる。





 薄荷つまりミントは日本に自生しているので、かつて、北海道の北見地方では農家で多く生産されて世界中に、その精油成分を輸出していた時期もある。健胃や駆風に生薬として使われていた紫蘇科の多年草の植物として重宝されていた。


 薄荷という言葉が今ではすたれて、ハッカはミントという言葉で表さられる現代の紫蘇科の植物であるが、本邦でも天然に野生によくみられる植物なのである。