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これまでの話

 

Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

登場人物は右サイドに紹介があります、

1. あらすじ BattleDay0-Day86

2, あらすじ BattleDau87-Day135

Day136-あらすじ

父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。

コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。

父・莉子のことに加え、夫と通じ合えず孤独感に苦しみ、壊れていくむコオ。

 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続ける。

コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。また、

金銭的に恐ろしく莉子が甘やかされていたことを改めて知る。

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 コオの引っ越したアパートは、最寄りの駅から結構離れた場所にある。

 だからバスがメインの交通手段になっていて、異なるバス会社の路線が、何本も通っている。実家も同じように最寄りの駅から離れていたが、あそこはバス停まで行くのに15分以上歩く必要があったから、今のアパートの方が便利といえば便利だ。

 とはいえ、父の入院している病院に行くには、まずバスか自転車で最寄りのJR駅まで行って、そこから電車に乗り、

 更に病院のある駅から20分ほど歩かなければならない。

 自転車で行くのも、すり鉢の底から駅まで登るわけだし、そこから乗った電車は一度乗り換えが必要だ。そんなこんなで、面会自体が1日がかりの大仕事になってしまった。一方、1日に数本しかないが路線バスに乗れば、もう一つ離れた駅が終点で、電車は乗り換えなしで行ける。  

 コオはこの市営のバス路線が気に入って、その時刻表をプリントアウトして部屋に貼った。

 

 この日、コオは週末に父のところに行って、以前、ケアマネージャーの立石にいわれた、父の気持ち、というのを聞いてみることにした。

 

 「パパ、具合どう?」

 「うん、まぁ、変わらないかな。少しずつ歩いてるよ。部屋に話し相手がいないのが詰まらんけどな。」

 

 ICUほどではないが、脳血管外科という病院の性質上、老人が多いうえに、ほとんどの人がしゃべる機能に問題がある人たちだ。もともとおしゃべり好きの父にはちょっと辛いものがあるのだろう

 

 「あのね、立石さんから伝言で、これから、パパはどういう風に生活していきたいか、聞いてほしいって。私はもっとリハビリが必要だと思う。前と同じに朝散歩だけして、電話もできない、外も出られない、莉子の食事を待つだけでベッドの上で横になるような生活していたら、せっかく病院でよくなってたのがまた逆戻りする。気づかないうちにまた脳出血してた、なんていうのは良くないと思うんだけど… 。」

 

 「ああ、一度に言わないでくれ、頭がついていかない。」

 「だから、パパはもうすぐ退院なんだよ。」

 「うん。」

 「で、前の退院の時と、同じ生活はダメなんじゃない?ってこと。」

 「でも莉子ちゃんが。」

 「莉子は、私にはどうにもできない。すぐヒステリー起こすし。だから、大事なのは、パパの希望をパパ自身が言うことなの」

 「例えば?」

 「立石さんとか病院の人の前で、自分はデイケアに行きたいです、リハビリをたくさんしたいです、っていうこと。」

 「・・・それだけでいいのか?」

 「そうだよ。今まで莉子が邪魔するから、一度もちゃんと立石さんに直接話したことないでしょ?だから、言うの。リハビリをたくさんして、元気なままやっていきたいです、って。」

 「…ふーん、じゃぁ、それやるのにどれくらい費用かかるのか見積もってくれないか?」

 

 父は工場で働いていた。何か新しいことをするのにあたって、すぐに見積もり、という。逆に見積もりを頼むということは、やる気があるということだ。

 

 「もう見積もりしてもらった。月に2万円くらいだよ。お母さんが私にって残したお金使うつもり。だから支払いは私に回せばいい。」

 

 父は、覚えていないのだろう。連休の後、あの莉子に追い出された日、父に伝えたのと同じことをコオは言った。父な頷き、傍らのノートに、2万という金額とリハビリ、という字を書きつけた。もともとメモ魔だった父は、字を書く訓練も含めて、A4のノートに1行程度の日記をつけるようになってた。それが思ったよりリハビリ効果もあるようで、父はたびたびコオに、ノートを買ってきてくれ、と頼むようになっていた。

 

 「それから・・・パパ、莉子、もしかして精神的に病んでいない?鬱病とか、そういう、メンタル関係の病気になったこととかない?」

 

 コオは、切り込んだ。

 コオ的にはずいぶんマイルドな聞き方だったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

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Day136-あらすじ

父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。

コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。

父・莉子のことに加え、夫と通じ合えず孤独感に苦しみ、壊れていくむコオ。

 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続ける。

コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。また、

金銭的に恐ろしく莉子が甘やかされていたことを改めて知る。

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 コオは、職場近くのアパートに一人、引っ越した。

 

 父が再入院して3週間ほどたっていた。

 遼吾がインターネットで見つけたアパートは、自転車で職場まで距離的には20分ほどだが、すり鉢の底のような位置にあって、どこに行くにも結構な上り坂だ。今まで車で朝の渋滞の中1時間かけて通勤していたのに比べると、距離的には近いはずなのだが、職場までずっと続くのぼりを20分は若干キツイ。

 壁が薄くて、天井が高くてロフトになっている、ワンルーム。

 一口のIHコンロと、バストイレ。5畳の部屋は、シンクの下以外に収納スペースはゼロ。日用品用の棚を一つ置いて幅広のデスクを壁沿いに置いたら、もう布団を敷くスペースくらいしか残らない。

コオはロフトを寝床にすることにした。

 電気とが水道はすぐ開通させたが、ガスは立ち会わなければ開通できない。

 

 コオはガスをしばらく開通せずに過ごすことにした。コオの会社は動物を扱う事が多い職場なので、ありがたいことに、24時間いつでも使えるシャワー室がついてる。とりあえずしばらくはそれで対処して、余裕ができたらガスを開通することにしよう。

 そんな、まるで学生のような一人暮らしを実に久しぶりにコオは始めた。

 毎日泣き暮らしながら。

 しばらく前から始まっていた離人症のような症状はますますひどくなっていった。

 

 遼吾といると、一人でいるよりすっと寂しくて苦しくて悲しかった。でも、健弥に毎日ご飯を作って、お弁当を作って、泣いたりしないで話をするのがきつかった。

 遠くから眺めている、コオ自身は、寂しくて、寂しくて、でも、ようやく一人になって泣けるようになったのだった。

 

 

 

 

 

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Day136-あらすじ

父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。

コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。

再び倒れた父、病院への面会、動かない莉子に変わって陰から進めた様々な手続き、そして、全くコオによりそうことはない夫遼吾。父は莉子のことしか話さない。

孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという

健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。

 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続けていた。

立石からFAXがきて、父の気持ちが一番大事だ、とかいてあっった。

コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。

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 父は話をつづけた 

 

 「それから、パパはN証券で株をやっていたんだけど・・・」

 「うん、知ってる。」

 「あれ、2つ口座があったんだ。パパのと、莉子ちゃんの名前でやっていた。」

 

 コオはそれも何となくは知っていた。10年以上前に、遼吾も株を始めてみたことがあった。その頃は実家と断絶はしていなかったから、コオは、父と遼吾が株の話で盛り上がっているのを横目に見ていた事を覚えている。もっとも遼吾は、株の値動きをこまめにチェックするのは仕事柄難しいと判断したのか、少しの間だけ熱中して、今はすっかり手を引いてしまっているようだった。

 

 「それで、莉子ちゃんの方の株をメインに動かしていたんだけど…」

 「パパの方は、やってないってこと?」

 「少しはあったけど、ほとんど莉子ちゃんのに移してしまったよ。あの子は収入が少ないから。」

 

コオはため息をついた。なんだそれ。

 

 「それ、甘やかしすぎじゃないの?働かないでもお金があると思うから、あの子は必死に働かないんだよ。」

 「うん、まぁ、で、確か莉子ちゃんがパイプオルガンを買うから、そのお金を使わせてくれって言って…使っちゃったと思うんだよね。最初は大きいのを欲しい、って言ってたんだけど、場所もないし、結局小さいのにしたんだ。」

 「はぁ…、パイプオルガンっていくらくらいするもんなの?」

 「よくわからない。全く、仕事に使うっていうからグランドピアノだって買ってあげたのに、パイプオルガン買うならピアノは売れって言ったんだけど、売らないんだよなぁ。安く買いたたかれるからかな。」

 

 グランドピアノ。家の広めのリビングルームを占拠する巨大な楽器。彼女はそれも親がかりで買ってもらい、レッスンに行くからと言って車を買ってもらい、今度はパイプオルガンか。なんだかコオはばかばかしくなってきた。

 

 「あのさ、あの子お金を稼ぐってこと分かってないんじゃないの?実家暮らしばっかりで。言いたかないけど、パパがこの病院に移る前のJ医大病院の支払いも、私にならともかく嶋崎君(遼吾の事だ)に任せて、そのまんまなんだよ?」

 

 父の目が光った。

 

 「それは…まずいな。莉子ちゃん、返してないのか。」

 「返してないどころか、連絡すらしてこないよ。」

 「パパから、払うよ…」

 「いや、そういうことじゃないの。払ってほしいとかじゃないんだよ。私にいうならいいよ?別に。私に払ってくれっていうのは当然だし構わない。でも、嶋崎君に、支払い立て替えてもらえますかの一言もなかった。いきなり、ER搬送代と入院代払ってくださいって病院に言われて、嶋崎君びっくりしたって言ってた。・・・ともかく嶋崎君にはちゃんと連絡するようにしろって莉子に言ってよ。パパの入院代だから、私から嶋崎君に払ってくれっていうとかさ、それでもいいから。連絡もしない、ってのは大人としてどうよ?って思う。それって失礼だよね。」

 

 コオは、ようやく、それだけは言った。そしてもうひところ付け加えた。

 

 「・・・お金の問題じゃないの。礼儀の問題。」

 

 父はうなずいた。他の事は今はすぐ忘れてしまう父が、後に莉子にちゃんとこれだけは伝えたのは、それだけ莉子のやったことが非常識だということを理解してたのだろう。

 

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父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。

コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。

再び倒れた父、病院への面会、動かない莉子に変わって陰から進めた様々な手続き、そして、全くコオによりそうことはない夫遼吾。父は莉子のことしか話さない。

孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという

健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。

 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続けていた。

立石からFAXがきて、父の気持ちが一番大事だ、とかいてあっった。

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 父はICUから再び大部屋に移り、少しずつ、また元気になりつつあった。

 ICUから移れて、少しほっとした、と父は笑った。

 コオは、遼吾のマンションから出ることはもちろん話していなかった。父はいrこのことで頭がいっぱいなのだ。これ以上の脳に負担のかかることを知らせるわけにはいかない。

 

 「パパ?もう少しで退院になるらしいけど、今度はうちに帰ってたらちゃんとデイケアに行ってリハビリ続けるんだよ?」

 「ああ、わかってる。…でも食事が困るんだよなぁ。」

 「食事?莉子が作ってくれるんでしょ?」

 「うん…まぁ、でもちゃんと作れないし、時間もぐちゃぐちゃなんだよ。僕は早く食べて早く寝たいのに、8時くらいに夕飯が出てきたりするんだ。」

 「ふーん…でも、仕事そんなに忙しいの?」

 「いや、アルバイトだから、毎日は行ってない。練習で忙しいんだよ、パイプオルガンの。莉子ちゃんは、パイプオルガンで食べていくつもりらしいんだ。」

 

 ・・・パイプオルガン?莉子が、ピアノ講師を辞めてから始めた、というあれか。

 趣味の範囲だとばかり思っていたが、仕事にする?

 ピアノをやっていれば、パイプオルガンは弾けるのかもしれないが・・・

 それとも、演奏人口が少ないから需要はあるとか?

 コオは混乱した。

 

 「手にね、たくさんバンドエイドを巻いてるんだ。練習をかなりハードにやってるんだな、あれは。」

 「・・・・」

 

 父の話は、どこまで現実を見て言ってることなのかよくわからない。

 

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父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、莉子は当てにならない、と見切りをつけ、病院のケースワーカーと、コオは話をし、自分を連絡先の一つに入れてもらった。再び倒れた父、病院への面会、動かない莉子に変わって陰から進めた様々な手続き、そして、全くコオによりそうことはない夫遼吾。父は莉子のことしか話さない。

孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという

健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。

 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続けていた。

立石からFAXがきて、父の気持ちが一番大事だ、とかいてあっった。

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 ケアマネージャーからのFAXを見ながら、コオは考え込んでいた。

 父の気持ちか。

 父は、莉子が心配だとしか言わない。自分がどうしたい、というよりは、莉子の世話になる以外の道がない、としか思っていないようにも聞こえる。つまり、諦めているようにおもえる。ただ、父がくり返し言うのは、莉子が、ちゃんと自活していけるようにしてほしい、ということだった。

 そんなの、私の仕事じゃない、とコオは思った。コオは、最終的に自活していくためにいくつかのことを諦め、いくつかのことを始め、今こうしている。それまでに、両親に金銭援助をしてもらったことも確かだ。

 コオは援助をしてもらい、自活するようになり、結婚をし、子供を育てた。そして今も、働き続けている。

 なのに、何故ヒステリーを起こし、コオを罵る、やることもやらない妹を自活するようにさせなければならないのだ?それは親の仕事であって、こんなに年の近い私の仕事じゃない。あまつさせ、莉子さえいなければ、私は遼吾への信頼を失うこともなかったし、別居することもなかったのだ。

 

 コオは、もう1週間ほどで家を出ることが決まっていた。

 自分がばらばらになりそうだった。遼吾は、私を止めることはない。私のことを愛してはいない。健弥は、私ではなく、遼吾といることを選んだ。一体自分の何がいけなかったのかコオにはもうわからなかった。

 悲しみと、そして、莉子への押さえきれない恨みと、それをどこにもぶつけられないストレスで、コオは狂ってしまいそうだ、と感じていた。

 

 

 

 

 

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孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという

健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。

 離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続けていた。

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 ケアマネージャーの立石からFAXがきた。これが家族で暮らしたマンションでコオ自身が受け取った、立石からのFAXは最後になる。

 

 『紅病院のケースワーカー、日辻さんと話をしました。家族が一緒に深谷はじめさんの今後について話し合いができる場を設けてもらえないかと提案しましたが、キーパーソンである莉子さんが、連絡先として嶋崎さんの名前を記載していないために、勝手に嶋崎さんを呼んだりはできないとのことでした。

 このことについては地域包括支援センターの針ケ谷さんとも相談しましたが、嶋崎さんと莉子さんのやりとりよりも、深谷さんご本人のお気持ちが大事なのでは、日辻さんを通して聞いてもらうのが必要なのではないか、とご指摘を受けました

 深谷はじめさんご本人が莉子さんとの生活で満足され、治療方針もり子さんと決めていきたいと思われるのでしたら、話し合いは必要ないともいわいれました。

確かにそうなのですが、私がお父様を訪問するときには、必ず莉子さんがそばにいるので、なかなか本人の気持ちを引き出すのが難しかったのは以前お話したとおりです。

 後1-2週間で、状態が安定していたら退院となるそうです。嶋崎さんのお気持ちと、お父様の思っているらっしゃることがおわかりのようでしたら、教えて下さい。もういちど日辻さんに電話をしてみようと思っています。』

 

 地域包括支援センターの針ケ谷さん、というのは、コオが立石に連絡を取るようになる前、相談をしに行った窓口の人だ。莉子と全く意思疎通ができず、市役所の高齢者福祉窓口も相談に乗ってもらえず、一体自分がどうしたらいいか途方に暮れていた時にどうしたらいいのかわからない、と相談に行った。具体的に動いてくれるわけではないが、ケアマネージャーつまり立石に相談をして、状況を聞くように、とアドバイスをくれたのがこの針ヶ谷という看護師の資格を持つ人だった。

 

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父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、莉子は当てにならない、と見切りをつけ、病院のケースワーカーと、コオは話をし、自分を連絡先の一つに入れてもらった。再び倒れた父、病院への面会、動かない莉子に変わって陰から進めた様々な手続き、そして、全くコオによりそうことはない夫遼吾。父は莉子のことしか話さない。

孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという

健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。

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 それでも、コオは心に蓋をすることを学んでいた。

 だから仕事を休むことはほぼなかった。悪夢の中で泣きながら目が覚めても、台所に立った瞬間から、体は自動的に健弥のお弁当を作り、朝食を準備し、夕ごはんの仕込みをする。それは、遠くから、機械が動いているのを眺めるような自分の体がどこか別になるような、奇妙な感覚だった。

 ただ、職場と家の往復をする車の中でだけ、嗚咽した。「助けて」「どうして」「助けて」・・・このまま、自分が死ねばいい、と毎日思った。

 しかし、職場が近づくと、コオは再び心に蓋をする。

 そして、また幽体離脱してしまったような感覚は職場に行っても続いた。PCに向かって作業をしていると涙が勝手にボロボロと出てくることが度々あるようになった。泣きたい気持ちを遠くから眺めているような、やはり、奇妙な感覚だった。

 

 「嶋崎さん、どうしたんですか?」

 「アレルギーだと思う。気にしないで。目薬さしたから。それより、これから2週間の予定なんだけど…」

 

 おかしい、とは少しは思っていたと思う。実際、コオ自身も、泣きたいのを我慢しているのに泣いている、という感覚は少しもなかったのだ。心に蓋をしたコオは、全く普通の調子で話すことができたから、最初は驚いた職場の同僚や、パートの人達も、コオが涙を流していても

 

 「またアレルギーですか?」

 

と普通に話しかけてくる、そんな状態だった。コオの、体と蓋をされた心は悲しくて辛い、と悲鳴を上げていたのかもしれない。コオは毎日のようにデスクでディスプレイに向かって涙を流しながら仕事をした。

 今思えば、解離症の一種だったのかもしれない。父の前で笑顔で話し、家では気が狂いそうなほどの孤独感に耐え、仕事は、プライペートを切り離さなければならない。

  一度だけ、涙と心が一致して泣いた時があった。

 それは、遼吾からの、メールを見たときだった

 

『どっちのアパートがいい?』

 

 そこには2つの、不動産屋のホームページにある情報リンクで、コオの職場に近いアパートのものだった。

 遼吾は、私が出ていくのを止めることはないのだ。私が出ていくといえば、出ていく手伝いをする。

 私は、必要ないのだ。

 コオは、そのときだけ少しの間駐車場の車に逃げ込み、泣いた。

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孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという

 

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 「俺…学校に近い方がいい…」

 

 次男の健弥は言った。

 

 「わかった・・・ごめんね、健弥。」

 

 遼吾は、何も言わなかった。

 

 コオは、健弥に行かないで、と言ってほしかった。

 母さんにいてほしい、と言ってほしかった。

 

 遼吾にそばにいて、抱きしめてほしかった。

 大丈夫だ、と言ってほしかった。

 自分がついているから、と言ってほしかった。

 

 私は、誰にも愛されない。

 親にも、我が子にも、夫にも。

 私は、生まれてこなければよかった。

 一生懸命やってきたつもりだった。欠点も克服するように頑張ってきたつもりだった。

 夫にも、我が子にも、今度こそ愛されているのだと思っていた 

 自分を愛してくれる友人も、できたと思っていた。

 でも

 

 すべてはコオの思い込みで、幻だったのではないのか。

 助けて、といったときに夫は何といった?ついてきてほしい、といったとき我が子は何といった?

 毎日のように面会に行った父は何といった?

 友達は・・・きっと友達も無理をして付き合ってくれただけなのではないのか?

 だって。莉子は、母と同じように言ったではないか

 

お姉ちゃんは人とうまくやっていけないのわかるわ!

 

 私は・・・一生懸命上手くやっていこうとしていたのに。

 お母さんには、莉子には、私が旨くやっていけないのが分かる、という。

 私には間違っているのもわからないのだ。私の”つもり”は、わたしが頑張っている、と自分で思っても、誰もそうは思わないのだ。

 なら、私はどうしたらいい?

 

 コオは、今まで積み重ねてきたものがすべて崩れていくような絶望感に、茫然としていた。