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これまでの話
Battle Day0-Day135 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、
登場人物は右サイドに紹介があります、
Day136-あらすじ
父は再び脳出血を起こしており、ICU入院となった。コオは、父と同居していた妹の莉子は当てにならない、と見切りをつけた。
コオは病院のケースワーカーと話をつけ、自分を連絡先の一つに入れてもらった。
再び倒れた父、病院への面会、動かない莉子に変わって陰から進めた様々な手続き、そして、全くコオによりそうことはない夫遼吾。父は莉子のことしか話さない。
孤独感に苦しむコオは、そばに遼吾がいても、だれよりも遠い、という事実に耐えられず、別居したいという
健弥も、学校に近い方が、いいという。コオは壊れていった。
離人症らしき症状がでていたが、コオは泣きながら働き続けていた。
立石からFAXがきて、父の気持ちが一番大事だ、とかいてあっった。
コオは、父と面会時に、莉子はパイプオルガンで仕事をしていくつもりだ、と聞いていぶかしく思う。
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父は話をつづけた
「それから、パパはN証券で株をやっていたんだけど・・・」
「うん、知ってる。」
「あれ、2つ口座があったんだ。パパのと、莉子ちゃんの名前でやっていた。」
コオはそれも何となくは知っていた。10年以上前に、遼吾も株を始めてみたことがあった。その頃は実家と断絶はしていなかったから、コオは、父と遼吾が株の話で盛り上がっているのを横目に見ていた事を覚えている。もっとも遼吾は、株の値動きをこまめにチェックするのは仕事柄難しいと判断したのか、少しの間だけ熱中して、今はすっかり手を引いてしまっているようだった。
「それで、莉子ちゃんの方の株をメインに動かしていたんだけど…」
「パパの方は、やってないってこと?」
「少しはあったけど、ほとんど莉子ちゃんのに移してしまったよ。あの子は収入が少ないから。」
コオはため息をついた。なんだそれ。
「それ、甘やかしすぎじゃないの?働かないでもお金があると思うから、あの子は必死に働かないんだよ。」
「うん、まぁ、で、確か莉子ちゃんがパイプオルガンを買うから、そのお金を使わせてくれって言って…使っちゃったと思うんだよね。最初は大きいのを欲しい、って言ってたんだけど、場所もないし、結局小さいのにしたんだ。」
「はぁ…、パイプオルガンっていくらくらいするもんなの?」
「よくわからない。全く、仕事に使うっていうからグランドピアノだって買ってあげたのに、パイプオルガン買うならピアノは売れって言ったんだけど、売らないんだよなぁ。安く買いたたかれるからかな。」
グランドピアノ。家の広めのリビングルームを占拠する巨大な楽器。彼女はそれも親がかりで買ってもらい、レッスンに行くからと言って車を買ってもらい、今度はパイプオルガンか。なんだかコオはばかばかしくなってきた。
「あのさ、あの子お金を稼ぐってこと分かってないんじゃないの?実家暮らしばっかりで。言いたかないけど、パパがこの病院に移る前のJ医大病院の支払いも、私にならともかく嶋崎君(遼吾の事だ)に任せて、そのまんまなんだよ?」
父の目が光った。
「それは…まずいな。莉子ちゃん、返してないのか。」
「返してないどころか、連絡すらしてこないよ。」
「パパから、払うよ…」
「いや、そういうことじゃないの。払ってほしいとかじゃないんだよ。私にいうならいいよ?別に。私に払ってくれっていうのは当然だし構わない。でも、嶋崎君に、支払い立て替えてもらえますかの一言もなかった。いきなり、ER搬送代と入院代払ってくださいって病院に言われて、嶋崎君びっくりしたって言ってた。・・・ともかく嶋崎君にはちゃんと連絡するようにしろって莉子に言ってよ。パパの入院代だから、私から嶋崎君に払ってくれっていうとかさ、それでもいいから。連絡もしない、ってのは大人としてどうよ?って思う。それって失礼だよね。」
コオは、ようやく、それだけは言った。そしてもうひところ付け加えた。
「・・・お金の問題じゃないの。礼儀の問題。」
父はうなずいた。他の事は今はすぐ忘れてしまう父が、後に莉子にちゃんとこれだけは伝えたのは、それだけ莉子のやったことが非常識だということを理解してたのだろう。