Swift Servant for WONDER -3ページ目

ちょっと一息(ナルキッソス)

いつもおいしそうなお料理の記事が載っているアッラパーチェさんのブログに、ギリシア神話のナルキッソスの話題が。

私が気になったのは、ナルキッソスに罰を下したのがネメシスという女神だ、というところ。
たぶん、そう書いてあるのはオウィディウスだよなぁ、他にマトモに物語になっているのを読んだことがないし。
高津の神話辞典にもネメシスと書いてあるから、そうなんだろうなぁ、と漠然と思ってました。

オウィディウスの訳本で入手しやすいのは、岩波文庫版ですね。
上巻の113ページあたりからナルキッソスのエピソードが始まります。
で、116ページには「復讐女神」としか書いてないんですね。

あれ??
手元にLoebがあったので、Metamorphosesの3巻、400行付近を参照すると…。
ネメシスって言葉がどこにもない(汗)
いや、大文字のNで始まる単語を探しただけなんですけどね。

そのあたりにあった固有名詞とおぼしき単語はRhamnusia(406行)。
検索をかけてみると、ネメシスの異称。
アッティカのラムヌースに女神の神殿があったことに由来とのこと。

マイナーな異伝が多く収録されていて楽しい(でも通して読もうとするとウンザリする)パウサニアースには、やっぱり、ナルキッソスへの異伝も書いてありました(9.31.8)。

この若者については別の伝承もある。
先の話ほどにはなじみがないが、それによると、ナルキッソスには双生児の姉妹があった。
姿形がほとんど全部そっくりで、二人ともおなじ髪形をし似たような服を着て、連れだって狩に行っていた。
ナルキッソスはその姉妹に恋していたため、その処女が死ぬと泉に通い、自分の影姿を見ているとわかっていたが、わかっていながら、自分ではなく姉妹の姿が写っているのを目にしている、と思い込むことで、恋の苦しさを和らげた。
(飯尾都人 訳)

岩波文庫の抄訳からは漏れている部分なので、龍渓書舎の全訳くらいでしか日本語で読めません。
でも、この本、高いんだよなぁ(汗)

テスティオス(アクトールがいっぱい番外編)

追加されたアクトールのリストをチマチマ調べているうちに、コメーテースという人の名が出てきて、そのうちの一人がテスティオスの子である、ということに。

一般によく知られているテスティオスという人は、アイトーリアの王。
彼の子とされているのは、アポロドーロス(1.7.10)によればアルタイアー、レーダー、ヒュペルムネーストラー、イーピクロス、エウヒッポス、プレークシッポス、エウリュピュロスで、コメーテースという人の名はない。

で、テスティオスの子コメーテースが出てくるのはパウサニアース8.45.6。
破風にカリュドーンの猪狩りが彫られており、他の英雄に混ざってテスティオスの子プロトゥスとコメーテースが見えると書いてある。
彼らはアルタイアーの兄弟とも書いてあるから、彼らの父であるテスティオスは高名なアイトーリアの王であると思われる。

なんてことを自分で納得するのに、英語版wikipediaに出ている出典リストをチマチマ調べ、パウサニアースの当該部分の原文を書き写しているときに気が付いた、なんてことは心の奥にしまっておこう。
そんなことに、二日も費やしてしまったということも。

あ。
11番目のリストにある、アポローニオスの1.261は1.201の間違いです。
これは"Greek and Roman biography and mythology"という版権の切れた辞書をスキャンしてEPwing形式にしたフリーのデータにも同じことが書いてあったから、この辞書を丸写ししたのだと思われます。

ちゃんと自分で調べようね。
ありきたりの結論に戻ってくるまでに時間がかかるとしても(自爆)

アクトールがいっぱい

チマチマとデータベースを作るべく、HTMLなファイルの入れ物を作っているのですが。

ポリュクソーという女性を調べていたらアクトリオーンの母という記述が。
そこでアクトリオーンという人を調べていたら、他にアクトールという人の子という記述が。

アクトールなら、前に高津の資料を基にインデックスを作っていたハズ(フフン♪)と思っていたら、そのリストにはない人でした。
リストを補充すべく、英語版のwikipediaを参照したら、やたらと項目が。
しかも、高津のリストを完全にカバーしているワケでもなさそうで、リサーチが漏れているところはチマチマと個別に調べることに。

しかも関連する人物で高津の資料に書いてないものも、リサーチしてみると2人くらいずついたり。
すっかりドロナワ状態(自爆)

それでも、こういうところでリサーチが少しずつ積み重なっていくことに、結構楽しさを感じていたりします。
データベースが出来上がったとき、そのイモヅル式にリンクをたどっていける楽しさを思えば、今のリサーチの面倒くささも楽しみのうちではないか、と。

入れ物だけ作っているとはいえ、コメントとしてリサーチの内容を書き込んでおいたりしてます。
ブラウザで「ソースの表示」とやると、モノによってはリサーチの内容が書き込んであったりします。

ペパレートス

ペパレートス島(現スコペロス島)の名祖であるペパレートスという人物が、どこに出てくるのかを調べている。
高津春繁「ギリシア・ローマ神話辞典」岩波書店に出てくるのは、ディオニューソスとアリアドネーの子。

その系譜の人物ならば、アポロドーロスの摘要1.9に出てくる。
しかし、そこにはペパレートス島の名祖であることは書いてない。

ふむ。

ヒュギーヌスにも出てこない。
パウサニアースにも出てこない。
ストラボーンには島の名前としてしか出てこない。
ステファヌス・ビュザンティヌスにも島としての記述しかない。
スーダにも島としか書いてない。
ディオドーロス・シクルスは邦訳で確認できる範囲では、島の名前でしか出てこない。

あれ??
英語版wikipediaだと、島を発見したのはディオニューソスとアリアドネーの子スタピュロスになってるなぁ。

高津が思い込みで書いたのだろうか。
悩む。

ダナオスの娘であるヘーシオネー

チマチマ調べていて、Smithの辞書データにはダナオスの娘としてアポローニオスの「アルゴナウティカ」1.230への古注を挙げている。

こういうときは、American Librariesで"scholia apollonius"で検索してみる。

googleがスキャンしたデータは、スキャンの品質が悪く、参照に適さないと判断。
他の一冊にまとめられたものの本文318ページには、「イーソノエー」と書いてある。
二分冊の第一巻の本文202ページには、そもそも1.230への注記がなかった。
二分冊の第二巻の本文27ページでは、「イーシノエー」と書いてある。
同じく第二巻の本文361ページ目に…やっとあった!!

あ。
イーソノエーとかイーシノエーの項目、どうしよう(汗)

ヘーシオネーの別の表記ということで、ばっくれていよう。
しばらくは。

調べなおし

ピュラコスという人物を調べていて、高津の資料には2人の同名異人がリストされている。
その一人、デーイオーンの子であるピュラコスだが、父の名前はデーイオネウスとされるときもある、という。

そんなファイル作ってないよなぁ、と思いつつファイルを検索したらdeioneus.htmというファイルがシッカリある。
中身は…名前のところしか書いてない。
出典なども書いてない。

このファイルにリンクしている他のファイルもないみたい。

で。
改めてデーイオネウスを調べなおしてみると、何人かいるみたい。

1. イクシーオーンの妻となったディアーの父。
2. エウリュトスの子。
3. ピュラルコスの父。

今回のメインは、1.のディアーの父。
調べなおすきっかけは、3.のピュラルコスの父だったんだけど。

このディアーという女性、どこに出てくるかというと、ピンダロスのピューティア祝勝歌、第2歌の39行目に対する古注。
Loebなどでは20行目あたりに対する注釈です。

この注釈でホメーロスを引用する少し前くらいに、「その人が、デーイオネウスの娘ディアーと結婚した」という読める内容が書いてあります。
ここでいう『その人』というのは、イクシーオーン。

イクシーオーンといえば、ヘーラーに横恋慕して、死後は車輪にくくりつけられて転がっているというエピソードが有名です。
ですから、当然、記述の中にはゼウスも出てきます。

ヤヤコシイことに、ゼウスの対格もディア。

でも問題となっている箇所はデーイオネウスの娘と書いてあるんだし。
ディアン(ディアーの対格)と書いてあるから、まざ、ゼウスではないよなぁ、と。

一瞬、ゼウスはガニュメーデースをさらってきたこともあるんだし…イクシーオーンにだって…などと、あらぬ考えが頭をよぎったことは心の奥にしまっておきます。

ヒュプソーの子アムピーオーン

ワレリウス・フラックスの中で、1.366の他にもアムピーオーンの名前が出てくるところがある。
3.479がそれで、やっぱり名前が出てくるだけ(苦笑)
しかもこっちは、アムピーオーンという名前だけしか出てこない。

なんでこんなコト書くかというと、アポローニオスの「アルゴナウティカ」には別のアムピーオーンが出てくるから。
ゼウスとアンティオペーの子で、ゼートスの兄弟。
神話のエピソードとしては、彼の方が有名で、テーバイの城壁を作るとき、アムピーオーンが竪琴を弾くと彼の倍もあろうかという大岩があとをついてきた、という。

うぅ~ん。
神話伝承に異説はつきものだけど。
どう分類するか、悩む。

デウカリオーンをヒュプソーの子としてしまうと

兄弟であるアムピーオーンの扱いが、ヒュペラシオスの子(アポローニオス「アルゴナウティカ」)とヒュプソーの子(ワレリウス・フラックス「アルゴナウティカ」)で別々になってしまう。
しかも、名前が出てくるだけなのに(苦笑)

まぁ、ファイルの入れ物作るだけだから、いっか♪

デウカリオーンの父であるヒュペラシオス

デウカリオーンというと、有名なのはプロメーテウスの子で大洪水を乗り切った人だろう。
次はミーノースの子、くらいだろうか。

他にも、ヒュペラシオスの子であるデウカリオーンという人もいるらしい。
そしてこれは、ワレリウス・フラックスの「アルゴナウティカ」1巻366行あたりが出所である、と。
ワレリウス・フラックスはLoebから翻訳が出ており、ナゼか手元にあったので見てみると。
1. アムピーオーンの兄弟
2. ヒュプソーという女性の子
であるという。

実は似たようなシチュエーションが、アポローニオス・ローディオスの「アルゴナウティカ」1巻176行近辺にもある。
それは。
1. アステリオーンとアムピーオーンの兄弟
2. ヒュペラシオスの子
というもの。

??
ヒュペラシオスとヒュプソーが夫婦であるという根拠は??
他に何か記述があるのかなぁ。

アポローニオスには古注があるハズ。
リンクしたデータなら、本文314ページ目に。

176. Ἀστέριος: τὸν Ἀστερίωνα λέγει. ἀπὸ δὲ τοῦ Ὑπερρασιου βασιλέως τῆς Ἀχαίας πόλις Ὑπερρασία. Ὅμηρος "οἵ θ᾽ Ὑπερρασίην."

みたいなことが書いてある。
これによると、アステリオーンの父ヒュペルシオスはアカイア人の都市ヒュペラシアの王であるという。
このヒュペラシアという都市は、ホメーロスにも言及がある。
くらいの意味だろうか。

しかし、ホメーロスの訳本を見ても、ヒュペラシアという名前そのままは出てこない。
イーリアス2巻573行とオデュッセイアー15巻254行にヒュペレーシエーという地名が出てくる。

イーリアスでは
οἵ θ᾽ Ὑπερησίην τε καὶ αἰπεινὴν Γονόεσσαν

オデュッセイアーでは
ὅς ῥ᾽ Ὑπερησίηνδ᾽ ἀπενάσσατο πατρὶ χολωθείς,

と書いてあるのだから、恐らくアポローニオスへの古注はイーリアスへの言及をしているものと思われる。
ρが重なっているのは、ご愛嬌なのだろう。
まだ、つながらないな。

ヒュペラシアが地名というのだから、ステパノス・ビュザンティノスなどを見てみよう。
本文433ページに、ヒュペラシアという地名について書かれている。
悩ましいことに、ヒュペレーシアという地名についても書かれている。

内容を見ると、ヒュペレーシアの方が、今回リサーチするべき都市のようだ。

Ὑπερησία, πόλις τῆς Ἀχαῖας·

οἵ θ᾽ Ὑπερησίην τε καὶ αἰπεινὴν Γονόεσσαν

Ὅμηρος. κακῶς δὲ Θέων Ὑπέρειαν αὐτὴν καλεῖ Ὑπερεια γὰρ πηγὴ Μεσηῖδος καὶ πόλις Σκελική. ὠνομάσθη δὲ ἀπὸ Ὑπέρητος, τοῦ Λυκάονος υἱοῦ. τὸ ἐθνικὸν τῆς Ὑπερησίας Ὑπερησιεὺς, καὶ θηλυκὸν Ὑπερησὶς παρ᾿ Ἡσιόδῳ. Θεόπομπος δὲ Ὑπερασιεῖς φησι διὰ τοῦ α. ἀπὸ δὲ τῆς Ὑπερείας τῆσ κρήνησ Ὑπερηϊὰς θηλυκῶς ἡ εὐθεῖα, ἀφ᾽ ἧς τῆς Ὑπερηϊάδος, ἢ Ἀρεθούσης.

のように、イーリアス2巻の内容を引用して紹介している。
ただ、ここにもヒュプソーの名前が見えない。

マイナーな地方伝承の宝庫であるパウサニアースにも、ヒュペラシオスやヒュプソーの名前がないし。
ストラボーンにも、これらの名前が見えないし。

やっぱり、アポローニオスとワレリウス・フラックスの記述の共通点から、ヒュプラシオスとヒュプソーが夫婦ということになっているのかなぁ。
それとも、私がリサーチしていない資料が他に何かあるのか。

悩む。

疲れてるんだ、たぶん

ヒュペロコスなる人物を調べていて、オイノマーオスの父である人がいる、と高津の神話辞典に書いてある。
それをどう空目したのか、私はファイルに「オイノマーオスの子」とリストしてしまっていた。
英語版wikipediaを見ても、ちゃんとオイノマーオスの父と書いてある。

この元ネタは、ツェツェスのリュコプローン219行への注解。
引用したリンクだと、本文ページ489ページに書いてある。
ステロペーの、ヒュペロコスのオイノマーオス、とだけ書いてある。

高津の神話辞典でオイノマーオスの項にも、ステロペーとヒュペルコスを親とする説がある、と書いてある。

一瞬、高津が親子関係を読み違えているのか??と早とちりしたけど。
早とちりしていたのは、私でした(自爆)

あ。
英語版wikipediaでリストされていた、プリアモスの子であるヒュペルコスについては、訳本を調べてみたら、アポロドーロスもヒュギーヌスもヒュペイロコスだったので、ヒュペイロコスという項目を別に作ったのでした。
ホメーロスにも、二人ばかりヒュペイロコスという人が出てくるみたいだし。