政治とメタルと網膜剥離 -62ページ目

原発に関する日経の良質な論説

とかく産業界に甘く、原発推進派と目されていた日経だが、原発に関し偏見を排して書かれた良質な論説が出てきたので紹介したい。


東電の悪夢、問われる原発の合理性 吹き飛んだ2兆7000億円弱 産業部編集委員 安西巧(日本経済新聞)


この論説では、原発事故のコスト、建設時のコストなどを分析し、原発の経済合理性に疑問符を投げかけている。


(以下引用)

「これまで原発は安全性に難点はあるものの、燃料コストが安く、経済合理性に優れているとされてきた。だが、今回の事故とその後広範な周辺地域に及んだ数万人規模(半径20キロ圏内だけで約8万人)の住民避難、農産物、海産物への被害、そして「最大10兆~11兆円」(外資系証券会社の試算)ともいわれる補償額を考慮すると、「原発の経済合理性」は説得力を持たなくなる。」


「事故さえ起こさなければ、原発にはまだ合理性が……という議論があるかもしれない。しかし、この10年間を見る限り、その合理性は大きく揺らいでいる。原発1基あたりの建設費は4000億~5000億円で初期投資は火力発電所の1.5倍。これを40年以上長期運転をすればコスト競争力は高いとされてきた。ところが、原発建設には地元対策として巨額の支援事業(例えば、東電が福島県楢葉町・広野町に130億円を投じて建設したスポーツ施設「Jヴィレッジ」)など見えないコストがあるほか、加えて事故・トラブルが余りにも多すぎる」


「さらに07年の中越沖地震では柏崎刈羽原発1~7号機が全基停止。火災などの被害を受け、08年3月期と09年3月期に合計2500億円の特別損失を計上した。中越沖地震の後遺症は尾を引き、連結純損益も08年3月期は1501億円、09年3月期は845億円のともに赤字。07年3月期に3兆335億円あった株主資本は09年3月期に2兆3786億円と6500億円も目減りした。


 これほどやっかいな原発を電力会社の経営者は「国策事業」として背負い続けていくのか。株主は大事故を起こせば株価が暴落するリスクに耐えられるのか。そして危険を覚悟で事故処理に立ち向かう従業員を今後も確保できるのか――。電力会社のステークホルダーだけでなく、国民全体の電力事業への価値観が見直されるべき時期に来ている」

(引用終わり)


発電単価を見ると、確かに原子力発電は安いが、LNGや石炭と比べると極端に安いわけではない。


発電方式別の発電コストの比較


しかもこの単価は、今回の事故を起こす程度の安全投資しか行なわなかった場合のものである。基準を見直して対策を行なえば投資が嵩み、コストに乗せられることになる。今後LNGや石炭の燃料原価が多少上がるとしても、もう原子力発電にコスト面の優位性はなくなると思う。


以前にも書いたが、原発は100年に一度程度の地震、津波にしか耐えられないようでは安全対策として全く意味がない。福島やチェルノブイリのように余りに広範囲に及び、住民の生活や国土が破壊されるからである。では有史以来観測された全てのレベルの災害に対応したらどうか(それができていれば、1200年前にもあったレベルの今回の津波にも耐えられた)というと、非常に高コストになり成り立たない、と言われていたという。

だったらやらなければいいのである。100年、200年に一回の事故としても、今回のような事故は余りに被害が大きすぎる。安全対策の結果、事業として成り立たない、というものを事業とは言わない。それはただの趣味の世界に過ぎない。



なお、今回の事故について政府の安全基準のせい、な東電は甘くないどとする米倉経団連会長の発言があったが、余りに一方的な偏頗な知識に基づいていると言わざるを得ない。元々原発推進は東電をはじめとする九電力会社主導で作られた日本原子力発電から始まり、その後各電力会社が自前で開発するようになった。政府主導で研究開発を進める案(電源開発案)があったのにも関わらず、正力松太郎を押したてて潰したのは電力会社である。


なぜ日本にこんなに多くの原発があるのか-日本原発導入史-


これまでの原発の推進には、経済合理性とは別の様々な思惑が絡んでいたと考えざるを得ない。その最初の一つが反核運動に対するCIAの働きかけであり、それに乗っかった正力の首相への野望であり、正力を利用して勢力拡大を図った中曽根の野心であった。彼らの思惑通り、原発は巨大な利権を生み、GEなど米国企業のほか、東芝、日立など重電メーカーや熊谷組など土木に強いゼネコン、住民対策を請け負った自民党を中心とした地方議員、規制を担当する官僚など多くの懐を潤した。彼らは利権拡大のために、都合の悪い情報には目を閉じて、原発の安全性、経済性を強調する資料を捏造していたのではないか。


どこで間違えたか検証するために、いずれ過去の経緯をを洗いざらい調べる必要があると思う。東電は当然責任を負わねばならないが、他にも十字架に架けられるべき人間は沢山いる。