| ◇<特集>東日本巨大地震を追う―波乱の東京市場(3)=阪神大震災時と株価を比較する |
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| 3月11日金曜日に発生した東日本巨大地震(2011年東北地方太平洋沖地震)は東北地方を中心に大きな被害を与え、さらに被害は拡大している。被害の大きさは想像を絶するもので、被災された方々には心よりお見舞いを申し上げるとともに、一刻も早い復興をお祈りしたい。 日本における地震で思い出されるのが、1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)。被害規模も10兆円と大きく、株価への売り圧力は強かった。ここでは当時の値動きと、今回の震災における値動きを検証して、今後の株価動向を考えてみたい。 <発生初日は0.5%の下落だった阪神大震災> 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、3連休明け火曜日の午前5時46分に発生したが、発生当日は前営業日終値比で驚くことに日経平均株価は約0.5%の下落にとどまった。大都市部では関東大震災以来だったにもかかわらず、被害の全容が伝わらなかったためと思われる。その後、事態の深刻さが判明するにつれ株価は急速に下落。地震発生から5営業日後(1月23日)には同8.0%まで下落率を拡大させた。 時間がたち、被害総額10兆円という巨大な損害の様相が判明するにつれ日本株売りは続き、一時的な持ち直しはあったが7月3日には1万4295円まで下落。地震発生直前の1万9331円からの下落率は実に26%に達した。下げの途中には震災による損失を受けた英国の名門銀行・ベアリングス銀行破たんなどもあり、下げ幅の拡大を助長した。 今回の東日本巨大地震に関しては阪神・淡路大震災の被害規模の記憶が生々しいだけに、株価の反応は素早かった。地震発生直後の金曜日3月11日午後2時46分直後から日経平均株価は急速に下げ幅を拡大。復興需要を狙った建設関連株以外は売り物が殺到した。 想定以上の被害規模が分かり、福島原発を巡り緊張が高まると週明け14日は633円安、15日1015円安と大幅安が続いた。3月10日終値1万434円から15日終値8605円までの下落率は17.6%に達し、3営業日間の下落率は1950年以降で最大。東証1部の時価総額(終値ベース)は2日間で51兆円が吹き飛んだ。以降は16日488円高、17日131円安、18日244円高と、福島原発の動向は予断を許さないものの、落ち着きは取り戻してきた。 <1995年を当てはめれば日経平均8000円割れも> ただ、現状では地震による被害がどこまで拡大するのか分かっていないことが不安感をあおる。被害総額は20兆円規模に迫るとの試算も出始めたが、計画停電(輪番停電)による東北、関東地方への生産に対する影響はこれから。10日終値から単純に阪神・淡路大震災時の下落率26%を当てはめれば7721円となり、今後半年以内に8000円割れもあり得ることになるが、被害規模が違うのでこの数値を当てはめるのは無理がありそうだ。実際に問題があるかは別にして、放射能に関して日本製品に対する風評被害が広がれば、企業業績には大きなマイナス。福島原発が落ち着いても、一時被害、二次被害の状況次第ではもう一段の株価下落もあるだろう。 セクターとしては、1995年当時の東証業種別株価指数を見ると「建築資材関連、支援物資を提供する食料品や医薬品関連セクターが相対的に下げ渋る一方で、証券や保険など金融関連セクターなどの株価は相対的に大きく下落する傾向があった」(日興コーディアル証券)という。 いまのところ今回もおおむね似た動きを見せているが、今後も同じ動きを見せるかは微妙だ。当時と違い福島原発の状況を考えると原子力関連企業銘柄には今後ネガティブに働くほか、前述したように放射能による海外への影響も、農業関連を中心に以外に出る可能性が高い。外部環境も当時とかなり違っており、この先は違う動きを見せることもあるだろう。 |
| ◇<特集>東日本巨大地震を追う―波乱の東京市場(2)=相場の行方、東電がカギ握る |
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| 巨大地震と想定をはるかに超える大津波に見舞われ、東京電力<9501.T>の福島第一原子力発電所で事故が発生。日本の原発史上最悪の事故を受け、放射能汚染や今後の電力の安定供給に対する懸念が株式市場と同社株を襲った。 東電は週明けの11日から大量の売り物を浴び、3営業日連続でストップ安配分となった。東京証券取引所は規定により、17日売買分から下方の制限値幅を2倍に拡大する措置を発表。11日終値2121円から17日安値715円まで約66.3%の暴落で、27年ぶりの1000円大台割れを記録した。17日の売買代金は、完全合致して寄り付いたこともあり16日の57億円から1409億円に急増した。個人投資家やディーラーによる短期売買が中心で「値ごろ感というより思惑が先行した格好」(中堅証券)との声があった。また、「売り買いともに機関投資家から大口注文が入った」(同)こともあり、売買代金が膨らんだようだ。 地震発生から3日目の14日には、福島第一原発の2号機で炉心溶融のおそれが発生、同1号機の建屋が爆発した。世界的な原発建設ブームに見直し機運が出るとの見方が台頭。海外メディアは今回の震災に関し、原発の安全性に焦点をあてて報道している。耐震性に高い評価を得ていた日本製原発の海外商談にマイナスの影響が出るとして、東芝<6502.T>、日本製鋼所<5631.T>、木村化工機<6378.T>などの関連銘柄も売られる展開となった。ドイツ証券では14日付で、「日本の原子力に対する信頼回復の確認が必要」として、日本製鋼所<5631.T>の投資判断を「Buy」(買い)から「Hold」(中立)へ、目標株価を1000円から600円へ引き下げた。 シティグループ証券では14日付で、エネルギーセクターについてリポート。東日本巨大地震を受け、電力セクターでは、短期的には需給調整、長期的には原子力政策などに対する難しいかじ取りが想定されると指摘。夏場に見込まれる最大電力は6000万キロワットで、需要期に向けて電力確保は大きな課題とし、中部以西の電力周波数が東電や東北電力<9506.T>とは異なることや、周波数変換所の能力が3カ所合計で100万キロワットにとどまることから他社からの電力供給には限度があるとした。原子力発電については、低炭素化とエネルギー安定供給の同時実現には原子力が重要であると認識しながらも、今回の震災で新設が計画通りに進まない可能性を考慮する必要があるとコメントしている。 事故をきっかけに東電は信用力も低下。15日に、S&P(スタンダード&プアーズ・レーティング・サービシズ)が東電の長期・短期格付けを引き下げる方向でクレジット・ウォッチに指定した。今回の運転停止は長期間に及ぶ見込みとし、12年3月期以降の業績や財務に対する下方圧力が高まっているとした。東電の場合、原子力発電所の110万キロワット級の1基が稼働停止した場合、現状の原油価格を前提にすると年間1080億円程度の営業減益要因となるとの見方もあり、業績動向も予断を許さない状況となっている。 地震が引き金となった東電の原発事故は市場にパニック的な売りをもたらした。地震から1週間が経過した18日、東電はストップ高まで買われた。事故を起こした福島第一原子力発電所で放水などの冷却作業が本格化したことを受け、状況の改善を見込んだ買いが入ったもよう。ただ、物色の主体が短期資金が中心と見られる。この事故に本格的な終息の兆しが見えるまで、東京市場の先行き不透明感はぬぐえそうもない。 |
| ◇<特集>東日本巨大地震を追う―波乱の東京市場(1)=史上3位の下落率、時価総額は急減 |
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| 東日本巨大地震の犠牲者の方々にはお悔やみを申し上げます。また、被災者の方々には、心よりお見舞いを申し上げます。 11日に発生した東日本巨大地震は、週明け14日の東京株式市場を襲った。マグニチュード9.0の国内観測史上最大規模の激震が、経済活動の混乱をもたらし、東京電力福島第一原子力発電所の事故で不安心理が一気に増幅した。復興需要思惑から建設・住宅関連株や建設機械株などが局所的に物色されたが、大本では売り銘柄が続出した。リスク回避の動きは、現物株売りにとどまらず、先物にはヘッジ売りや投げ売りが走り、TOPIX(東証株価指数)先物はサーキットブレーカー(一時取引停止措置)が発動される事態に至った。日経平均株価は急落し、633円安の9620円引け。強力なサポートラインと見られていた200日移動平均線(9839円)を昨年11月17日以来約4カ月ぶりに大きく割り込んだ。 翌15日は朝方から売り一色に染まり、崩落状態となった。日経平均株価は1015円安の8605円に沈み、心理的なフシ目となる9000円を撃破。下落率は10.55%と、1953年のスターリン暴落(10.00%)を上回り、史上3番目の下げを記録した。福島原発事故による放射性物質の漏えいが深刻な問題に発展し、ろうばい売りが下げを加速。日経平均先物には2度のサーキットブレーカーが発動されたが、先物売りは止まらず、現物株の投げを誘発するという負の連鎖に陥った。東証業種別株価指数では全33業種が下落し、値下がり銘柄数は全体の97%強に及ぶ全面安の展開となった。東証1部の出来高は57億7715万株と、前日に記録した最高水準の48億8361万株を軽く塗り替え、下値圏で売り圧力と買い戻し・逆張り勢力が対立したが、この2日間で時価総額は51兆円吹き飛んだ。 16日は突っ込み買いが幅広く流入し、一転して指数は切り返した。寄り付き前の主要外資系証券9社の売買注文は、売り3120万株(392億円)に対して買い5190万株(652億円)と大幅な買い越し。主力株中心に海外勢の買い戻しや、新規マネーの流入が指摘されたほか、個人投資家の短期値幅取りの動きも強まった。原発問題がなお懸念されるなか、マーケットでは、与謝野馨経済財政担当相が15日、株価対策として過去に「株式を50兆円ぐらい買い上げる構想があった。まだ言及するのは時期尚早だが、そういう方法もある」と語ったことも支援要因として注目された。日経平均株価は5営業日ぶりに急反発し、488円高の9093円引け。東証業種別株価指数では全業種が上昇し、値上がり銘柄数は1500を超えた。相場急落の“震源地”とも言える東京電力<9501.T>は3日連続のストップ安比例配分の憂き目に遭ったが、全体の約9割が上昇する全面高商状となった。 17日は再び動揺する。NY外国為替市場で円相場が急騰し、一時1ドル=76円25銭を付け、95年4月19日の最高値(79円75銭)を約16年ぶりに大幅更新した。震災や原発トラブルの影響で日本経済の先行き不透明感が強まり、国内投資家の外貨建て資産の売却思惑が浮上し、円買い・ドル売りが一気に進行した。円高懸念から、輸出関連株中心に売りが先行し、日経平均株価は9000円をあっさり割り込み、8639円まで下押した。その後、自衛隊による原発3号機の核燃料プール向け放水開始を受け、東電が原発事故後としては初めて完全合致で寄り付き、市場に少なからず安心感を与えた。とりあえず円高に歯止めがかかったこともあり、先物主導で指数も急速な引き戻しに入ったが、引けにかけて売り直され、131円安の8962円で取引を終了。続伸へのわずかな期待は途絶えた。 週末18日は、為替介入を受けた円高修正を好感し、広範囲に物色され、244円高の9206円引け。7営業日ぶりに5日移動平均線(9097円)を上回った。文字通り、波乱の1週間であった。「震災」「原発事故」「円高」の三重苦に揺れた株式市場に展望は開けるのか。被災地の復興を祈りつつ、マーケットの再帰を願いたい。 |