とにかく、酒が飲みたかった
考えてみれば、
若い頃、俺は酒など必要としなかった。
飲まなくても、やっていけた。
それなのに、今の俺は、どうしてこうも、酒が飲みたくなるのだろうか。
俺は酔っぱらいの、ろくでなしか?
わずかな金があれば、DVDを借りる。
本を買う。
とても、酒になど、回せる金はなかった。
というより、
バイト代からくすねた金は、底をついたのだった。
今月は、俺のバイト代を正確に把握してのことか、
見事に金をむしり取られ、二百円しか、俺の手元に残らなかった。
俺はその金でTSUTAYAへ行き、DVDを二枚借りたのだった。
いつものように帰宅する。
飯を作り、腹に詰め込む。
そこからが、苦痛だった。
何かが足りない。
疲れを癒やす、何か。
そう。
酒が足りないのだ。
俺は思いあまって、キッチンに置かれていた、
調理酒を引っ張り出し、コップに一杯注いだ。
ひとくち口に含むと、信じられない不味さだった。
なんだこれは?
古いのか?
二リットル入りのパックを見やると、そこにはデカデカと、合成清酒と書かれていた。
しかし、アルコールを含む飲み物は、この家の中で、それだけだった。
俺は仕方なく、ちびちびと、合成清酒をなめた。
驚いたことに、不味さにはすぐになれてしまった。
一杯を、あっという間に飲み干した。
ほんの少しも、酔えなかった。
俺は布団に潜り込み、考えていた。
いつになったら、まともに晩酌を楽しめるようになるのだろうか?
このままだと、俺は死ぬまで、奴隷のままだ。
考えはそこで凝固し、俺は眠りに落ちていた。
熟睡など出来はしない。
俺はその晩、またもや猫の夢を観た。
こんな夢を見た~猫で作ったハム
夢はカラーですか。
夢は白黒ですか。
夢は、夢とわかるような絵空事ですか。
夢から、もしも醒めなければ、
それが現実として受け止められますか。
ひょっとすると、
実は全てが、夢なんじゃないですか?
人は死ぬことで、本当の夢から目覚めるのです。
「ああ、なんて酷い悪夢なのだ。夢でよかった」
俺はある晩、こんな夢を観た。
露店が無数に建ち並ぶ、晴天の海辺に俺はいた。
屋根もない、テーブルだけの露店に、ハムがアルミ製のバットに並べられている。
並べられたハムの異常さに、俺は即座に気付いた。
ハムは全て円筒形で、魚肉ソーセージのような色をしていた。
ひもで締め上げた跡なのだろうか。
芋虫のように、等間隔に節のような凹みがあった。
異常なのは、円筒形の全てのハムの断面に、顔が張り付いていた点だ。
犬の顔。
猫の顔。
思い出せないが、ほかの獣の顔。
顔たちはみな目をつぶって、押し黙っている。
死顔だ。
「気色悪いなあ。だれがこんなもん喰うんだよ」
俺は呟いていた。
ハムの山の中の、一つ。
猫の顔をしたハム。
微かに動いたような気がした。
俺は戦慄した。
顔がゆっくりと動き、口元が開いた。
唾液が糸を引いている。
目は閉じられたままだが、芋虫のような体、いや、ハムが微かに蠕動する。
猫の顔は苦悶に満ちている。
ゆっくりと絞り出すように、猫はにゃ~と、小さく鳴いた。
俺は衝撃で、目覚めた。
これは江戸川乱歩の「芋虫」だな、まるで。
俺は目覚めてから、思った。
戦争によって、手足を切り落とされた軍人。
軍人を性の道具として弄ぶ婦人。
しゃべることも出来ない軍人は、自分の要求がかなわないと、
猛烈な勢いで、独楽のように廻る。
それが唯一の意思表示だった。
その様子を見て、婦人は肉独楽と呼んだ。
俺はふと思った。
俺は、この家の中では、芋虫同然だな、と。
もっとも、
相手にされない、孤独な芋虫だが。
(へたくそだなw)
脳内画像を再生。ついに科学技術はここまで来たか!!
悪用されなかったらいいんですけどね... すでに脳内に思い浮かんだ言葉を探知できるレベルにまでMR..........≪続きを読む≫
なんてことだ。
俺が生きている間に、到底実現可能とは思っていなかったのに。
科学技術の進歩は、すさまじい限りだ。
人間の思考や、脳内の映像を録画、記録、そして再生するというプロットは、
古くから映画には登場済みだ。
- ブレインストーム [DVD]/クリストファー・ウォーケン,ナタリー・ウッド,ルイーズ・フレッチャー
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ブレインストームという映画では、脳内思考を録画し、
それを他人の頭の中で再生する機器が登場する。
例のごとく、この発明を悪用しようとする人間が出てきたりするが、
この映画のおもしろいところは、機器の開発をつとめる科学者が、
心臓発作で命を落とすその瞬間、死に至る脳内思考を、この機械で録画したところにあった。
つまり、その記録テープを再生することによって、死後の世界を体験できるのだ。
同僚が、この録画テープを発見し、自身で再生すると、危うく心臓発作で命を落としそうになる。
そこで、機器の設定を変え、映像のみを再生しようとするのだが。
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- パプリカ [DVD]/林原めぐみ,古谷徹,江守徹
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パプリカという小説(アニメ)には、夢を記録再生し、モニターできる機器が登場した。
その機器を利用すると、他人の夢の中へ侵入することすら出来る。
- マイノリティ・リポート 特別編 [DVD]/トム・クルーズ,コリン・ファレル,サマンサ・モートン
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マイノリティーリポートでは、予知能力者の夢を録画し、分析できる機器が登場した。
俺にとって、今回のニュースは、有人ロケットが火星へ到達するよりも、エキサイティングなことだった。
瞑想状態の人間にセットし、その思考を、頭の中の映像を録画できたら?
ひょっとして、潜在意識とは何なのか、解明できるのではないか。
魂とは、自我とは。
そんな命題すら、解明されるかもしれない。
もはやそれは、時間の問題か?
それとも、
時間の無駄か?
読者の皆様も、今回のニュースを連想させるような小説、映画をご存じですか?
知っていたなら、是非ご教示ください。

