日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -80ページ目

最後に。

頭痛薬を飲み、車の中、図書館の駐車場でじっとしていた。

外は晴れていて、車の中は暖かく心地良かった。

うとうととした所に、携帯が鳴った。

娘の母親からのメールだった。

~私はあなたに徹底的に馬鹿にされてるよね。

金のない男といて身動き取れなくて気が狂いそうなのに。~


娘の母親は、俺がカードでカップラーメンなどの買物をしていることを避難していた。

金は一銭も渡されていなかったので、カードで昼飯を買う以外になかった。

休みなく働き、睡眠時間を削り、バイトまでして、これか?

金のない男。

金がなくて、気が狂う、か。

俺はなんだか可笑しくなってきた。

まさに笑止の沙汰だ。

「わはははー」

俺は車の中で、声を上げて笑い、暴れた。


その日は、たった一日だけの休日だった。

もう、カードを使って、飯を買うことなど出来はしないだろう。

罵られるのは、もうウンザリだった。

今後、一円たりとも使えないのであれば、どうせなら、最後にやりたいことを済ませてしまいたかった。

俺は車を出し、映画館へ向かった。

走り出した直後、また携帯が鳴った。


~母が◯◯(娘の名前)に必要なものから、私の靴や服まで買ってくれてるのよ。

そうじゃなかったらまともに幼稚園だって行けないから。お金無いの。

税金だって督促状が山のようにきているのよ。

それでもカードで買い物しなくちゃいけないの?~


俺は愕然とした。

俺はいったい、どれだけの額をカードで使ったのだろうか?

毎日の昼飯として、カップラーメンとパン。

その他に、風邪薬に頭痛薬と、980円の靴。

買ったものといえば、それくらいのものだった。

ひと月分の小遣い(最後にもらった一万円)に、満たない筈だ。


俺は車を走らせた。


郊外型のシネコン。

人はまばらだった。

俺はカードを取り出し、映画の半券を買った。

1300円だった。


クレジットカードを眺めていると、忌々しさが込み上げてくる。

二つに引き裂いてしまいたい衝動に駆られた。

俺はそれを抑えて、カードを財布にしまった。


悲しいくらいにそれは薄かった。

財布の中身は、空っぽだった。

たった一日の、休み

仕事は、休み無しだった。


それでも、ゼロというわけではなかった。


職場の管理者が、あまりに俺を気の毒と思ったのか、一日だけ休みをくれた。


さて、


この休みを何に使おうか。


俺は映画を観に行こうと、思った。


が、しかし、


上映は、明日からだった。


「アバター」


さて、どうする?


俺は図書館で、検索する。


本日、前夜祭と称して、先行上映される劇場があった。



そして、俺は気付いた。




ははは。



大事なものが、ない。


それは、金だ。




アバター 公式サイトダウン


http://movies.foxjapan.com/avatar/



嫌な予感~それは、死

バイトに行くため、深夜に目覚めた俺は、


そのとき、嫌な予感に襲われた。



このままバイトへ行けば、死ぬ。



俺は何故か、そう思った。




おそらくは、疲労のため、潜在的にバイトを休みたいという気持ちに、


起因すると思われたが、


車でバイトへ向かう途中に、事故に遭い、


絶命する映像がはっきりと頭の中で再生された。


シートベルトなど役に立たず、車ごと押しつぶされる。


顔面を強打し、鼻の奥の方から、血の味がする。



単なるファンタジーに過ぎないのか?


それとも、予知か。




わはははは。



予知のはずなど、あるものか。


馬鹿馬鹿しい。




俺は今まで、そのような体験をしたことなどなかった。


だから、今後もあるわけがないのだ。




俺は、歯を磨き、着替えた。



いつものように、同じ時間に、玄関を出た。



また、嫌な予感に襲われた。



俺は一度部屋に戻り、コップ一杯の水を飲んだ。


時計をみる。


いつもは、始業時間の15分前には、駐車場に着くようにしている。


それを、ぎりぎりまで遅らせた。



俺は家を出た。



いつもならば、信号が黄色でも突っ込んだ。


その日は、きちんと止まった。




そして、俺は無事に、バイト先に着いた。




どうやら、取り越し苦労だったようだ。