最後に。 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

最後に。

頭痛薬を飲み、車の中、図書館の駐車場でじっとしていた。

外は晴れていて、車の中は暖かく心地良かった。

うとうととした所に、携帯が鳴った。

娘の母親からのメールだった。

~私はあなたに徹底的に馬鹿にされてるよね。

金のない男といて身動き取れなくて気が狂いそうなのに。~


娘の母親は、俺がカードでカップラーメンなどの買物をしていることを避難していた。

金は一銭も渡されていなかったので、カードで昼飯を買う以外になかった。

休みなく働き、睡眠時間を削り、バイトまでして、これか?

金のない男。

金がなくて、気が狂う、か。

俺はなんだか可笑しくなってきた。

まさに笑止の沙汰だ。

「わはははー」

俺は車の中で、声を上げて笑い、暴れた。


その日は、たった一日だけの休日だった。

もう、カードを使って、飯を買うことなど出来はしないだろう。

罵られるのは、もうウンザリだった。

今後、一円たりとも使えないのであれば、どうせなら、最後にやりたいことを済ませてしまいたかった。

俺は車を出し、映画館へ向かった。

走り出した直後、また携帯が鳴った。


~母が◯◯(娘の名前)に必要なものから、私の靴や服まで買ってくれてるのよ。

そうじゃなかったらまともに幼稚園だって行けないから。お金無いの。

税金だって督促状が山のようにきているのよ。

それでもカードで買い物しなくちゃいけないの?~


俺は愕然とした。

俺はいったい、どれだけの額をカードで使ったのだろうか?

毎日の昼飯として、カップラーメンとパン。

その他に、風邪薬に頭痛薬と、980円の靴。

買ったものといえば、それくらいのものだった。

ひと月分の小遣い(最後にもらった一万円)に、満たない筈だ。


俺は車を走らせた。


郊外型のシネコン。

人はまばらだった。

俺はカードを取り出し、映画の半券を買った。

1300円だった。


クレジットカードを眺めていると、忌々しさが込み上げてくる。

二つに引き裂いてしまいたい衝動に駆られた。

俺はそれを抑えて、カードを財布にしまった。


悲しいくらいにそれは薄かった。

財布の中身は、空っぽだった。