日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -57ページ目

救済

俺は目覚めると、

グラスに安物のウイスキーを注ぎ、

煽った。


たまらなかった。


どこへ行っても、

娘を思い出してしまう。



マクドナルド。

レンタルビデオ屋。

スーパー。



娘と同じ年頃の女の子を観ると、

どうしても、

娘に見えてしまう。



もう、

耐えれなかった。


せめて、

娘の声を聞きたかった。


俺は何度も電話し、

メールしたが、

娘の母親はいっさい返事をしなかった。


娘がどこに住んでいるのかも、


俺は知らなかった。



いつか、

娘に会えるだろうか?


その可能性は、

極めて低いとしか、

思えなかった。



もう、


たくさんだ。


終わりにしたかった。



酒をしこたま飲んだ。


蝉の鳴き声が聞こえる。

汗でTシャツが背中に張り付いている。

神棚の上の、

オヤジとおふくろの写真が俺を見つめていた。


俺を笑ってる。


馬鹿息子が。


とっとと死んじまえ。


ああ、


わかってるさ。




気が付くと、

ナイフを握っていた。


俺は何をやっているのか?


どうでも良いじゃないか。

もう、

たくさんだった。


神がいるって?


笑わせるな。


冗談じゃない。



俺はナイフの刃を、

しばらく見つめていた。

頭の中で声が聞こえる。

俺を酷く罵ってやがる。


その声は、娘の母親のものだった。


あんたは最低ね。


怒りがこみ上げてきたそのとき、

携帯が鳴った。


従姉妹からだった。



元気にしているか。

飯はちゃんと食っているか。

近くに空き家があるので、

こっちに越してこないか。

それから、

親族の近況の話になった。


みんな、

幸せそうだった。

こんな無様な状態は、俺だけだよな。


みんな心配しているので、


一度、こっちに来いと言われた。


俺は電話を切り、


ひとしきり、

泣いた。


なんてこった。


ナイフをたたみ、

棚の上に置いた。


今頃、

娘は何をしているのだろうか。


もう、

手の届かない場所なのだ。


諦めろ。


お前は屑野郎なのだ。

娘に会おうなんて、

思うな。



酒をしこたま飲めば、

死ねるだろうか?

手首をぶった切る勇気は、

俺には無かった。


だから、


今まで生きて来れたのだろう、と思う。



俺はウイスキーを煽る。


多分死ねないだろう。


本気で死ぬ気があって、

それを実行に移せたならば、

とっくに地獄で、五右衛門風呂だ。


どうやら、


俺を救ってくれたのは、

神でもなく、

仏どもなく、

宇宙最高神でもなかったらしい。



従姉妹の電話一本で救われた。


俺は、


それでよかったのだ。


泣きながら俺は、つぶやく。


だれも、憎むな。

くそったれ野郎になりたくはないだろう?


そうさ。

まだ、

やれる。





おそらくは。


詩「明け方観た、夢」

$日々を生きる。~モラルハラスメント。離婚。解雇。そして、これから。-IMG_4639.jpg


夢。

思い出せなかった。

二度寝する前、

面白い夢を観ていたが、

夢ノートへ書き取る前に、


霧散した。


忘れる前に書き写せば良かったものを。



冷蔵庫から梨を一つ。

半分に、

四分の一に、

八分の一に、

そして、

皮を剥いて、口に放り込む。


すべての動作が、

細かく切り取られ、

俺はそれを人ごとのように、

眺めていた。


まるで映画だった。


ばりばりとという音が聞こえた。


「くそったれが!」


猫がまたもやカーペットで爪を研いでいる。

「ちゃんと爪研ぎでやれって何度言ったらわかるんだ!」

猫の腰のあたりを引っぱたくと、

参ったとばかりにころりと床に這いつくばり、

ぐるぐると鳴き声をあげた。


くそったれ猫め。


それでも、


あまりのかわいさに、

俺は猫を抱き上げ、

無理矢理頬擦りをする。


くそったれ猫の、


ぐるぐるが止まった。


思い出せない夢。


そして、叶えられない夢。


どちらも、

ここにないという意味では、

同じようなものだった。

保険として〜映画「月に囚われた男」

TEKKENー鉄拳ー。

予想通りの映画だった。

面白いか、面白くないかで言えば面白くはなかったが、

だからといって、

駄目な映画とはいえない。

世の中に、駄目な映画なんてないんじゃなかろうか?

大勢の人間が、必死になって作った、

いわば芸術作品なのだ。

作っている人間が、すばらしいと思っていれば、

それで事足りる。


見所もあった。


タムリントミタが、主人公の母親役として出演していた。

それだけでも、

見る価値はあっただろう。


おまけにプレデターのような侍がでてきて、

そいつの名前が吉光というのも、笑えた。


全体的に、戦闘シーンがリアルだった。

何組もの格闘家が、延々と同じリングで戦うのだ。

どうしたって、物語のテンポがだれてしまう。

俺は原作となったゲームをプレイした事はなかった。

もしも、鉄拳というゲームのファンなら、

楽しめたはずだ。


俺はレンタル屋にDVDを返却し、

目当ての作品が返却されているのを確認すると、

すばやく手に取った。



月に囚われた男という作品だった。


月に囚われた男 コレクターズ・エディション [DVD]/ケヴィン・スペイシー(ガーティの声),サム・ロックウェル

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面白い映画に違いない。

俺はそんな臭いを嗅ぎ取っていた。



さてと。


家でじっくりと、見る事にしよう。


酒でも飲みながら。