救済 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

救済

俺は目覚めると、

グラスに安物のウイスキーを注ぎ、

煽った。


たまらなかった。


どこへ行っても、

娘を思い出してしまう。



マクドナルド。

レンタルビデオ屋。

スーパー。



娘と同じ年頃の女の子を観ると、

どうしても、

娘に見えてしまう。



もう、

耐えれなかった。


せめて、

娘の声を聞きたかった。


俺は何度も電話し、

メールしたが、

娘の母親はいっさい返事をしなかった。


娘がどこに住んでいるのかも、


俺は知らなかった。



いつか、

娘に会えるだろうか?


その可能性は、

極めて低いとしか、

思えなかった。



もう、


たくさんだ。


終わりにしたかった。



酒をしこたま飲んだ。


蝉の鳴き声が聞こえる。

汗でTシャツが背中に張り付いている。

神棚の上の、

オヤジとおふくろの写真が俺を見つめていた。


俺を笑ってる。


馬鹿息子が。


とっとと死んじまえ。


ああ、


わかってるさ。




気が付くと、

ナイフを握っていた。


俺は何をやっているのか?


どうでも良いじゃないか。

もう、

たくさんだった。


神がいるって?


笑わせるな。


冗談じゃない。



俺はナイフの刃を、

しばらく見つめていた。

頭の中で声が聞こえる。

俺を酷く罵ってやがる。


その声は、娘の母親のものだった。


あんたは最低ね。


怒りがこみ上げてきたそのとき、

携帯が鳴った。


従姉妹からだった。



元気にしているか。

飯はちゃんと食っているか。

近くに空き家があるので、

こっちに越してこないか。

それから、

親族の近況の話になった。


みんな、

幸せそうだった。

こんな無様な状態は、俺だけだよな。


みんな心配しているので、


一度、こっちに来いと言われた。


俺は電話を切り、


ひとしきり、

泣いた。


なんてこった。


ナイフをたたみ、

棚の上に置いた。


今頃、

娘は何をしているのだろうか。


もう、

手の届かない場所なのだ。


諦めろ。


お前は屑野郎なのだ。

娘に会おうなんて、

思うな。



酒をしこたま飲めば、

死ねるだろうか?

手首をぶった切る勇気は、

俺には無かった。


だから、


今まで生きて来れたのだろう、と思う。



俺はウイスキーを煽る。


多分死ねないだろう。


本気で死ぬ気があって、

それを実行に移せたならば、

とっくに地獄で、五右衛門風呂だ。


どうやら、


俺を救ってくれたのは、

神でもなく、

仏どもなく、

宇宙最高神でもなかったらしい。



従姉妹の電話一本で救われた。


俺は、


それでよかったのだ。


泣きながら俺は、つぶやく。


だれも、憎むな。

くそったれ野郎になりたくはないだろう?


そうさ。

まだ、

やれる。





おそらくは。