日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -51ページ目

ビデオテープ〜つらい過去

まいったね。ここはアメリカか?

夜勤はとんでもない。

人間は、


暗くなると寝るように出来ているということを、

俺は嫌というほど思い知らされた。


だからなのだろう。


日中に寝られる訳も無かった。


三時間、いや、四時間、寝たか?



目覚めると仕事の時間だった。



飲み物すら買う金がなく、

俺はペットボトルに水道水を注ぎ、

そいつを二つばかり袋に詰めた。


会社に行けば冷蔵庫で冷やせる。


休み時間までには、十分冷えているだろう。


一度仕事場に入れば休憩時間まで、

小便をすることすら出来ない。

いや、

というより、小便をしに行くやつなどいなかった。


夜の街。

二車線道路。

俺は車を走らせる。


追い越し車線をゆっくり走る軽自動車。

俺と並ぶように走っている。

後ろにはトヨタのでかい車がぴったりと張り付いていた。


俺は少しだけ速度を落とす。

追い越し車線が空くと、

ものすごい勢いでそいつが飛び出し、

俺の隣に並んだ。


視線を感じ、

隣の、俗にいう高級車に乗っている若造を見た。

ヒップホップスタイルを狙ったのだろうか、

首に何かぶら下げている。

田舎者丸出しだった。


若造も俺を睨んでいた。


俺は微笑んでやった。


一瞬、若造の顔が歪み、

次の瞬間、俺はとんでもないものを見た。


若造は、

まるでハリウッド映画に出てくる、

死亡フラグバリバリのギャングのように、

俺に中指を突き立てて来た。


なんてこった。

笑かしてくれるぜ。



「映画の見過ぎだ、まったく」


俺はやつのテールタンプを見やりながら、


呟いた。



なんだかおかしくなって、


俺も車の中で、中指を突き立ててみる。


その行為は、

一瞬だけ、


俺にエミネムを連想させた。


農耕民族顔には似合わない。

こんなことは。


馬鹿げてる。



俺は大げさに首を振ってみた。

ハリウッドの二枚目がよくやる、あれだ。


当然の事だが、

その行為も、


俺にはまったく似合っていなかった。

詩「見えるものと、みえないもの」

机の上に、

いつも同じ本が置いてあった。


そいつを開いてみる事はほとんどなく、

いつでも読めるという安心感さえあればそれで良かった。


今日、

手に取ろうと思ったとき、


そんな本は元々無かった事に気付いた。


勝手にでっち上げられた記憶か。



みたいものと、


みたくないもの。



それは人の都合で決まるに違いない。


いつも見えているはずの鼻の頭だって、


ひとは勝手に見えないことにしてしまう。




視界が揺れた。


立ち上がり、水を飲むために台所へ行く。


くもりガラスが輝き、


外が晴れている事を知る。


本当の俺は今何をやっているのだろうか?



精神を病み、


孤島の隔離病棟で、

ロボトミー手術を受け、


交代勤務の職についていると、

妄想しているだけなのかも?


いつかはよくなるだろうという、

この想いも、


現実逃避のために作り上げられた、

ただの妄想かも?




どうしようもない不安と恐怖。


現実には存在しないそれらが、


俺を苦しめている。


苦痛自体、

妄想だよね?



さてと、


仕事の時間だ。