上下する、数字
何なのだ。
右側に、鎮座するその二列の数字。
はじめは、気にならなかった。
今は、毎日の変動に一喜一憂だった。
ここのところ、下がり続けているような気がする。
何故だ。
考えても、わかりはしなかった。
始まりは、密かに心の内をしたためるだけで、満足していた。
少しずつ、気持ちが変わっていった。
俺の文章に、コメントが返って来る。
俺も、返事を書く。
古い友人にでも、話をしているような気分なのである。
気が付くと、夢中になっていた。
そして、一人でも多くの人に読んでもらいたいと、思うようになった。
「麻薬、だな」
呟いていた。
老犬
悲しげな、視線で俺を見つめてくる。
泣きそうな、顔に見えた。
妻の愛犬。
結婚前から飼っていて、既に老犬だった。
「泣くなよ」
散歩を終え、犬に語りかけていた。
娘が生まれる前、犬をつれて旅行へ行った。
渓谷にある、犬と泊まれる宿。
宿のすぐ脇が渓流で、妻といっしょに犬と遊んだ。
きれいな川だった。
犬は今よりも元気で、目を輝かせ、川に飛び込み泳ぎ回っていた。
楽しかったな。
呟いていた。
娘が生まれると、妻は変わった。
いや、それ以前から、徐々に変わっていったのかもしれない。
娘が大きくなったら、昔のように笑って話せるだろうか。
結婚前、妻は俺に愛しているといった。
今は、侮蔑の言葉を並べられるだけだ。
日差しで、すっかり色あせた犬小屋に目をやった。
人の気持ちも、この犬小屋のように、日々色あせていくのだろうか。
娘が生まれたことによって、家の外に追いやられた老犬。
頭を撫でてやった。
「たまには一緒に遊ぶか」
また、犬に話しかけていた。
尻尾を激しく振りながら、泣きそうな顔で俺を見つめてきた。
ワンクリック詐欺
なぜクリックしたのか。
携帯メールである。
普段は即、削除する。
今回に限っては、メールに載っているURLをクリックし、そのサイトにアクセスした。
魔が差したのか。
無料という文字に、惹かれたのか。
自分でも、よくわからなかった。
メル友など、欲しいと思ったこともなかったのだ。
結婚してから、そういったものに手を出してはいない。
どんなものが、書いてあるか読んでみる。
そして、笑ってやろう。
そう思ったのかもしれない。
ひとつの文字列を、クリックした。
画面が切り替わった。
登録ありがとうございました。
入会費、36000円。
なんだと。
笑ってやるどころではなかった。
すぐに、退会手続きをとるべきか。
それとも、メールで問い合わせるべきか。
ひどく、後悔した。
狼狽もした。
すぐに、ネットで詐欺関係の情報を集めた。
電子消費者契約法というのがあり、それに違反していることがわかった。
こちらの意思確認もなく勝手に、契約を結ぶ。
この場合、契約自体が無効になる。
今後は、無視するのが最善の方法であるという。
督促メールに、督促の電話。
相当しつこく、かかってくるだろう。
すべてブログ上で、公開してやろうか。
俺と同じめにあっているものもきっと、少なくないだろう。
そのサイトは、既に、詐欺データベースに登録されていた。