料理 「俺流 男飯」
腹が減っていた。
米はある。
生卵をぶっ掛け、腹にかき込む。
それでもよかったが、食った後、いつも虚しくなるのだった。
何か、作ろう。
ただの思いつきだった。
冷蔵庫を覘く。
冷凍された、こま切れの豚肉と玉葱を取り出す。
肉はレンジで解凍し、玉葱は適当に切った。
フライパンに油をひき、肉を焼く。
みりんと醤油をふりかけた。
あとひとつ、調味料を入れるはずだった。
思い出せない。
かまわず、料理を続けた。
玉葱を入れて、蓋をする。
2~3分で、玉葱がしんなりしてきた。
それで完成である。
思いつきで料理した、豚丼。
焼肉かもな。
そう思いながら、喰った。
やはり何かが足りないような気もするが、それなりに旨い。
喰い終わったとき、ふと思い出した。
もうひとつの調味料。
それは、酒だった。
結婚という名の墓場
「結婚は人生の墓場とは、よく言ったものよ」
以前、妻が言った。
どのような経緯で、そんな言葉を浴びせられたのか、思い出せない。
それでも、妻が墓場と思う気持ちは、わかる。
想い描く理想と違う。
それがすべてなのだった。
昔の恋人との比較。
友人夫婦との比較。
よく引き合いに出された。
いかに駄目な夫かということを、嫌と言うほど聞かされてきた。
そして、自分という存在自体がゴミのように思えてくる。
愛される資格すらない男。
ただの、木偶だ。
妻も働いていた。
俺一人の稼ぎでは、娘の習い事すら通わせることができない。
夫として、でかい顔など出来る筈もなかった。
妻の負担を、少しでも軽くしようと、家事を手伝ったりする。
時々、むなしい努力のように思えたりもする。
妻がいて、娘がいる。
それだけで、十分ではないか。
妻に罵声を浴びせられても、その気持ちを受け止めてやればいい。
優しい言葉をかけてくれるなどと、期待すること自体が間違えではないのか。
テーブルの上に、ハンバーグと玉子焼きが皿に盛られ、ラップされていた。
俺のために、作ってくれた弁当のおかずだった。
ありがたい。
素直にそう思えた。
くそったれ。
そう思うたびに、墓場に近づいて行くのではないか。
今の状況でも、十分幸せだ。
刹那、思った。
花火
妻は、出掛けていった。
習い事をしていて、それに関係する集まりに参加するためだ。
娘は途中、人に預けるという。
家の中を掃除しておくように、妻から言われた。
掃除をし、昼飯を作り、洗濯物を干した。
風がほとんど、吹いていなかった。
たまらずに、エアコンをつける。
本を読んだだけで、時が過ぎ去ってゆく。
妻が、娘を連れて帰宅した。
「エアコンなどつけないで、窓を開けておけばいいでしょ」
それが、最初に発せられた妻の言葉だった。
エアコンを消し、窓を開け放っているところに、2度目の言葉が発せられた。
「ほんと、何にもしないんだから」
「私が草取りするから、あなたが何か食べるもの作りなさいよ」
目障りだから、草取りでもしていろ。
そう聞こえた。
黙って、外に出た。
やはり、反論しようという気は起きなかった。
何をやっても、無駄だ。
そんな失望感が、湧き上がってきただけだ。
草取りをした。
いつの間にか、日が暮れていた。
食事を終えて、洗濯物を取り込むため外へ出た。
妻と娘が、花火をしていた。
娘のはしゃぐ声が、聞こえてくる。
初めての花火だな。
なんとなく、思った。
布団潜りこんでも、娘のはしゃぐ声が聞こえてきた。
眠れそうもなかった。
汗で体がべたついている。
今夜も、風は吹いていなかった。