日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -273ページ目

話を聞かない男、地図が読めない女?

妻は地図が読めた。



どこかへ出かけると、妻が地図を読む。


カーナビなど、必要はなかった。

そして、俺より方向感覚がいい。

一度通った道は、忘れない。

妻に道を尋ねるということは、よくあることだった。


近道だといって、裏道を走る。

妻が、よく言った。

かえって遠回りだと。



女性と男性の脳の構造が違う。

女性は空間認識能力が男性より弱い。

道に迷ったり、地図が読めないのも、そのためらしい。

そして、女性は同時に複数の仕事をこなせる。



テレビを見ながら、飯を食う。

電話で話しながら、爪を切る。

男には到底出来ないことだ。

左右の脳を繋ぐ部分の太さが、男と女では女性の方が太い。

そのために、二つのことを同時にこなせると、何かで言っていた。


考え事や、何かをしているときに妻に声をかけられる事がある。

そんな時、ほとんどの場合、何を言われたのかわからず、妻に聞き返してしまう。


妻は、話を聞く気がないからわからないのだといって、へそを曲げる。

話を聞かない。

それが元で、よく喧嘩にもなった。



俺は、TVを観ながら飯が喰えない。


箸を止め、画面に見入る俺に、妻は何故だと叱りつける。

興味のあるシーンが出てくると、どうしても見入ってしまうのだ。

脳の問題だと一度言ってみたことがあった。

妻は別の意味にとったのだった。

馬鹿だから、出来ないと。

それから飯のときはTVの方向へ顔を向けない。

そして妻は、相変わらずTVを観ながら飯を喰っている。



時々思った。

妻は男の脳を持っているのではないかと。

それも、女の脳を持ちながら。


駄目な男 後編

腹が減ってきた。

そろそろ夕食の時間である。

車中で菓子などを喰っただけで、昼食は摂っていない。

遅い朝食を出掛ける前に摂っただけだ。

ショッピングセンターの中にあるレストランの前で、立ち止まった。

ここで食事を摂ろうということになった。

それでも、妻は後にしようと言った。

お菓子を食べたばかりでまだ空腹でないらしい。



家族で、テナントが立ち並ぶ通路を歩いた。

少し歩いて時間を潰せは、腹も減るだろう。

アクセサリーショップで妻が立ち止まった。

二つのアクセサリーを手にとって選んでいる。

どちらがいいと思う。

そう聞いてきた。

俺は自分のよいと思った方を指差した。

何度も交互に見ながら、結局妻が選んだものは、俺がよいと言ったものだった。

俺は自分の財布から金を出した。



それから、妻が大きな鉢植えを数点買ったため、それを車に放り込んでから食事をしようということになった。

露天の駐車場出入り口から外を見ると、雨が降っていた。

激しく降りつける雨を見ながら、妻が言った。

私が置いて来るから、○○見ていて。(○○は娘の名前)

そう言って雨の中、カートを押していった。

雨に濡れる妻を見ながら、俺は嫌な気分に襲われた。

俺が行くべきだった。

そう思っても、すでに遅かった。

案の定、戻ってきた妻は、不機嫌だった。

「私と別れた後、ほかの女と付き合う事もあると思うから言っておくけど」

妻が投げかけた言葉に、一瞬思考が止まった。

別れるという単語に、反応したのかもしれない。

普通の男は、女を雨に濡らすような事はしない。

私の父もそうだったし、それが常識だと言った。

返す言葉がなかった。

もしも、俺が置いて来ると言ったらどうだったろうか。

それでも妻はいいよと言って、雨の中カートを押して行っただろう。

そして、雨に濡れても腹を立てることはなかったのではないか。


俺が言葉をかけてくるのを、待っていたのではないか。

妻を気遣うことすら出来ない、駄目な男。

胸の奥底にあった、暖かいものは、消えてなくなった。



結局、飯も喰わずに帰ることになった。

雨で濡れた路面は、鏡のようにヘッドライトを照り返していた。

前方に見える赤いテイルランプが、雨で滲んでいる。

泣きたくなってきた。

それでも、涙など出なかった。

悲しいことを思い出そうとした。

映画のシーンが浮かんだ。

それでも、一粒の涙も出なかった。

やがて、母を思い出した。

病んで、入院する前の母の姿。

微かに視界が滲んだ。


雨ではない。

確かに涙だった。

そして、溢れ出すことなくすぐに乾いた。

助手席をちらりと見た。



妻は眠っていた。


娘の描いた絵

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何を描いたのだろうか。

娘に聞いてみた。

これ、お父ちゃん。

そう答えた。