途方にくれた、二日間
何度も繰り返しである。
庭に縛ってある老犬が、糞をしたことはわかった。
そして、俺にその始末をしろと言っている事も。
朝から晩まで、この調子で一日が終わった。
今朝も、目覚めると妻は起きていて、ゴミ袋が重いと怒鳴っていた。
ゴミを出せと言っているのだった。
居場所がなかった。
俺が部屋にいるだけで、眉間に皺を寄せ、不機嫌な溜息をつく。
私は不機嫌だという、意思表示なのだろう。
俺はたまらず庭に出て、草取りを始めた。
途中、庭で娘と遊んだりしているうちに、飯の時間になった。
冷蔵庫の中を覗き、適当に飯を作った。
いくら家事を手伝ったところで、何もかわりはしなかった。
また、怒鳴り声だった。
「ちょっと、○○見ててよ。片付けも出来ないじゃない」
(○○は、娘の名前)
娘の面倒を見ながら、俺は途方にくれた。
どうすれば良いのだ。
俺がいなくなれば、それで良いのか。
こうやって、俺を追い詰めて、別れようという言葉を、引き出そうとしているのか。
しばらくすると、妻は出かけていった。
習い事である。
俺は娘が庭で遊んでいるのを横目で見ながら、半日草取りをした。
部屋に戻りテーブルを見ると、俺の作った飯は、手がつけられることなく、そのままになっていた。
飲みかけの、コップ
俺は、必要のない存在なのか。
この世に、存在しない。
妻の扱いは、それだった。
それでも、食事だけは出された。
会話など、ない。
俺は、沈黙に耐えながら食事を終えると、汚れた食器をシンクに置いた。
食器を洗う前に、風呂の掃除があった。
娘を風呂に入れなくてはならないのだ。
風呂を洗い終えて、布団もひく。
皿を洗いに、台所に戻ると妻が食器を洗っていた。
ちょっと、驚いた。
飯の後、食器を洗うのはいつも俺の仕事だったからだ。
しかし、妻が台所を離れた後、シンクを見て俺は少なからず落胆した。
俺の使った食器だけ、そのまま残されていた。
俺は、存在しないのか。
それとも、俺の使った食器など汚くて、触りたくもないということなのか。
妻は娘と楽しそうに何か話している。
そして、娘は家の中を動き回った。
そのとき、妻が声を上げた。
「トイレに入らないで。床におしっこが垂れていて汚いから」
俺は娘の様子を見に行った。
妻の声が俺の耳に届く。
おしっこが汚いと、同じことを何度も言っている。
それが何を意味するのか、すぐに理解した。
娘に言っているのではなく、俺に言っているのだ。
床に小便が落ちている。
俺がやったと妻は言っているのだった。
泣きたいような、情けないような、なんともいえない気分のまま、俺は雑巾を握り締めトイレの床を拭いた。
妻の、この執拗さはいったい何なのだろう。
床を拭きながら、しばし考えていた。
そして、ある結論に達した。
別れようという言葉を、俺から言わせたいのだと。
別れを先に言い出した方が、どれだけ不利になるのか。
ふとそんなことを思ったが、実際のところはわからない。
あんたと居たくないから。
そう言っても、妻はこの家に居続けて四六時中、俺に文句を言っている。
そして、俺を追い込んで、その言葉を引き出したい。
風呂から上がり、娘に飲み物を与えた。
酒が飲みたかった。
俺は娘と同じものを飲んで、耐えた。
コップを二人分洗っているとき、シンクにある妻の飲みかけのコップに目が行く。
妻の吐いた、憎憎しげな言葉が蘇ってきた。
俺は二人分のコップを洗い終えると、飲みかけのコップをそのままにして、娘と一緒に寝室へ向かった。
短編 「真理子」 でじたる書房より発売
でじたる書房から、以前ブログに掲載した短編 「真理子」が発売されました。
真理子
←ここをクリック
電子書籍化にあたり、掲載する小説にも加筆、修正を行いました。
すでに短編「真理子」を読まれた読者の方々も、ラストシーンなどは新しく書き換えてありますので、是非、読んでみてください。
でじたる書房 URL http://www.digbook.jp/
