綿雪
雨まじりの雪だった。
フロントグラスに付着する様子で、
雪が混じっていることを知った。
死にたい気分だ。
今朝、
また娘の夢を見た。
夢はどうしても追い払うことが出来ない。
娘を想起させるものは目に入れたくはないし、
入れないようにつとめていた。
だから、外へ出ても、子供の声は聞きたくなかったが、
どこに行っても子供は目に入る。
娘を思い出すことによって、
暗く冷たい哀しみの底へ落ち、
這い上がれなくなる。
娘のことは愛おしいし、
会いたくて仕方なかったが、
それは叶わぬ願いで、
ぼくはなるべく娘のことを思い出すことを避ける意外になかった。
されど、一日のなかで思い出さない日は一日もなく、
だだ、思い出したときの感情をすぐさま紛らわすようにしていた。
レストランで食事をしていると、
娘と同い年くらいの女の子が歩いていた。
ぼくはその子を眺めながら、
心がざわつくのを感じる。
そして痛みに変わり、
最後には、
凍り付く。
そうさ。
ぼくの娘じゃないし、
ぼくのもとを去っていった娘に会うことはできない。
この日本のどこかで娘は元気でやってるさ。
実際に、ぼくの心配なんて必要ないし、
ひょっとしたら、ぼくのことなんか忘れてるかもしれないし。
気分を紛らわすことに失敗すると、
ぼくはいつも映画を見たり、
安物の酒を飲んだりする。
ここしばらくは、
酒を飲んでいなかった。
食事の帰りにコンビニへ寄った。
酒は売っていたがここでは買わない。
家の近くの酒類量販店で買った方が安かったからだ。
コンビニで雑誌を読む。
窓の外で、煙草を吸っている女が視界の隅に見えた。
ぼくはそのとき、
雨まじりの雪が綿雪に変わっているのを知った。
車に乗り込みワイパーを動かす。
雪はフロントグラスで完全に解けきる前に、
左右に掻き出された。
雪。
今年になって初めての雪じゃないか。
そんなことを思ったが、
何の感慨もなく、
痛みが遠のいてくれることだけを願った。
もう、たくさんだった。
フロントグラスに付着する様子で、
雪が混じっていることを知った。
死にたい気分だ。
今朝、
また娘の夢を見た。
夢はどうしても追い払うことが出来ない。
娘を想起させるものは目に入れたくはないし、
入れないようにつとめていた。
だから、外へ出ても、子供の声は聞きたくなかったが、
どこに行っても子供は目に入る。
娘を思い出すことによって、
暗く冷たい哀しみの底へ落ち、
這い上がれなくなる。
娘のことは愛おしいし、
会いたくて仕方なかったが、
それは叶わぬ願いで、
ぼくはなるべく娘のことを思い出すことを避ける意外になかった。
されど、一日のなかで思い出さない日は一日もなく、
だだ、思い出したときの感情をすぐさま紛らわすようにしていた。
レストランで食事をしていると、
娘と同い年くらいの女の子が歩いていた。
ぼくはその子を眺めながら、
心がざわつくのを感じる。
そして痛みに変わり、
最後には、
凍り付く。
そうさ。
ぼくの娘じゃないし、
ぼくのもとを去っていった娘に会うことはできない。
この日本のどこかで娘は元気でやってるさ。
実際に、ぼくの心配なんて必要ないし、
ひょっとしたら、ぼくのことなんか忘れてるかもしれないし。
気分を紛らわすことに失敗すると、
ぼくはいつも映画を見たり、
安物の酒を飲んだりする。
ここしばらくは、
酒を飲んでいなかった。
食事の帰りにコンビニへ寄った。
酒は売っていたがここでは買わない。
家の近くの酒類量販店で買った方が安かったからだ。
コンビニで雑誌を読む。
窓の外で、煙草を吸っている女が視界の隅に見えた。
ぼくはそのとき、
雨まじりの雪が綿雪に変わっているのを知った。
車に乗り込みワイパーを動かす。
雪はフロントグラスで完全に解けきる前に、
左右に掻き出された。
雪。
今年になって初めての雪じゃないか。
そんなことを思ったが、
何の感慨もなく、
痛みが遠のいてくれることだけを願った。
もう、たくさんだった。
川の流れのように
出来ごと
この世の中でおこることすべて
どんなに小さなことでも
どんなに大きなことでも
どんなに悲惨で最悪な出来事でも
どんなに大きな偉業でも
それらが起こる意味はあるに違いない。
運命という言葉は嫌いだけれども、
すべての事象について、
何らかの意味や意義を見いだせると思う。
どんなつまらないことだって、
肯定的に受け止めれば、世界が変わるに違いない。
職を失っても、
その先に全く新しい世界が広がってるかもしれないし、
または、職にありつけずにそこで野垂死にするかもしれないが、
考えるなら、前者だろう。
流れに逆らわないことだ。
ぼくはいつも、こう妄想する。
人は本来幸せになれるように出来ていて、
自分の直感や心の声に従えば、
必ずや幸せになれるんじゃないかと。
いつだってそうだ。
悪あがきして、
見栄を張って、
小さなプライドにこだわり、
エゴイスティックに選ばれた選択肢に、
未来はなかった。
本当に大切にしなければならないもの。
それは自分自身であって、
そのためには流れに逆らわないことだ。
流れてゆけばどこかにはたどり着ける。
流れているのに、
それに逆らって泳ぐから溺れてしまう。
どんなにあがいても、
流れに任せて流されてゆけば、
最後は海にたどり着くのだから。
遮二無に泳いで、
どこかの家庭の下水に紛れ込むのは、
もうたくさんだ。
この世の中でおこることすべて
どんなに小さなことでも
どんなに大きなことでも
どんなに悲惨で最悪な出来事でも
どんなに大きな偉業でも
それらが起こる意味はあるに違いない。
運命という言葉は嫌いだけれども、
すべての事象について、
何らかの意味や意義を見いだせると思う。
どんなつまらないことだって、
肯定的に受け止めれば、世界が変わるに違いない。
職を失っても、
その先に全く新しい世界が広がってるかもしれないし、
または、職にありつけずにそこで野垂死にするかもしれないが、
考えるなら、前者だろう。
流れに逆らわないことだ。
ぼくはいつも、こう妄想する。
人は本来幸せになれるように出来ていて、
自分の直感や心の声に従えば、
必ずや幸せになれるんじゃないかと。
いつだってそうだ。
悪あがきして、
見栄を張って、
小さなプライドにこだわり、
エゴイスティックに選ばれた選択肢に、
未来はなかった。
本当に大切にしなければならないもの。
それは自分自身であって、
そのためには流れに逆らわないことだ。
流れてゆけばどこかにはたどり着ける。
流れているのに、
それに逆らって泳ぐから溺れてしまう。
どんなにあがいても、
流れに任せて流されてゆけば、
最後は海にたどり着くのだから。
遮二無に泳いで、
どこかの家庭の下水に紛れ込むのは、
もうたくさんだ。
無職、収入なし
一日が短かった。
朝起きて飯を炊く。
昼飯を食って、
夜腹が減ると、また食った。
仕事は決まらなかった。
友人からもらった求人広告をみる。
正社員。
月給13万円。
月25日、8時間として時給650円。
アルバイトの方が、実入りが良い。
広告を見ながらそう思った。
しかし、
広告には、そんな仕事しか載っていない。
それでは生活できないので、
もっと実入りの良い仕事を探そうとする。
しかし、
そんなものはなかった。
されど、
選んでなどいられなかった。
収入ゼロでは、
ローンを払い、
通信費やら、
光熱費やら、
食費やら、
税金を払うことができない。
あるところに面接へいった。
三交代。
円筒形の部材を機械にセットしたり、
トルエンで洗浄したりする仕事だった。
面接官はいった。
シンナーとかに弱い人だと、気分が悪くなったりするんです。
大丈夫ですか?と。
わたしは、防護マスクは?と思ったが黙って面接官の話を聞いていた。
ひとつの部材は30キロあり、一つの機器に平均7本セットする。
それを何度もするらしい。
繁忙期は相当なものだと何故か自慢げに説明してくれた。
そのため仕事は夜勤、日勤を2日周期で変更する必要があるという。
そうしないと体が保たないのだ。
そうすることによって、切り替え時に一日近くの時間ができる。
わたしはそんなシフトを、今まで聞いたことも体験したこともなかった。
広げられた書類には、夜勤手当が300円とあった。
300円だって?
もちろん派遣社員だった。
とにかく、
生きるために、
いや、
働くために、
生きるしかないのだ。
土日は、
職安に行けない。
そう。
家にじっとしている意外になかった。
そして飯を食う。
そう。
仕事がなくても、腹は減るのだった。
朝起きて飯を炊く。
昼飯を食って、
夜腹が減ると、また食った。
仕事は決まらなかった。
友人からもらった求人広告をみる。
正社員。
月給13万円。
月25日、8時間として時給650円。
アルバイトの方が、実入りが良い。
広告を見ながらそう思った。
しかし、
広告には、そんな仕事しか載っていない。
それでは生活できないので、
もっと実入りの良い仕事を探そうとする。
しかし、
そんなものはなかった。
されど、
選んでなどいられなかった。
収入ゼロでは、
ローンを払い、
通信費やら、
光熱費やら、
食費やら、
税金を払うことができない。
あるところに面接へいった。
三交代。
円筒形の部材を機械にセットしたり、
トルエンで洗浄したりする仕事だった。
面接官はいった。
シンナーとかに弱い人だと、気分が悪くなったりするんです。
大丈夫ですか?と。
わたしは、防護マスクは?と思ったが黙って面接官の話を聞いていた。
ひとつの部材は30キロあり、一つの機器に平均7本セットする。
それを何度もするらしい。
繁忙期は相当なものだと何故か自慢げに説明してくれた。
そのため仕事は夜勤、日勤を2日周期で変更する必要があるという。
そうしないと体が保たないのだ。
そうすることによって、切り替え時に一日近くの時間ができる。
わたしはそんなシフトを、今まで聞いたことも体験したこともなかった。
広げられた書類には、夜勤手当が300円とあった。
300円だって?
もちろん派遣社員だった。
とにかく、
生きるために、
いや、
働くために、
生きるしかないのだ。
土日は、
職安に行けない。
そう。
家にじっとしている意外になかった。
そして飯を食う。
そう。
仕事がなくても、腹は減るのだった。