日食
原因は、観察するためのメガネが不十分なためらしい。
黒い下敷きや、ガラスの板にろうそくの煤で作ったグラスでは、光の一部は防げても、有害な光線全ては防げないという。
ちゃんとしたものが必要だ。
空は曇っている。
おまけに雨まで降っている。
日食グラスを買うことの出来なかった俺は、複雑な気分でそのときを迎えようとしている。
まあ、こんなものだろう。
アブダクション~目覚まし時計のセットは忘れずに
布団の上で、目覚めた。
すでに外は明るくなりかけていた。
俺はとっさに携帯を引き寄せ、時間を確認した。
「そんな馬鹿な」
すでにバイトが始まっている時間だった。
どうなっているのだ。
いつ、布団の上に転がり込んだのか、記憶になかった。
俺は帰宅するなり、500㎜の偽ビールを飲み、
ワインを一杯(我が家にはワイングラスなどという代物はなかった、
普通のコップになみなみと注いだワイン)飲み、二杯目に取りかかったところまでは思い出せた。
その後の記憶が欠落し、突然、布団の上で朝が訪れていた。
俺はこの状況を、必死で説明しようとした。
糞ビールとワイン一杯程度では、どう考えても記憶を無くす筈もなかった。
俺は酒に強い方だ。
テーブルの上には、三分の一ほどのワインが飲みかけのまま残されていた。
それも、おかしな事だった。
俺は酒を飲み残すというようなことは、決してしないからだ。
どうなっているのだ?
考えているうちに、ある可能性が浮かび上がった。
エイリアン・アブダクション。
どこかの惑星の、頭と目玉が異常にでかい灰色の宇宙人に、俺は攫われたのかもしれなかった。
「こんなところに、とんでもないオヤジがいるぜ。おもしろいから攫っていって、例の物を埋め込んでやろう」
俺は宇宙人に連れ去られ、発信器のような物を頭の中に埋め込まれてしまう。
おい!まてよ!?
俺はすでに攫われていて、埋め込まれた異物のために、偏頭痛に襲われるんじゃあるまいか?
とんでもないことに思いを巡らせているうちに、俺は現実に引き戻された。
そして、この現状を正確に理解した。
バイトに遅れている。
いや、無断欠勤しようとしている。
俺は即座に、バイト先に電話した。
ひどく沈鬱で、疲れ切った声で。
俺は病人になっていた。
「すみません。体調不良で休ませていただきます」
それでも、不十分だった。
すでに仕事が始まっている。
これは、ごまかしようがなかった。
俺はただ素直に、休みの連絡が遅れたことを謝った。
あまりの衝撃に、俺の目は冴えきっていた。
もう眠ることはできそうになかった。
仕事までは、まだ時間があった。
テーブルの、飲みかけのワインに目がいった。
俺はそれを飲み干し、布団に横たわる。
しばらくすると、俺は眠ったようだ。
いや
またしても、宇宙人に攫われたのかもしれない。
どうせ攫われるならば、
今度は人間型の、できれば美形の宇宙人に
あんな事や、こんな事をされたかった。
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期待~土用の丑の日
睡魔に襲われながら、帰路についた。
俺は帰宅して、キッチンに鰻があることを、密かに期待した。
あまりにも、はかない願いだったのだが。
日中。
職場では、土用の丑の日ということで、鰻の話題で盛り上がっていた。
職場責任者の携帯が鳴り、奥様から鰻はどうするといった内容の電話がかかってきたりした。
おばちゃんたちはもっと堅実で、明日、値が下がってから鰻を買うという。
以前の俺ならば、土用の丑の日に鰻を食うなど、失笑ものだった。
みんなが鰻を食うから俺も喰うなんて、馬鹿馬鹿しすぎる。
そう思ったことだろう。
しかし、現在の俺は、土用の丑の日に鰻を食いたかったし、
そんな話題に加わって、話をすることが楽しかった。
そして、もちろんのこと。
俺の携帯は鳴らなかった。
義母、娘、俺の娘の母親は、嬉々として遊びに出かけていった。
俺のために、鰻を買うはずもなかろう。
自分たちは外食で夕飯をすませるはずだ。
ひょっとしたら、鰻屋で。
俺は帰宅した。
大急ぎで玄関を駆け上がり、キッチンへ行った。
凝然と、キッチンを見遣る。
食い物は、何もなかった。
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