馴染みのカフェで、アサガオをあしらったメニューカードを裏返したり斜めにし、女を待った。
 衝立にかけられた、朝日に立つふたりの子どもが描かれたタペストリーから、視線を入り口に戻すと、微笑んだピンクのワンピースの女性が立っている。
 一目でミヤシタハナカとわかった。
 彼女は、キレイな歩みで俺の前に立ち、迷うことなく、       
「西木田慎也(にしきだしんや)さん、初めまして、私、宮下華香(みやしたはなか)です」
 形式的な挨拶をすませ、次の言葉を探している時、
「驚いたでしょう。私、西木田さんのことは以前から知ってます。勿論、お名前と漢字も。じろじろ私を見てますけど、どうかなさいましたか?」
「……」
「やはり私、だいぶ違ってますか?」
「いや、そんなことはないです」
「ムリしなくてもいいですよ。私、ミックスなの、父がイギリス人なんです」
「あー、そうなんですか」
「ミックスでもあまりいないみたいだけど、目の色が左右違うオッドアイなの。カラコンではないですよ。きっと父の血を受けたんでしょう。友達によくグラビアに出ている、何とかさんに似ていると言われますけど、私そのモデルの方知らないんです」 
 何故か早口に言うと目が痛いかと思うほど、華香は目頭を押した。
  今まで合った女性の中でも、彼女は特別な美しさを持っている。
 きめ細かく色白な肌。すらりとした手と足。そして、茶色と青い瞳。
 きっとモデルか芸能人かと考え、「あのー、失礼ですが、仕事は?」と聞くとすかさず、「IT企業の会社員で毎日パソコンと格闘しているんですよ。私、家には仕事を持ち込まないんですよ。同僚の中にはUSBなんかで持って行く方もいますが。
なので、私のただ一つの楽しみが休みの日のカフェ巡りなんです」
「仕事と家庭を切り離しているんですか、良いことです。私は家と会社の区別がつかないときがあります」
 一通りの雑談で少し緊張がほどけた。
「私を変な女だと思っているでしょう」
「……そんなことはない……」
 華香はアイスコーヒーを注文し、何にしますか、と首を傾げ俺をのぞき込んだ。
 同じのにする、と言うとやっぱりと頷いた。
 ……俺の好みも……。
 俺は我慢できず、
「華香さんは、宮下静香(しずか)さんと何か関係があるんでしょうか?」
 俺の言葉を待っていたように、華香は決然と「私の母です」
「えっ!」
 運ばれてきた、アイスコーヒーグラスを右手で持ち、つまむように左手でストローを使う仕草。静香にそっくりだ。彼女が静香の子ども…とすれば……
「どうかしましたか? もしかして、これ?」と軽くグラスを上げた。
「実は私、アイスコーヒーはあまり好みじゃないんです。いつもは、ホットなんですよ。どうしてかわかりますか?」
「……」
「悪いけど、西木田さんの好みを確かめたんです。母もホットが好きなんです。でも、西木田さんに合わせたと言ってました」
 静香がホットコーヒーが好みだと初めて知った。    
 
                                      
                                             つづく  (三日間連載)
                                                                                  次回の投稿は1月31日です。
 
 
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