「西木田さんと別れてから、母は結婚しました。母は幸せを求めて結婚したのではありません。子どもが欲しかったんです。そして生まれたのが私です。心配しないでください、私は西木田さんの子どもではありません。別れてから三年も経ってますし、父はイギリス人です」
と落ち着いて言った。
父親のことがはっきりして、俺は少し元気になり、
「幸せを……結婚……、それでは相手の方が可哀想すぎる」
「そんな言い方をしないでください。第一、西木田さんにその資格はありません!」
「そんな言い方をしないでください。第一、西木田さんにその資格はありません!」
すみません、つい大きな声になってしまって、と言って大きく呼吸をし、何の意味か人差し指でテーブルをとんとん叩いた。
「今でも父は、クリスマスと私の誕生日に必ずプレゼントを贈ってくれます。そして、二年に一度は私に合いに来ます。勿論私も何度かイギリスに行きました」、とすらすら話した。少し立ち止まるようにコーヒーを飲み干し、ストローを二つ三つに折りたたむとテーブルナプキンに包み片隅にそっと置いた。
「……でも、間もなく離婚したんです」
「えっ、離婚。どうして……」
「それは、私もわかりません。父は何も言いませんし。
母はバチが当たったと言い、二年前病気で死にました。そして、小さくしぼんだ母が亡くなる一ヵ月前に、西木田さんとのことを話しました。それから、この写真を渡したんです」
「えっ、……亡くなった……」
「それは、私もわかりません。父は何も言いませんし。
母はバチが当たったと言い、二年前病気で死にました。そして、小さくしぼんだ母が亡くなる一ヵ月前に、西木田さんとのことを話しました。それから、この写真を渡したんです」
「えっ、……亡くなった……」
華香が差し出す小さい写真に驚いた。ぽんと石を投げれば届く舞美島(まいみじま)に架かる朱色の橋で、しゃがんだ俺に頬を寄せこぼれる笑みの静香。そういえば、ここの神社に将来を約束した絵馬掛けをしたことを思い出した。静香の口癖は「私必ず神前結婚式をするの」だった。
華香が、
「私、結婚しようと思ってます」
「それは良かった。お幸せに」
「それは良かった。お幸せに」
ちらっと壁に掛かった黒い鬼の面に視線をやり、
「お相手は西木田さんです」
「えっ!」
「随分、驚いたようですね。
「えっ!」
「随分、驚いたようですね。
母を本当に愛していたなら、その証拠に私を抱いてください。母に同情しか持ってなく、今は常識のかたまりになった西木田さんにはできないでしょうね。そんな私は怖いでしょう」
華香は少しあざけった。
「西木田さんには奥さんがいて、娘さんは私とひとつ違いですよね」
「華香さんを……。そんなことはない、……。あの時のことはとても懐かしい。彼女には世話になった」
「華香さんを……。そんなことはない、……。あの時のことはとても懐かしい。彼女には世話になった」
「やはり母へは、同情しかないんですね」
「そっ、そんなことはない」
「では、何があるんですか」
「……」
「私、もっと強く責めるつもりでこちらに来ました。
でも、西木田さんと話をして思いの半分も言えませんでした。それは、きっと母が私を止めたんだと思います。
西木田さんはともかく、母は一途だったんです」
「そっ、そんなことはない」
「では、何があるんですか」
「……」
「私、もっと強く責めるつもりでこちらに来ました。
でも、西木田さんと話をして思いの半分も言えませんでした。それは、きっと母が私を止めたんだと思います。
西木田さんはともかく、母は一途だったんです」
と言う華香に、静香の面影を色濃く感じた。
「予定を変更して、もう一晩こちらにいます。ごめいわくですか?」
「いや、そんなことはない……。華香さんのお好きなように……」
「母が言っていたことにそっくり、困るとどちらでも良い言い方をするって。
「いや、そんなことはない……。華香さんのお好きなように……」
「母が言っていたことにそっくり、困るとどちらでも良い言い方をするって。
それから、明日は母から聞いたこの街をぶらり散策し、そのあと舞美島の橋に行ってみようと思ってます。西木田さんを誘ったりはしません」と、悪戯っぽく笑った。
「あの橋へ……」
「はい。行って欲しくありませんか? あの時の絵馬はもうないだろうと母が言ってました」
「はい。行って欲しくありませんか? あの時の絵馬はもうないだろうと母が言ってました」
絵馬のことまで知っているんだ。
「いえ、行って欲しくないなんてそんなことはないです」
「やはり西木田さんを愛したことが、母の一番の幸せでした。西木田さんにお会いして、母が愛したことがよくわかりました」
「華香さん、ありがとう。貴女に救われた」
「やはり西木田さんを愛したことが、母の一番の幸せでした。西木田さんにお会いして、母が愛したことがよくわかりました」
「華香さん、ありがとう。貴女に救われた」
華香は膝に視線を落とし、
「母が愛した人を、私は責めることができませんでした」
言葉が萎んだ。
俺は華香の一言に、長年の呪縛から少し解き放たれた。
終わり
朱色の橋(しゅいろのはし)は、400字原稿300枚ほどの手持ち小説を加筆、修正したものです。
主人公、慎也と華香の会話を中心に進めました。しかし、本当の主人公は、静香で、娘を通じてかっての恋人慎也に逢うという設定にしました。静香の強い思いを表現できたと思っています。
では、また書きます。
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よろしくお願いいたします。
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朱色の橋No1 ↓
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