静香とは小学の時からバイオリン教室が一緒で、俺が木々が鬱蒼と茂り、市内を路面電車が通る大学に入学すると翌年、静香は同じ街の別の大学に入った。
俺の奨学金と親からの些細な仕送りを静香に渡し、間もなくアパートで同居した。
両方の家にも遊びに行き、安っぽい、いや本当に安い婚約指輪を交わしたのもそのころだった。
しかし、俺たちの生活は長くは続かなかった。
俺は友だちを転々とし、半年以上が過ぎたある日、静香が友人宅で俺を問い詰めた。
「慎さんは、由里子さんを好きなんでしょ。なのに何故私と結婚しようというんですか? 責任をとるとか、それは私への同情でしょ」
静香の言うことは、的を射ていた。
同情ではない、と言うと愼さんは愛情ではなく、情けと結婚するんでしょ。それは私への哀れみであって、慎さんの心は由里子さんが占めているんです。慎さんとは、もう、二度と逢いません。
静香が長い間ハンカチで目頭を押さえた。重い空気を押しのけ振り絞って、
「今まで、ありがとうございます。まるで、夢のような毎日でした。いつまでもお元気でね」
と言うと指輪を外しテーブルの上においた。そして、見たことがないほどちぢんでペタリと座り、ハンカチのシミが乾き始めた頃、ふらつきながら立ち去った。
池の錦鯉が大きく反転した。
「紙の本と電子書籍」のページ電子書籍のことを少し書いております。こちらと、併せて読んでいただければ、ありがたいです。よろしくお願いいたします。↓がアドレスです。
https://ameblo.jp/good-image-story/entry-12134153414.html
朱色の橋No1 ↓
https://ameblo.jp/good-image-story/entry-12347090034.html
朱色の橋No3 ↓
https://ameblo.jp/good-image-story/entry-12352463089.html
つづく
次回は2月14日です(最終話)。
拙著です。
五分の二¥342-
![]() |
五分の二
Amazon |
何も知らない僕¥300-
![]() |
何も知らない僕
Amazon |
他の2冊は、テーマの中でご紹介しております。よろしくお願いいたします。