静香とは小学の時からバイオリン教室が一緒で、俺が木々が鬱蒼と茂り、市内を路面電車が通る大学に入学すると翌年、静香は同じ街の別の大学に入った。

 俺の奨学金と親からの些細な仕送りを静香に渡し、間もなくアパートで同居した。
 両方の家にも遊びに行き、安っぽい、いや本当に安い婚約指輪を交わしたのもそのころだった。
 しかし、俺たちの生活は長くは続かなかった。
 俺は友だちを転々とし、半年以上が過ぎたある日、静香が友人宅で俺を問い詰めた。
「慎さんは、由里子さんを好きなんでしょ。なのに何故私と結婚しようというんですか? 責任をとるとか、それは私への同情でしょ」
 静香の言うことは、的を射ていた。
 同情ではない、と言うと愼さんは愛情ではなく、情けと結婚するんでしょ。それは私への哀れみであって、慎さんの心は由里子さんが占めているんです。慎さんとは、もう、二度と逢いません。
 静香が長い間ハンカチで目頭を押さえた。重い空気を押しのけ振り絞って、
「今まで、ありがとうございます。まるで、夢のような毎日でした。いつまでもお元気でね」
 と言うと指輪を外しテーブルの上においた。そして、見たことがないほどちぢんでペタリと座り、ハンカチのシミが乾き始めた頃、ふらつきながら立ち去った。
 池の錦鯉が大きく反転した。

 

 

 

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                                               つづく

 

                                                                                                       次回は2月14日です(最終話)

 

 

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