8月まで蛹を冷蔵庫で保存して年一化にするというやり方も考えられるが、得られる個体の健全性を考えると、北海道産などの一部の産地を除き、多分無理。年三化にしようとして4月の初めから苦労して餌を確保し飼育を始めても、第二化からの幼虫が高温多湿な時期に当たって全滅し、これも無理。年二化とし、7月から8月初めまでの「魔の期間」を、健康を維持できるやり方で低温に保って春型と夏型の間の期間を引き伸ばすしか方法はなさそうである。


引き伸ばすんだから冷やすしかない。ただ、冷やすと一言に言っても、蛹の時期に冷やすのか、成虫になってから冷やすのか、そして、何℃程度に冷やすのかなど、色々なやり方が考えられる。


色々な方法を考え、そのいくつかを試したが、まだこれだというやり方は確立できていない。結局「有効積算温度に加算される、発育零点よりやや上の適温で、蛹も成虫も」というやり方が一番単純で害がなく、確実だろうと考えた。それを今年は試す。


おそらく同じやり方で北海道産から屋久島産まで、どこのものでもできるという一般性もあるだろう。ピカピカのミヤマカラスアゲハが欲しいからと言って、どこか遠くまで遠征する必要はない。秋にミヤマカラスアゲハが来るヒガンバナが咲き乱れる場所を知っている人なら、そこで疲れた雌をgetし、何年か累代飼育を繰り返して作ってしまえば良いのだ。私としても、毎年のように屋久島に行くのは少し辛いものがある。失敗した年に、何年かに一度行く程度にしたい。


ところで、有効積算温度、発育零点とは、なんのこっちゃと思う方も多いだろう。ここでごく簡単に説明しておく。


昆虫の場合などで、発育が完全に止まる発育零点をT.発育期間をd、その期間での平均気温をtと置くと、種によって以下の関係が成立することを有効積算温度の法則と呼ぶ。



(t-T)×d=一定の値(ΣT、有効積算温度)

数学をちょっと知っている方なら、

「それ、Tを切片とする気温の一次式で成長速度が近似できるという意味だね」

とわかるだろう。

その通り。成長速度は発育期間d と反比例の関係にあるが、tーTには比例するから、両方をかけると一定の値になるというのがこの式の意味である。


この式は法則などと呼ぶのは恥ずかしいような、ただの近似式であり、平均気温が発育零点付近とか30℃を超えるような高温では成立せず、個体に異常が生じたり、死んだりするが、発育適温の範囲ではほぼ成立する。


例えばTが5℃だとするとt−Tの値は平均気温が15℃ならば10であり、平均気温が25℃ならば20である。つまり、25℃の時は15℃のときの倍の速度で成長するから、25℃での成長期間は15℃での成長期間の半分になる。


代表的な農業害虫などについては発育零点や有効積算温度の値が求められており、非常に簡単な式なので、この式にチャチャッと平均気温の数字を当てはめて害虫の発生時期を予測して防除したりする。簡単な式で、大体当るというのがこの式の良さである。


それをミヤマカラスアゲハの飼育に使うとは、どういうことか?それは次回に。