2つ課題がある。そして、それらの課題は1つの手段をとることで克服できる。要は蛹の時期にもっと思い切りよく冷やす必要がある。


課題の1つは、最近の猛暑が来年も続くと仮定すると、夏型の交尾、産卵は8月初旬では早すぎるということである。この時期の場合。6月中に蛹化した蛹から羽化した成虫を使うため、交尾そのものは順調である。しかし、最高気温35℃近い温度は、明らかに雌の産卵条件としては過酷である。産卵は早くても8月下旬からさせるしかないと思う。



もう1つの課題は、猛暑条件で蛹になると、恐らくは雄の生殖能力が失われることである。

カイコの場合、「上蔟時期」とされているので、アゲハでは蛹化直前の高温が問題なのだろう。第一化からの採卵で得た蛹は6月中に蛹化するから、常温でも生殖能力は失われないが、念のため前蛹になった時点でやや低温、例えば15℃程度に保存するべきであろう。


ミヤマカラスアゲハの蛹期間と平均温度の関係をあらわす式、

(t−7)d=180


が前蛹の段階から成立すると仮定すると、15℃に置けば25℃の18/8倍、すなわち2倍以上伸ばせる。本年は蛹になってから2日ほど経ってから低温に保存したが、それより3日ほど早い段階から低温に保存すると、この3日間を6日間以上に伸ばせる。つまりこの処置のみで蛹化時期を3日以上遅らせることができる。

更に今回は。羽化直前まで低温に置くことによって何らかの障害が出ることを恐れ、眼の部分が黒くなった時点で常温に戻した。結果として、常温に戻してから3日ほどで羽化した。


25℃で3日ということは、(25−7)✕3=54日度の余裕がある時点で常温に戻したのである。10℃に置けば。54日度を蛹に与えるには18日を要する。つまり、翅の部分が黒くなる位にギリギリまで低温に置くことで、18−3=15日羽化を遅らせることができる。


つまり、本年のやり方を少しタイトな形にするだけで、合計18日以上羽化を遅らせることは可能である。


今までのやり方を少し変えるだけで..8月初旬から産卵させていたのを8月下旬からに変えることができる。更に、雄の寿命は2週間以上あり、雌は1ヶ月近く生きることを意識すれば、交尾、産卵の時期を多少遅らせ、9月からにすることもそれほど難しいことではない。



カイコに関する別の論文から、恐らくは発育零点を下回る5℃程度の低温に1か月ないし2か月置いても。正常に羽化すると言う知見も得ている。

1週間ずつ段階的に15―10→7(℃)と温度を下げ。5℃に2週間置き、その後.7→10−→15→20(℃)と言う感じで段階的に温度を変えることで、温度変化の影響を小さく留めるやり方もあろう。20℃まで羽化しなかったら、それで蛹の期間を9週間、すなわち約2ヶ月にできる。


細かいことは来年になってから考える。本年のやり方で、7月の猛暑をスキップし、一応は累代飼育を行えることが分かった。10年前なら、累代飼育成功、これで年々綺麗なミヤマカラスアゲハを羽化させられるとして話は終わりにできた。

しかし、最近の暑さを考えると、それだけでは十分ではない。来年は7月だけでなく、8月もスキップし、9月になってから産卵させることを考えようと思う。


温度を下げることを恐れるべきではない。むしろ。上がりすぎることを恐れるべきということが本年の結論である。



ミヤマカラスアゲハで成功すれば、同じ方法で他のアゲハ類は容易に成功するだろう。 そして、この猛暑に耐えながら生きているのは我々人類だけでなく、蝶類もかなり苦しんでいることが理解できた一年であった。



現時点では、来年はこのようなやり方を考えている。


(この連載終了。次回は11月末頃に越冬個体を冷蔵庫に収納する話題で本年は終了予定。ギフチョウ類とミヤマカラスアゲハの累代飼育の話題だけで終わった一年だった…)