高橋の悲しい失恋
そうしているうちに、秋が深まり、風が少し肌寒い季節になった。
いつものように、授業の後でグランドに出て、
サッカー場を2週走り、丁寧に柔軟をしていると、
となりに高橋がやってきた。
「おう、高橋。今日、さみぃな」
「な。さみぃ。」
「…。」
「…。」
「イテテテッ。さみぃと伸びねー」
「…。なぁ、上杉。オレさ、だめだわ」
「まじで? 後ろから押してやろっか?」
「いや、柔軟じゃなくて。」
「えっ? なによ?」
「うん…。 雪乃チャンのこと、諦めっかな、もう。」
「なんだよ。急に」
「いや、今日さ、雪乃チャン、広島帰ってんだ。
朝、授業の前に、ガッコ来てさ、うれしそーに、言いやがんの。
『急だけど、今日、新幹線で広島帰って、彼氏に会ってくるー。
高橋クン、ごめんっ。出席表、マルつけておいて。
戻ったら、おひるごちそうするから。ごめんねっ。おねがいっ~』ってさ。
思いっきり嬉しそうな笑顔でさー。
バイト代が入ったから、新幹線のカネができたんだってさ。
欲しい鞄があるとかいってたのによ、それ諦めて、新幹線代にしてやがんの。
ちっきちょー。
うまくいっちゃてんだよな。遠距離の彼氏と。
オレなんて、出席表のマル付け係だもんなー。
なにやってんのかな、オレ」
そう。 高橋の想いとは裏腹に、雪乃は、地元の彼氏とうまくいっている様だった。
高橋は、この件を機にすっかり意気消沈し、
次第に、雪乃の話をすることは少なくなり、
練習にもろくに顔を出さなくなっていった。
僕と三本木は、そんな高橋にかける言葉もなく、
まして、からかうことなどできもせずに、
そっと、高橋の失恋とも呼べぬ失恋を見守っていた。
そんな状態が2ヶ月ばかり続いた頃、
珍しく早めに練習に現われた高橋が言った。
「おう! 上杉、三本木! 元気にしているかなー?」
「なんだよ、高橋、オマエ、落ち込んでたんじゃねーのかよ。」
「何を言っているのだ君たち。僕は、いつだって、元気さ。
いや、じつは、今日は、他でもない、君たちに話しておきたいことがある。
なんていおうか。あはっ」
「“あはっ”って、おめー、気持ちわりいな、なんだよ、早く言えよ」
「いや~。それがさー。できちゃった」
「何がよ。禿げか? 痔か?」
「いや~。言いにくいな~」
「面倒くせぇな、いいよもう、じゃぁ、聞かねーよ」
「あ。うそ。聞いて。頼む。
じつはさ、オレ、好きな子できちゃった。
真由ちゃんって言うの。同じ学科の子。
ちっちゃくて、しっかりしてて、笑うとかわいい子なんだよねー。
ま、今度、君たちにも紹介するよ」
「いや、おまえ。
紹介はいいんだけどさ、
その… もう、いいのか?
なんだ、その、雪乃ちゃんは?」
「あ。雪乃はね、いいの、友達だから。
僕はね、雪乃の親友になると、決めたのだよ。
雪乃の男にはなれなかったけど、僕は、雪乃の友達として
永遠に雪乃を支え続けるのだよ。
それより今は、真由ちゃんよ。真由ちゃん。
かわいいんだよねー。」
なんというか、高橋は僕や三本木が思っているよりもずっと
タフで、図太くて、単純で、
正直、僕は安心した。
いつものように、授業の後でグランドに出て、
サッカー場を2週走り、丁寧に柔軟をしていると、
となりに高橋がやってきた。
「おう、高橋。今日、さみぃな」
「な。さみぃ。」
「…。」
「…。」
「イテテテッ。さみぃと伸びねー」
「…。なぁ、上杉。オレさ、だめだわ」
「まじで? 後ろから押してやろっか?」
「いや、柔軟じゃなくて。」
「えっ? なによ?」
「うん…。 雪乃チャンのこと、諦めっかな、もう。」
「なんだよ。急に」
「いや、今日さ、雪乃チャン、広島帰ってんだ。
朝、授業の前に、ガッコ来てさ、うれしそーに、言いやがんの。
『急だけど、今日、新幹線で広島帰って、彼氏に会ってくるー。
高橋クン、ごめんっ。出席表、マルつけておいて。
戻ったら、おひるごちそうするから。ごめんねっ。おねがいっ~』ってさ。
思いっきり嬉しそうな笑顔でさー。
バイト代が入ったから、新幹線のカネができたんだってさ。
欲しい鞄があるとかいってたのによ、それ諦めて、新幹線代にしてやがんの。
ちっきちょー。
うまくいっちゃてんだよな。遠距離の彼氏と。
オレなんて、出席表のマル付け係だもんなー。
なにやってんのかな、オレ」
そう。 高橋の想いとは裏腹に、雪乃は、地元の彼氏とうまくいっている様だった。
高橋は、この件を機にすっかり意気消沈し、
次第に、雪乃の話をすることは少なくなり、
練習にもろくに顔を出さなくなっていった。
僕と三本木は、そんな高橋にかける言葉もなく、
まして、からかうことなどできもせずに、
そっと、高橋の失恋とも呼べぬ失恋を見守っていた。
そんな状態が2ヶ月ばかり続いた頃、
珍しく早めに練習に現われた高橋が言った。
「おう! 上杉、三本木! 元気にしているかなー?」
「なんだよ、高橋、オマエ、落ち込んでたんじゃねーのかよ。」
「何を言っているのだ君たち。僕は、いつだって、元気さ。
いや、じつは、今日は、他でもない、君たちに話しておきたいことがある。
なんていおうか。あはっ」
「“あはっ”って、おめー、気持ちわりいな、なんだよ、早く言えよ」
「いや~。それがさー。できちゃった」
「何がよ。禿げか? 痔か?」
「いや~。言いにくいな~」
「面倒くせぇな、いいよもう、じゃぁ、聞かねーよ」
「あ。うそ。聞いて。頼む。
じつはさ、オレ、好きな子できちゃった。
真由ちゃんって言うの。同じ学科の子。
ちっちゃくて、しっかりしてて、笑うとかわいい子なんだよねー。
ま、今度、君たちにも紹介するよ」
「いや、おまえ。
紹介はいいんだけどさ、
その… もう、いいのか?
なんだ、その、雪乃ちゃんは?」
「あ。雪乃はね、いいの、友達だから。
僕はね、雪乃の親友になると、決めたのだよ。
雪乃の男にはなれなかったけど、僕は、雪乃の友達として
永遠に雪乃を支え続けるのだよ。
それより今は、真由ちゃんよ。真由ちゃん。
かわいいんだよねー。」
なんというか、高橋は僕や三本木が思っているよりもずっと
タフで、図太くて、単純で、
正直、僕は安心した。