妻への手紙 -11ページ目

こうやって3人で一緒に球蹴りの練習をしていても

「いいよなー。上杉は」
夏休みの強化トレーニングの最終日に、ポツリと高橋が言った。

「“いいよな”って何がよ?」

「“何が”だと?
 お前は、オレや三本木とは、ぜんぜん別世界のヤツじゃんよ。
 いいか? こうやって3人で一緒に球蹴りの練習をしていても、オレや三本木はごくフツーの大学生、お前は違う。だろ?」

「俺だって普通の大学生だけど…」

「だぁーっ! 言うな、くそっ。腹が立つ。
 お前は、将来はJリーガーだろ?
 オレらは、どうがんばってもフツーの会社員。
 いや、こんだけフケイキじゃ、会社員だってアブねーよ。
 それに、この間の合コンだって、お前一人がモテやがって。
 合コンなんて嫌だとか言っていたくせによ。ちゃっかり加奈ちゃんとくっついてやがんの。
 くそーっ、天は二物も三物も与えやがって。
 あ、わかった。お前、あれだろ?
 合コンん時、加奈ちゃんにサッカー自慢したべ。」

「してねーよ。それに、いつ俺がJリーグ決まったんだよ。勝手に決めてんじゃねぇよ。
 いっぺんにワケのわかんねーことばっかり言ってんじゃねーよ」

「えっ。あなた、加奈ちゃんにサッカー自慢してないの?
 あらら。もったいわねぇ。宗佑ちゃん。」

「“あらら”じゃねぇだろ。いい加減なこと言いやがって。
 大体なんだよ、オカマ言葉でしゃべってんじゃねぇよ」



高橋はつまり、合コンで加奈と僕が付き合うようになったことと、そしてもうひとつ。僕の将来についてを言っているのだった。
そう、僕は、高校を出る時にJリーグのとあるチームからの誘いを受けていた。
けれど、僕はそれを辞退して、この国立大学を受験したのだった。
“サッカーは大学を出てからでもできるだろう”という両親の考えを尊重して。


親が言うように
サッカーは、大学を出てからでも遅くはない。
きっと、チャンスはいくらでもあるだろう。
その時まで、大学生を楽しめばいいんだ。

当時の僕は、そう信じていた。