妻への手紙 -8ページ目

学食のプラスチックのトレイに カレーと味噌汁を載せて

以来、高橋は真由ちゃんに夢中だった。
やれ、真由ちゃんと昼メシを食っただの、
クラスの連中と真由ちゃんのアパートで鍋パーティをするだの、
そんなことばかり言っては、浮かれていた。

ただし、雪乃の時と同様、
真由ちゃんに告白することはできていなかったのだけれど。
それでも、高橋は、今の状況に満足しているように見えた。

そして、
僕はと言えば、
相変わらず、授業と、練習と、そして加奈とのデートに明け暮れていた。
それなりに楽しく、満ち足りた日々だった。



そんなある日。
そう、あれは11月の末頃だったと思う。
その日の3時からの授業に提出しなければならない課題を忘れていた僕は、
昼メシも食わずに課題に取り組み、
3時ギリギリにようやく仕上げて、授業に出席した。

だから、授業を終えた頃には
すっかり腹が減っていて、
こりゃ、練習に行く前にメシでも食わなきゃ死ぬな、とか言いながら
学食へ立ち寄った。



 ― もしも、この時、学食に立ち寄らなければ
僕のこの後の人生は、今とは全く別の物になっていただろう。
だが、“もしも、立ち寄っていなければ…”などと考えるのは
無意味だ。
なぜなら、僕が、この時、学食に立ち寄ったことは事実であるし、
立ち寄らなかった場合の「今」は、どこにも存在しないのだから ―


僕は、学食のさえない色のプラスティックのトレイに
カレーと味噌汁を載せ、会計を済ますと
座る場所を探して、学食内を見渡した。

すると、日当たりのいい窓際の席に
サッカー部のウインドブレーカーを来た奴がいた。
逆光に目を凝らすと、背中には「TAKAHASHI」の文字が見えた。

高橋の席には、高橋の他に
男が一人と女の子が二人、居るようだった。

僕は、そこに真由ちゃんがいるのなら
高橋を冷やかしてやろうと思い、高橋の席に近寄り、言った。

「おう、高橋、オレもココで一緒にメシ食っていい?」
「おっ!上杉。ま、座れよ」


そう言われ、高橋の隣に座り、
対面に座る女の子の顔を見ると、それは
真由ちゃんでも誰でもなく、


冴木雪乃だった。