妻への手紙 -4ページ目

冬の遊園地

誰が言い出したことだったのだろう。
今となってはもう 詳しい経緯を思い出すことができないのだけれど、
あの年の12月の半ばに
誰かが

“女の子も誘って、みんなでゆーえんちにでもいこーや”

そんなことを言ったのだと思う。
いや、“誰か”といっても、
そんな事を言い出すのは、おそらく高橋に違いないのだが。

誰が言ったかはともかく、
酒が入っていた僕らは

“いいねー。遊園地ってのがいいねー。
 うまくいけば、クリスマスには、オマエも彼女持ちになれんじゃねーの?”

などと言って盛り上がり、
大学生にもなって、後楽園遊園地でグループデートをすることになってしまった。

僕は、
加奈に対して若干の後ろめたさを感じながらも、
“ま、ただの遊園地だし、みんなで行くんだから別にいいよな”と
自分に言い訳をして、
そのくせ、当日は自分が一番気にっている服を来て出かけた。
前の日に洗濯までして。


そう。
高橋が誘った子たちの中には
冴木雪乃がいたのだ。


当日、僕たちは9時に大学近くの駅の西口に待ち合わせた。

僕は、8時50分に駅に着き、
高橋は9時ぴったりに現われ、
そして冴木雪乃は、10分遅れの9時10分に到着した。

僕は、時間の守れない奴は嫌いだ。
だから、正直、この時 雪乃に軽い失望さえも覚えてもいた。



しかし、僕はすぐにその失望が間違いだったことに気が付く。

電車に乗るとすぐに
高橋が雪乃に言ったのだった。


「雪乃が約束の時間に遅れるなんて珍しいねー?
 どーしたの? 雪乃、具合でもわりーの?
 アタマが痛いのかな? それとも、おなかかな?
 ほれ、ぼくに見せてごら~ん」

雪乃は、こう答えた。

「あははっ。ごめんね高橋くん。遅れちゃって。
 あのね。せっかくだから、やっぱりマキも来れるといいなと思って、
 体育館に寄ってマキに声かけて来たよ。
 遅れるなら、連絡すれば良かったね。ごめんね」

そうだった。
この日のメンバーには、この間、学食で会ったマキも誘っていたのだが、
マキが、所属するサークルの練習がどうしても休めないというので
仕方なくマキ抜きで出かけることにしたのだった。

そんなこと
僕はすっかり忘れていた。


雪乃は、余程 そのことが気になっていたのだろう。
わざわざ遠回りをして大学の体育館に寄り、マキに声をかけてきたのだった。



僕は
雪乃のそのやさしさと
そして
遅れたことに言い訳をしなかった潔さに
すっかり心を奪われていた。


遊園地までは、まだ2度も地下鉄を乗り換えなければならない時に。


僕は、すでに雪乃から目が離せなくなっていた。