主人公は死なず、ならぬ、主人公は不倫せず――で視聴者を安心させたのが、ドラマ「家売るオンナの逆襲」(日テレ系、水曜22時~)だ。毎回、顧客の抱える様々な問題を、家を売ることで解決してきた不動産屋の三軒家(北川景子)。2月27日放送の第8話では、自身の夫婦関係が俎上に。夫の屋代課長(仲村トオル)の浮気疑惑が浮上し、三軒家は課長に直接「浮気をやめて」と訴えた。仲直りした暁には「手を繋ぎたい」と求めるカワイイ一面も見せ、表情こそ「鉄仮面の女」の三軒家が、動揺したり怒ったりしながらも、きちんと夫と向き合う姿が描かれた。
前回までに、屋代課長は、仕事帰りによく立ち寄るスーパーで、三郷(真飛聖)と知り合い、親しくなっていた。三軒家を逆恨みしている元社員の白洲(イモトアヤコ)は三郷と課長をくっつけようと画策、スーパーで缶詰の山を倒し、下敷きになりそうな三郷を課長が助けて抱き締めたところを写真に撮っていた。その後、課長と三郷は一緒に飲みに行き、課長は三郷に誘われて一緒に食事もした。
第8話では、三郷がいよいよ課長に魔の手を伸ばす。帰り際を待ち伏せていた三郷は「あら~」と声を掛け、寒いから知り合いのおでん屋に行こうと誘う。最初は「家に食事の用意があるんで」と断ろうとした屋代の腕を無理やり取って、「知り合いのおでん屋、もうちょっと先にあるんです」とぐいぐいラブホテル街へ。事態に気付いて帰ろうとする課長を、三郷はキラキラした目で見つめ、ホテルの前で立ち止まって言う。「お願い、遊びでいいんです。1回だけ。それ以上何も望まないから。もう大人なんですもの。それくらい許されてもいいと思いません?」
課長が困っていると、強引にホテルに連れ込まれそうになり、「だめだめだめ」と逃げ腰。三郷に「なんでここまでついてきたのよ!」と怒られると、課長は言う。「やっぱり妻は裏切れないっていうか、僕、妻を愛してるんですう~」。三郷から「サイテー!」と頬を叩かれるも、課長は「ごめんなさい~」とシッポを巻いて逃げ帰る。
だが、その様子は白洲が写真に撮っていた。後日、白洲は「屋代課長、あんたのこと裏切ってるよ」と、「夫の秘密」を教えてやるからと三軒家を呼び出す。白洲は三軒家が動揺するのに喜び、課長が三郷を抱き締めている写真を見せる。「その二人、もう始まっちゃってんだ~」とにんまり。さらに、ラブホテルの前に立つ課長と三郷の写真を見せると、三軒家は凝視して固まる。その後、仕事に戻り、無事に家を売った三軒家だったが、その夜、皆が帰った後のオフィスで、二人きりになったタイミングで、課長にいきなり切り出す。
「浮気をやめていただけないでしょうか」
「浮気?」「そんなことする訳ないじゃない」と慌てる課長に、三郷と抱き合っている写真を見せて、「ではこれは何なのでしょうか」と三軒家は詰め寄る。「白洲美加は、二人はもう始まっちゃっていると言っていました」。課長は、たまたま倒れてきた鯖缶の山からかばっただけだと説明するも、「この人だからかばったんですか」「この人は色っぽくて、こんな目(キラキラした目を実演する)で課長を見るそうですね」。課長が、夫よりも白洲を信じるのはおかしいと反論し、「信じてないの?」と聞く。三軒家は「信じていました、今朝までは」と言い、写真は「抱き合っています」と指摘する。あくまで誤解だと、事態を説明する課長に、三軒家は「それではこれは、なんなんでしょうか。手を繋いで、ラブホテルに入ろうとしています」と、ラブホ前の二人の写真を見せる。課長は「入ってないよ。入ってません」と慌てて全否定。食事くらいならと思ってついて行ったらホテル街だったと言い訳する。
「おでんでも食べていきませんか、って誘われて、おでんくらいはいいかなあと思いました、それは認めます。(略)すぐそばにあるって言うから、信じてついて行ったら、いつの間にかホテル街に突入していて、あれーって思っていたら、ここ入りましょうみたいなことになって、それはダメ~って(略)抵抗して、そのあと、猛烈な勢いでビンタされちゃったんだけどね。(略)つまり、何が言いたいかっていうと、信じてください。浮気なんてしてません」
無言のまま、じっと課長をにらむ三軒家。すると課長が反撃する。「そこまで信じてくれないなら僕も言っちゃうけど。君だって、あの留守堂とこっそり会っていたのはなぜなんだ」と、嫉妬も露わに言い募る。三軒家は、留守堂に付きまとってくる理由を聞いただけだと言い、「抱き合ったりホテルに行ったりしてません」とぐさり。さらに、もしたとえ留守堂が「私を愛していても、私が愛しているのは課長だけです。でも、相手の気持ちはどうすることもできません。(スマホを見せて)この人の気持ちも」。そこで課長は提案する。
「じゃあ、……相手の人の気持ちは置いておいて。僕たちは、お互いを信じよう。仮にも僕らは夫婦なんだから」
「仮にも?」と突っ込まれて「仮にもは撤回します。僕らは、夫婦なんだから」。ようやく三軒家も「分かりました。私は、課長を信じます」と言い、課長も「僕も、三軒家くんを信じます」。課長は笑顔で「じゃ一緒に帰ろうか」。「はい」と三軒家。
帰途、並んで歩いていた時、ふと三軒家が言う。「課長。手を繋ぎたいです」。課長はびっくりしながらも嬉しそうで、照れながら手を差し出す。その手を三軒家が握ると、課長はにっと笑う。2人は繋いだ手をぶんぶんと大振りしながら歩く。その間、課長をじっと見つめる三軒家。なんだかんだと、この回、三軒家の”課長愛”があふれ出ていた。「浮気をやめて」と頼み、「私が愛しているのは課長だけ」と告白し、「手を繋ぎたい」と求める。ふだん仕事に邁進していて放置プレーされていると感じていた課長も、これは嬉しかっただろう。鉄面皮ゆえのギャップ萌えだ。
とまれ、主人公だけでなくその夫も、夫婦そろって不倫はしなかったことに、なんとなく安心する。(簡単に配偶者以外の相手と浮気してしまう夫婦が登場するドラマが多いだけに、なおさらだ。)誘惑してきた女性から「いくじなし」と言われようとも、殴られようとも、妻に近づく若いイケメンにヤキモキしようとも、結局、課長も妻が大好きなのだ。互いに愛し合い、ちゃんと向き合い、不満を伝えあい、互いを信じあう三軒家と課長。なかなかにステキな夫婦である。
(2019・2・27、元沢賀南子執筆)