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通じる、英語力

中高6年間、英語を勉強。オーストラリア留学経験あり。
それでも“話せない”36歳男性が一人の英会話教師と出会い、
日常会話をマスターするまでの6ヶ月のストーリー。

30秒程に収まったそれらの声を確認した後、

「では今度はネイティブスピードです。」

ウーシャのその言葉とともに僕はボイスメモを再び録音スタンバイ状態にした。


ウーシャが読み上げる。さっきと違って早い。

単語と単語の間がつながり、一つに聞こえる。

録音しながらもついていくのに必死だった。


そうなのだ、実際リスニングを試みている時もこうなのだ。

知っている単語ですら、聞き取れない事がある。

さっきの半分以下の時間で終わった音声ファイルを保存し、

念のためしっかりとれているか確認した。


さっきと同じく、クリアな英語が流れる。

しかし、さっきと違い、所々聞き取れない箇所がある。

「どうですか?わかりますか?」


音声ファイルを聞きながら、難しい顔をする僕に見かねたのか

ウーシャがそう尋ねた。


「やっぱり、分からないところが何箇所かあります。

 単語がくっついたり、rとlの区別がつかなかったりです。」


「ですね。ほとんどの日本人が最初、それでつまずきます。

 ですので、これを1週間、何度も繰り返し聞いてみて下さい。

 最低30回です。」

ウーシャが言うには人間は30回聞くと忘れないらしい。




「たった4つの文章ですが、沢山のエッセンスが入ってますね。

何千のシーンで使えるエッセンスです。

そして、自分で考え自分の言葉で作った文章は自然と頭に入り

どんなテキストよりGoodな教科書になります。」


確かに無理せず、今ある知識を使って等身大で作った

表現は、これから何度でも出せる気がする。

それは単にテキストを丸暗記するのとは全く異なる勉強法だ。


「ではここからがリスニングの勉強です。」

そうだ、ステップ3はライティングでもすピーキングでもなく、

リスニングがテーマだった。

僕はその事をすっかり忘れていた。


「まずはウーシャが、この4つの文章をスロースピードで

 読み上げますから、それを携帯に録音して下さい。」

そう言って僕のiphoneを指差した。


最近の携帯は本当に便利で、大抵の昨日は備わっている。

iphoneのホームボタンを押し「便利ツール」から「ボイスメモ」を立ち上げた。

それを見て、ウーシャが1つ目の文章からゆっくり読み上げる。


【My custom is that having dinner with listening to music.】

4つ目が終わるのを待って、ボイスメモの完了ボタンを押し止めた。

あまり使わない機能で、ちゃんと取れているか不安を感じ

一度再生してみた。ウーシャの声が綺麗に、流れた。




【2.夕飯を食べながらの会話は自然と笑顔になる。】

【The conversation having dinner makes us natural smile.】

「OK、Goodです。」


【3.お皿に野菜とお米、カップにお茶が入っている。】

【The vegetables and rice are in the dish, the tea is in the cup.】

「わかりやすくて良いですね。これもそのままでOKです。」


【4.息子がはしをうまく使えるようになった。】

【My son is getting better to use chopsticks.】

さすがに3つ連続修正無しという事はないかなとウーシャの表情を窺った。


「Perfectです。これもそのままで良いね。

 文章を作るのに慣れてきましたか?」

「そうですね。以前はスマートに言おうとして一旦頭で考えていましたが

 今はシンプルに、できるだけ考えないで作ろうとしています。」


「それでOKです。全部中学で習う英語だけど、それを使える感覚が大切です。

 中学英語は建物で言うと、“はしら”です。

 みんな建物の形やキレイさ、格好良さを見ようとするけど

 “はしら”がしっかりしていないと崩れてしまいますね。」


この例えはとても的を得ている。

ウーシャはこういう例えが非常に上手だ。

基礎をおざなりにして、表面ばかり取り繕ってもそれは脆い。

それよりも地味であっても、基礎をしっかり根付かせる事が大切だ。




70球ほど打ち終える頃にはすっかり明るくなった空が

一日の始まりを心地よく演出していた。


ドライバーと7番アイアン、それにアプローチとサンドウェッジを

左右の肘に挟み、車へと戻る。


5時過ぎから6時まで、こうして時間を使えた日は

一日をとても活用できた気がする。


朝食をとり、息子を保育園に送った後、

そのままウーシャの教室に向かう。


そこにあるのは、いつもと同じ変わらぬ笑顔と、

明るい色で揃えられ整頓された風景だ。

その、すっかり馴染みとなった週1回の

英語時間の始まりに期待感を伴わせ、ノートをカバンから取り出した。


【夕食】、そう書かれたページを開く。

「リスニング力を上げるための宿題、やってきました。

 最初のテーマは夕食です。」


「OK.では日本語と英語をチェックしていきましょう。」

【1.音楽を聞きながら、夕飯を食べるのが習慣だ。】

【My custom is that having dinner with listening to music.】


「良いですね。That は無くて良いので省略しましょう。」

こういう関係代名詞は省略できる。

My custom is that の that に赤ペンで何重にも線を引き、消した。




駐車場に車を停め、少し歩く。

何年か前には、縁もゆかりもなかった場所。

いつの間にか雨はやみ、暑いくらいの陽射しに変わっていた。


澄んだ空気が遠くまで見渡せる視界を作る。

所々に水玉模様のように置かれた水たまりに

光が差し込み、キラキラと輝く。


雨上がりの街はすごく好きだ。

打ち合わせの間も前職と全く違う仕事をしている自分に

どこか不思議さを感じながらも、帰途についた。


そして明日のウーシャチェックに向けて、

1日前倒しで今日2つ目のテーマを書きだした。


【business friend】

discuss,meeting,goal,benefit,win,collaboration,mind,project,success

日本語、英語を書き記し、今日の打ち合わせで使った資料に目を通している内に

気がつけば眠っていた。


朝-

この日は早朝ゴルフ練習の日。

週に3日、5時に起きてイオン市野の横にある練習場に行く。


この時期の朝5時はまだ真っ暗だ。

暗闇の中に向かってボールを打つ。

やがて少しずつ、真正面から朝日が昇る。