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通じる、英語力

中高6年間、英語を勉強。オーストラリア留学経験あり。
それでも“話せない”36歳男性が一人の英会話教師と出会い、
日常会話をマスターするまでの6ヶ月のストーリー。

iponeのボイスメモを開き、ウーシャに目で合図する。

真中の赤く丸いボタンを押された音がなると同時に

ウーシャが英文を読み始める。


スロースピード、29秒そしてノーマルスピード、18秒。

わずか4文でも10秒ほどの差が生まれる。

スロースピードでは聞けてもノーマルスピードで聞き取れない

理由の一つがここに、ある。


「まずは耳で聞いてResponse、反応してみて下さい。

 目で見てはダメね。

 100%クリアになるまで繰り返し聞いて下さい。100%です。

 会話に0%か100%以外はありません。向こうは待ってくれない。

 何を言っているか、1回で聞き取れなければ0点になります。」


厳しい事を言っているようだが、真実だ。

CDなら繰り返し何度でも聞けるが、

通常会話において相手が何度も同じ事を言ってくれる可能性は低い。


相手が子供だとその愛らしさなどで、相手が分かるように大人が工夫して伝えて

あげようとするが、大人同士のコミュニケーションでそんなことはない。


「何を言っているか、1回で聞き取れなければ0点です。

 そしてそれができて初めてReply、答える事ができます。

答えは100%でなくていい、50~100%でOKです。」


それを聞いて今度は少し気が楽になった。




「4も同じですね。

 これは日本語だとどういう意味ですか?」


「【コミュニケーションを取って、より仲を深めるため歓迎会を

 時々、花見として開く】です。

 日本語としてもくどいですね、確かに。」


「ですね。意味が2重、3重になっているからです。

 もし外国から来て日本語を勉強している人や、

 5歳くらいの子供にこの表現は使いますか?」


「使いません。絶対通じないと思います。」

「では日本語からまずシンプルにしましょう。

 【よりよいコミュニケーションのために花見を開く】

 ではどうでしょう?」


その通りだ。伝えたい事が100%ではないが、80%は含まれている。

「これでよければ【Sometimes we hold Ohanami for better communication.】

 でGoodです。」


また、非常にシンプルになった。

「【communication】にはそれ自体、【welcome party】や【get along with】の

 ニュアンスが含まれています。

 ですのでこれ1語でほとんどOKです。」


自分の子供と話すつもりで-

久しぶりにその事を思い出しながら、録音用にiphoneをスタンバイした。




【1.“Ohanami” is the most popular event in the spring.】

【2.Cherry blossoms are very precious because their flowers leave soon.】

【3.They are having fun with lunch box and drinking on the seat under the trees.】

【4.We sometimes hold the “Ohanami” as welcome party to get along

with communication.】


「1、2はそのままでOKです。

 3はさらにシンプルにできますね。」

【川沿いの木々の下にシートを敷いて、お弁当とお酒を楽しんでいる】だ。


「くどい、、、ですよね?」

改めて見直したその文で感じた事を伝えてみた。


「Yes.少しですね。

 要するに、【木の下でランチとドリンクを楽しんでいる】という事ですね。」

そう言って、簡単にした英文を教えてくれた。


「【They are enjoying lunch and drinks under the trees.】

【シートを敷く】、というのは木の下で食事を楽しんでいるのであれば

 想像できます。わざわざ言わなくてもOKですね。

 【座る】というのも同じです。」


確かに木の下で立って食べたり飲んだりしている人はいない。

そして、座るならシートを敷いているというのも容易に推測できる。

小説やニュースなどで、できるだけ表現を細かく伝える必要がある場合は別だが

通常会話において、そこまで詳しく説明する必要はない。




「繰り返します。誰かが作った文章を暗記して

 言えるようになってもそれは使えないし、

 発音する人が変われば聞く事さえできません。」


妙に説得力があった。

母国語が英語でも日本語でもない中、

独自の手法でそれぞれの言語をマスターし、

日本で英語を教えているという実績が背景にあるからだ。


このやり方に、僕はしばらく賭けてみる決意を改めて固めた。

「では次、お願いします。

 次のテーマは【花見】です。

 Do you know “HANAMI”?」


お花見は日本固有の文化だと思っていた僕は尋ねてみた。

「Yes,sure!

 日本に来て知りました。

 楽しいですし、キレイですね、桜。」


さすがウーシャだ。日本人より日本人らしく感じる事が多々ある。

奥ゆかしさや、遠慮深さ、わびさびなど、

本などで読む昔の日本の姿がそこにあった。


「そうなんです、船越公園の桜、知ってますか?」

知らないと言った表情を見せた彼に、その場所の説明と

すごさを伝えた後、英文を読み上げた。




しかし、英文を流して何回も聞くという勉強法は今までもした事がある。

オーストラリアに居た時は毎朝、本についている英語の教材を聞いていたし

何年かに1回おとずれる、“英語を勉強したい”という状態の時には

寝る前にipodに入れた英語のスピーチや短い会話のやり取りを聞きながら

布団に入っていた。


それは、結構な期間継続したし、何回も繰り返し聞いたのだが

結果はそれほど効果的に見られなかった。

その事実と疑問を率直にウーシャに話してみた。


「そうですね。それはそうだと思います。」

意外にもウーシャは同調してくれた。


そしてその後、

「それは誰かが作った文章だからです。

 それを例えば丸暗記しようとしたり、またリスニングしようとしても

 うまくいきません。

 今回、教材を使わず、あえて自分で文章を作ってもらったのには

 そういう理由があります。

 単にリスニングの勉強をするだけなら、わざわざ英文を書かなくて良い、

 そう思いませんか?」


それは正直、1週間宿題をしながら心の片隅で感じていた疑問だ。

「ですが、オリジナルだから音や文法が頭に入るのです。

 暗記していないからこそ、とても効果的なのです。」