先日の記事で紹介した本(「東大生の書いた・・・」)に関する続きです。この本のあとがきで、ケーススタディの限界と題して、自己批判的に以下のようなことが書かれています。

・ここにあげたケース問題は「考える言語」で書かれていて「伝える言語」ではない。
・現実の問題解決においては他者への働きかけが不可欠で、そこでは「考える」際にはケース語を使いながらも、「伝える」際には聞き手の許容範囲にあわせるという「翻訳スキル」を磨いていく必要がある

現役大学生(あるいは社会人になってすぐ)の著者がこのような深い見識を持ち得ていることに正直驚かされたのですが、現実のビジネスにおいて、「考える言語」と「伝える言語」を使い分けるというのは重要です。

私なりの理解ですが、「考える言語」というのは2つのことを含んでいると思っていて、一つは単語(経営分析で用いるような専門用語)レベルのこと、もう一つは、文脈や文章構成といったものを含めた全体の思考プロセスということです。わかりにくい横文字単語(あるいは英語の頭文字言葉)を多用しないというだけでなく、考えるプロセスと伝えるプロセス(ストーリー)を分けるということが、特に重要だと思っています。

ただし、思っていてもなかなかそのようにできないこともあります。たとえば、報告資料を作る際に、自分が分析した結果やプロセスを全部資料に織り込もうとして、どのような分析をしたか、その結果はどうか、というような内容ばかり(データの羅列)になってしまうようなケースです。

資料を作る際に、作る人とプレゼンテータが異なるときは、作り手側が「考える言葉」でいろいろ資料に織り込んだとしても、プレゼンテータが自分で伝えられる言葉やストーリーに置き換えていくので、問題はあまり発生しませんが、自分で考えて作った資料を自分でプレゼンするような場面では、自分の考えた順序に従ってストーリーを組み立ててしまい、上記のように自己満足的なプレゼンになったり、あるいは説明の長い冗長なプレゼンになったりします。

重要なのは分析の結果である「どうするのか、どうすべきなのか」という結論です。内輪のディスカッションであれば「考える言語」の割合が多くても問題はないのですが、そうでない場合は、相手の立場や理解レベルも考慮して、ちゃんと結論の内容が伝わる言葉・伝わる順序で話すことが必要です。

仕事ができる人ほど難しいことをわかりやすく噛み砕いて説明できるといわれますが、ロジカルに考えながらもそれを伝える時はわかりやすい言葉やストーリーに翻訳できるというのは、それと同じような能力であるといえます。

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前回の記事で、ケース問題やフェルミ推定系の課題がうまく解けたところで、それだけでは戦略コンサルの面接をクリアできないということを書きました。

一般的に言われるように、戦略コンサルの採用プロセスは、書類選考をクリアすればコンサルタントによる1時間ほどの面接が何回か行われ、少なくとも中途採用においてはいわゆる筆記試験の類はありません。

そして面接では、自己紹介や志望動機といった一般的な質問の他に、「日本に電柱が何本あるか推定してみてください(フェルミ推定系)」とか、「駅前の花屋の売上を増加させるにはどうすればよいか答えてください(ケース問題系)」といった質問がなされます。これは「ケース面接」と呼ばれ、これが戦略コンサル独特の面接スタイルといわれています。

私も何回かの面接を行っていただき、おおむねこれと同様のスタイルの面接だったのですが、少なくともその中の1回は、出された課題に対して、自分で後で振り返っても(独力では)まともなアプローチができなかった面接がありました。

ただ幸いにも最終的に採用に至ることができたのは、ロジカルな課題解決力の他に、コミュニケーション力や対人影響力というポイントも重要な評価対象になっているからではないかと思っています。

一つ目のコミュニケーション力は、たとえばケース面接において、面接官のコンサルタントとやりとりをしながら、その手助けを借りて最終的に妥当な答えにたどりつける力です。これは自分の考えを伝える力と、相手の意図をくみ取って柔軟に自分の思考を修正していく力の両方を含みます。

特に後者が大事で、いくらロジカルに課題解決できる人材であっても、相手からの指摘に対してそれを理解して自らを方向修正できる柔軟性がなければ、クライアントとコミュニケーションを取らなければならない実際のコンサルティングの現場では使い物にならない人材になってしまいます。

二つ目の対人影響力は、俗っぽく言えば「オーラ」といってもいいのかもしれません。少なくとも、面接でご一緒させていただいたコンサルタントの方は、みな独特の「オーラ」を持っています。

これは、「明るい」だとか「誠実」だとかいろいろな要素が合わさって醸成されるものなのでしょうが、コンサルティングの仕事が、極限にはクライアントとの人間対人間の真剣勝負のぶつかり合いであることを考えると、それなりの対人影響力を持つ人ではないと、これも使い物にはならないということなのだと思います。

またコンサルはチームで仕事をするわけで、しかも精神的にも体力的にも極限状態におかれながらタスクをこなしていくわけですから、協調性を持ちどのような人とも最大限のアウトプットを出せる人材が求められていると思います。そういう意味で、結局のところ総合的な人間性を見ながら「一緒に働きたい人材かどうか」で採用を判断をしているのではないでしょうか。

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先日、本屋で経営関係の本を物色してたのですが、そこで「~東大生が書いた~問題を解く力を鍛えるケース問題ノート」(下記写真)という本が目に付きました。

$はいえすとの挑戦記

この本の著者は「東大ケーススタディ研究会」とあるのですが、これは戦略コンサルを目指す現役東大生が、選考面接対策を行うためにフェルミ推定やケース問題の対策を考えるために作った会のようで、そこでの活動成果(研究成果?)が書籍となったものです。先月末に初版発行された新書です。

同じ会が書いている「地頭を鍛えるフェルミ推定ノート」という本もあったのですが、個人的にはケース問題のほうが面白そうだったので、早速買って読んでみました。

内容としては、「東京の朝の通勤ラッシュを軽減するには」や「花粉症患者を減らすには」といった日常的な問題(ケース)について、課題分析(因数分解・構造化)、打ち手の立案・評価などが書かれており、内容は違えど、実際のコンサルティングの現場でも使っているアプローチで切り込んでいっています。

特に問題解決に使えそうなフレームワークを体系だって整理しているところや、この手の訓練を「素振り」と称して、「座学(経営理論や経営書を読む)」や「実戦」を行うための基礎(この本では「OS」と表現しています)と定義しているあたり、この著者は非常に優秀でかつ優れたバランス感覚をもっているなあと感心しました。

このような問題解決のアプローチは、戦略コンサルの面接対策という枠を超えて、通常のビジネスの現場においても使えるものであり、まさしく基礎体力を身につけるために、幅広いビジネスパーソンにお勧めできる一冊です(比較的平易に書かれているので読みやすい本です)。

一方で、戦略コンサルを受けるためにこの手の本を単なるノウハウ書として読んで、一生懸命フレームワークを暗記するなどして、表面的に問題の「解き方」を身につけようとする人も出てくるのだろうなあとも思いますが、それでは付け焼刃的な対策にしかなりません。

実際、確かに戦略コンサルの面接ではフェルミ推定やケース問題が問われるのですが、こういった問題へのアプローチがそつなく出来れば最終的に採用まで到達できるかというと、ちょっと違うんじゃないかなという気がしています。これは次回の記事で書きます。

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レバレッジ・リーディング

前回の記事では退職金とそれにまつわる企業年金の話をしましたが、今回はそれを含めて、企業の負担する福利厚生に関する話です。

次に就職するファームは外資系ということもあり、いわゆる福利厚生はほぼ皆無という状況です。最低限のものとして、法定福利である厚生年金・健康保険などの社会保険、そして通勤交通費はカバーされるものの、それ以外の企業年金や各種手当は基本的にありません。

一方で、私が今の会社でカバーしてもらっている福利厚生というと、上記の企業年金をはじめ、住居補助、単身赴任手当などで、これらをあわせると、給与・賞与以外に年収の20%分くらいは会社が負担しているという計算となります。これにさらに家族手当やその他の手当が支給されているような会社の場合は、その割合はさらに高いものになります。

逆にいえば、福利厚生の手厚い会社から、そうでない会社に移る際には、年収が20%程度増えないと実質的には収入の水準がマイナスになってしまうということです。

退職のあいさつ回りでいろいろ話をするなかで、外資系の戦略コンサルだと給料ガッツリもらえるんでしょ、という言い方をされたりするのですが、上記のような福利厚生の差異を考えると、少なくともプロモーションして給料が上がらない限り金銭面でのメリットはあまりない状況です。

今回の転職は目先の金銭的な理由で決めたわけではないですので、少なくとも大幅にマイナスにならない限りはいいと思っているのですが、いずれにせよ、日系企業(特に大企業)の福利厚生の手厚さは、中で働いているとなかなか気づかないものですので、何かの機会があれば、給与以外にどれほど会社からカバーしてもらっているのか、そのありがたみを考えてみるのも必要かと思います。

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企業年金の重み



今回退職するにあたり、いわゆる退職金を受け取ります。今の企業での勤務期間が7年間ですので、それほど大きな額ではありませんが、一時金ではなくいわゆる年金としての受け取りとなります。

以前転職した7年前は、企業年金をめぐる制度改革が行われた直後であり、確定拠出年金制度が出来ていたものの最初にいた会社にその制度はなく、また金額もわずかであったので、当時は年金支払いではなく一時金で受け取るという選択をしました。

一方、今の会社は確定拠出/確定給付の両方で年金運用しており、確定拠出年金はそのまま個人型年金に、また確定給付年金は企業年金連合会に「移換(移管ではなくてこの字を書くようです)」の手続きをして、そのまま年金運用することにしました。

そこで、改めて移換される年金の運用利率を見たのですが、年率約2.2%となっています。このご時世で2.2%の利回り保証のある金融商品というのは、なかなかありません。確定給付といえども必ずしも給付が保証されるかどうかはわかりませんが、一応元本保証型の金融商品だといえます。

一方で経営の立場からすると、2000年に退職給付会計が導入されて、年金の積立不足分を退職給付引当として負債計上しなければならなくなりましたが、この企業年金は根深い経営のリスクとしてのしかかっています。

年金制度が上記のように比較的高い運用利回りを保証している一方で、以前の記事で書いたように人口減少による国内市場の縮小傾向などにより、日本のGDPが今後その利回り水準以下で推移する可能性が高く、そのような中では今後、年金の積み立て不足から退職給付関係の費用がさらに日本企業の経営に重しとなってくる可能性が高いと思っています。

そもそも、普通の会社員にとって、年金制度/退職金制度はあまりなじみがないと思います。転職でもしない限りはその存在を身近に感じませんし、そもそも制度自体が複雑で、かつ「割引率」のような言葉も出てきて、ファイナンスの理論をそれなりに理解していないと内容がよくわかりません。

ただ、給料の後払い的な性格のある虎の子の年金資産ですので、たまには自分の年金資産が今どのくらいあるか、運用利率はいくらかなど調べてみることをお勧めします。

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