佐渡裕芸術監督プロデュース
ジルヴェスター・ガラ・コンサート2022
【日時】
2022年12月31日(土) 開演 15:00 (開場 14:15)
【会場】
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【演奏】
指揮:鈴木秀美
ピアノ:小林愛実 ★
ソプラノ:高野百合絵 ♦
ソプラノ:高橋維 ♥
バリトン:加耒徹 ♣
バス:河野鉄平 ♠
合唱:神戸市混声合唱団
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
(コンサートマスター:田野倉雅秋)
【プログラム】
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」序曲
J.シュトラウスⅡ世:春の声 ♥
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調 ★
モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」より
レポレッロのアリア “カタログの歌” ♠
“結婚式の合唱” ♥&♠
三重唱 “おだまり、悪い心よ” ♦&♣&♠
ドン・ジョヴァンニのアリア “シャンパンの歌” ♣
ドンナ・アンナのアリア “恋人よ、私を不親切な女と思わないで” ♦
J.シュトラウスⅡ世:ポルカ・シュネル「雷鳴と電光」
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」より
第2幕へのイントロダクション “歌え、踊れ!”
第2幕フィナーレ “君と僕~ドゥイドゥ” ♦&♥&♣&♠
“乾杯の歌” ♦&♥&♣&♠
※アンコール
<第1部>
ショパン:プレリュード 第17番 変イ長調 ★
<第2部>
J.シュトラウス:ラデツキー行進曲
蛍の光 ★&♦&♥&♣&♠
兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)のジルヴェスター・コンサートを聴きに行った。
J.シュトラウス2世の曲を中心としたニューイヤーコンサートのようなプログラムで、指揮の鈴木秀美による「“こうもり”というオペレッタはもともと大晦日が舞台だから、むしろジルヴェスターにこそぴったり」といったお茶目な言い訳スピーチもあった。
オーケストラの女性団員たちは色とりどりのドレスに着飾っており、お祭りらしい大変華やかなコンサートだった。
冒頭曲、J.シュトラウス2世の「こうもり」序曲で私の好きな録音は
●ワルター指揮 ベルリン国立歌劇場管 1929年1月セッション盤(CD)
●C.クラウス指揮 ウィーン・フィル 1929年7月2日セッション盤(CD)
●ワルター指揮 パリ音楽院管 1938年5月セッション盤(CD)
●C.クライバー指揮 バイエルン国立管 1975年10月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●ウィーン・リング・アンサンブル(R.キュッヒル、E.ザイフェルト、H.コル、G.イベラー、A.ポッシュ、W.シュルツ、P.シュミードル、J.ヒンドラー、G.ヘーグナー) 1993年10月セッション盤(CD) ※室内合奏版
あたりである。
心浮き立つ快速テンポのワルター/ベルリン盤とクライバー盤(特に前者は粋で軽やかな理想的テンポ)、新旧のウィーン・フィルの美音が味わえるクラウス盤とリング・アンサンブル盤(特に前者は極上の音色)、ウィーンとはまた違ったフランスの美音が聴けるワルター/パリ盤。
今回の鈴木秀美&PACの演奏は、これらの名盤に匹敵するとは言わないまでも、緩急の差を大きく取ったメリハリのある佳演だった。
全体に快速というより落ち着いたテンポだが、この曲らしい勢いやワクワク感はちゃんとある。
テンポを落とすところで、かなり大きく落とすのが個性的で面白い。
これまでチェリストとしての彼の演奏しか聴いたことのなかった私だが、今回彼の指揮にも感心させられた。
オーケストラのみによる演奏としてはもう一曲、J.シュトラウス2世の「雷鳴と電光」が奏されたが、この曲で私の好きな録音は
●カラヤン指揮 ウィーン・フィル 1949年10月18日セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●マゼール指揮 ウィーン・フィル 1982年1月1日ウィーンライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube)
●クライバー指揮 ウィーン・フィル 1992年1月1日ウィーンライヴ盤(Apple Music/CD/DVD)
あたりである。
また、下野竜也&京響による実演(その記事はこちら)のノリのよさや、西本智実&イルミナートフィルによる実演(その記事はこちら)の堂々たる風格も忘れがたい。
今回の鈴木秀美&PACは、これらともまた違ったアプローチの、落ち着いたテンポながら打楽器の打撃音をことのほかしっかり利かせた、インパクトある楽しい演奏に仕上がっていた。
こちらの曲については、上記の往年の名演たちにも並ぶ演奏だったと言ってもいいかもしれない。
私にとっての今回のメインディッシュであるシューマンのピアノ協奏曲、この曲で私の好きな録音は
●リヒテル(Pf) ロヴィツキ指揮 ワルシャワ・フィル 1958年10月セッション盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3)
●ポリーニ(Pf) カラヤン指揮 ウィーン・フィル 1974年ザルツブルクライヴ盤(NML/Apple Music/CD/YouTube1/2/3)
●小林愛実(Pf) 田中祐子指揮 読響 2017年2月28日川崎ライヴ(動画、その記事はこちら)
●藤田真央(Pf) 熊倉優指揮 N響 2020年11月14日東京ライヴ(動画、その記事はこちら)
●小林愛実(Pf) 下野竜也指揮 N響 2022年2月5日東京ライヴ(動画)
あたりである。
また、2019年に聴いたクレア・フアンチの実演も忘れられない(その記事はこちら)。
私の今回のメインディッシュの理由はお分かりいただけたと思うが、この曲を得意とする小林愛実の実演をついに聴けるこの機会を心待ちにしていた。
そしてその演奏は、期待に違わぬものだった。
リヒテルやポリーニの輝かしい演奏とも、フアンチや藤田真央の爽やかな演奏とも違う小林愛実の解釈は、甘美な憧れに満ちたもの。
あらゆる音がしっとりと情感を含ませられており、無機質に鳴らされる音が一つもない。
晴れやかなはずの終楽章でさえ、彼女が弾くと楽天的な歓喜の歌には決してならず、「夢ならどうか覚めないで」とでも言わんばかりの、満たされ得ぬ憧憬の表現となるのだった。
おそらく初めて小林愛実を聴いたであろう知人に会場で会って話したところ、感動のあまり涙が止まらなかったとのことだった。
そういう演奏である。
華麗なコンチェルトを聴いてスカッとする、といった類の演奏ではない。
シューマンの協奏曲の後には、休憩を挟んでモーツァルトとJ.シュトラウス2世のアリアや重唱、合唱曲が抜粋で歌われ、ガラ・コンサートの楽しい雰囲気に戻った。
歌手も揃っていたが(なお大西宇宙は出演できず加耒徹が代役)、彼らの中では、ドンナ・アンナのアリアを歌った高野百合絵が特に良かった。
ドンナ・アンナのアリアというと、2019年にクルレンツィス指揮ムジカエテルナの公演で聴いたナデージダ・パヴロヴァの歌があまりにも素晴らしくて耳に焼き付いているが(その記事はこちら)、その迫真の表現力と比べることはできないものの、今回の高野百合絵もかなりしっかりと声が出ていて、(もともとメゾの音域と思われるが)高音域も余裕があり、十分に聴かせる歌いっぷりだった。
個人的に、クラシック音楽の日本人歌手でお気に入りの人が長らく見つけられなかったのだが、最近は今回の高野百合絵とか、あるいは例えば谷垣千沙とか(その記事はこちら)、良い声だと思う人がちらほら出てきていて嬉しく思う。
余談だが、小林愛実の衣装が少し珍しいというか、いくぶんゆったりした感じなのかなと何となく思っていたら、実は大変おめでたいことになっていたよう(こちら)。
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(画像はこちらのページよりお借りしました)
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