ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート Vol.18/19
【日時】
2018年8月26日(日) 開演 15:30 (開場 15:00) ※Vol.18
2018年8月26日(日) 開演 18:30 (開場 18:00) ※Vol.19
【会場】
京都府立府民ホール アルティ
【演奏・プログラム】
Vol.18
・北川 千紗 (ヴァイオリン)
C.ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
ピアノ 石井 楓子
・深瀬 廉 (バリトン)
R.シュトラウス:〈6つの歌〉 作品17 TrV149 より 第2曲 「セレナード」
P.I.チャイコフスキー:歌劇〈エフゲニー・オネーギン〉 より 「私に手紙を書きましたね」~「もし家族の輪に入りたいのならば」
F.シューベルト:歌曲集〈冬の旅〉 作品89 D911 より 第24曲 「ライアー回し」
F.シューベルト:魔王
ピアノ 松井 萌
・黒岩 航紀 (ピアノ)
F.リスト:スペイン狂詩曲 S.254 / R.90
・小林 壱成 (ヴァイオリン)
伊東 裕 (チェロ)
入江 一雄 (ピアノ)
P.I.チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50 「偉大な芸術家の思い出に」 より 第2楽章
Vol.19
・吉江 美桜 (ヴァイオリン)
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18 TrV151 より 第1楽章
ピアノ 五十嵐 薫子
・水野 優也 (チェロ)
G.カサド:無伴奏チェロ組曲
・小川 恭子 (ヴァイオリン)
R.シューマン:幻想曲 ハ長調 作品131
ピアノ 石井 楓子
・岡本 誠司 (ヴァイオリン)
J.ヨアヒム:ロマンス 変ロ長調 作品2-1
J.ブラームス:F.A.Eソナタ より 第3楽章 スケルツォ
J.ブラームス(J.ヨアヒム 編):〈ハンガリー舞曲集〉 より 第2、5番
ピアノ 黒岩 航紀
・石井 楓子 (ピアノ)
R.シューマン:ダヴィッド同盟舞曲集 作品6 より 第2巻
・住谷 美帆 (サクソフォン)
G.ビゼー(山中惇 編):カルメンファンタジー for サクソフォン
ピアノ 黒岩 航紀
ロームの奨学生によるコンサートシリーズである、ロームミュージックファンデーション スカラシップコンサートを聴きに行った。
今回は、Vol.18および19。
今年最後のものである。
なお、今年のこれまでの公演は以下の通り。
今回は、まずVol.18から。
最初は、ヴァイオリンの北川千紗による、ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ。
細身ですっきりした感じの、私の割と好きなタイプの音の出し方だった。
ただ、細部にこだわって完成度高く仕上げるというよりは、どちらかというと多少のアラは気にせず情熱的に歌い上げるタイプの演奏か。
なお、ピアノは石井楓子。
彼女ならではの柔らかな音や豊かな表現力はそのままに、ドビュッシーらしいひんやりとした味も出ていて、大変素晴らしかった。
次は、バリトンの深瀬廉による、R.シュトラウスおよびシューベルトのリート集と、チャイコフスキーのオペラ・アリア。
大変に余裕のある声というよりは少し叫ぶような感もあったが、堂に入ったドラマティックな表現はなかなかだった。
次は、ピアノの黒岩航紀による、リストのスペイン狂詩曲。
例えば加藤大樹のような充実した余裕のある音などに比べると、黒岩航紀はやや細身で硬めの音質であるように思う。
私はリストではどちらかというと前者のような音が好きなのだが、後者も悪くないし、それにテクニックの精度では優るとも劣らない。
今回のスペイン狂詩曲でも、後半の急速部分のオクターヴ左右交互連打の箇所など、かなりの迫力だった(もうあとわずかに攻めのテンポだとなおエキサイティングではあったけれど)。
その後、三連音から四連音へと音が細かくなっていく箇所では、これでもかとさらなる加速が聴かれ、大変にスリリングだった。
彼は、加藤大樹や寺元嘉宏らと並んで、日本を代表するリスト弾きの一人だと思う。
Vol.18の最後は、ヴァイオリンの小林壱成、チェロの伊東裕、ピアノの入江一雄による、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲より第2楽章。
もう少しチャイコフスキーのロマン性を前面に出してほしくはあったけれど、男性らしい力強さのある演奏だった。
一旦会場を出た後、再入場してVol.19へ。
最初は、ヴァイオリンの吉江美桜による、R.シュトラウスのヴァイオリン・ソナタより第1楽章。
音程面などではやや不安もあったけれど、豊かなヴィブラートによる欧風の味わいのある音だと感じた。
なお、ピアノの五十嵐薫子は力強い打鍵が印象的で、R.シュトラウスらしいロマン性もよく出ており、なかなか良かった(今年の高松コンクールに出ていた坂本彩と少しタイプが似ている?)。
次は、チェロの水野優也による、カサドの無伴奏チェロ組曲。
私はそれほど聴き慣れていない曲だが、音程やフレーズのつくりなど安定していて、表現力もあり(高音部も繊細)、聴かせる。
かなりの実力者だと感じた。
バッハやベートーヴェン等の演奏も聴いてみたい。
次は、ヴァイオリンの小川恭子による、シューマンの幻想曲op.131。
少しごつごつした感じというか、なだらかで繊細な表現には欠けるところがあるけれど、情熱的な歌い回しが聴かれたのは良かった。
ピアノの石井楓子は、伴奏者として控えめながらも表現は芸術的で、大変素晴らしい。
主要主題の呈示や再現の直前における、ちょっとした和音のスタッカートなど、単に跳ねるだけでなく実に美しい「歌」になっている。
晩年のシューマン特有の味わいをさりげなく表現した、感動的な演奏。
次は、ヴァイオリンの岡本誠司による、ブラームスやヨアヒムの小品集。
細身で繊細というよりは、しっかりした分厚めの音。
私の好みとは少し違うけれど、ブラームスには割と合っていたし、また音程面などでの安定感はなかなかのもの(最後のハンガリー舞曲ではやや粗さもあったが、そういうことを気にする曲ではないということかもしれない)。
次は、ピアノの石井楓子による、シューマンのダヴィッド同盟舞曲集より第2部(第1部の予定だったが曲目変更)。
期待通り、大変な名演だった。
先日の記事(こちら)でご紹介した動画での演奏と基本的には同じスタイルだが、生で聴くとやっぱり臨場感が全く違う。
彼女の音は大きいほうではないけれど、あらゆる箇所が表現意欲に満ちていて、ほとばしる内省的なロマンはまさにシューマンそのもの。
第13曲(h)のagitatoな烈しさは動画での演奏以上だし、第16曲(G)のようなユーモラスな曲でも味わいがある(なおカッコ内のアルファベットは調性名)。
第14曲(Es)や第17曲(H)の幻想的な美しさは、喩うべくもない。
そして、最後の第18曲(C)。
この連作詩集ともいうべき曲集を締めくくるにふさわしい、シンプルな、フモールに溢れた、そして穏やかな感動を湛えたワルツ。
ショパンのワルツともまた全然違ったこの小さなエピローグを、石井楓子ほど自然に美しく弾く人が、他にいるだろうか。
この終曲には、シューマンによって「オイゼビウス…(中略)…の目には多くの幸福が浮かんでいた」という添え書きがされているようだけれど、この演奏を聴いた私の目にも幸福な涙が浮かんだ。
音質の違いのためもあるかもしれないが、動画での演奏よりもさらに成熟した、決定的な名演だと感じた。
Vol.19の最後は、サクソフォンの住谷美帆による、ビゼー/山中惇のカルメンファンタジー。
先ほどのシューマンで感動しすぎたため、気持ちの切り替えがうまくいかず、あまりきちんと聴けなかったけれど、第2幕のドン・ホセのアリアの部分など、ゆったりした部分が良かったように思う。
今年のロームミュージックファンデーション スカラシップコンサートは、これで終わり。
来年以降もぜひ聴きに行きたいものである。
(画像はこちらのページからお借りしました)
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