ALSという病気
謎が多いALS、まず知ることからはじめよう
ALSという病気は、謎が多い病気です。
最初に現れる症状も人それぞれで、進行具合も様々で謎です。
また、発症年齢も性別もそれぞれ違います。
それに加えて、生活環境と「ALSという病気」の捉え方が人それぞれ違います。
こういう事が、ALSをより難しい病気にしていると考えています。
難しいと言っても、僕はALSを発症して20年以上の療養生活の経験があります。
このALSを乗り越えた者として、少しだけ考えを書かせてください。
医学書を開いてALSのページを読むと、本当に人生を諦めたくなります。
たぶん、多くの人も同じように思うはずです。僕もそうでした。
「もう、人生終わった」と思った瞬間があります。
しかし、医学書をよくよく読むと、全員が同じ様に進行するとは、どこにも書いてないのです。
患者は、ここに未来を見つけるべきです。
僕はALSの診断が確定した3週間後に、ある有名な医者に会いに行きました。
何とかして欲しかったのです。
その医者は、僕にこう言いました。
「今の医学でも、まだ解らない事が沢山あります。何が起こるか分からない」と。
この時に僕は「何が起こるか分からない」という言葉に未来を見つけました。
また、同じ時、余命いくばくもない乳癌の患者さんと出会ったのです。
その方は、入院していた僕の身の回りのお世話をしてくれました。
その方が亡くなる2ヶ月前、僕のALSをこう言ったのです。
「いいわね~」と。
つまり、「呼吸器を着けたら死なないよね」という意味です。
僕は、その方の魂の呟きを聞いて「ALSという病気」のイメージが変わりました。
同時に「ALSという病気」は、たいした病気ではなくなったのです。
現在、僕は人工呼吸器を着けています。
でも、恵まれた環境の中で「病人ではなく、生活者として」笑顔で暮らしています。
そういう中で、8年前に2つ目の会社を設立し、その会社の代表として、明るいスタッフと一緒に、にぎやかな日々を過ごしています。
そうは言っても、多くの方から「喋れなくて動けない体なので、不自由しているはず」と思われているらしいです。
確かに僕は、喋れなくて動けません。
でも、そんな事はALSを乗り越えると決めた時から想定内にしていました。
それで、困らないように、また我慢や不自由をしなくてもいいような方法を考えたのです。
今、「手となり、足となって」僕の代わりに動いてくれるPA達が周りにいます。
全員、心を許せるPA達で、全てに対して動いてくれます。
必要ならば24時間側にいますし、入院時は病室でも検査室でも24時間離れずに付き添います。
こういうPA達のおかげで「喋れないストレス」も「動けないストレス」もなく、日々の生活も皆さんに見せたいくらいに、普通に過ごしています。
そうなのです!
ALSは乗り越えられるのです。
ALSを乗り越えるために重要なことは、最初に自分の病気(ALS)を知ることです。
なぜなら、これから起こる事を想定内に出来るからです。
僕が思うに、このALSは悪い面ばかりではありません。
それは、まず、ただちに死ぬ病気ではないということ。
これは有り難いことです。
そして、自分の体が、どんな状態になるのかを予測出来る病気だということ。
これは見方を変えれば、先回りして手が打てる病気に変えられるということです。
先回りが出来ると、自分の将来像を頭の中で描き、そこから逆算して「今、自分がやるべき事」が分かります。
これも有り難いことです。
しかし逆に、自分の病気(ALS)を知ろうとしないで、棚上げにすると、全てが想定外になります。
「こんなはずじゃなかった」と、ここでボタンの掛け違いが起こって、数年後も尾を引きます。そして、やることなすことが全て後手になります。
これは、とても不幸なことだと僕は考えています。
やはり、最初に自分の病気(ALS)を知ることは、極めて重要なことです。
受容とは違います。
受容なんかしなくていいので知ることです。
自分の病気(ALS)を知ると「未来がある病気」に変えられます。
今の時代、本人とご家族が望めば、在宅で呼吸器を着けて暮らすことは難しくありません。
ALSは人生の終わりではなく、ずいぶん乗り越えやすい病になったと感じています。
いや! 乗り越えなければいけない病になりました。
最後になりますが、現在、僕のALSは進行が止まっています。
進行が止まって10年が経ちましたが、大学病院の医師も「止まっている」と言います。
というより、むしろ元気になっています。
たぶん 有名な医師が言ったとおりに
「何かが起こった」のでしょう。
僕は、こういう事は起こりうる事だと考えています。
なぜなら、ALSは謎が多い病気だからです。
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