【質問】ALSの進行を数か月遅らせる効果が期待できる薬
【質問】ALSの進行を数か月遅らせる効果が期待できる薬について、玄三さんはどのように考えていますか。薬に期待しながら治療を続けることと、病気の進行に備えて暮らしを整えることを、どのように両立すればよいのでしょうか。最初に、はっきりお伝えしておきたいことがあります。これから書くことは、あくまでも、ALSが進行して呼吸する力が低下したときには、人工呼吸器をつけて生きることを前提に考えてきた、僕自身の答えです。人工呼吸器をつけるか、つけないかは、その人の人生観や家族との関係、支援体制、生活環境などによっても異なります。どちらの選択が正しい、間違っているという話ではありません。そのうえで、人工呼吸器をつけた後も生活を続けていくと決めた僕が、薬とALSの進行について、どのように考えてきたのかを書きたいと思います。ALSの進行を数か月遅らせる効果が期待できる薬があります。以前、ある人が、その薬についてこう呟いていました。「酷な薬だね。患者はどんどん進行しているのに、薬に期待しすぎて、やめられないでいる」この言葉を読んで、考えさせられました。進行を数か月遅らせるということを、少し乱暴なたとえで言えば、僕は「借金の返済を数か月先に延ばしますよ」と言われるように受け取っています。もちろん、その数か月には大きな意味があります。家族と過ごす時間が増えるかもしれない。生活や介護の準備を整える時間になるかもしれない。次の治療法が現れる可能性に、希望をつなぐこともできます。薬を開発している研究者や医療関係者の皆さんも、ALSを少しでも治療可能な病気へ近づけようと、懸命に努力されています。その積み重ねを、僕は決して否定するつもりはありません。だからこそ、これは簡単に答えを出せる問題ではないと思います。ただ、薬に期待を集中させすぎると、思うような効果が得られなかったときの落胆も大きくなります。薬には罪はありません。大切なのは、その薬を自分の人生の中で、どのように位置づけるかです。「この薬を飲めば、進行しないかもしれない」と考えるのか。「進行を少し遅らせ、その時間を次の準備に使おう」と考えるのか。同じ薬であっても、受け止め方によって、その後の行動は大きく変わります。ちなみに僕自身は、「借金の返済を数か月遅らせること」には、あまり興味がありませんでした。なぜなら僕は、呼吸する力が低下したときには人工呼吸器をつけ、その後も生きて生活を続けることを前提にしていたからです。数か月先送りすることだけに力を注ぐよりも、ALSが進行することを想定内にして、次に起こることへの準備を進める方に力を入れたいと考えました。歩けなくなる前に、車椅子で暮らせる環境を考える。腕が動かなくなる前に、介助方法や意思の伝え方を考える。呼吸する力が弱くなる前に、人工呼吸器をつけた後の暮らしを考える。食べにくくなる前に、手術や食事方法について調べる。介護が必要になる前に、家族だけに負担を集中させない支援体制を考える。僕にとって進行を認めることは、諦めることではありません。進行した後にも、自分らしく暮らしていくために、先回りして準備することです。人工呼吸器についても、単に「呼吸ができなくなったときに命をつなぐ機械」として考えていたわけではありません。人工呼吸器をつけた後、どこで暮らすのか。家族とどのように過ごすのか。どうやって意思を伝えるのか。食事や外出、仕事をどう続けるのか。誰に、どのような支援をお願いするのか。そこまで含めて考える必要があります。人工呼吸器をつけるという選択は、機械をつけることだけを意味するのではありません。その後の暮らしを、どのようにつくっていくかを選ぶことでもあります。僕は今でも、一般的に正しいとされる方法を、その人の状態や希望を十分に考えず、そのまま当てはめている場面を見ると、「本当にそれで、この人の暮らしは守れるのだろうか」と強く感じます。常識どおりにすることが、必ずしも本人にとっての正解とは限りません。「ALSだから仕方がない」「人工呼吸器をつけたら何もできない」「進行したら生活を諦めるしかない」そのような思い込みの中にいると、病気の過酷さばかりが大きく見えてしまいます。しかし、病気が進行した後にも、暮らしは続きます。だからこそ、病気の過酷さだけを見つめ続けるのではなく、「この状態になったら、どう暮らすか」「何を続けたいか」「何を諦めたくないか」「どのような支援があれば笑顔でいられるか」ということを、早い段階から考えることが大切です。薬を使うか、使わないかは、本人が医師から十分な説明を受け、相談して決めることです。どちらを選んでも、一概に間違いとは言えません。ただ、薬を飲むことと、進行への備えをすることは、別々に考えた方がよいと思います。薬に期待しながら、暮らしの準備も進める。治療の可能性を信じながら、人工呼吸器をつけた後の生活についても考える。薬だけに人生を預けず、自分の選択と工夫によって、その先の暮らしをつくっていく。僕は、その姿勢が大切だと思っています。病気を乗り越えるとは、必ずしも病気が治ることだけではありません。治らない病気であっても、その病気に人生のすべてを支配させず、自分らしい暮らしをつくり直していくことはできます。僕にとって、人工呼吸器は人生を終わらせないためだけの機械ではありません。人生を続け、暮らしを取り戻すための相棒です。乗り越えることは、治ることの次にすごいことです。そして、その力は薬だけから与えられるものではありません。本人の決断、家族の理解、支援者の工夫、医療との連携、生活を支える制度、そして「人工呼吸器をつけた後も、自分の人生を生きる」という意思から生まれるものだと、僕は思っています。繰り返しますが、これは人工呼吸器をつけることを前提に人生を考え、実際に人工呼吸器とともに暮らしてきた僕自身の答えです。すべてのALS患者さんに、同じ考えを求めるものではありません。ただ、人工呼吸器をつけて生きることを選ぶのであれば、進行を恐れて立ち止まり続けるのではなく、その先にある生活を早くから具体的に考え、準備していくことが大切だと、僕は強く思っています。追伸:ALSでも食べ続けたい。その願いから、暮らしの仕組みは動き始めるYouTube→https://youtu.be/s-SyCc7qDBo