★☆☆☆☆
買ってから男が男に恋する恋愛小説だと気づいて気色悪と思った。
ビール販売会社の妻子ある40歳の営業課長が、転職して新たに部下として配属された28歳の男性社員に一方的な恋をする。
本来なら普通に気持ち悪い話を、小説としていかに主人公の気持ちを読者に納得させるかが作者の手腕だと思うのだが、もう只々気色悪いだけの話だった。
★★★☆☆
親の顔も知らず自分の本名さえ知らない施設育ちの辛い生い立ちの主人公の男性が、定年を迎える日に地下鉄の中で倒れる。 病院のICUで危篤状態の主人公に妻が付き添い、旧友や娘婿、幼馴染が見舞いに訪れる中、謎の年老いた貴婦人が現れ、主人公の魂を肉体から抜き出し外に連れ出す。
貴婦人との食事を終え病院に帰ってきた後、気が付いたら今度は、
静かな入り江に初老の女性と一緒にいて自分は少し若くなっていた。
こうなってくると、この謎の女性は主人公を赤ん坊の時に捨てた母親で、時間が逆行しているのではないかと何となく察しがついた。
次にICUで隣のベットのジジィ(初恋の相手が主人公の母)と幽体離脱して銭湯に行き屋台で酒を酌み交わした後、今度は地下鉄車内で30代後半の女性と遭遇し、自身は大学を卒業して就職したばかりの頃の年齢になっていた。 これはきっと母親に捨てられた赤ん坊の頃まで時間が何度か逆行していくんだろうなと思った。
それにしても主人公は、大学時代に心底愛していた恋人の女性を、
その場の思いつきでいきなり捨てて、母親が赤ん坊の自分を捨てた時の気持ちをわざと実感してみるとか、やはり親からまともに育ててもらってない人は、人間的には誠実で立派な人でも、どこかまともじゃない所があるものなんだなと思った。
物語は謎の女性(母親)との時代を逆行した遭遇を交えつつ、主人公の妻、旧友、幼馴染、娘婿、娘、主人公を20年以上も地下鉄で遠くから見つめていたICUの看護師の側面も描きながら、最後に幼くして亡くなった主人公の長男との束の間の再会を果たす。
そして、生れて10日ほどの赤ん坊を捨てた主人公の幼い母親だが、
あの当時に戦災孤児の貧しい母とその子の両方が生き延びるためには、赤ん坊を地下鉄車内に捨てるしかなくて、それが結果的には最善の方法だったのだが、母親に捨てられたという事実、主人公が苦労して生きてきた事実は消えることはなく、幼い母が赤ん坊を地下鉄に捨てる場面には胸が締め付けられた。
ラストで主人公が死んだ長男と再会した後、定年を迎える日に地下鉄で倒れるという世界線とは違う、無事に地下鉄から降りる世界線のパラレルワールドに移行したような感じだが、間違いなく元の世界線の主人公は死ぬのだろうから、全然ハッピーエンド感がしない何か悲しいだけの物語だった。
★★★☆☆
片想いしていた幼馴染の結婚披露宴に出席した主人公の27歳の女性は、祝辞のスピーチをしたプロの女性スピーチライターの話に感動し激しく心を揺さぶられ、そのスピーチライターに弟子入りし自身もスピーチライターを目指し政界にも関わっていく事になる。
相変わらず原田マハは、文章は上手いし面白い内容なのだが、肝心のスピーチライターの披露宴での祝辞は大した内容でもなく取り立ててどうという事もないものだった。 話の軸になっている主人公が憧れて弟子入りした伝説の凄腕スピーチライターが、えっそんな程度なのといった出来では読んでいてもイマイチ気持ちが乗らない。
それでも途中までそれなりに面白いと思って読んでいたが、次第に鼻についてきたのが、主人公女性の会社での最初の仕事が暇でお気楽なゆる~いものだとか、世の中の女性だって日々いろんなストレスに晒されながらも、みんな一生懸命に頑張って仕事をしている。
何でこんな所で読者の反感を無駄に買うんだろうか。
それから主人公が勤める会社の販売戦略コンサルタントとして就いている主人公が新たに思いを寄せているっぽい人物の戦略スローガンが、誰でも考えつくような何とも薄っぺらい低レベルな内容で、
そんな程度でコンサルの若造が偉そうにしているのに冷笑。
一流企業ならそんな程度の事は常々考えているはず。
更に主人公がスピーチライターで参加して幼馴染が野党として選挙に出馬するが、野党は「まっすぐ」とか「政権交代」と言っているだけで何ら具体的な政策を示さず、幼馴染の妻が夫をサポートする疲労と心労で流産してしまい(これも酷い話だ)、与党に選挙対策員として参加している主人公が思いを寄せてるっぽい男は、敵であるはずの野党側の主人公に協力する。 主人公に力を貸したいのなら自分は与党からの依頼を受けてはいけないし、これで与党側からギャラを貰うんだから、こんな奴プロとして失格で人としても最低な男だ。
原田マハは、お仕事小説がわりと多いようにも思うが、本作は小説としては読み易くて面白いが、内容と登場人物らが酷くて驚く。
★★★☆☆
池井戸潤、得意の銀行小説の短編集。
「金庫室の死体」、経営不振で破綻した銀行の金庫室で死体が発見される。 犯人はミステリーの定石通り、主人公の刑事の次に物語内に
多く登場してくる人物でスクエアな作品。
「現金その場かぎり」、閉店後の銀行の締め時に300万円が合わない。 行内を捜し行員らのロッカーや持ち物を調べても出てこない。
係長は防犯カメラの映像を精査しある疑念を持つ。 後日に、もう一度同じ犯行が行われる時に係長が待ったをかけるエクスタスィ~。
「口座相違」、口座を取り違えて入金してしまった会社がペーパーカンパニーで飛んでいた。 悪質な口座開設詐欺かと思われるが、真相は更に深く驚くべきものだった。 作中の専門用語が金融には疎い私には少し難解だった。
「銀行狐」、狐と名乗る人物からの脅迫状に翻弄される銀行。 行内の特命が調査を進める中、以前に行われた変額保険絡みの融資セールスでのトラブルによる怨恨が浮かび上がる。 銀行による悪質な貸し剥がしで会社が倒産した経営者の息子。 同じくその融資に於いて上司にあらぬミスの罪を着せられ銀行を追われた元銀行員、それぞれの怨念とその思惑は・・・。
「ローンカウンター」、この作品だけ他と少し毛色が違ってて、終盤までずっと連続婦女暴行殺人事件を追う刑事が描かれている。
終盤で刑事が私用で銀行に行った時の行員とのやり取りの中で、
ATMの裏側の仕組みを教えてもらい事件解決の大きな手掛かりを得るといった内容。
やはり池井戸潤は、長編でも短編でも安定していてハズレがないという所が素晴らしい。
★★★★☆
主人公の39歳独身女性は、国内有数のデベロッパーで役職に就いていたが、会社で不当な扱いを受けて仕事を辞めた途端に賭け事と映画が大好きな父親が病気で倒れ、更に父親が各所に300万円の借金をしている事が発覚する。 そして彼女は、仕事を辞めた事を両親に言い出せないまま途方に暮れる・・・。
しかし、ひょんな事から映画雑誌編集社に再就職でき、そこで父親が書いた映画レビューをブログにして、更に英文にもして世界展開させ、世界中から1千万人もの読者を集め大成功を収める。
この物語は、映画を通しての友情の尊さや、崩壊しかけた自分自身、家族との関係、再就職できた経営難で傾いている会社が再生していく姿を描いたもの。
私がこれまで読んだ原田マハの作品の中で(まだ十数冊しか読んでないが)、本作は「たゆたえども沈まず」に次いで二番目に面白かったし、感動作としては今のところ本作が一番だ。
ただ、シラケるほどあまりにも都合の良過ぎる話を、いくつも並べ立てて積み上げないと面白くて感動的な作品が書けないのなら問題だ。 この辺の酷い大ご都合主義は、もう少し何とかしてほしい。