スクリーンに雨が降る -16ページ目

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本作は英語圏と非英語圏とで権利が分かれており、監督である米のロメロ編集版よりも、資金提供した伊のアルジェント監修版が多くの国で上映された。

 

どちらもロメロが最初に編集した「ラフカット版」が元になっており、3時間近い映像をそれぞれが切り詰めた為過不足が生じた。

ドラマ重視のロメロ版、アクション重視のアルジェント版などと呼ばれるが、どちらが優れているかなんて単純な比較にはならない。

更には127分にまとめ直す中間素材とも呼べる「ディレクターズカット版」の存在が、本作の魅力をより引き立たせる。

 

オープニングの映像に焼きこまれるクレジットにもいくつものバリエーションがあり、これまで入手したものの中から代表的ないくつかを紹介する。

 

それぞれ、一番最初の画面とタイトルを抜き出した。

 

 

 

<ロメロ編集版・127分/139分>
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127分版は「ディレクターズカット版」より短い為、削除された部分のクレジットがない。

その他、字体やスタッフ表示のタイミングは変わらない。


<アルジェント監修版・119分>
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旧LD/DVD版での基本的なロゴ・パターン。タイトルは中央から下に降りる。

以降のクレジットの被る映像が米版とは一部違っている。


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フランスで発売されたDVDでは、クレジットの表示タイミングは旧版と変わらないが字体が微妙に違う。

更に、タイトルが初めから下に固定されている。


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近年発売の商品は、マスターを変更した時点でクレジットの焼き込み位置がずれた。

字体は同じだが、表示タイミングがすべて前倒しになっている。


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ドイツ版はタイトル固定で、旧版と表示タイミングは同じでも全ての字体がドイツ語に変更されている。


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日本版は最初の表記が他のどれとも違う。更に、伊版にも関わらず米版のクレジットが焼き込まれている。

ややこしいことに、以降のクレジットが被る映像は旧伊版と同一。

日本初公開当時はアルジェント版が公開された後で、イタリアのタイトルクレジットは「ZOMBI」だった。海外輸出用に、イタリアで作られたプリントだったのだろう。

これは映像ソフトとしては販売されず、かつてのTV放送を録画したビデオは最も貴重な資料といえる。独自に作成されたインチキ字幕こそカットされたが、惑星爆発の映像はリピート編集までされて存在するのだから!

 

<おまけ>
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初回テレビ放送時にはサブタイトルが付けられており、東京12チャンネルでのスーパーは赤だった。

再放送ではタイトル部分に日本語ロゴが被るだけとなる。

 

エンドクレジットについては、映像に被る米版にくらべて黒地にロールスーパーを流すだけの伊版はバリエーションが生じやすいと思われる。

赤い字体が流れるパターンもあるとの情報を聞いたが、僕自身が確認していない為、あくまで噂話の範疇であるということにとどめておく。

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四人を乗せたヘリコプターは、フィラデルフィアを出発してからもう遥か西へ来ていた。

このヘリは、時速130マイルで満タンなら約3時間の飛行が可能だ。

 

ロジャーはあれ以来、子供のようにすやすやと眠っている。

フランも、さすがに目を閉じた。

ピーターだけが、血走った目を光らせて前を睨んでいた。

 

操縦席のスティーブの頭が傾いた。

後ろから、背中をピーターに小突かれる。

‘嫌な奴だ’とスティーブは思う。

お情けで一緒に連れて来てやったのに、無愛想で態度もでかい。

ロジャーも、勝手な真似をしてくれたもんだ!

まぁ確かに、一瞬だけ居眠りはしたけれど…

ピーターに現在位置を聞かれたが、彼は邪険に振舞った。

自分を見下しているような相手の口調が、気に入らない。

それに、あれからフランにだけは優しく話しかけるのも。

 

もう市街地からは離れ、閑散とした田舎町の上を飛んでいた。

見下ろしたロジャーの目に、警察や州兵、民間の志願者で編成された行列が映る。

‘なんてことだ、こんなところでもやってるじゃないか’

 

警察犬も駆り出され、怪物退治が行われているのだ。

こんな小さな町にもパニックが起きているのなら、いったいどこまで逃げれば安全なのだろう?
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ロジャーは目をこすり、下の恐ろしい光景を見続ける。

 

木立の中や野原をうろつく人影がある。

そのぎこちない動きは、怪物たちだとすぐに分かる。

ハンターは、それを何の警告も無く撃ち倒す。

 

 

だが、この違和感は何だ?
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確かに奴らは、もはや人間とは呼べない。

しかし、まるでキツネ狩りを楽しむかのような連中の姿は、人が普段見せない醜悪な顔を曝け出していた。

 

上空からじっと見つめるピーターの目は、まるで氷のようだ。

 

この辺りのダッジカントリーで昔ながらの風俗習慣を守りながら暮らしている人々は、今の災難をどう思っているのだろうかとふと考える。

きっと、近代的な生活様式に溺れた罪に対する天罰だと捉えているのかもしれない。

 

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笑いながら缶ビールを開けて飲むハンターたちの中には、怪物に襲われて傷を負った者もいる。

 

一般にはまだあまり知られていないようだが、たとえ小さな傷でも噛まれた人間は、まず助からない。

やがては己も狩られる側になるだろう…

 

フランは胸がむかつき、空腹と睡眠不足で頭が痛んだ。

まるで、覚める事の無い悪夢の中にいる気分だった。


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ヘリの燃料が少なくなっていた。

スティーブは、ビーバーディルの小さな飛行場で給油することにした。


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やがてヘリは、田舎の飛行場に着陸した。

残念ながら、燃料ポンプの中身はほとんど空だった。

ここで多くの人間が、飛行機を満タンにしてから旅立ったのだろう。

でも、一体何処へ…

ロジャーがまだ残りのあるポンプを見付け、ヘリに給油し始めた。

 

フランは、スティーブとピーターの間に敵意があるのを感じていた。

お互い目も合わさず、誰がこの中のボスかを争うかのように。

男はいつも、自我を主張せずにはいられないのだ。

 

スティーブとフランは、近くの格納庫を覗きに行った。

この人気のない飛行場は、どうも薄気味悪い。
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ピーターは一人、飛行場の待合小屋に入る。

壁の掲示板は、張り切れない程のメモで一杯だ。

<ルーシーへ~ジョーンズタウンへ行きます>

<チャールスへ~子供と一緒です、ベンは残して行きます>

<もう待てない、エリーへ行く~ジャック・フォスターより>

 

これらのメモが、果たして書き残した相手にどれだけ伝わったのだろうか?

その時だ。

小屋の奥にある、物置扉の中から音がした。

ピーターは確かに聞いた。奴ら独特の唸り声を!

彼はライフルで、頭があるであろう場所を扉ごと撃ち抜く。

小さな小屋は、土台ごと震えた。
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鋭い銃声に驚いたフランとスティーブは、傍にあった金槌を掴むと慌てて格納庫を飛び出す。

そこで、誰かにぶつかった。

倒れると同時にスティーブ抱き付いてきた相手は、人間ではなかった!

怪物が、大きな口を開けて彼に噛み付こうとする。
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絡み合いながらも、金槌で怪物の頭部を破壊するスティーブ。

安心したのもつかの間、また別の怪物がすぐ傍に迫っていた。

恐怖で身がすくむフランに襲い掛かろうとする怪物を突き飛ばし、スティーブは彼女の手を取るとヘリを目指して駆け出した。


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一方、待合小屋の中で、ピーターはまだライフルを構えていた。

念を入れて、更に掃射をぶち込む。

これならば的を外すはずがない。

 

その瞬間、振動でドアが開いた。

中から突如、二人の子供が彼に向かって駆け寄って来た。

一瞬ピーターは、何が起きたのか分からなかった。

 

彼が狙った相手の頭部は、銃弾を撃ち込んだ場所よりもずっと下だったのだ!


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幼い姿に、彼の心は乱れた。

しかし、生き残りたいという彼の本能が勝った。

ライフルを発射するにはあまりに近すぎたので、抱えてソファーに放り投げる。

 

二人は、金髪と青い目を持っていた。

男の子と女の子。

たぶん、近くの農場の子供たちだったのだろう。

死んだ兄妹を手にかけるのが忍びなく、物置に閉じ込めたのかもしれない…

込み上げる感情を振り切って、彼は引き金を引いた!

 

その頃、ヘリのブレード音にかき消されて銃声も聞こえないロジャーは、給油を続けていた。

彼の背後からも、恐ろしい怪物が襲いかかろうとしている!

逃げ戻ったスティーブが、大声でロジャーに危機を知らせた。

後ろを振り返ると、怪物はほとんど目の前まで来ていた。

次の瞬間、怪物の頭部が吹き飛んだ。

人の心を持たないそいつは危険を感じる事も無く、ヘリのブレードに自分から飛び込んで来たのだった。
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(この一連は伊版で大幅に削除されている。シナリオでは流れが一部違い、撮影及び編集で現在の形になった。ただし「ラフカット版」ではどうだったのか、それは謎である)

 

ピーターは、引き金を引き続けた。

弾薬が尽きるまで…

彼の乾ききった目は、銃弾で穴だらけになった小さな亡骸を見つめていた。
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外ではスティーブが、怪物退治をしていた。

ライフルで狙うが、彼の腕では頭に当たるはずもなく弾丸は素通りする。

何発も外した後でようやく胸を貫通したが、怪物はハエが止まったほどにも感じていない様子だ。

ロジャーもヘリの中から自分のライフルを取り出し、彼に代わって頭を撃ち抜く。

後を追って来た怪物は、ようやく地面の上に倒れた。

 

全身にぐっしょりと冷や汗をかいたピーターは、ひどく気が滅入って動けなかった。

ようやく血だまりから目をそらすと、空になったライフルに弾を込めようと横を向く。

何かの気配を感じた。

迫り来る殺気だ…

ドアのすぐ傍に、おぞましい怪物が立っていた。
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ピーターは、怪物の後ろにもっと恐ろしいものを見た。

スティーブが、銃口をこちらに向けて立っている!
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小屋の中を、スティーブの放つ銃弾が跳ね返る。

ピーターはゾンビから逃げればよいのか、銃弾を避ければよいのか分からなかった。

テーブルの下に潜り込んだ彼は、スティーブが自分を見たはずだと確信した。

乱射を見かねたロジャーが割り込み、一発で仕留めた。

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怒りに燃えた目でピーターがやって来る理由を、スティーブは分かっていた。

彼は、小屋の中に誰かがいるなんて考えもしなかったのだ。

あの時は、ピーターの事なんて頭にもなかった。

目の前まで来たピーターは、いきなり銃口を彼に向けるとこう言った。

「人様に銃口を向けるもんじゃないぜ!お兄さんよ。どうだい、怖いだろう?」

思わず地面に尻もちを付いたスティーブは、屈辱で身体が震えた。

(フランがピーターに叫ぶのだが、米127分版のみセリフが違う。最終調整で変更したのだろう)

 

ピーターは銃口を下ろすと、手を伸ばして彼を助け起こす。

そのままヘリに乗り込んで、もう一言も喋らなかった。

フランは、スティーブの横で吐き気を堪えている。

ひどいショックのせいだけでないのは、彼女には分かっていた。

ロジャーは震えるフランに手を貸して、ヘリに乗せてあげた。

スティーブがコクピットに乗り込むと、気まずい空気が流れる。

 

次の燃料補給の計画を練るロジャーとスティーブの会話に、ピーターが敵意剥き出しで皮肉を挟む。

スティーブは、もう我慢の限界だった。

自分がこのヘリを操縦しなければ、誰も何処へも行けないのだ。

感謝されこそすれ、この態度はなんだ!?

ロジャーが、彼の肩に手を置いた。

責任を感じていた。自分がピーターを連れて来たばかりに、この少ない人間関係すら崩壊しようとしている。

地図で燃料補給所を探し、係員との揉め事を心配するロジャーに対し、スティーブがこう言う。

「僕たちは泥棒じゃないさ」

再びピーターが割り込む。

「目を覚ますんだな、いい加減。泥棒ってのは俺達の事さ!逃げる為なら、何だってやるんだ」

彼のその言葉は、皆の心を突き刺した。

その通りだった。

自分らも、民家を襲う悪党どもと何も変わらないのだ。

だが、他にどうしたらよいのだ?

 

小さいヘリコプターは、あても無く北西へ飛びつづけた。

荒れ果てた大地の上空をさ迷う今の四人にとって、それは真にノアの箱舟だった。
生き延びる為なら、どんな事だってしなければならない…

そして、それにはお互いに力を合わせて助け合うしか、道はないのだ。

 

ピーターは、今度こそ眠っておこうと努めた。

だが彼の頭の中では、まだあの二人の子供が蠢いていた。

 

二度と再び、眠れそうになかった…

 


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~column~

ヘリから地上を見下ろして人間の残酷さを垣間見る場面は、ロメロの前作「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」のラストシーンを思い出させる。

あの主人公は、狙撃隊によってゾンビ同様射殺されてしまった。

もはやこの世界には、正義も倫理も無い。

あるのは、生き残る為のエゴ。

そこで最後の一線を越えてしまうのか、あくまで人としての尊厳を守り抜くのか。

人である事を捨てた者は、ゾンビ以上に醜悪な怪物と化すのだ。

米版と伊版で、ヘリ内部でのスティーブのセリフが違う。

下の行列を見て‘狩りを楽しんでる’が米版、‘大都市は避けよう’が伊版。

同じ映像に被っているのだが、シナリオには伊版のものしかない。米版は後で変更したと思われる。

ピーターがスティーブに銃口を向ける場面では、シナリオを読む限りヘリに乗り込むまでの描写がある。

「ディレクターズカット版」のみの音声で、ヘリの計器映像に離陸前の効果音が残ってもいる。

「ラフカット版」には存在する可能性が考えられるところだ。

しかし疑問点も一つ。

その後の会話は、シナリオでは離陸前として書かれている。撮影時に夜間飛行に変えられたようだ。

これにより、離陸映像が存在しない説も否定出来ない。

テレビ放送版では夜間飛行前までの場面が切られた為、吹き替えも仲の良い会話に設定された。

最初にここから入ったファンは、後に原語版を見て険悪な人間関係に絶句したという。

だが、これこそが本作の魅力なのだ。

反発し合う人間同士が、生きるという目的の為に協力して互いを理解する。

命を守る為の、尊い仲間。

それが出来なければ、自滅の道しか残されていないのだから。

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一機のヘリコプターが、デラウェア川横の浮きドック近くに着陸した。

近くには水上警察の巡視艇が停泊中だが、全ての警察力は市内の暴動鎮圧に回された為人影もない。

コクピットから降り立ったのは、混乱するテレビ局から逃げて来たスティーブとフランの二人だった。

ここで、SWAT隊員のロジャーと合流する約束なのだ。

フランはロジャーと面識は無く、頼りになる飲み友達がいるとスティーブから話で聞かされていただけだった。

まさか、三人で行動する日が来ようとは…

 

ヘリに燃料を補給しようとした時、傍に男が倒れていた。

悲鳴を上げて、スティーブの胸に縋り付くフラン。

彼女が初めて見る死体だった。

慰めるスティーブだが、ほんの2,3時間前までは彼も悲鳴をあげていたものだ。

彼は彼女の前で、精一杯の虚勢を張っていた。

 

フランに補給を任せると、スティーブはドックの派出所に入る。

応答を呼びかける無線機の前に、うつ伏せに倒れているオペレーター。

後ろから撃たれていた。

ここの犠牲者は怪物に襲われたんじゃない、今いるのは殺人現場なのだ!

彼は吐き気を堪えて、無線で状況報告をした。

皮肉だった。

交通情報なんかじゃなく、いつか大事件が起きた時にそれを報道してスター記者になるのが夢だった。

しかし現実になると、放送しようにもそんなものを見る暇な視聴者は何処にもいない。

 

遠くで、車のライトが光った。

フランが呼んでいる。

おそらく、ロジャーが来たのだろう。

外に出ようとしたスティーブの前に、いきなり物陰から男が出てきた。

ライフルを彼に向けている。

ずっと、見張られていたのだ!
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同時に、外のフランも別の人影に凍りついた。

警官の服装をした男は、動くなと指示する。

もう一人は‘もし死ぬようなことになるなら、それはお前が悪いんだぜ’と、彼女にも銃口を向けた。

今まで息を潜めていた連中も、やって来る車を察知して動き出したのだ。

男の一人が、交通情報キャスターであるスティーブを知っていた。

彼は、ホッとした。

名前を知られていれば、不当な扱いを受けずに済むかもしれない。

が、別の一人がヘリを覗き込むと、‘いろんな物が入ってるぜ、船長’と言った。

スティーブは、連中の正体を知った。

近付く車にビクつき、物資を奪う。

そう、男達はもはや警官ではなく、卑劣な逃亡者なのだ。

船長と呼ばれた男が、スティーブに言った。

「君は仲間を連れて、WGONの交通情報ヘリで逃げようってわけだな」

その言葉には、嘲りが込められていた。

所詮、同じ穴の狢だった。

 

サイレンと共に到着した車から降りるロジャーを見て、スティーブはようやく生きた心地がした。

異変を察知し、とぼけようとするロジャーを彼が制すると、男達は何事もなかったかのように自分達の物資を巡視艇に積み込みだした。

誰もが一刻も早く、忌まわしい思い出が詰まったこの街から逃げたかったのだ。

 

ロジャーの横にいる黒人を、スティーブは知らなかった。

自分から挨拶もせず、黙って立っている。

ロジャーに聞くと、‘名前はピーター、彼はいい奴だよ’としか答えない。

黒人はいつの間にか物資をヘリに積んで、座って待っていた。

狭い空間に、ぎこちないムードが漂う。

 

離陸直前、さっきのインチキ警官がタバコをくれと寄って来た。

誰も無いと答えると、別れ際に男がヘリの行き先を尋ねる。

スティーブは笑って、こう答えた。

「真っ直ぐ上だよ」

ブレードが、スピードを上げて回り出す。

上空に舞い上がったヘリコプターは、友愛の街・フィラデルフィアに別れを告げた。

この先、いつ戻れるのか。

いや、もう戻って来られるのかさえも…

 

スティーブは、離れて暮らす両親の事を考えていた。

脱出前に連絡する暇がなかった。

大学を中退して放送記者になると言った時は、随分失望させてしまった。

まだ、生きているだろうか…

 

いきなり、ピーターが口を開いた。

「誰か置いてきた人間はいるのかい?」

フランは、前の夫とあっさり答えた。

別れた妻を、と迷いながらもロジャーが答える。

スティーブは逆に、彼に聞き返した。

これ以上話したくないといった口調で、ピーターはこう答えた。

「兄弟たちをな…」

(米版では離陸前に編集された場面だが、シナリオ通りなら伊版が正しい。ロメロは127分版でもテレビ局の場面部分を一部入れ替えており、ここも同様と思われる)

 

四人を乗せたヘリは、西に向かっていた。

ロジャーは疲れて、眠ってしまった。

ピーターは窓の外を向いていたが、隣に座るフランには彼が何も見ていないのが分かっていた。

兄弟の話を聞いたが、彼は窓を向いたままだった。

拒絶されたようで、フランは黙った。

 

だが、ピーターはその目に浮かんだ涙を人に見られたくなかったのだ。

兄弟たちを助けてやりたい、だが、今の自分にはどうする事も出来ない…

彼らの父親は、ピーターがまだ十代の頃に蒸発していた。

長男として、彼は弟達の父親代わりでもあったのだ。

そして母さん…

神が母を召し給うたのを、彼は初めて感謝していた。

もし母が生きていたとしても、こんな世界にはとても耐えられなかっただろうから。

 

 

このヘリに乗っている四人に共通するものが、一つだけあった。

それは、生き抜く意思の力。

どんな事があろうと、簡単に死ぬわけにはいかない。

 

 

夜明けの光が手を差し伸べる中、力強く羽ばたく小鳥のように未知の地平線を目指して、ヘリは飛び続けた。

 


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~column~

ドラマ部分の見せ場の一つでもあるこの場面だが、伊版ではバッサリ切られる。

当時M山はLDのライナーで、この映画の‘アンカット・アンセンサード・バージョン’の16ミリプリントを所有しているとした上で(時間については触れていない)派出所場面を解説している。

この時点では米127分版しか発売されていない為、スティーブが銃を向けられる一連は存在しなかった。

ただし、すでに小説で読んでいる者にとっては、いくつかの疑問が生じる内容なのだ。

まず、シナリオに存在しないセリフを書いている。

警官がロジャーらに言うものとして、‘俺達はボートで出る。貴様らはヘリで行け。燃料は余り残ってないから、途中で補給しろよ。いくらやつら(ゾンビのこと)が不死身でも、泳ぐことと飛ぶことは出来ないみたいだからな。お互い頭いいな’だそうである。

後年「ディレクターズカット版」でようやく実際の映像を見る事が出来たわけだが、そんなセリフがあるはずもなく、やはり…(笑)。

細かく切られたセリフはあるにしても、シナリオの時点で存在しない以上この情報は事実でないと考えるのが正しい。

また、完全に捏造したセリフが出てくる。

ロジャーがピーターを紹介するのだが、‘オレがベトナムで世話になった相棒だ。信用できるし、きっと役に立つ。彼はお前みたいにベトナムをさぼるために大学へ通ったりはせん’

ここまで来ると、ある意味関心してしまう。

M山の脳内では、彼だけのオリジナルストーリーが上映されていたのだろう(笑)。

後のタバコの場面も、‘ヤク、あるかい?’となっている。

こういう悪意とも取れる意訳も、彼特有のものだ。

 

さて、ヘリ内部での会話場面は伊版では前半、米127分版では後半しか使っていない。

 

「ディレクターズカット版」だけが両方使っているのだが、離陸前に入れ替えた為か、前半の部分が短く刈り込まれて余韻がない。

伊版に残る寂しげな空気感がなんとも切なく、この点も真の‘完全版’ではない惜しい部分だ。

ラフカット版での編集がどうだったのか、実に興味深い。

ちなみに船長と呼ばれる役で、「死霊のえじき」のジョセフ・ピラトーが出演しているのは今では有名な話

 

 

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低所得者向きのアパートの前を、SWAT部隊が取り囲んでいる。

この後起きるであろう銃撃戦の為、屋上扉の前でロジャーは長いこと待機していた。

 

現在時刻は、深夜0時。

 

今回の現象を、ほとんどの人が嘘だと思っていた。

株式市場は暴落、失業者の急増を手を拱いて見ているしか出来ない国家に対しての信頼はもはや無く、ことに教育程度の低い、まして宗教心の厚い下層階級の人々は決して従おうとはしない。

 

 

ロジャーの横には、少年の面影を残す新兵がいる。

さっきから興奮して叫んでいるのは、歴戦の勇士・ウーリーだ。

南部人である大男は、人種差別丸出しで口汚い独り言を繰り返す。

こんなボロアパートを‘俺の家よりいい’というウーリーの叫びには、ロジャーも苦笑する。

新兵のロッドは、そんな雑音すら聞こえないように緊張で固まっている。

 


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突如扉が開き、武装した住民が飛び出して来た。

彼らの放った一発の弾丸が、ロジャーの横の新兵を貫く。

頭部に被弾したロッドは、即死だった。

 

SWAT部隊が、屋上を駆けまわる武装住民を一掃する。

路上では指揮官の突入命令が響く。

打ち込まれるガス弾。

 

各隊員がガスマスクを付ける中、ロジャーは思う。

‘こいつは、ベトナムよりも酷いぞ…’

 

ここは彼の生まれた街で、母国なのだ。

なのに今は、その市民と戦っている。何故!?


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中の住民は、もう抵抗はしなかった。

しかし、ウーリーだけは発砲をやめない。

武器を持たない住民に向け、乱射を続ける。

興奮状態の彼は、味方にすら発砲しかねない。

 

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ロジャーは必死で止めようとするが、大男を押さえつける事は出来ない。

ウーリーは、もう正気ではないのだ。

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その時、ガスの靄の中から現れた男が、何の躊躇もなくウーリーを射殺した。

マスクの内の暗い射すような目に、ロジャーは身動きすら出来ない。

その場を去る不思議な隊員を止めようとする者は、誰もいなかった。

(上のスチールに注目してほしい。ウーリーの射撃から逃れたはずの住民が倒れている。脚本では、ウーリーの凶弾により射殺される描写が存在する。これがラフカット版にあると思われる場面の一つだ)


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引き裂くような叫びが、ロジャーを現実に戻した。

部屋の血の海の中で、男が蠢いていた。

足が一本取れて、身体の損傷も激しい。

明らかに死んでいる!

しかもその死体は、隊員に向かって這って来る。

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誰もが呆然とする中、若い女が組み付いて来た。

取り押さえようとした彼らは、女が身体中から血を流しているのに気付く。

彼女も生き返った死体なのだ!

隊員達は、頭部に銃弾を撃ち込む。

この怪物を永久の眠りに就かせてやるには、それしかない。

やっと一時の静寂が訪れた次の瞬間、ロジャーの背後で銃声が!

振り返ると、ショックのあまり正気を失くした隊員が、自分の頭を撃ち抜いていた…
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アパートの洗濯場に逃げ込んだロジャーは、背後に人の気配を感じる。

「小僧、ここはお前一人じゃないんだぜ」

声の主は、躊躇無くウーリーを射殺したあの隊員だ。

マスクを外したその素顔は、黒人だった。

ロジャーは警戒すると同時に、なるべく親しそうに話しかけた。

緊張の為か、余計な事まで喋ってしまう。

だがその黒人は、ロジャーの話に何の反応も示さない。

おかげで、友達とヘリで逃げる話までしてしまった。

 

黒人は彼の目を、じっと覗き込んだ。

冷血な殺人者の目だな、とロジャーは思った。と同時に、それはあらゆる物を見、あらゆる事をやって、しかも恐れを知らない男の目だった。


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いきなり背後のドアが開き、二人は身構えた。

ガスの中から現れたのは、近くの教会の牧師だった。

彼の教区の信者たちは大部分、この低所得者住宅街に住むプエルトリコ人なのだ。

 

妹を探しに行くと言う彼を、ロジャーは保護しようとする。

が、牧師は断るとこう言った。

 

「107号室の住民は、もうあなた方の思いのままです。

ここの人たちは単純だが、強い。

持つ物はほとんど何も無いが、それを簡単に手放しはしない。

それに彼らは、死者を誰にも渡さない」

 

最後の言葉に力を入れ過ぎたのか、年老いた牧師は咳き込む。

黒人隊員がその背中をさすってやるのを見て、ロジャーは意外だった。

 

凶悪な男だと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

 

牧師は話を続ける。


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「この数週間で大勢が死んだ。地下室にその死者たちがいる…」

 

二人は驚いて、目を見合わせる。

彼らの作戦目的は、それだったのだ。

 

「あなた方は、私たちより強い。

だが間もなく、彼らの方が強くなると私は思う。

歩く死者の事だよ。

殺し合いを止めなければ、私たちの負けだ…」

そう言い残して去る牧師の背中を、黙って見送るしかない二人だった。

 

 

その頃地下室では、別の部隊が倉庫を釘付けにした板をはがしていた。

一陣の風が吹き出すと同時に、ゾンビの大群が洪水のように飛び出して来た。
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隊員たちはあまりにも驚愕した為、すぐに攻撃出来ずホールまで押し出された。

後列の隊員は間隔をとって発砲、次々と怪物に命中する。

 

洗濯場から下りて来た二人は、その戦闘に巻き込まれた。

ロジャーが銃の台尻で殴り倒すと、黒人隊員はよろけるゾンビを撃ち倒す。

 

実戦経験豊富なベテラン指揮官もこの状況には途方に暮れ、ヒステリーのように叫んで退いた。

勇敢な何人かの隊員が、倉庫の中に飛び込む。

(映像を見ると、二人がどの経路で倉庫にやって来たのか分からない。この場面が入るとちゃんと繋がるので、ラフカット版に存在する可能性もある。)


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先発隊員が吐きながら逃げる中、黒人隊員はゆっくりと倉庫に入る。

中には損傷が激しく、外に出られない死体も多い。

それらが呻き声を上げながら、動こうとしているのだ。
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まさに、この世の地獄だ。

怪物と化した死人どもが貪り食う肉は、アパートの住人が与えているのか…


ロジャーが立ちすくむ前で、黒人隊員は次から次へ死体を処理する。

やがて、弾が切れた。

しかし彼は、助けを呼ぼうともしない。

 

ロジャーは驚いた。もう一度確かめるように見直した。

 

やはり、間違いではなかった。

 

黒人隊員は、涙を流していた…


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我に返ったロジャーは、黒人隊員に迫るゾンビを撃つと残りの連中に向けて発砲し続けた。

だが怪物たちは、彼らの方を見上げようともしなかった。

まったく気付かないように。

 

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黒人隊員は涙をぬぐうと、銃に弾丸を込めた。

 

ロジャーは、彼に問う。

何故住民は、死体を当局に引き渡さなかったのか?

 

黒人隊員は、静かに答える。

「死には尊厳があると、まだ信じているのさ…」

 

ここの住民たちは、テロリストでもなければ暴徒でもなかった。

自分の親や兄弟たちを、守りたいだけだったのだ。

 

たとえそれが、死んだ後でも。

 

 

今や二人の男は、強い絆で結ばれていた。

ロジャーが見守る中、黒人隊員は残りの死体に慈悲深い弾丸を再び撃ち始めた。

 


彼の名を、ピーターという。

 

 


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~column~
音楽の違いで全く印象が変わってしまう、アパート突入の場面。

米版の重苦しい雰囲気はロジャーの心情を表し、伊版のゴブリンサウンドは見る側のワクワク感すら醸し出す。オールドファンの多くは、このシーンの音楽は‘ZOMBI’でなきゃ!と思っている。

狂乱のSWAT隊員ウーリーは、ファンに人気が高いキャラ。

ロジャー達とゾンビとの乱闘は、小説にも忠実に書かれている。

後に米版で見た時、伊版になかったミグエル(小説表記)の登場場面がそのままだったので驚いた。

テレビ吹き替えでは、ロジャーとピーターは顔見知りとして設定された。

にも関わらず、洗濯場での二人の間に流れる緊張感を声で表現しきったロジャー役・石丸博也氏は見事!

片足神父の場面は、米版・伊版共に1分20秒と同じ時間ながら編集が違う。

その両方が入ったバージョンこそ、「ラフカット版」なのだ。

「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」で使用されているのでご確認を。

ちなみに神父は‘妹は死んだから下に行っても会えない’とも言う。

彼は処理されたであろう妹の骸に、別れを告げに行きたかったのだ。

これはどの映像にも存在せず、シナリオの時点で削除された可能性も考えられる。

死体倉庫の編集は全バージョンで過不足があり、自分で編集しないと完全にはならない。

それらが全て揃うのが、「ラフカット版」である。

余談だが、ロジャーの制止を聞かずに射殺される武装住民は顔を黒く塗ったジョン・アンプラス。

「マーティン」や「死霊のえじき」でお馴染みだが、この映画でもキャスティング担当の他にちょい役で出演。

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フランは、魘されていた。

ようやく眠りについたその顔は、甘い夢を見ているようにはとても思えない。

そう、今彼女を取り巻く状況が、全て夢であってくれたなら!

 

ここは、フィラデルフィアのテレビ局。

国家非常事態下のスタジオの騒音が、生放送の音声と交じり合って反響している。

仲間に声をかけられて目覚めたフランは、それがまだ夢の続きであるかのような錯覚を覚えた。

 

この忌々しい事態が起きてから、もう三週間程になるだろうか。

初めは誰も信じなかったし、次にはすぐ収まるだろうと目をそらした。

誰も真剣に向き合おうとはしなかったのだ、今日までは…

 

[視聴者の耳に聞こえが良い、道徳だのなんだのという言葉は忘れなさい!]

番組ホストのシドニー・バーマンは、ゲストの科学者であるジェームズ・フォスター博士のこの言葉に激昂して叫んだ。

[あなたは人間としての尊厳を、全て否定しろと言っているんだぞ!そしてここにいる我々は、そんな事は到底受け入れられない!]

それは、生放送の視聴者に向けた偽善でもあった。

 

バーマンの言葉に呼応するように、カメラマンや録音係までもがすっかり頭に血がのぼっていた。

この番組に参加している観客も、それぞれが抗議の叫び声を口にしている。

フランは興奮状態のスタジオを通過し、字幕情報で流す為の緊急避難所リストを受け取りにチャーリーの所へ。

しかし現在の情報は古いままで、そのうちの半分はもう活動を停止している。

字幕スーパーを更新しなければ、人命にかかわるのだ。

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別のコントロール室に行こうとしたフランは、警備員に止められて揉み合いになる。

通行証であるバッジを無くしていたのだ。

眠っている間に、誰かに盗まれたのかもしれない。

混乱した状況で一刻も争う中、与えられた仕事だけをこなす相手の対応に為すすべもないフラン。

すると、見かねた通りがかりの記者が助けてくれた。

「バッジの紛失が続出している。彼女は大丈夫だ、通してあげなさい」

警備員は、渋々通してくれた。

(この部分が映像として未だに確認出来ないもののひとつだ。

後に繰り返されるスティーブの場面がシナリオになく、人ごみから出てくるだけになっている。
にも関わらず撮影でバッジを見せろと止められた以上、フランの場面も撮影されたのは間違いない。)

 

通路を抜けたフランは、アシスタント・マネージャーとしての自分の判断で避難所の情報スーパーを止めるように指示する。

半ば投げやりのような態度で、従うオペレーター。

 

 


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一方スタジオでは、観客から非難を受けながらフォスター博士の悲痛な戦いが続いていた。

[幽霊じゃない、人間でもないんだ。埋葬前で脳が付いている死体が生き返っている!

そして無責任な報道に扇動された一般大衆が、事態を悪化させているのだ!]

 

観客はもう半狂乱状態で、それをバーマンが一層煽り立てた。

誰もが、理解しようとさえしなかった。

政府が‘国民を守り全てを解決し、明日になれば明るい平凡なニュースが流れてくると信じたかった。

 

しかしそんな幸せは、二度と戻らないのかもしれない…

 

放送中にも関わらず、緊急避難所のリストを止めた事でマネージャーのダン・ギブンズが怒鳴りちらす。

「避難所リストを流し続けておかないと、他の局にチャンネルを変えられてしまうぞ!!」

 

視聴率の為に、もう閉鎖された場所を案内して市民を見殺しにしろというのか?

怒りと共に、言いようのない虚しさが心を吹き抜ける。

あきれ果てたスタッフ数名が、職場放棄して離脱する。

あれほど職務に忠実だった警備員も、もう姿を消していた。

 

フランは頭を振ると、ノロノロとスタジオの方へ戻った。

 

 

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[彼らが人を殺す理由はただ一つ、食うためだ。

犠牲者を殺して食う、おわかりかね、バーマンさん?

我々に聞く耳があり、この現象に正しく対処していたら、感情を交えずに…

そうすればこんな事態には陥らなかったんだ]

 

フォスター博士の理性も、もう限界に近かった。怒りと挫折に震える、生身の人間だった。

繰り返されるその言葉は、観客達の心を徐々に黒く塗りつぶす。

死者が蘇り、人を殺す。殺された人間が起き上がり、また次を殺す!

それを阻止するには、死体の脳を破壊するか、切り離す以外にない…

 

放棄されたテレビカメラに付いたフランは、いきなり肩をつかまれる。

「今夜9時に屋上で会おう、この街から逃げるんだ、ヘリコプターで」

背後に、同僚でパイロットのスティーブが立っていた。

フランは、スティーブの瞳を見つめる。

彼を愛していた。

 

「誰かが生き延びなくてはならない」

そう言うと、スティーブは人ごみに消えた。

 

フランは、脱出の話を聞かれたのではないかと周りを見回す。

後ろめたい気持ちがした。

 

すでに、多くのスタッフが逃げ去っていた。

この放送もじきに終わるだろう。

フランの心は、この先に待つ見えない恐怖に震えていた。

 

彼女のサクセス・ストーリーは終わった。

 

 

 


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~column~

いきなり事件が始まっており、見る側は心の準備もないまま登場人物と共にこの世界に巻き込まれてしまう。
考える暇もなく、不確かな情報に戸惑いながらも逃げるのか、踏みとどまるのか。

どちらにしても、戦いに変わりはない。

このオープニングは見事だ。まさに力技(笑)。

劇中、ジョージ・A・ロメロ監督と後に妻となるクリスティーン・フォレストがテレビ局員として共演しているのが微笑ましい。本作で助監督も務め、公私共に愛を育んでいらしたわけだ。

米「127分版」「ディレクターズカット139分版」、伊「ダリオ・アルジェント監修119分版」とも全て選曲が違う。

全体を通して細かく削除しているのが米版、大まかに切るのが伊版という編集の違いもある。

そして、それら素材の全て揃っているのが幻の「ラフカット版」という定義になる。

フランにコートを返せと言って来る女性局員は、米版では途中で切られて音声のみが次の映像に被る。

チャーリーとフランの会話も、伊版の方が長い。

避難所テロップでの言い争いに呆れた局員が職場放棄する場面は、伊版で前半、米版で後半を使用。

両方繋ぐと完全になる。もっとも、「ラフカット版」には更に未見の映像があるのだろう。

米「127分版」は「ディレクターズカット版」を短くしただけではなく、一部の映像を入れ替えている。

呆然としたフランの顔で終わるところを、フォスター博士の演説を一部抜き出して締めに持って来る。

ロメロの編集センスが冴える部分だ。

日本初公開版のオープニングクレジットは、現在入手出来るどのバージョンとも違う。

マニアがそれらを詳しく紹介したHPがあるのだが、解説が間違っていた。

伊版プリントの冒頭部分だけ米版に付け替えられたとなっていたが、実際は伊版の映像にも関わらず米版のクレジットが使用されている、である。更に、クレジット自体も米版とも同一とは言えない。

推測するに、当時はそのバージョンで日本に入って来たという他にない。

シナリオを更に詳しく直した小説では、冒頭でフランの見ている夢は前夫との甘い生活。

台所で皿洗いをしていると旦那が来て、首筋にキスをする・・・のだが映像では叫んで飛び起きる。

フランを演じるゲイラン・ロスは、役柄同様褐色の髪をブロンドに染めているようだ。

何故なら、「クリープショー」出演時は金髪ではない。