スクリーンに雨が降る -17ページ目

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<19XX年 未知の惑星から 不思議な光線が地球に到達

この謎の光線は地上の死者を

よみがえらせた

生ける屍(ゾンビ)は人肉を求めてー>

 

不気味なシンセサイザーの音と共に、打ち出されるタイプ文字。

これは日本初公開時版フィルムで、惑星爆発場面の後に流れる英語字幕の翻訳スーパーである。

配給元の日本ヘラルド映画が独自に製作したものと思われる、ここだけのバージョン。

この国では何らかの理由がなければ、観客が受け入れないと判断したのかもしれない。

が、ある批評家は‘某惑星から発する特殊光線が説明不足だから、残酷も絵空事になる’と公開時のレビューで切り捨てた。

 

しかしこの作品において、死者の蘇りに理由など必要ない。

謎の宇宙線なのか、新種のウィルスなのか、あるいは審判の日が訪れたのか…

何にしても変わりはない。

この現象に終わりはなく、文明社会は崩壊した。

分かっているのは唯一つ、

それを阻止するには、葬儀を出す前に首を切断する事。

たとえ相手が、最愛の人であろうとも。

 

「ゾンビ/ディレクターズカット完全版」139分を見た僕は、その時知った。

これも完全ではなかった。

やはり、子供の頃に読んだ記事が本当だったのだ。

 

オリジナルは、3時間近い!

 

僕が所有する撮影シナリオと原作本を比べると、同一といえる程正確に転用さている。

おそらくロメロが書いたシナリオをS・スパロウなる人物がそのまま小説化したと思われるのだ。

シナリオに関しては、いくつかの場面は撮影によって多少の変更はあるものの、セリフは映画と一語一句変わらない。

特筆すべきは、ラストシーンが完成版と違っている。

無論、小説は映画通りのものに修正されているのだが、幻と呼ばれるもうひとつのラストが何だったのか、それは最後にとっておこう。

さて、これから本作を細分化して検証するわけだが、まずは登場人物四人を紹介しよう。

キャラクターに関する情報は、小説での設定による。

 


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フランシーヌ・パーカー(ゲイラン・ロス)

 

WGONテレビのアシスタント・マネージャー。

19歳で結婚し、21歳で離婚。

現在23歳だが、局でのポストとそのハッキリとした性格を考えるとかなりのやり手。

同じ局員を恋人に持ち、彼と二人で街を脱出し、カナダへ向かう計画を立てていた。

そこで野菜を植えたり、釣りをしたり…

しかし状況は、彼女が思う程甘くはなかった。

更に、妊娠中であるという事実も!

 

 


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スティーブ・アンドリューズ(デビッド・エンゲ)

 

フランの恋人で、WGONテレビで交通情報のレポーターを担当。

ヘリの操縦が出来る為、局に無断でフランと共に逃亡。

その際、かねてからの飲み友達と合流する約束があり、行動を共にする。

が、そこには初対面の無愛想な大男も。

報道を担当していただけあり、真面目で正義感もある。

しかしこの狂った世界ではそれらは裏目に出るばかりで、次第に彼女との距離が…

 

 


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ロジャー・デマルコ(スコット・H・ライニガー)

 

SWAT隊員で、二年前に離婚したルイーズという名の元妻がいる。

彼女からは‘人間らしい優しさや思いやりがひとかけらもない’と言われていたが、繊細な部分もある。

飲み友達のスティーブと逃亡する計画だったが、運命的な出会いをした男を勝手に引き込む。

明るい性格でムードメーカー的存在だが、自分のせいでギクシャクした人間関係に責任を感じて無理をしていた部分も大きい。

 

 


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 ピーター・ワシントン(ケン・フォリー) 

 

黒人SWAT隊員。

冷静沈着で、時には非情。

作戦行動中にロジャーと遭遇、逃亡する仲間に加わる事となる。

しかしスティーブの甘さが性に合わず、事ある毎に衝突。

おかげでロジャーは板挟みで苦労する羽目に。
兄弟が二人おり、一人は刑務所の中、もう一人はプロ野球選手
(ヘラルド出版訳ではプロ・フットボール選手)。

無愛想で皮肉屋でもあるが、その心は強く優しいものだった。

 

 

 

 

4人は、いかにして生き延びるのか?

 


そして、彼等を待つ運命とは…

 

 

 

今、地獄の幕が開く!!

 

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それを最初に読んだのは、映画館で初公開版を見てから約半年後、昭和54年の夏だった。

11歳にしてこの作品の真価を知ってしまった僕は、少しでも多く情報が欲しかった。

映画雑誌に目を通していると、ロメロ監督について詳しく書いた記事を見つけた。そこに書いてあったものとは…

‘3時間近いオリジナルプリントは一回見たら、サム・ペキンパーのバイオレンス映画なんか、ディズニー映画のように思えてくる位スゴイしろものなのだ’(日本版スターログ ’79年9月号より原文のまま)

 

それで全てが理解出来た。何故パンフレットに映画本編にない写真がいくつもあったのか。

どんな事があっても、いつか必ずこの目で見たい…

これが、少年時代の僕の夢の一つだった。

 

時は経ち、ビデオ時代全盛期。

様々な情報が溢れる中、「ゾンビ」についても僕の胸を高鳴らせるネタが出て来た。

この映画のメイキング、「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」の存在である。

記事には、撮影に協力した映画学校の教材用ビデオとしてのみ売られているといった書き方をしており、手に入れたくとも叶わない印象を抱かされた。

 

昭和60年頃に「ゾンビ映画を知ってるかい?」という記事があり、僕は無責任かつデタラメな内容に怒りを覚える。その筆者は、「ドキュメント~」の情報を広めたあの男だった。

M山M男。

マイケル・ジャクソンの「スリラー」の原点がロメロの「ゾンビ」だ、まではともかく、肝心なその作品をこう紹介している。

‘主演は「死者たちの夜」に登場した黒人ヒーローのデビッド・エンゲ。’

ご丁寧にピーターの写真に、「ゾンビ」のデビッド・エンゲと説明文まで添えられている。

更に、当時全米公開中の「ターミネーター」をゾンビ映画として紹介しているのだ!

サイボーグ型ゾンビって、勘弁してよ…

 

しかしこの男、自称ロメロファンクラブ会長を名乗り、MOUNT LIGHTというビデオ会社を立ち上げてとんでもない作品を発売した。

それが、「ファンゴリア ビデオマガジンVol1.トム・サビーニ・スペシャル」だ。

ここに日本で初めて、幻だった「ドキュメント~」の映像がごく一部収録されていたのだ。

トム・サビーニがバルコニーから落下するスタント場面に、しっかり‘翻訳・M山M男とスーパー入りでw。

 

さて、この前後にタイトルは忘れたが、ちゃんとした映画全集の記事に「ゾンビ・140分版」のデータが載る。

この時に思ったのは、3時間近いというわりには、2時間ちょっとかぁ・・・だった。

既に米版を見ていたので、正直それの15分程度長いものよりはゴブリンの曲を使った伊版のノーカットが見たい!という気持ちの方が大きくなってもいた。

 

やがて日本でビデオ・LDが発売されるが、その実情は「新世紀完全版BOX」の解説書に書かれている通り。

予告だけは伊版を収録するあたりが、怒りを燃え上がらせた。

しかしこれを見た新たなファンが、何故本編にない映像が予告にあるのかと疑問を持ち、伊版の存在を深く刻んだわけだが。

 

ここで出てくるのが、またもやM山なのである。

LDのライナーに‘責任監修・M山M男’と書かれた商品は、確かにチャプター区分130(!)という他に例を見ない程のマニアックぶりで、この映画に対する愛情は感じられる。

だが、その記事の内容があまりにも胡散臭い。

アルジェントとの対談という設定で書かれたものなのだが、伊版についてこう解説している。

‘私はロメロと平行してイタリアで公開するために別撮りしていたフィルムを持っている。自分のものには当然それを加えた。’

 

これが今も伝わる、バージョン違いの真相といわれるものなのだ。

でも、よく考えてほしい。米版と伊版を比べて、確かにそれぞれ過不足はある。

しかしそれって、別撮りの映像に見えるか?

伊版の予告にも使われた‘君の彼女が死んだら、その首を切れるのか?’この部分は米版にはない。

わざわざアルジェントは現場に割り込み、ここだけを撮影したというのだろうか?

そんなバカな話があるものか。

編集は違っても、元の素材は一つ。

それが140分版なのだろうと、その時の僕は思ったものだ。

 

更に時は流れて平成6年、ついに日本で「ディレクターズカット完全版」公開のニュースが!

情報では139分となっている。

ついに夢にまで見た完全版に出会う日が来たのだ!!

 

東京ファンタステック映画祭の会場は、オールナイトにも関わらず長蛇の列が出来ていた。

かつての同志とは疎遠になり、僕は一人で並んでいた。

が、周りは同じ気持ちを持つ仲間たち。

その夜の幸福な時間は、今も忘れない。

 

それは同時に、僕の夢がまだ終わらない事を知った瞬間でもあった…

 

 


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M山の雑誌記事。この時点では、アルジェントはただの音響効果だと解説している。


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「ディレクターズカット完全版」公開はかなり大きく扱われた。雑誌のイラスト記事より。

 

 

2010年4月23日、「ゾンビ新世紀完全版5枚組DVD-BOX」が発売された。

本作を愛する筋金入りのファンは、様々な想いを胸に商品を手にしたことだろう。

 

映像特典の目玉の一つに、日本初公開時の劇場予告が収録されたのは本当に嬉しかった。

当時の僕は、この予告編見たさに何度も映画館に通ったものだ。

何故なら、ここには上映フィルムで修正された映像の数々がそのまま使われていたから。

 

残酷場面の多くはモノクロ処理、ストップモーション、ブローアップ等が施され、削除こそされないものの衝撃度は激減している。

しかしその方がより生々しい印象を受けたという方もおり、ある意味味わい深い。

上映回転の為の時間短縮で切られた場所は、銀行で金を出すシーンからロジャーの苦しむ直前迄と、フランの化粧する場面一連のみ。エンドクレジットは黒い画面で処理され、すぐに幕が降りた。

特徴としては、フィルム現像時の色温度に起因するのだが映像全体が青味がかっている。

TV放送版も同様で、ショッピングセンターの階段の白い壁が水色に見える。

 

M山は、当時の公開話をこのように伝えている。

‘有楽座で上映されたものより新宿プラザで公開されたプリントの方が3分22秒長くエンディングが収録されていた’(最初に発売されたLDのライナーより)

二度とも有楽座で見た僕にはその真偽はわからないが、当時の映画誌で上映スケジュールを照らし合わせればハッキリするだろう。

 

僕と※は、映画館でこのフィルムをビデオ撮影して来た。

マトモな初公開版が入手出来ない為、この音声や※が入手した「サスペリア版」放送時の英語音声を録音したカセットテープを使い、輸入米国版ビデオから擬似イタリア版を作ったりして渇きを癒した。

 

昭和55年のTV初放送時のビデオにも、奇妙な縁がある。

僕は当時、このインチキバージョンを許せなかった。

ゴブリンの音楽以外に受け入れられるはずがない。

昭和57年の再放送でまさか音楽が戻るなど想像もしなかった為、録画しなかった。

一生の不覚!

で、地方の再放送を必死で探した。

代理録画を専門とする会社があり、そこに依頼し一安心。

ところが…

届いたビデオはあの「サスペリア版」!何故!?

 

問い合わせると、録画を失敗した為過去にストックとして保管していたテープを送ったという。

おかげで今では貴重な標準録画のマスターテープを再度所有出来たわけだが、その時は寝込むかと思った(笑)。

放映はKBS近畿放送で、東京に約二ヶ月遅れの昭和55年12月25日、「木曜洋画劇場」という同じ枠だが解説はない。

これが、一部で「白字サスペリア版」と呼ばれるもののマスタービデオだ。

東京12チャンネルの時は赤いスーパーだったタイトルが白一色で、他のスーパーも省略されている。

 

後年ファンタスティック映画祭オールナイトの「ゾンビ ディレクターズカット完全版」が初公開された日の事。

M山の情報で存在は知っていたが、まだ入手出来なかったメイキング映像「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」の一部も日本で初めて上映され、僕はその場で全身が痺れた。

これを入手する為に、僕の所有する「サスペリア版」が裏ルートで出回る事になるのだった。

ちなみに後に入手した再放送版も僕から流れ出た物があり、所有する映像では惑星爆発場面等に一部ノイズが入っている。

闇ルートで流れるうちにそれを誤魔化す為か、わざわざ場面を丸ごとカットしたビデオを掴まされた人もいたようだ。

この吹き替え音声は今回の商品に収録されたので、質の悪いダビングビデオしか持っていなかった人には最高の贈り物だろう。

 

 

この映画を愛して遥かな歳月が流れた。

夜明けを求めて、いかに長い夜を越えて来たことか…

今回のDVDボックス発売はファンにとっての祭りであり、それぞれがブログで歓喜の声を上げていた。

一方、この映画に関しての間違った解釈やデマ話に、正直驚きもした。

 

本作が一番好きだと言う自称業界人のブロガーが、TV放送版のサブタイトルを‘死者が地上を歩く日’などと間違い情報で流した時は、心底呆れ果てたものだ。

正しくは‘甦った日’であり、このようにデタラメでファンを混乱させる輩のいかに多い事!

 

 

かつて、その業界では知らぬ者のない男がいた。

その名をM山という。

自らマウントライトとかいう会社を作り「ゾンビ」の米版発売にも尽力したのだが、彼が流した情報は嘘としか解釈出来ない話があまりに多く、それが定説として今に伝わっている。
何を信じてよいのか分からない、それがこの「ゾンビ」という作品の魅力のひとつであったのも確かだが。

 

昭和54年3月、日本で公開されたバージョンからして嘘にまみれている。

監督は出資者側と共同で扱われ、惑星爆発映像や説明文がオリジナルであるかのように英字で付け足される。

この映像を「メテオ」からの流用だと伝えたのも、M山だった。

僕は確認していないので断言出来ないが、ある人はこの情報は事実でなく、「メテオ」にそんな映像はないという。

また、劇場プリントではアパートの場面で音楽が流れるタイミングが違っていたと断言している人がいるが、初公開時に2回行って、その後も映画館で十数回見た僕は、それはあり得ないと断言する。

 

TV初放映の通称「サスペリア版」に関してはBOXの解説書で詳細に記されているので語る事はないが、この時使用された惑星爆発はリピート編集されていて(本来爆発は一回)、上映フィルムとは効果音も違う。

後の再放送版でもこの音だけは修正されなかった。

 

昭和58年に海外で「DAWN OF THE DEAD」のビデオソフトが発売となり、待ち焦がれた僕は歓喜と絶望の混乱状態に陥る。

確かにカットされた映像は復活した。更に、時間も10分以上長い。

が、存在したはずの映像が消えている!音楽も違う!
 

昭和59年当時、吉祥寺近辺に海賊版ビデオを扱うレンタル店があった。

そこは放送禁止作品である「ウルトラセブン 12話」を平然と貸し出すような所で、未公開海外映画の輸入ビデオソフトも多量に置いていた。キワモノが集うブラックマーケットだ。

そこの常連である、※と知り合った。

 

※の友人に、日本芸能史に偉大な足跡を残す‘狂猫’メンバーの子息がおり、その彼も映画マニアである。

※は彼から、貴重なビデオをダビングしてもらっていた。

その一本に、「ゾンビ」の劇場公開宣伝番組があり、僕は驚くべきものを見る。

日本公開版でカットされた映像が、字幕入りで存在しているのだ。

後半のデパート内での生活場面は公開直前に、時間調整で削除されたという事実。

番組では、今回のDVDに収録された60秒予告(上映館の字幕入り)や当時の映画パンフレットにも載っている銀座での宣伝映像も見られ、小森和子とおすピーが‘割と面白かったわよ!’などと解説している。

後年「ディレクターズカット版」のパンフに掲載された写真は、このビデオが流れ着いたものだろう。

 

さて、これより数年前の事。

その店の常連に、「サスペリア版」の二ヶ国語放送を録画したビデオを所有する男がいた。

※がダビングを頼むと、万単位の額を要求されたそうだ。

当時まだ中学生だった※にそんな金額が払えるはずもなく、この話は立ち消えとなった。

この男こそ、まだ無名時代のM山だったという。

 

昭和60年、例の海賊ビデオ店から※に翻訳の依頼が来た。

「DAWN OF THE DEAD」米国劇場公開版の字幕原稿作成である。

が、※は英語の苦手な高校生、翻訳など出来るはずがない。

依頼する方もどうかしている。

で、困った※から、僕に連絡が来た。

 

こちらも英語は分からないが、力強い味方があった。

ヘラルド出版の「死者たちの夜明け」、この映画の原作本だ!

馬鹿な高校生が二人、必死で原稿を起こした。

小説に書いていないセリフは意訳ではなく、超訳で逃げたw。

だから後に‘デタラメな訳の海賊版’として、ごく一部で伝説となったわけだ。

 

ちなみにこのビデオは、同時期に出た海賊版商品の中で最も情報量の多い字幕としての完成度も誇っていたと聞く。

それから少しして、CICビクターから正式に国内での「ゾンビ」ビデオソフトが販売された。

ここで僕は、再び絶望を味わう。

内容は、すでに入手した米国劇場公開版と同一だから。

 

日本公開版を手にする最後のチャンスを失った!

その時は本気でそう思った。

 

 

夜明けの光はまだ見えない…

 


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「ゾンビ」初公開時の紹介番組。上映時に静止画処理される映像もネガ反転で使用された。

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予告映像には上映館のスーパーが入っている。


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エキストラ150人を動員したと言われる、銀座での公開前デモンストレーション映像。ミイラ男や酔ったホームレスにしか見えないようなのも混じっている(笑)。