スクリーンに雨が降る -15ページ目

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世界的にメジャーになった‘幸運なゾンビ’のスチール写真。

ポスターだけでなく、日本では本の表紙に使われたりもしている。


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ポスタースチールのメーキング。

丸い切り込みの入った刃物を使うだけでも、予想以上の効果が出る。


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自ら武器を手に戦う男!

 

本作において驚異的な手腕を発揮する、特殊メイク担当のトム・サビーニである。

彼の用意する小道具はリアルだ。ベトナム戦争での、従軍カメラマンとしての経験が生きている。

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知識のない人は顔を青く塗っただけのゾンビを見て、この映画をナメてかかる。

しかし、サビーニの繰り出す地獄絵図に自分が青くなるパターンが多い(笑)。

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昭和54年の日本初公開プリントでは、残酷描写に様々な処理が施された。

暴走族惨殺の場面はモノクロの静止画となり、まるでドキュメンタリーフィルムのような効果を生んでいる。

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頭部破壊の弾着はお手の物。

この映像は、米版では削除された。

 

 

アルジェントの別撮り説まで登場した弾着映像。

 

「ラフカット版」からロメロは切り捨て、アルジェントは抜き出して違う場面に挿入した為起きた珍騒動だ。


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これらのゾンビを映像から探すのは結構難しい。

メイクが精巧な奴もエキストラ扱いなので、目立たないのだ。

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本作でサビーニの助手を務めたジーニー・ジェフリーズ。

特殊メイクの仕事だけでなく、自らもゾンビと化してロジャーと格闘!

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サビーニの仕事は、特殊メイクだけではない。

彼はスタントマン役もこなしてしまうのだ!

トラックに撥ねられる撮影で運転席に合わせる為、台に乗っているのが分かる。

次のカットではトランポリンでジャンプする。


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サビーニ本人も、ついに暴走族役で顔出しで暴走(笑)!

他の作品でも俳優としての実績はあるが、このインパクトは強い。

命がけの飛び降り場面は、わざわざ二度行っている。打ち所が悪くて、ロジャーみたいにカートに乗って現場に来た時期もあったようだ。


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サビーニは二度死ぬ!

ピーターに撃たれて、仕切りをぶち破る暴走族も演じている。

 

 

この映画に対する、彼の貢献度は測り知れない。

その技術はロメロのゾンビ映画3作目「死霊のえじき」にて、頂点を極めるのであった。

 

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[・・・必ずしも共食いとは言えないようです・・・この怪物は人間とは呼べず、人間を餌にしているのです・・・決して互いが食い合うことはないのです・・・]

 

テレビの音声に目覚めたフランは、隣の部屋を覗く。

男たちは彼女を残して、屋上に出ているようだ。

コンクリートに毛布一枚で寝ていた為、背中が痛かった。

あのおりこうさんたちはマットレスくらい盗んでくる知恵がなかったのかしらと、彼女は朝日の射す天窓を見上げた。

 

屋上では、ピーターが双眼鏡を覗いていた。

敷地内にある大きな食品加工工場の前に、大型トラックが何台も並んでいる。

トラックに関しては、ロジャーの特技ともいえた。

彼の父親は長距離運転手であり、子供の頃から膝の上で運転を教えてくれたものだ。

 

「今朝はまだ、連中の数が少ないみたいだ。始めるぞ」

ピーターは、下の駐車場を見ながら断定的に言う。

ロジャーとスティーブは、まだ彼のことがよくわからなかった。

決して心の内側を他人に見せず、自分のプライバシーにはヘリでの短い会話意外は一度も触れなかった。

(米版、伊版を繋げると完全な場面になる。ただし伊版はワンカットでの間が持たないと思ったのか、わざわざ後半のゾンビ群集映像を抜き出してここに挿入)

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男たちが降りて来るのを、フランが下で待っていた。

「話したいことがあるんだけど、いいかしら?」

ピーターは、彼女の存在などないかのように素通りする。

極めて冷静に、フランは話を始めた。

「私は妊娠していることが知られて、残念なの。

何故なら、特別扱いはされたくないからよ」

口を挟もうとするスティーブを、彼女は射るような目で黙らせる。

「私はあなたたちの母親役をする気はないわ。

計画があるなら参加させて。私たちは四人なんだから」

 

スティーブは顔が赤くなり、他の二人を見た。

ロジャーは、気まずそうに目を伏せる。

微笑を浮かべながら、ピーターが彼女に言った。

「俺たちは外へ出る。で、君はお留守番だ」

フランは抗議しようとしたが、彼は子供に言い聞かせるかのように続ける。

「連れて行くのは、銃の扱いや身の守り方を覚えてからだな」

そう言うと、男たちは逃げるように屋上に出ようとした。

 

「まだ言う事があるわ」

フランの言葉に、男たちが動きを止める。

彼女はロジャーやスティーブのように、ピーターの言いなりにはならなかった。

「ヘリコプターの操縦を教えて。万が一の時、逃げられないと困るから」

 

スティーブは黙っていた。

プライドが、深く傷付いた。彼女の言葉は、もう自分は必要ないというにも等しかった。

「彼女の言う通りだな、フライボーイ」

ピーターの同調も、スティーブの胸に堪えた。

もういいだろうという顔で梯子を登る男たちに、更に銃を置いて行くように要求するフラン。

スティーブは負け犬のような顔で、ライフルと弾丸を置く。

出て行く彼に言葉では詫びたが、今度の事で、自分が抱いていたスティーブのイメージと現実との違いを思い知らされた。

同時に、彼女は自分で思っていた以上にもっと力のある事に、気が付いたのだ。

残されたライフルを手にして、その重みをあらためて感じる。

人生で初めて、銃を使う日がやって来た。

人の姿をした、人でないものを撃つ為に!

 

 

一番最後に屋上に出たスティーブは、不機嫌な顔でヘリのエンジンを始動させる。

ピーターとロジャーも乗り込んだ。

彼らの計画は、トラックを使ってショッピングセンターの入り口4箇所を全て封鎖すること。

これ以上の店内進入を阻止し、中の怪物は殲滅あるのみ。

 

地上に二人を降ろすと、ヘリはトラックの援護に回る。

トラックに乗り込んだロジャーは、ダッシュボード下の電源配線を繋いでエンジンを始動させた。

ピーターは不慣れな大型トラックの運転席に座り、緊張した顔付きでもう一台の準備を待つ。

遠くの駐車場では怪物たちが小さな塊となってあちこちにたむろしているが、こちらの動きにはまだ気付いていない様子だ。

 

「よし、行こうぜ!」

ロジャーが子供のように目を輝かせて言った。

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フランはライフルを抱えて、屋上に出た。

二台のトラックが、スピードを上げてこちらにやって来るのが見える。

その上空を、ヘリが旋回していた。

途中で何体かの怪物がその前に立ちはだかったが、簡単に跳ね飛ばされてしまった。

ロジャーは、自分のトラックを入り口の前に突っ込む。

上手い具合に、ドアを完全に塞ぐ形となった。

ピーターはその隣に停車し、彼がこちらに乗り移るのを待つ。

 

トラックのエンジン音に引き寄せられた連中が、こちらに集まり出す。

しかし、なかなかロジャーが出てこない。

焦るピーターだが、ようやく運転席から飛び出してくるロジャー。

笑いながら、怪物たちをからかっている。

ピーターの目が、氷の冷たさを帯びた。

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ピーターの トラックに乗ろうとした瞬間、怪物がロジャーを捉えた!

だが彼は、大して気にもせずにそいつを殴り飛ばす。

ロジャーのはしゃぎ声だけが、走り去るトラックの中で響いていた。
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「すこし静かにしろよ、まだ3台残っているんだぞ」

ピーターの忠告も、今のロジャーには効果がない。

トラック置き場に戻り、次の運転席で電線を繋ぐ作業を鼻歌交じりに開始する。

 

ピーターはトラックの向きを変える為、倉庫裏手の空き地に乗り入れた。

 

スティーブはヘリの中から、ロジャーのトラックに向けて動く影を発見した。

三体の怪物だ!
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ヘリを降下させてロジャーの注意を引こうとしたが、彼は作業に熱中している。

その間にも怪物たちは、運転席のすぐ傍まで迫っていた…

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待機しているピーターに向かって、ヘリが飛んでくる。

 

あいつ頭がおかしくなったのか?と彼は思ったが、スティーブの操縦するヘリはトラックの運転席すれすれまで降りてくると、また旋回してロジャーが作業している方へ飛んでいった。

 

何かのシグナルだと、直感した。

ピーターは、慌ててトラックを発進させた。


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運転席に寝転がった状態のロジャーは、怪物の接近に気づくのが遅すぎた。

何かに足を掴まれ、慌てて作業を中断する。

すでに空け放したままのドアから、ブロンド美人の怪物が這い上がって来ていた!

もう一体も、すぐ後に続いている。

 

ライフルを使うには、車内は狭すぎた。

銃口を向けて撃つが、弾丸は相手の胸を貫くだけで頭部には当たらない。

女とはいえ怪物の力は強く、簡単には押しのけられない。

腐った息が、ロジャーに吹きかけられる。

 

ピーターのトラックが、猛スピードで駆けつける。

停車中のトラックに更に乗り込もうとする一体を跳ね飛ばし、すぐ横に停車した。

 

運転席ではロジャーに怪物が覆いかぶさり、今にも彼の体を噛み千切ろうとしている!

ライフルを構えるピーターだが、狙いがうまく定まらない。

 

「そいつの頭を持ち上げろ!」

ピーターの呼びかけに、ロジャーは全力で怪物の頭を持ち上げた。

 

引き金を引く。

 

怪物の後頭部を打ち抜いた弾丸は、ブロンドの髪と顔面の半分を吹き飛ばした。
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運転席に血しぶきが飛び散る!

動かなくなった怪物を外に放り出すと、ロジャーは血まみれの自分にパニックを起こした。

その背後で、窓ガラスが砕ける。

三体目の怪物が、金属棒で割ったのだ。

ピーターの声を無視して、そいつの頭部に銃弾を撃ち込むロジャー。
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ピーターはこれまでにも戦場で、様々な修羅場を体験した。

フィラデルフィアの路上でも、SWAT隊員としてずいぶん悲惨な光景も見てきた。

そんな彼には、今のロジャーが普通ではないとすぐに分かる。

「しっかりしろよ、まだ仕事が残ってるんだぞ、ロジャー?」


「2号機、出撃だ!」

配線を繋いでエンジンをふかしながら、ロジャーは楽しそうに答える。

 

「大丈夫なのか!?」

ピーターの問いに、狂ったような目で前を見据えるロジャー。

 

「完璧だぜベイビー、完璧さ」


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ロジャーはスピードを上げて、怪物の群れに突っ込んだ。

笑い声をあげながら、飛び散る血をワイパーで拭き取る。

 

フランは屋上から、恐怖の活劇を見つめていた。

下の駐車場には、前よりも多くの怪物が集まっている。

 

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2箇所目の入り口をトラックで塞ぐが、ピーターのトラックとの間隔が狭すぎてドアが開けられない。

ロジャーは仕方なく、運転席の窓から隣に乗り移ろうとする。

その時、トラックの狭い隙間に何体かの怪物が入り込んできた。
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上空を旋回しながら、スティーブはただ見ているだけの自分にイライラした。

今すぐヘリを着陸させて、助けに行きたかった。

フランはライフルで怪物を狙うが、なかなか照準が定まらない。

掴みかかって来る怪物を撃ち倒す度に、ロジャーはサディスティックな喜びを感じていた。

 

「もういい加減にしろよ!」

ピーターが怒鳴っても、彼は怪物を撃つのを止めない。

撃ち倒す度に、子供みたいに歓声をあげた。

ピーターはロジャーの足がまだ入りきらないうちに、トラックを発車させる。

窓から突き出てバタバタしている足を、一体の怪物が掴んだ!

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フランは、屋上から続けてライフルを撃つ。

そのうちの一発がそいつの肩に当たり、ロジャーから手を放す。

彼女は射撃訓練の如く、怪物の頭に当たるまで撃ち続けた。

ヘリの中から、スティーブはその様子を見ていた。

‘大した女だ、自分でこうと心に決めたら、何がなんでもやり遂げずにはいないのだから…’

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三台目の準備に戻る途中、突然ロジャーが大声で叫ぶ。
「しまった!例のバッグをあのトラックに置いて来ちまった」

ピーターは、急ブレーキで停車した。

あのバッグの中には、作戦に必要な道具が入っている。

 

「だから言わんこっちゃないんだ、頭を冷やせこの野郎」

話も聞かず、戻れと繰り返すロジャーの襟首を掴んでピーターが怒鳴る。

「正気に戻れ!いいか、お前は自分の命だけじゃなく、俺の命も弄んでるんだぞ」

 

二人の男は、睨み合った。

 

ロジャーはショックだった。

二人は、同じ気持ちなのだと思い込んでいたから。

だがその反動で、彼はようやく冷静さを取り戻せた。

 

ロジャーの目から狂気の影が消えたのを確認すると、ピーターはトラックを発車する。

 

 

スティーブは道路の上空で、なぜトラックが現れないのか不思議に思っていた。

フランが手を振って、二人が駐車場に戻っている事を知らせている。

 

怪物の群れの中に、彼らの乗ったトラックがバックして来るのがヘリからも見えた。

ピーターが元の位置に停車させると、ロジャーは窓から這い出して隣へ移る。

トラックの周囲には、怪物の大群が蠢いている。

 

道具の入ったバッグを持ち出した瞬間、手が滑った。

地面に音を立てて落ちる。

 

迷いはなかった。

ロジャーは自分も飛び降り、バッグを拾い上げた。
彼のすぐ目の前に、怪物が立っていた。

 

ピーターは距離が近く、ライフルを撃つ事が出来ない。

屋上のフランも、ロジャーに重なる怪物を撃つだけの自信がなかった。

 

その一瞬の隙に、背後からもう一体の怪物がロジャーの腕に噛み付いた!

 

すぐ振りほどいたが、傷口から血が吹き出す…


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それを目にしたピーターは、言葉もなく凍り付いた。

時間が止まったかのようだった。

 

ロジャーは向き直ると、自分から噛み千切った肉を咥える相手の顎にパンチをぶち込んだ。

そのまま飛び上がり、運転席の窓に上半身を潜り込ませる。

 

ピーターはロジャーの方に手を伸ばし、両腕を掴んで引っ張る。

 

その間にも、無数の怪物が群がり続ける。

 

ライフルのスコープを覗くフランには、今まさに彼の足に食らい付こうとする怪物が見えた…


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「ロジャー!!」

フランの悲鳴にも似た叫びと同時に、ロジャーの絶叫が響き渡る。

怪物は、彼のふくらはぎの肉を大きく食いちぎってしまった!

トラックは、怪物たちをなぎ倒して発車する。

 

スティーブはヘリの中で、呆然としていた。

 

地面に座り込み、肉をむさぼる怪物の周りを銃弾が跳ね回る。

肩に当たっても、そいつは食べるのを止めない。

銃弾は、フランのライフルから飛んで来ていた。

 

こいつだけは許せない…!!

ついに一発が、怪物の頭部を貫く。

フランはそれでもライフルを放さない…

彼女は泣いていた。

 

 

ガタガタゆれるトラックの中で、ロジャーが必死に痛みと戦っていた。

ベルトを外して止血する。

手当ての為に計画を中止しようというピーターに、彼は強硬に反対する。

今ならまだ動ける。

しかし、時間が経ったら歩けなくなるだろう。

 

「この足はなるべく動かさないようにするよ…」

ロジャーは叫びたくなるような痛みをこらえて、深呼吸しながらこう言った。

「やる事が山程あるんだ!俺が、いなくなる前に」

 

二人の男は、仕事柄様々な現場を見て来ていた。

お互い、言葉にはしなくても知っている。

怪物に噛まれた人間が、この後どんな運命を辿るのかを…

 

ピーターは込み上げる感情をぐっと堪え、トラックのハンドルを握り締める。

 

二人はスティーブのヘリに見守られながら、作戦を続行した。

 

入り口は、まだ2箇所残っていた…

 

 

 

 

~column~
最初のトラック突入場面は、伊版では切られている。

当時は日本で削除されたんだろうと思っていたのだが、後に伊版のオリジナルを見て意外だった。

米版ではゴブリンの曲を使用し最高に盛り上がる見せ場なのだが、アルジェントにとっては余分だったらしい。

「ラフカット版」での流用曲がどんなだったのか知りたいところ。

トラック内での二人の無線会話はシナリオや小説に描写がなく、映像のみに存在するもの。


トラック置き場に戻った時、窓の外に動く車が見えるが、さすがにロメロは短く切って誤魔化した。

「ラフカット版」を大雑把に使うアルジェントの伊版において、突っ込まれる映像である。

ロジャーを襲う三体のゾンビ出現は、伊版の選曲が盛り上げる。

しかし、トラック発進からの米版におけるメインテーマも素晴らしく、これを繋げるとベスト!

 

ロジャーを襲う女性ゾンビは、特殊メイク助手が演じている。

トランポリンで跳ね飛ばされるゾンビも有名だが、これらのアクションはトム・サビーニが自分で担当。

本作の映像的なインパクトは、彼なしではあり得なかった。

そんなサビーニのグッドジョブを、米127分版では結構削除してある。

実に勿体無い話だ。


ここで、ロメロ監督の大きなミスを一つ。

駐車場に出てきたリーダーゾンビと呼ばれる三人組が、先の写真だ。

前列のナースゾンビ、その後ろの白いセーター姿の中年オヤジとロジャーの銃を持つゾンビ。

彼らはトラックで封鎖されたので中には戻れないはずなのに、後の死人狩りの場面でちゃっかり店内を歩いている。

ならば当然全滅させられたはずなのだが、なんと最後の場面では屋上にまで登って来る!

もはやこうなると、ゾンビではなく幽霊だ。

この辺りのこだわりのなさが、ロメロ監督の大らかさと言おうか…(笑)。

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一階のガラスドアに群がる怪物たちは、様々な姿をしていた。

スーツを着た中年男、エプロンをかけたままの主婦、高級ドレスの若い女。

老母や幼児の姿をしていても、予想以上の力を持っていた。

どれもが平和な日常そのままの姿で、セールに並んだ開店前の客のように店内の男達を眺めている。
二階のバルコニーでも、残っていた怪物が下の騒ぎに吸い寄せられるように階段やエスカレーターをうろつく。

その中の一体が、ふと向きを変えると非常階段の方へ歩き出した。

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フランがとり残されてから、一時間以上経過していた。

下の方から微かに、彼らの声が聞こえた。

何かお祝いをしているような声だったが、恐怖を通り越して段々腹が立ってきた。

男たちだけで兵隊ごっこに夢中になり、自分ひとりをダンボール箱と一緒に置き去りとは!

 

店内の男三人は、最上階の部屋に戻る策を練っていた。

同じ作戦で一気に戻ろうと言うロジャーに、ピーターが言う。

「ここもけっこう悪くないぞ、急いで出ることもないんじゃないか?」

ロジャーは呆れて、彼の顔を見る。

どうやらピーターは、あての無い旅を続けるよりもこの地にしばらく留まるつもりのようだ。

それには、フランを残した部屋の場所を怪物に知られるのはまずい。

「ここから上に出る抜け道があるはずだ、空調用のダクトが書いてあるよ」

横で話を聞いていたスティーブが、管理室から持ち出していた図面を開く。

彼らは二階でエレベーターかごの天蓋を上げ、シャフトから通じるダクト口を発見した。

そこを抜ければ、怪物を避けて最上階への通路に出られる。

「君の大発見だよ、フライボーイ」

ピーターが初めて、彼に心からの笑顔を見せた。

スティーブは、ピーターが付けたこのあだ名も気にならなかった。

行動を通して、このチームが生き残る為には誰が一番のリーダーかを無言のうちに認めたのだ。

男たちは、ダクトの中に姿を消した。
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非常階段の踊り場に座っていたフランは、下の方でドアが開く音を聞いた。

スティーブが無事に戻って来た!

彼の名を呼び、階段の下を覗き込んだ彼女の顔が恐怖に凍る。

ゆっくりと昇ってくる足音は不自然な歩き方で、生きた人間のものではなかった…

悲鳴が込み上げるのをぐっと堪え、フランは部屋に入るとドアを閉める。

が、そのドアには鍵が掛からない。

彼女は重たいダンボール箱を、必死で積み上げ始めた。

 

男たちは、狭いダクトの中を這い進んでいた。

ところどころに吹き出し口があり、そこから下の店が見える。

銃砲店があった。

大量のライフルやショットガンが並んでいる。

スティーブは高級電化製品を見て、ニヤリと笑った。


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その頃フランは、絶体絶命の危機に陥っていた。

ドアはダンボール箱ごと簡単に押しやられ、一体の怪物が顔を出す。

何かないかと周りを見回すフランだが、銃はスティーブが持って行ってしまっていた。

ロジャーが置いていったナップザックをひっくり返すと、発炎筒が転がり出る。

彼女の武器は、もうそれしかなかった!

 

男たちは、非常階段近くの通路に降りた。

すぐ傍に、置いてきたカートが見える。

ピーターは細心の注意を払い、音を出さないようカートを非常階段の方へ引っ張る。

 

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最上階の部屋では、フランが怪物に追い詰められていた。

発炎筒の炎に最初はひるんだ怪物も、今や平然と彼女に掴みかかって来る。

屋上への梯子に手をかけるフランだが、足元の箱が崩れて宙吊り状態に。

怪物が、その足に噛り付こうとする!

 

間一髪だった。

スティーブとロジャーが部屋に駆け込み、銃の台尻で怪物を頭部を砕く。

フランは涙で喉を詰まらせながら、スティーブの腕に飛び込んだ。

ピーターがテレビを手にして現れ、フランをちらりと見たが慰めの言葉をかけようとはしなかった。

「運び込むのを手伝ってくれ」

ロジャーを呼ぶと二人で死体を部屋から引きずり出し、カートから戦利品を持ち込む。

スティーブは、抱き寄せたフランの髪を撫でながらこう言った。

「ここは凄いところなんだ、完璧さ!欲しい物が何でも手に入る…」

 

 

非常階段へ通じるドアの前に、もう一度ダンボール箱のバリケードが作られた。

彼らの周りには食品、ウィスキー、電気カミソリからトランプカードまで揃っている。

もう、夜の9時になろうとしていた。

せっかく持ってきたテレビには、いくらチャンネルを変えても何も映らない。

ポータブルラジオからは、雑音に混じってようやく人の声が流れ出す。

主要都市との通信が途絶えたと告げている。

 

「皆狂ってるよ!こんなになるまで何故防げなかったんだろう。それに比べて僕たちはだうだい?

奴らを叩きのめし、指一本触らせなかったんだ!」

自慢げに話すスティーブを横目で見て、ピーターが口を挟んだ。

「奴らは俺たちに触ったぜ、フライボーイ。今回はラッキーだっただけさ、それを忘れるなよ」

スティーブの顔は、恥ずかしさで赤くなった。

ピーターはお伽話を例に出して、怪物たちの増加を分析した。

(シナリオにはあるが、間延びするので撮影時に切られた可能性がある)

黙って聞いていたスティーブだが、対処さえちゃんとすれば防げるはずだと主張する。

冷めた笑いを顔に浮かべ、ピーターはこう言った。

「それじゃ君の彼女が殺されてだ、その首を刎ねることが出来るって言うんだな?」

(伊版の予告にまで使われたセリフにも関わらず、米版では全て削除!)

 

会話が止まった。

隣の部屋で休んでいたフランは、耳をすましてスティーブの答えを待った。

だが、ラジオの音以外には何の返事も返って来なかった。

失望した。

スティーブは、自分より強い男のなすがままになっている。

フランが彼に惹かれたのは、自信家で頼り甲斐のある部分だったのに。

 

ピーターが、再び話し始めた。

フランの話題だった。

「ずいぶん顔色が悪いようだが、病気じゃないのかい?」

スティーブは、ピーターの顔を見つめた。

理解しにくい男だ。

ある時はひどく冷たいと思えば、急にやけに優しくなったりする。

 

「彼女は妊娠しているのさ」

苦々しい顔で答えるスティーブ。

フランは、妊娠四ヶ月近くになっていた。

「なんてことだ、何処かへ早く移動しよう」

心配するロジャーを制止し、ピーターがスティーブに問う。

「君は堕ろさせる気かい?」

 

聞こえてきたピーターの言葉に、フランの目から涙が溢れた。

今こそスティーブは、あの悪党の横っ面を張り倒してやらねばならない!

だが、またも会話は止まってしまった。

 

しばらくして、スティーブがこちらに歩いて来た。

涙をぬぐいタバコに火を点けると、彼女は感情を押し殺して彼に問いかける。

「あなたは堕ろさせたいの?」

 

一瞬の沈黙の後、スティーブは答えた。

「君はどうなんだい?」

 

フランの彼への心が、急速に冷めてゆく…

彼はもう、カナダへ行く約束も忘れてしまったのだろうか?

「あなたたちはこの場所に取りつかれているわ…とても明るくて、何でもあるから。

でもここは刑務所と大して変わらないのよ。

今からでも、必要なものだけをまとめて出発しましょう」

フランの振り絞るような願いに、隣に座ったスティーブがあやすように言う。

「あんな小さなヘリでは、何も運べやしないよ」

彼女の声は、怒りで高ぶった。

「いったい何が欲しいの?生きていく為に必要な物だけでいいじゃない!」

 

男たちは、この場所に残る決心を固めている。

決定はすでに、三人で下したのだ。

彼女がどんな意見を持とうと、もうどうにもならない。

 

スティーブが彼女に寄り添い、優しくささやいた。

「本当に、北に逃げるよりもここにいた方がいいと思うんだ。

何度も着陸して給油していたら、その度に恐ろしい目にあうかもしれないよ。

ここにいればなんの不自由もない」

 

フランは、二本目のタバコに火を点けた。

赤ちゃんが産まれる前にやめようと思っていたけれど、今となってはそれがどうしたというのだ?

自分自身が生きていけるのかどうかさえ、誰にもわからないではないか…

 

 

夜が更けた。

 

ロジャーは、キャンプ用品売り場で見つけてきたスリーピングバッグに包まりぐっすり寝込んでいる。

ピーターだけが、相変わらず非常階段のすぐ傍でライフルを抱えたままで眠っていた。

 

 

それは彼にとって、脱出以来初めての睡眠だった。

 

 


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~column~

ダクト内の映像とフラン襲撃場面は、シナリオ以上に編集のカットバックが多い。

男たちがダクトから降りる場所が、完成映像と異なる。

実は管理室から鍵を持ち出した直後、ピーターとロジャーは廊下に出る前に豪華なオフィスを見つける。

その中に鍵の開かない社長室があり、帰路でそこの天井から出て来る。

三人は、椅子に座ったまま自殺しているこの建物のポーター社長を見つけるのだが、ご存知のように実際は非常階段近くの通路に出るわけだ。

一部で「ラフカット版」にはこの映像もあるのではとささやかれているようだが、撮影時に変更されたので存在しないと僕は解釈する。

フランと怪物との戦いは、米版・伊版とも編集箇所や映像が違い、自分で編集してもうまく繋がらない。確実に更に長いはずだ。なお、ここで流れるゴブリンの曲は現在もCDに収録されていない。

フランを襲うゾンビは妙に目立ち、Hare Krishna Zombieという名前でフィギュア化もされている。

ピーターが仲間に披露するお伽話は、王様のご褒美の話。

‘お前の願いを一つ聞いてやる’と言う王様に、頭の良い道化師が将棋盤を持ち出して願ったのは、マス毎に米を倍にして欲しいとのこと。そんなことかと安心した王様は、最後に国中の米を取られて無一文になってしまった。

今日は一握りでも、日々人が死にネズミ算式に増加するゾンビへの油断を警告しているのだ。

スティーブとフランの会話中、一体のゾンビがドアの外までやって来る描写が存在。

四人は息を潜めてやり過ごし、一晩中見張りを立てようとピーターが提案する。

前後のセリフが映像にあるので撮影された可能性もあるが、地味なので飛ばされたとしても不思議ではない

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ロジャーの入れたスイッチが、巨大な墓場のようなショッピングセンターをよみがえらせた。

展示場の電灯が点き、鳴り響く音楽に混乱した怪物たちが活発に行動し始めた。

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ピーターとロジャーは管理室で見つけた鍵をベルトに挟むと、廊下に飛び出して来た。

彼らの心は、店内の素晴らしい商品のことでいっぱいだった。

角を曲がった瞬間、二人は青くなって壁に張り付いた。

下をうろついていたはずの怪物たちが、二階のバルコニーでひしめき合う。

エスカレーターが動いている!

ベルトコンベアーのように、次から次へと連中を運び上げているのだ。

作戦は失敗だった。

ロジャーは知らずに、エスカレーターのスイッチまで入れていた…

人の気配を察知してか、無言の群集が通路に迫っていた。

 

落ち着こうとしてタバコを求めるピーターにライターで火を点けてやり、ロジャーは問いかける。

「どうしようか」

「何をだ?」

無表情に聞き返す、ピーター。

ライターを仕舞うと、迷いを振り切るようにロジャーは答えた。

「ライターオイルの事さ」

ピーターはタバコをふかしながら、相棒を見て言った。

「決まりだな」

二人の男は、怪物の群れの中に一気に突っ込んだ!

(ライター油からのセリフはシナリオに存在しないので、現場で咄嗟に作られたものと思われる。ちなみに廊下に出る時点でゾンビと鉢合わせとなり、二体射殺しながら会話する設定となっていた)


下の階から銃声が響いた。

「あいつら気でも狂ったのか!」

非常階段の上で迷っていたスティーブは、フランの持つライフルを取り上げて歩き出した。

フランが、行かないでくれと追いすがる。

彼女を守らなければならない、しかし、自分もビクビクせずに下の戦闘に飛んで行ける男だと証明したかった。

「大丈夫だよ」

自分に言い聞かせるかのように声を出し、スティーブは静かに階段を降り始めた。

(シナリオではロジャーらの会話の前に設定されていた。米版でのみ前半が使われ、後半は編集位置が後ろにずれ込む)
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ロジャーとピーターは怪物たちの間をすり抜け、店を仕切る大きなガラスドアの前まで来た。

鍵穴に合うキーを見付け、差し込んで回す。

カチリと音がして、鍵が外れた。

ところが、ドアはびくともしない。

その間にも怪物たちは、ゆらゆらと迫って来る。

援護射撃を続けるロジャーだが、近距離でのライフルはかえって的を外した。

今や二人は、完全に大群に取り囲まれてしまった!

 

スティーブは非常階段の途中で足を止め、まだ迷っていた。

彼女と二人でヘリで逃げてしまおうか、それとも下の仲間と一緒に本当に戦うべきなのか…

早く屋上に逃げようというフランの言葉に、自分の心を見透かされたようで彼は腹を決めた。

「下の二人を放っておくわけにはいかないよ」

(このセリフはシナリオでは‘怪物はそんなに早くないから追いつかれやしないさ’となっていた。伊版では丸ごと削除され、米版では場面の最後に移動。更に両バージョンとも、前の会話の後半部分をここに挿入してある)

 

射撃を諦めたロジャーが手を貸し、ようやくガラスドアが開いた。

二人は半開きのままで店内に飛び込んだ。

目の前まで迫った怪物たちが、一緒に中に入ろうと手を突き出す。

今、二人はまるで無防備状態だった。

噛み付こうとする連中を、殴り倒すピーター。

ロジャーはライフルを掴まれ、死の綱引きを続ける。

外に引き出されたら、間違いなく殺される!

更に、隙間に倒れ込んだ一体が邪魔でドアが閉められない。

ロジャーはそいつを中に引き込むため、ライフルを手放した。

彼の代わりに怪物たちが、たちまちそれを奪い去る。

瞬間、ピーターがドアを閉鎖した。

 

背後で起き上がろうとする怪物を蹴り倒すと、ハンドガンでとどめを刺すロジャー。

一息つく間もなく、ピーターは必要な物を手に取った。

「ともかく買い物が先だ」

こんな修羅場の後にも冷静でいられるピーターに、ロジャーは内心舌を巻いた。

(店内で興奮する二人のセリフもシナリオにはない。即興で作られたものと思われ、ロジャーはここでもライター油と口にしている)

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その頃、スティーブは震えながら廊下に出て来た。

自分の呼吸音が響き、心臓の鼓動が耳に聞こえる。

明かりの漏れている部屋に入ると、そこは管理室だった。

スティーブは、この建物の設計説明書を手にした。

 

フランと一緒に新しい生活を始めるつもりだった。

この北米大陸のどこかには、まだ怪物の脅威が及ばない安全な場所があるに違いない…

もしあの二人が一緒でなければ、もっと北の安全な場所にもう着いていたかもしれないのに。


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二階のエレベーターのドアが開いて、商品を山積みしたカートを押した二人が出て来た。

邪魔な死体をどけると、そこにカートを置いてふたたび一階に移動する。

 

上の騒動で閑散となった一階のガラスドアの前に立ち、ピーターがロジャーに言う。

「さあ始めるぞ、兄弟。用意はいいな…」

 

ロジャーがドアを叩きながら、大声で怒鳴った。

「ヘイ、そこの醜い奴!こっちへ来いよ」

その音に反応し、再び一階に怪物たちが集まり出した。

 

彼らは二階の怪物が分散した隙をついて、一気に屋上に逃げる計画を立てたのだった。
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一方、機械室を横切るスティーブの後ろから、もうひとつの足音が響いていた。

配管に当たりながら、近付いて来る。

 

姿を見るまでもなく、スティーブにはその正体がわかった。

動く影に向けて銃を撃つが、彼の腕では配管に当たって跳ね返るばかり。

いつの間にか、怪物が近くまで迫っていた。

 

今度こそはと慎重に狙いをつけるが、弾が切れた!

パニックを起こして逃げ出すスティーブ。

 

暗闇を走る彼の後姿を、怪物はまるでセンサーを持つかのように追って行った。
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銃声は、ロジャーとピーターにも届いていた。

 

「彼女かな?」
ロジャーは置いてきた二人をすっかり忘れていた自分が、少し後ろめたかった。


「あるいは例のフライボーイかもな」

ピーターはスティーブを、名前で呼ばなかった。

 

二人は二階のガラスドアの前で、カートを手に立っている。

怪物たちは音の方へ去り、ドアの前にはもういない。

 

一緒に出ると言うロジャーに、彼は言う。

「一人でいい。もしあれが彼ならばここへ連れて戻る」

 

ロジャーに援護射撃を頼むと、ピーターは一気にカートを押して走り出した。
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スティーブは機械室の物陰で銃に弾丸を込めていた。

いきなり肩を掴まれ、彼はひっくり返る。

怪物がすぐ後ろに来ていたのだ!
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弾丸は床に転げ落ち、震える手で夢中で引き金を引く。

が、何度撃っても弾倉は空!

怪物は真っ黒な穴のような口を開け、スティーブに噛り付こうとした。

次の瞬間、かろうじて装填されていた一発が怪物の頭部を吹き飛ばす。

助かった喜びを感じる間もなく、彼はよろよろと出口に向かった…

 

 

商品を満載したカートを押したピーターが走る。

角を曲がったところで、怪物と正面衝突しそうになった。

同時にスティーブも、廊下に出たとたん複数の怪物に襲われる。

 

ピーターは自分にからみつく怪物を軽々と持ち上げ、バルコニーから下に向けて放り投げた。
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廊下の隅に追い詰められたスティーブを見つけ、大声で叫ぶピーター。

「非常階段には戻るな!ドアを開ければそいつらも一緒について行くぞ。駆け抜けろ!」

スティーブはうろたえた。

だが、ピーターの言葉が彼を動かした。

「しっかりしろ、フライボーイ!君にだって出来るぞ、頑張れ!」

 

スティーブは大きく息を吸い込んだ。

手を差し伸べるピーターを目指して、全速力で走り抜ける。

休む間もなく、その場にカートを残して二人は再びガラスドアに向かった。

援護射撃を続けるロジャーと共に中に戻ると、同じ作戦を繰り広げる為三人は疾走した。

 

店内を駆け抜ける彼らの姿を、並んで動かぬマネキンが冷たい目で眺める。

その中の一体が、ふらりと前に倒れた!

ロジャーにぶつかったそいつは、腐ったような空気を吐き出した。

油断していたロジャーは床に倒れ込み、青白い顔の怪物ともみ合う。

ピーターはライフルで狙いを付けるが、ロジャーと近すぎて撃てない…

怪物の腰には、ドライバーが差し込まれていた。

ロジャーはそれを引き抜くと、怪物のこめかみに突き刺した。
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(ロジャーが襲われる描写はシナリオや小説に存在しない。特殊メイク担当のトム・サビーニによれば、現場で思いついたアイデアを積極的に取り入れてくれたとの事)

 

間一髪で怪物の襲撃を逃れた三人は、しばらくの間は激しい息づかいだけで誰も口をきかなかった。

だが、スティーブとピーターの間に流れる空気は、確実に前とは違っていた。

 

 

一階のガラスドアにもたれながら、ピーターが言う。

「さっきと同じトリックをやるんだ」


事情のわからないスティーブに、ロジャーが見本を示す。

大声でわめきちらすその姿に、思わずスティーブが笑い出す。

 

ピーターが、彼に向かって初めて笑いかけた。

「君はよくやったよ、フライボーイ。ご感想は?」

 

スティーブは嬉しかった。

彼らと、本当の仲間になれたような気がしていた。

そして彼も、ロジャーの真似をした。

 

三人は抱き合って、勝利の喜びに大声で笑い叫んだ。

なんだか子供にかえったような気分だった。

それは、束の間の勝利に過ぎないのかもしれない。

 


たとえそうでも、ないよりはましだった。



 

~column~
ピーターとスティーブに、男同士の絆が生まれる。

死線をくぐり抜けた時、彼らは自分ひとりでは生き残れないことを悟ったのだ。

この人間関係において、最も孤独なのは紅一点のフランだろう。

男たちが気楽に振舞う中、ただ独り震えながらお留守番。

そしてこの後、命の危機に直面する事に!

このブロックは、実際の映像とシナリオとの違いがかなり目立つ。

まず、デパートのガラスドアはリングシャッターの設定で、鍵が三箇所掛かっているのでなかなか開かない。

開いた後も何体かとそのまま店内で死闘を繰り広げる。

一方のスティーブも、機械室ではなく管理室で三体のゾンビを倒す。

これらは撮影時に現場の都合で変更されたと思われる。

編集に於いても、フランとスティーブの会話があるべき場所と異なり、「ラフカット版」での原形が実に興味深いところだ。

コアなファンは知っているが、ドライバーゾンビの場面でかすかに米版の音楽が残っている。

素材によってほとんど聞こえないようなものもあるが、大音量のヘッドホンなら確認出来るはず。

伊版の原典がロメロ編集の「ラフカット版」であるという説の、確たる証拠である。

選曲に関しては、突入場面での印象が全く異なる。

スローで迫るゾンビの不気味さを醸し出す米版、血湧き肉踊る伊版のゴブリンサウンド。

好みで別れるだろうが、二度目の突入では米版もゴブリンを選択。

ただし「ラフカット版」ではまだ正式なサントラが未製作なので、最初の選曲を知る貴重な資料がある。

例の「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」で部分収録された映像に、差し替え前の流用曲が流れているのだ!

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四人を乗せたヘリコプターは、ピッツバーグから60マイル北の上空を飛んでいた。

彼らが旅を共にしてから、二度目の夜明けを迎えた。

 

途中何度か燃料補給で立ち寄った場所は、既に人の気配がなかった。

少なくとも、生きた人間の姿は…

 

ラジオもない、水も残り少なく、食料すら持ち合わせていない現状は、この逃避行の限界を迎えようとしている。

 

ヘリを操縦するスティーブには、睡眠も必要だった。

 

 

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前方に、広大な敷地にそびえる窓のない建物が見えて来た。

 

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ショッピングセンターだった。

 

このあたりの山地に散らばっている炭鉱町の人々を目当てに、最近造られた大型店舗だ。

東西南北に4箇所出入り口がある。

 

窓がないのは、客を外に向けさせずに買い物に集中させる為なのだ。

中には食料から衣料、住宅用品、更にはレジャー用品まで、生活していく上で必要な全ての商品が揃っている。

 

建物の上空に近付くと、周囲に数台の車が乗り捨ててあるのが見えた。

この非常事態に通常営業しているはずもなく、ショッピングセンターは不気味な静けさを纏っている。

 

彼らは、無人の屋上にヘリを着陸させた。

(着陸映像は伊版が長い。使用曲はゴブリンだが、「ディレクターズカット版」のみ選曲が違う)


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ヘリから降りると、ピーターは民間人を置いて素早く行動した。

彼はずっと前から、この世を生き抜くには自分の力と頑張りしかないと知っていた。
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屋上から見下ろすと、フットボールの競技場を六つ合わせた程の大きな駐車場を歩く死体の一群が見える。

普通の人間と変わらないようだが、怪物独特の歩き方を見慣れた彼らには間違えようがなかった。

 

ヘリの爆音も、下の怪物の注意を引かないようだった。

 

慌てて飛び立とうとするスティーブとフランを、なだめるロジャー。

「急ぐ事はないさ、調べてみよう」

 

二人から離れ、ピーターを追う。

 

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建物の入り口は大きなガラスドアになっていて、連中の何体かはすでに内部に侵入している。

ピーターは天井に作られてある、透明なプレキシガラスの明り取りの窓を透かして建物内部を覗いている。

 

ここからはほんの一部しか見えないが、下の中庭までは二階建ての高さがある。

中央の広場から出入り口まで通路が四方に延びていて、その両側に店舗が並んでいた。

どの店も、施錠されているようだ.


「まだ店内には入って来ていないようだな」

ピーターが、ロジャーに向けて言った。

 

屋上には太陽熱発電システムが設置されており、この地域の電力が切れていないのは原子力発電所からの供給が生きているようだ。

さらに別の明り取り窓を覗くと、中庭に面した二階の部分は手すりの付いたバルコニーになっている。

そこに、怪物の姿はなかった。

 

「二階に下りることができれば…」

そう言うとロジャーは、一人で行動するピーターの後に続いた。


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フランとスティーブは、あても無く歩き続ける死人たちを見てこう思った。

まるで、今の自分らと同じではないか…

連中がこの場所へ引き寄せられて来るのは、何故だろう?

一種の本能か、記憶か。

生前のものが残っているならば、の話だが…

 

二人は、一刻も早く飛び立ちたかった。

日が沈まないうちに出来るだけ遠くへ飛び、カナダを目指したかったのだ。

その地ならば状況が違うかもしれないと、自分に言い聞かせていた。

恋人たちにとっては、それが精一杯の生きる希望だった。

 

ピーターとロジャーは、天窓のすぐ下に倉庫を発見した。

水や缶詰め等の緊急物資が山積みになっている。

興奮するロジャーの声を聞きつけて、後の二人もやって来た。

しかし、ガラス窓は施錠されている。

降りる方法はないかと、ロジャーに言うスティーブ。

その問いに蔑むような眼差しを向けると、ピーターはライフルの台尻で窓を砕いた。

(米版ではスティーブが窓を開けようとする映像がなく、伊版ではセリフが切られている)

 

梯子を降りて、彼らは対照的な行動をとった。

フランとスティーブは缶詰を手に取り、ピーターとロジャーは二箇所のドアをチェックした。

その大きな部屋は、内部の非常階段に直結していた。

ドアには鍵が掛からなかった。

ピーターは他の三人がまるでそこにいないかのように無視して、ドアの前にダンボール箱を積み上げてバリケードにした。

 

 

簡単な食事を終えると、スティーブンは泥のような眠りに落ちた。

ロジャーはダンボールに寄り掛かりながら、ピーターを見ていた。

最初に出会ってからまだ三十数時間しか経っていないのに、まるで一生が過ぎてしまったようだった。

ピーターがフランとスティーブにしびれを切らしていることは、ロジャーにもよくわかる。

だからこそ二人が自分の友人である以上、その分まで勇敢に行動しなければと彼は心に決めていた。

 

「この下には必要な物が山ほどあるんだぜ、兄弟」

ピーターが穏やかな声で、ロジャーに話しかけた。

 

フランは二人の話を聞いていて不安になった。一休みしたら出発するものとばかり思っていたのに、こんな場所で泥棒の相談なんて、もう我慢が出来なかった。

 

「あんたたち気でも狂ったの!?」

彼女の言葉を気にもせずに銃を点検するピーターに、彼女は詰め寄る。

「こんなことをしているから揉め事に巻き込まれるのよ、飛行場で起きた事を考えてごらんなさい!」

 

薄ら笑いを浮かべて、ピーターが答える。

「あそこでの問題は、銃弾が飛んできたことだけさ。あんな亡霊ども、盲目でも倒せるぜ」

(このセリフは映像には存在しない。前のフランのセリフが途中で終わり、スティーブを呼ぶので明らかに撮影されなかった。シナリオにあるものが全て撮影されたわけではない証明と言える)

 

スティーブを呼び起こそうとするフランを止めると、ピーターはライフルの使い方を簡単に教えてからこう言う。

「他の誰かがここへ上がって来たら、ヘリで逃げろ。俺たちは駐車場に出るから、そこで拾ってくれ。

もし出て来なければ・・・後で追いつくよ、わかったかい?」

 

その言葉の裏にある恐ろしい意味が、フランにも分かった。

(ここも本編にないが場面が変わるので、撮影された可能性はある)

 

ロジャーは、すでに部屋から出ていた。

彼らは最後に、下で銃声がしても驚くなと言って階下へと消えた。

その姿が見えなくなった後も、フランは一人階段の踊り場に立ち続ける。

彼女は、眠っているスティーブを起こそうかとためらっていた。

 

 

非常階段の先には、狭い廊下が続いている。

300フィート程先が、中央広場に面したバルコニーに通じているらしかった。

廊下にはドアがあり、そのうちの一つが開いている。

ここは管理室らしく、建物の図面や鍵が置いてある。トランシーバーも手に入れた。

 

二人の男はバルコニーに出て、手すりの間から下を見下ろす。

一階には怪物たちがうろついているが、やはり各店舗の扉は開かないようだった。

そこには、ありとあらゆる商品が揃っていた。

 

買い物客の笑顔があふれていたはずの場所が、今は静寂に包まれている。

全く異質な世界に紛れ込んだような気分で、しばらく二人は身動きが出来なかった。

かつて栄えた文明が永久に滅び去り、その遺跡の前に今、立っているかような…

 

管理室に戻った二人は、この建物の図面と鍵とを確認し、準備にかかった。

ロジャーが、音楽を流すのを提案した。

不審がるピーターに、彼はおどけて答える。

「音楽を流せば、俺たちが音を出してもごまかせるさ」

半ば呆れながら、ピーターは全てのスイッチを入れるよう指示した。

 

 

上の階では、奇妙な音楽に驚いたフランが堪りかねてスティーブを起こす。

このダンボールだらけの部屋がなんなのか、自分が何処にいるのかもスティーブは一瞬わからなかった。

だが、ライフルを持ったフランの姿を見てギョッとした。

彼女は、彼が寝ている間に起きたことを説明した。

 

「本当に連中はデパートを荒らしに行ったのか?そんな物をとってどうしようというんだ!」

自分を無視して行動を起こした二人に、スティーブは怒りを覚えた。

 

フランは怯えた表情で言う。

「あの人たち、まるで泥棒ごっこをやっている子供みたいに夢中なのよ」

 

スティーブはフランを引き寄せた。

「心配いらないよ、あいつらだって、それ程馬鹿じゃないさ」

 

 

今のスティーブにできることは、彼女をしっかり抱きしめることだけだった。
 

 

 


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~column~
いよいよ本作のもうひとつの主役である、ショッピングセンターの登場だ。

この映画と出逢ったおかげで、似たようなつくりの建物を見ると何故かワクワクするようになってしまった(笑)。

あるブロガーが書いていたが、いつも見る度に子供の頃の秘密基地ごっこを思い出すと。

言われてみればその通り。

誰にも怒られず、デパートの中を走り回ったり隠れたり、好き放題に物を手に出来たならどんなに楽しいことだろう。

これは子供の夢を具現化したような映画でもあるのだ。

無論、とびきりの悪夢でもあるわけだが。

ショッピングセンターをヘリから見下ろす場面に被るセリフが、米版と伊版で違う。

言葉は同じでも、明らかに違うテイクを採用している。

このような部分が映画全体を通していくつか見られるが、伊のアルジェント側に「ラフカット版」を送った後で、ロメロが米版再編集時に差し替えた為と思われる。

フランが缶詰を手に取る場面は、米版では途中で切られた為に字幕が適当に処理され易い。

缶切りが無いという彼女にロジャーが教えているのは、缶の底に開けるためのキーが付いているという事。

かつては‘じゃあ食えんな’なんてひどいデタラメ翻訳もあった。

小説を読んでいた僕は、売り場に出るまでの二人の行動がやけに詳しく書かれているとは思っていた。

この場面は米版・伊版ともにほぼ同じ編集になっており、後年「ディレクターズカット版」を見るまではまさか実際にその通りに撮影されているとは思わなかったものだ。

だから初めて見た時は、この場面こそが最大の衝撃でもあったのだ。