
[・・・必ずしも共食いとは言えないようです・・・この怪物は人間とは呼べず、人間を餌にしているのです・・・決して互いが食い合うことはないのです・・・]
テレビの音声に目覚めたフランは、隣の部屋を覗く。
男たちは彼女を残して、屋上に出ているようだ。
コンクリートに毛布一枚で寝ていた為、背中が痛かった。
あのおりこうさんたちはマットレスくらい盗んでくる知恵がなかったのかしらと、彼女は朝日の射す天窓を見上げた。
屋上では、ピーターが双眼鏡を覗いていた。
敷地内にある大きな食品加工工場の前に、大型トラックが何台も並んでいる。
トラックに関しては、ロジャーの特技ともいえた。
彼の父親は長距離運転手であり、子供の頃から膝の上で運転を教えてくれたものだ。
「今朝はまだ、連中の数が少ないみたいだ。始めるぞ」
ピーターは、下の駐車場を見ながら断定的に言う。
ロジャーとスティーブは、まだ彼のことがよくわからなかった。
決して心の内側を他人に見せず、自分のプライバシーにはヘリでの短い会話意外は一度も触れなかった。
(米版、伊版を繋げると完全な場面になる。ただし伊版はワンカットでの間が持たないと思ったのか、わざわざ後半のゾンビ群集映像を抜き出してここに挿入)

男たちが降りて来るのを、フランが下で待っていた。
「話したいことがあるんだけど、いいかしら?」
ピーターは、彼女の存在などないかのように素通りする。
極めて冷静に、フランは話を始めた。
「私は妊娠していることが知られて、残念なの。
何故なら、特別扱いはされたくないからよ」
口を挟もうとするスティーブを、彼女は射るような目で黙らせる。
「私はあなたたちの母親役をする気はないわ。
計画があるなら参加させて。私たちは四人なんだから」
スティーブは顔が赤くなり、他の二人を見た。
ロジャーは、気まずそうに目を伏せる。
微笑を浮かべながら、ピーターが彼女に言った。
「俺たちは外へ出る。で、君はお留守番だ」
フランは抗議しようとしたが、彼は子供に言い聞かせるかのように続ける。
「連れて行くのは、銃の扱いや身の守り方を覚えてからだな」
そう言うと、男たちは逃げるように屋上に出ようとした。
「まだ言う事があるわ」
フランの言葉に、男たちが動きを止める。
彼女はロジャーやスティーブのように、ピーターの言いなりにはならなかった。
「ヘリコプターの操縦を教えて。万が一の時、逃げられないと困るから」
スティーブは黙っていた。
プライドが、深く傷付いた。彼女の言葉は、もう自分は必要ないというにも等しかった。
「彼女の言う通りだな、フライボーイ」
ピーターの同調も、スティーブの胸に堪えた。
もういいだろうという顔で梯子を登る男たちに、更に銃を置いて行くように要求するフラン。
スティーブは負け犬のような顔で、ライフルと弾丸を置く。
出て行く彼に言葉では詫びたが、今度の事で、自分が抱いていたスティーブのイメージと現実との違いを思い知らされた。
同時に、彼女は自分で思っていた以上にもっと力のある事に、気が付いたのだ。
残されたライフルを手にして、その重みをあらためて感じる。
人生で初めて、銃を使う日がやって来た。
人の姿をした、人でないものを撃つ為に!
一番最後に屋上に出たスティーブは、不機嫌な顔でヘリのエンジンを始動させる。
ピーターとロジャーも乗り込んだ。
彼らの計画は、トラックを使ってショッピングセンターの入り口4箇所を全て封鎖すること。
これ以上の店内進入を阻止し、中の怪物は殲滅あるのみ。
地上に二人を降ろすと、ヘリはトラックの援護に回る。
トラックに乗り込んだロジャーは、ダッシュボード下の電源配線を繋いでエンジンを始動させた。
ピーターは不慣れな大型トラックの運転席に座り、緊張した顔付きでもう一台の準備を待つ。
遠くの駐車場では怪物たちが小さな塊となってあちこちにたむろしているが、こちらの動きにはまだ気付いていない様子だ。
「よし、行こうぜ!」
ロジャーが子供のように目を輝かせて言った。

フランはライフルを抱えて、屋上に出た。
二台のトラックが、スピードを上げてこちらにやって来るのが見える。
その上空を、ヘリが旋回していた。
途中で何体かの怪物がその前に立ちはだかったが、簡単に跳ね飛ばされてしまった。
ロジャーは、自分のトラックを入り口の前に突っ込む。
上手い具合に、ドアを完全に塞ぐ形となった。
ピーターはその隣に停車し、彼がこちらに乗り移るのを待つ。
トラックのエンジン音に引き寄せられた連中が、こちらに集まり出す。
しかし、なかなかロジャーが出てこない。
焦るピーターだが、ようやく運転席から飛び出してくるロジャー。
笑いながら、怪物たちをからかっている。
ピーターの目が、氷の冷たさを帯びた。

ピーターの トラックに乗ろうとした瞬間、怪物がロジャーを捉えた!
だが彼は、大して気にもせずにそいつを殴り飛ばす。
ロジャーのはしゃぎ声だけが、走り去るトラックの中で響いていた。

「すこし静かにしろよ、まだ3台残っているんだぞ」
ピーターの忠告も、今のロジャーには効果がない。
トラック置き場に戻り、次の運転席で電線を繋ぐ作業を鼻歌交じりに開始する。
ピーターはトラックの向きを変える為、倉庫裏手の空き地に乗り入れた。
スティーブはヘリの中から、ロジャーのトラックに向けて動く影を発見した。
三体の怪物だ!

ヘリを降下させてロジャーの注意を引こうとしたが、彼は作業に熱中している。
その間にも怪物たちは、運転席のすぐ傍まで迫っていた…

待機しているピーターに向かって、ヘリが飛んでくる。
あいつ頭がおかしくなったのか?と彼は思ったが、スティーブの操縦するヘリはトラックの運転席すれすれまで降りてくると、また旋回してロジャーが作業している方へ飛んでいった。
何かのシグナルだと、直感した。
ピーターは、慌ててトラックを発進させた。

運転席に寝転がった状態のロジャーは、怪物の接近に気づくのが遅すぎた。
何かに足を掴まれ、慌てて作業を中断する。
すでに空け放したままのドアから、ブロンド美人の怪物が這い上がって来ていた!
もう一体も、すぐ後に続いている。
ライフルを使うには、車内は狭すぎた。
銃口を向けて撃つが、弾丸は相手の胸を貫くだけで頭部には当たらない。
女とはいえ怪物の力は強く、簡単には押しのけられない。
腐った息が、ロジャーに吹きかけられる。
ピーターのトラックが、猛スピードで駆けつける。
停車中のトラックに更に乗り込もうとする一体を跳ね飛ばし、すぐ横に停車した。
運転席ではロジャーに怪物が覆いかぶさり、今にも彼の体を噛み千切ろうとしている!
ライフルを構えるピーターだが、狙いがうまく定まらない。
「そいつの頭を持ち上げろ!」
ピーターの呼びかけに、ロジャーは全力で怪物の頭を持ち上げた。
引き金を引く。
怪物の後頭部を打ち抜いた弾丸は、ブロンドの髪と顔面の半分を吹き飛ばした。

運転席に血しぶきが飛び散る!
動かなくなった怪物を外に放り出すと、ロジャーは血まみれの自分にパニックを起こした。
その背後で、窓ガラスが砕ける。
三体目の怪物が、金属棒で割ったのだ。
ピーターの声を無視して、そいつの頭部に銃弾を撃ち込むロジャー。

ピーターはこれまでにも戦場で、様々な修羅場を体験した。
フィラデルフィアの路上でも、SWAT隊員としてずいぶん悲惨な光景も見てきた。
そんな彼には、今のロジャーが普通ではないとすぐに分かる。
「しっかりしろよ、まだ仕事が残ってるんだぞ、ロジャー?」
「2号機、出撃だ!」
配線を繋いでエンジンをふかしながら、ロジャーは楽しそうに答える。
「大丈夫なのか!?」
ピーターの問いに、狂ったような目で前を見据えるロジャー。
「完璧だぜベイビー、完璧さ」

ロジャーはスピードを上げて、怪物の群れに突っ込んだ。
笑い声をあげながら、飛び散る血をワイパーで拭き取る。
フランは屋上から、恐怖の活劇を見つめていた。
下の駐車場には、前よりも多くの怪物が集まっている。

2箇所目の入り口をトラックで塞ぐが、ピーターのトラックとの間隔が狭すぎてドアが開けられない。
ロジャーは仕方なく、運転席の窓から隣に乗り移ろうとする。
その時、トラックの狭い隙間に何体かの怪物が入り込んできた。

上空を旋回しながら、スティーブはただ見ているだけの自分にイライラした。
今すぐヘリを着陸させて、助けに行きたかった。
フランはライフルで怪物を狙うが、なかなか照準が定まらない。
掴みかかって来る怪物を撃ち倒す度に、ロジャーはサディスティックな喜びを感じていた。
「もういい加減にしろよ!」
ピーターが怒鳴っても、彼は怪物を撃つのを止めない。
撃ち倒す度に、子供みたいに歓声をあげた。
ピーターはロジャーの足がまだ入りきらないうちに、トラックを発車させる。
窓から突き出てバタバタしている足を、一体の怪物が掴んだ!

フランは、屋上から続けてライフルを撃つ。
そのうちの一発がそいつの肩に当たり、ロジャーから手を放す。
彼女は射撃訓練の如く、怪物の頭に当たるまで撃ち続けた。
ヘリの中から、スティーブはその様子を見ていた。
‘大した女だ、自分でこうと心に決めたら、何がなんでもやり遂げずにはいないのだから…’

三台目の準備に戻る途中、突然ロジャーが大声で叫ぶ。
「しまった!例のバッグをあのトラックに置いて来ちまった」
ピーターは、急ブレーキで停車した。
あのバッグの中には、作戦に必要な道具が入っている。
「だから言わんこっちゃないんだ、頭を冷やせこの野郎」
話も聞かず、戻れと繰り返すロジャーの襟首を掴んでピーターが怒鳴る。
「正気に戻れ!いいか、お前は自分の命だけじゃなく、俺の命も弄んでるんだぞ」
二人の男は、睨み合った。
ロジャーはショックだった。
二人は、同じ気持ちなのだと思い込んでいたから。
だがその反動で、彼はようやく冷静さを取り戻せた。
ロジャーの目から狂気の影が消えたのを確認すると、ピーターはトラックを発車する。
スティーブは道路の上空で、なぜトラックが現れないのか不思議に思っていた。
フランが手を振って、二人が駐車場に戻っている事を知らせている。
怪物の群れの中に、彼らの乗ったトラックがバックして来るのがヘリからも見えた。
ピーターが元の位置に停車させると、ロジャーは窓から這い出して隣へ移る。
トラックの周囲には、怪物の大群が蠢いている。
道具の入ったバッグを持ち出した瞬間、手が滑った。
地面に音を立てて落ちる。
迷いはなかった。
ロジャーは自分も飛び降り、バッグを拾い上げた。
彼のすぐ目の前に、怪物が立っていた。
ピーターは距離が近く、ライフルを撃つ事が出来ない。
屋上のフランも、ロジャーに重なる怪物を撃つだけの自信がなかった。
その一瞬の隙に、背後からもう一体の怪物がロジャーの腕に噛み付いた!
すぐ振りほどいたが、傷口から血が吹き出す…

それを目にしたピーターは、言葉もなく凍り付いた。
時間が止まったかのようだった。
ロジャーは向き直ると、自分から噛み千切った肉を咥える相手の顎にパンチをぶち込んだ。
そのまま飛び上がり、運転席の窓に上半身を潜り込ませる。
ピーターはロジャーの方に手を伸ばし、両腕を掴んで引っ張る。
その間にも、無数の怪物が群がり続ける。
ライフルのスコープを覗くフランには、今まさに彼の足に食らい付こうとする怪物が見えた…

「ロジャー!!」
フランの悲鳴にも似た叫びと同時に、ロジャーの絶叫が響き渡る。
怪物は、彼のふくらはぎの肉を大きく食いちぎってしまった!
トラックは、怪物たちをなぎ倒して発車する。
スティーブはヘリの中で、呆然としていた。
地面に座り込み、肉をむさぼる怪物の周りを銃弾が跳ね回る。
肩に当たっても、そいつは食べるのを止めない。
銃弾は、フランのライフルから飛んで来ていた。
こいつだけは許せない…!!
ついに一発が、怪物の頭部を貫く。
フランはそれでもライフルを放さない…
彼女は泣いていた。
ガタガタゆれるトラックの中で、ロジャーが必死に痛みと戦っていた。
ベルトを外して止血する。
手当ての為に計画を中止しようというピーターに、彼は強硬に反対する。
今ならまだ動ける。
しかし、時間が経ったら歩けなくなるだろう。
「この足はなるべく動かさないようにするよ…」
ロジャーは叫びたくなるような痛みをこらえて、深呼吸しながらこう言った。
「やる事が山程あるんだ!俺が、いなくなる前に」
二人の男は、仕事柄様々な現場を見て来ていた。
お互い、言葉にはしなくても知っている。
怪物に噛まれた人間が、この後どんな運命を辿るのかを…
ピーターは込み上げる感情をぐっと堪え、トラックのハンドルを握り締める。
二人はスティーブのヘリに見守られながら、作戦を続行した。
入り口は、まだ2箇所残っていた…

~column~
最初のトラック突入場面は、伊版では切られている。
当時は日本で削除されたんだろうと思っていたのだが、後に伊版のオリジナルを見て意外だった。
米版ではゴブリンの曲を使用し最高に盛り上がる見せ場なのだが、アルジェントにとっては余分だったらしい。
「ラフカット版」での流用曲がどんなだったのか知りたいところ。
トラック内での二人の無線会話はシナリオや小説に描写がなく、映像のみに存在するもの。
トラック置き場に戻った時、窓の外に動く車が見えるが、さすがにロメロは短く切って誤魔化した。
「ラフカット版」を大雑把に使うアルジェントの伊版において、突っ込まれる映像である。
ロジャーを襲う三体のゾンビ出現は、伊版の選曲が盛り上げる。
しかし、トラック発進からの米版におけるメインテーマも素晴らしく、これを繋げるとベスト!
ロジャーを襲う女性ゾンビは、特殊メイク助手が演じている。
トランポリンで跳ね飛ばされるゾンビも有名だが、これらのアクションはトム・サビーニが自分で担当。
本作の映像的なインパクトは、彼なしではあり得なかった。
そんなサビーニのグッドジョブを、米127分版では結構削除してある。
実に勿体無い話だ。
ここで、ロメロ監督の大きなミスを一つ。
駐車場に出てきたリーダーゾンビと呼ばれる三人組が、先の写真だ。
前列のナースゾンビ、その後ろの白いセーター姿の中年オヤジとロジャーの銃を持つゾンビ。
彼らはトラックで封鎖されたので中には戻れないはずなのに、後の死人狩りの場面でちゃっかり店内を歩いている。
ならば当然全滅させられたはずなのだが、なんと最後の場面では屋上にまで登って来る!
もはやこうなると、ゾンビではなく幽霊だ。
この辺りのこだわりのなさが、ロメロ監督の大らかさと言おうか…(笑)。