スクリーンに雨が降る -14ページ目

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東の空に、うっすらと青みがかった靄が立ち始めた。

 

ショッピングセンターは、夜の間にその中で起きた惨劇を知らぬかのような静けさで、無表情に立っている。

 

デパート内を凄まじい数の怪物たちが、埋め尽くしていた。

 

犠牲になった略奪者は、生き返る暇もないまま跡形もなく食われてしまった。


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最上階の部屋で、眼を真っ赤に泣きはらしたフランが荷物をまとめていた。

ピーターは非常階段の最上段から、下の踊り場をじっと見つめている。

まるで、何かを待つように。

「もうヘリで行きましょう」

フランは最悪の事態に備えて、心の準備をしていた。

これまで知らなかった不思議な力が体内に湧き上がり、心に開いた大きな空洞を埋め始めていた。

「何時間も、無線の返事がないのよ…お願いだから!」

 

フランの悲鳴にも似た声に、ピーターは黙ったままだった。

彼の顔は、疲れ切っていた。

男のこんな表情を、フランは見たことがなかった。


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餌にあぶれた怪物たちは、わずかに残る肉片を奪い合った。

飢えた獣のように唸りながら、まだどこかに潜む餌を探してデパート中を徘徊し続ける。


二階のエレベーターの前に、怪物の集団がいた。

その中にいるはずの餌を狙い、ドアを叩き続けている。

偶然ボタンが押され、静かにドアが開いた。

襲い掛かろうとした怪物たちは、あてが外れてその場から去る。

 

エレベーターの真ん中には、スティーブが立っていた。

彼はもはや餌ではなく、怪物の仲間だった。

 

生き返った死体のひとつに過ぎなかった…


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彼はエレベーターから出ると、まるで意思を持つかのように歩き出した。

 

そもそも、怪物たちは何故この場所に集まって来るのだろう。

 

生前の彼らにとって、ここは幸せの象徴だったに違いない。

恋人や家族と過ごしたかけがいのない時間が、消えない思い出としてここへ導いたのかもしれない…

 

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あてもなくさ迷う怪物たちとは違い、まるで自分の行き先を知るような足取りで彼は進んだ。

他の大勢の怪物も、見えない力に引き寄せられるかのように後に続く。

 

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やがて、通路の途中で立ち止まった。

 

そこは非常階段の隠し入り口だった。

 

 

彼の目は、壁を見たまま動かない。

 

手を差し出すと、そのまま偽の壁を引き剥がす!

 

 

彼を追って来た他の怪物たちも、その先にあるものを知るかのように押し寄せる。

 

 


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階段の上にいる二人にも、バリバリという音が聞こえた。

 

「あの音は何!?」

フランの身体を、恐怖が走る。

 

ピーターは身動きもせずに、無表情で答える。

「スティーブだ…上がってくる」

 

ついに、壁が破られた。

夥しい数の怪物たちが、一気になだれ込む。

長い通路の先に続く、最上階の小部屋を目指し非常階段を上りだした。
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ピーターは部屋に入るとドアを閉め、フランに静かに言った。

「今すぐ逃げろ」

 

フランは彼の顔に、悲痛な決意を見た。

ピーターが何をしようとしているのか、彼女は悟った。

そしてその後、彼が自分自身にどんな決着を付けるのかも!

「お願いだから、ピーター!」

 

「俺は行かない…本当に行きたくないんだ」

悲しげに彼が言うと、背後でドアが開いた。

二人が見たものは、変わり果てたスティーブの姿だった。

 

悲鳴すら上げられずに、立ち尽くすフラン。

ピーターは迷いもなく、友人に永久の眠りを与えた。

 

銃声で我に返ったフランは、ピーターに背中を押されて屋上への梯子を登る。

彼女を見送ると、部屋の奥に下がるピーター。

次々となだれ込んでくる怪物たちを自分に引き付けながら、ゆっくりと中に入り扉を閉めた。

 

屋上に出たフランは、荷物を抱えてヘリコプターに駆け寄る。

スティーブに操縦を教えてもらってから、まだ一日と経っていない。

操縦席に微かに、彼の残り香を感じる。

彼女はコントロール装置を気忙しく点検すると、すぐにエンジンを起動させた。
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怪物たちはリビングルームをメチャクチャにし、家具やランプをひっくり返した。

ピーターの閉じこもった部屋の扉も体当たりされ、じきに破壊されるだろう。

彼は、小さな拳銃を自分のこめかみに当てた…

ヘリのエンジンをアイドリングさせながら、フランは長いこと待っていた。

屋上にピーターが現れるのを願いながら。

しかし、天窓から顔を出したのは怪物たちだった。

涙をぬぐうと、彼女はヘリの離陸を始めた。
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下の部屋の扉が、ついに破られた。

自分に向けた銃の引き金に、力を込めるピーター。

 

何故だろう、死んだ母の顔が思い出された。

彼の母親は、この長男である息子を誇りにしていた…この世を去る最期の時まで。

そして今、ヘリの中で一人寂しく座っているフランの姿が胸をよぎる…

 

‘俺らしくもない!’

彼は飛び込んできた怪物に銃口を向け、撃ち倒した!

続いて襲い掛かる連中を殴り倒し、屋上へ続く梯子を一気に登る。
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銃声を聞いたフランは、全てを諦めてヘリを離陸させた。

 

上空から、怪物たちの慌しさにふと下を見る。

 

 

一瞬、目を疑った…

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屋上に出たピーターが、怪物たちを跳ね除けながらこちらに向かって駆けて来る!

 

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ヘリの脚に飛びつくと、後ろのドアを開く。

 

フランの心の底から、喜びが湧き上がった。

 

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小さなヘリコプターは、大男のSWAT隊員が乗り込むとぐらりと揺れた。

 

二人はしばし無言で、思い出深いショッピングセンターに別れを告げる…

 

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「燃料は足りるかい?」

屋上を埋め尽くす怪物を見下ろしながら、ピーターが聞いた。

 

「あと少しね」

フランは真っ直ぐ前を見て答える。

 

軽く鼻で笑うと、自分に言い聞かせるかのようにつぶやくピーター。

 

「いいぜ…」

 


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世界はもう、終わっているのかもしれない…

 

 

それでもまた陽は昇る。

 

 

 

二人を乗せたヘリコプターは、腕を差し伸べている夜明けの光に向かって舞い上がる。

 


何処までも高く、遠くへと!

 

 


 

フランのお腹の中で今、新しい命が元気に動いていた…。

 

 

 

 

 

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~column~


 

希望だけの人生がないように、どんな絶望の中にも必ず救いはある。

 

たとえそれが、どんなに小さなものだとしても。

 

だからこそ、人は今を生きていけるのだ。

 


かつて僕は、二人の未来を悲観的なものとしか捉えていなかった。

 

だが、今は違う。

 

 

彼らは、この瞬間を生きている!

  

明日のことは誰にも分からないが、この二人なら簡単に負けたりしない、そんな気がする。

 



本作を、単なるホラー映画という肩書だけでは語れない。

 

人を上っ面で判断出来ないように、多面的なな魅力を放つ究極の人間ドラマ。

 

 

「DAWN OF THE DEAD」

 

 

闇を貫く一筋の光に、まだ見ぬ可能性を信じて…!

 

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寒い夜だった。

 

夕食の後で、久々に和やかな時間が流れていた。

ソファーでうたた寝するスティーブの耳に、ラジオのノイズ音が聞こえてくる。

放送が再開されたのだろうか…

目を開くと、超短波無線のスピーカーの前にピーターが待機していた。

 

[我々は、君たちがそこにいる事を知っている・・・]

明らかに人の声だった。

他の生存者が、無線で交信を求めているのだ!

隣の部屋から、フランも顔を出す。

スティーブが口を開こうとするのを、ピーターは腕で制止する。

 

[通りすがりの者だ、少し補給物資が欲しい・・・]

訓練を積んだピーターの耳は、妙な違和感を感じ取った。

背後で複数の声が交差し、旅先で困っているにしてはやけに自信たっぷりだ。

 

[中には何人いるんだ?こちらは三人だ・・・]

自分たちの数をわざと言うのは、こちら側を話に引き込む為の戦術だ。

このずる賢さから見ても、相当の悪党らしい。

ピーターの恐れていた日が、ついに訪れた。

略奪者の襲撃だ!

 

話を真に受けて、分けてやろうと言い出すフランをピーターは厳しく黙らせる。

彼の顔は、以前の険しさを取り戻していた。

この2,3週間塞ぎ込んで感傷的になっていたピーターだったが、皮肉なことに新たな危機が彼を立ち直らせたようだった。

 

返事がないのに痺れを切らしたのか、再び横暴な声がこう告げた。

[お前らまずい事をしたな、俺たちは独り占めするような奴は大嫌いなんだよ!]

ピーターはその声を聞いた途端、行動を開始した。

 

「さあ行くぞ」

ピーターの冷ややかな声にスティーブは飛び上がり、後に続く。

フランだけが呆然と、お腹を押さえながら梯子を登る男たちを見つめていた。

 

 

略奪者は、次々と地方を荒らし廻る暴走族の集団だった。

大都市の生き残りが武装し、あらゆる悪行を重ねながらここまで来たのだ。

ボスのソアを中心に、様々な男女が一味に加わっていた。

二台のバンには銃や斧、ナイフ、爆弾まで何でも揃っている。

バイク十八台が先陣を切り、ショッピングセンターを目指して走り出した!

 

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屋上で、双眼鏡を覗くピーターがつぶやく。
「あれが三人ってか?」

スティーブの目にも、暗闇を照らしながら突っ込んで来る集団がはっきり映った。

「奴らは入ってくるぞ、トラックを移動させてな」

そう言いながらも、ピーターの心臓は大きく波打っていた。

ロジャーがいないのが、今更ながらに響いた。

 

「下には何百という怪物がいるじゃないか」

スティーブの呑気な答えに、ピーターは我慢しきれずに言う。

「あいつらはプロの軍隊と同じだ!今日まで戦い抜いて来やがったんだ。

だが、そう簡単にはやらせんぞ、来い!」

 

ピーターは梯子を下りると、フランに目もくれずに通り過ぎる。

彼女は後から来たスティーブに、状況を聞く。

「二十人くらいいるよ、僕たちは店のゲートを全部閉めてくる」

取り乱す彼女に、スティーブはなだめるように言った。

「ただ閉めるだけさ、ここにいる事は気付かれないよ」

 

それが、フランが彼から聞いた最後の言葉だった。

 

ピーターはSWATの制服に身を包み、金のブレスレットや宝石入りの指輪を放り捨てる。

その手には、久々に重く冷たいライフルが光っていた。

 

 

屋外では騒ぎに反応した怪物の群れが巨大な壁となり、皮肉にもこのショッピングセンターを護るような形となった。

しかし略奪者は怯む事なく、銃弾の雨を浴びせる。

早くも駐車場は、怪物たちの血の海と化した。

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デパートの一階では、ピーターとスティーブが店のゲートを次々と引き降ろす。

外で大きな爆発音がした。

入り口が破られるのも時間の問題だった。


大型トラックの運転席に乗り込んだ男が、笑いながら叫ぶ。

‘配線にテープが巻いたままだぜ!まるで俺たちを待っていたみたいだな!’

ロジャーの命を懸けた仕事は、無に帰した。

 

暴走族の音に引き寄せられて、他の入り口からも怪物の大群が一ヶ所に集まりだした。

機関銃で鍵が破壊される。

スライドドアは、力ずくでこじ開けられた…

 

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エントランスホールに、非常ベルが鳴り響く。

万一に備えてセットした警報装置が作動したのだ。

 

スティーブの心臓が、早鐘のように打ち出す。

ついに、連中が内部に侵入した!


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バイク部隊が突入すると、一気に怪物たちもなだれ込んだ。

 

「何百ものゾンビがご一緒だ、さすがに奴らも手を持て余すさ」

ピーターは無線でスティーブに告げると、二階で様子を見ることにした。


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オートバイの集団は、地響きを立てて中央広場に侵入した。

コンコースを走り廻ると、血だらけの怪物たちも後を追う。

閉めたばかりの店のゲートも、連中は簡単にこじ開けてしまった。

 

欲望に溺れた集団は、死者と生者が入り乱れての地獄絵図を展開する…


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好きなだけ荒らし回り、欲しい物を盗んだら連中は出ていくだろう。

ピーターは、手出しせずに隠れているようスティーブに指示する。


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目の前に繰り広げられる光景に呆然としたスティーブだったが、ようやく退治した怪物が再び店内に溢れ返るのを見て憎悪に震える。

 

‘あんな奴らに、僕の店を荒らされてたまるか!’

スティーブの強い所有欲が怒りを増幅させ、ピーターの指示も忘れて飛び出した。

ライフルを構えると、略奪者を狙い撃つ!


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だが、彼の腕では怪物にすら当たらなかった。

スティーブの存在に気付いた連中が、一斉に発砲して来た。

射撃の腕は、相手の方が数段上だった!

柱の陰に隠れた瞬間、頭に近い位置に弾丸が炸裂する。

彼は、店の奥に逃げ込むしかなかった。
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最上階の部屋で銃声を聞いていたフランは、心配のあまり階段に出てきた。

ピーターとスティーブの二人だけで、怪物と略奪者を同時に相手にするなんて出来るわけがない。

今はただ、二人が無事に戻って来る事だけを信じて待つしかないのか。

彼女は、震える手で銃を握った。

 

ピーターは無線でスティーブを呼び出すが、応答はない。

忠告したにも関わらず、電源を切っているようだ。

二階で略奪者を静観していた彼だったが、さすがにイライラして来た。

 

‘スティーブは一体、何をしているのか!?’

バルコニーから下を覗いた時、暴走族の一人が目ざとくそれを見つけてピーターに向けて機関銃を乱射した。

走って逃げるピーターの身体を、弾丸がすれすれにかすめて飛んで行った!

 

デパートの一階は、まさに修羅場と化した。

略奪者たちは、怪物を惨殺するのを楽しんでいるようだ。

機関銃を浴びせ、首を切断し、頭を斧でかち割る。

中にはパイを顔にぶつけたり、水鉄砲で撃ったりとふざけ散らす者もいる。

 

スティーブは店舗に鍵を掛けて隠れながら、中央広場の様子を見ていた。

略奪者の余りの残虐ぶりに、もはや戦意を喪失し全身に震えが走る。

それは、これまでに怪物に対して抱いた以上の恐怖だった。

 

ガラスドアをこじ開けてこちらに迫る人影を見た瞬間、彼はピーターの事すら忘れて逃げ出した。

 

姿を見られたら、間違いなく殺される!

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「分かったよ、バカ野郎!こうなりゃ戦争だ」

自分に牙を剥かれたピーターの怒りも、ついに爆発した。

バルコニーの手すりからライフルを構えると、狙い撃つ。

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スコープの中で血に染まったのは、ゾンビではなく略奪者だった。

怪物以上に醜悪な…

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ピーターは二階に上ってきた略奪者に、バルコニーから発砲し続ける。

突然、建物の電力が落ちた。

ついにこの地区の原子力発電所も、機能停止に陥ったようだ。

全員が暗闇の中で、怪物に囲まれてしまった!

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その時スティーブは、二階へ向かうエレベーターの中にいた。

途中で閉じ込められた彼は、無線でピーターを何度も呼ぶが返事がない。

諦めて無線を下に置き、開いている天蓋からかごの上に登る。

二階のシャフト内にある通気口を抜けて、一人で隠れ家に戻ろうと考えた。

 

ピーターは通気ダクトから廊下に出ると、暗闇の中を走る。

途中で無線がしきりに音を立てていたが、無視した。

機械室に入ると、非常用の自家発電装置を起動する。

直後に全ての電力が、正常に戻った。

 

 

急にエレベーターが動き出した為に、ケーブルに掴まっていたスティーブは振動でライフルを落とした。

何故か、かごは下に動いている。

 

一階に止まると、下から人の声がする…

 

連中が呼びボタンを押したのだ!
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乗り込んできた略奪者は、天蓋が開いているのに気付いた。

 

怒鳴りながら、上に向けて銃を乱射する。
そのうちの一発が、スティーブの腕を貫く!

必死で叫び声をかみ殺すと、連中は諦めて出て行った。

 

スティーブは腕から血を流し、全身を震わせていた…

 

 

略奪者たちは入り口にバンを横付けにし、戦利品を積み込み出した。

 

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ピーターは天井ダクトから顔を出し、逃げ始めた連中を狙い撃ちする。

 

バイクから落ちた略奪者に、怪物たちが次々と群がる。
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略奪品を満載したバンが出発した。

続いて、オートバイも夜の闇の中に走り去る。

ピーターの手で六人程度の人間が命を落としたが、目的を果たした略奪者たちは気にも留めていないようだった。

 

沈黙が訪れた。

フランは指の節が白くなるほど銃を固く握り締め、非常階段で二人が戻るのを待っていた。

傷を負ったスティーブは再びかごの中に降り、無線を拾い上げてピーターの名を呼んだ。

無線から、ピーターの声がした。
「今どこにいるんだ!?」

エレベーターの中だと答える。

「いたるところに怪物がいるぞ、かごの上に登るんだ。

シャフトの通気口から俺が引っ張り上げてやる。すぐ行くからな!」

 

妙な懐かしさを感じた。

厳しい中にあるピーターの優しさが、今のスティーブには分かっていた。

二階のボタンを押し、彼は再び天蓋の上に出ようとする。

だが、撃たれた片腕に力が入らず登りきれない。

なんとか上半身を乗り出すと、すぐ目の前に通気口が見えていた。

 

その時、止まったままの二階で、突然エレベーターのドアが開いた。

一瞬スティーブは、何が起きたのか分からなかった。

何本もの手に足を掴まれ、鋭い痛みが全身を突き抜ける!

そのまま、恐ろしい力で引きずり下ろされた。
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ダクトの中で、ピーターは血の凍るような悲鳴を聞いた。

思わず這うのをやめ、無線でスティーブを何度も呼んでみる。

耳を澄ますが、もう何の物音もしない。

絶望感で、全身の力が抜けた。

無線を放り捨てると、彼はのろのろと非常階段の方へ引き返して行った…


だが、エレベーターの中ではスティーブが必死の抵抗を続けていた。

脚の刺すような痛みは、肉を大きく食いちぎられた為だ。

どんなに突き飛ばしても、五体の怪物たちは手を離そうとはしない。

まるでピラニアのように、次から次へと襲い掛かって来る。

一体が、彼の首に噛み付いた。

夥しい血を流しながら、スティーブはようやく銃を抜いた。

構えるのももどかしく、続けて引き金を引く。

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天井の通気口を下りて通路に出たピーターは、銃声を聞いて凍りついた。スティーブが死んだと決め付けたのは、大きな思い違いだったのではないか!?

全身の血が引いていった。

彼は、戦友を見殺しにしてしまった!

 

すっかり混乱したピーターはダクトに戻りかけたが、足を止めた。

今更もう遅い。

あれは死に瀕した者の、絶望的な最後の銃声だったのだ。

 

自分自身に、ひどく腹が立った。

荒い息を吐きながら、彼はコンクリートの壁を殴る。

痛みが、心に響いた…

 

 

エレベーターの中では、スティーブの死闘が続いていた。

殴ったり蹴ったりと、死にもの狂いで怪物たちを追い出す。

頭部を撃ち抜かれた一体が外に倒れ、ようやくかごの扉が閉じる。

怪物たちが外から叩いているが、ボタンを押すという知恵はなかった。

 

スティーブは、かごの床に座り込んだ。

首からの出血が止まらない。

 

苦しい呼吸の中で、フランの顔が浮かぶ。

そして、まだ見ぬ子供の姿を…


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非常階段を上がってきたのは、ピーターだけだった。

 

沈痛な彼の顔を見て、フランは全てを悟る。

 

銃を手に階段を駆け下りる彼女は、怪物への恐怖も何もなかった。

 

ただスティーブを想い、自分の命も顧みずに。


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ピーターは両手で彼女をしっかりと抱き止め、静かに言った。

「たぶん大丈夫だよ、とにかくしばらく待ってみよう…」

 

フランの手から、優しく銃を取り上げる。

もう彼女は、抵抗しなかった。

 

二人はいつまでもその場に立ち尽くす。

 

 

 

じきに、夜が明けようとしていた…

 

 


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~column~

最後に現れた最も恐ろしい敵は、同じ人間だった。

魂のないゾンビと、邪悪な魂を持つ略奪者との対比を通し、圧倒的な地獄絵図が展開する。

観る者は思考が止まり、ただひたすら傍観するしかない。

そしてこの光景に、一人一人が何らかのイメージを重ねるだろう。


この部分でのシナリオは、ほとんど粗筋に過ぎない。

全てに渡って即興の嵐だ。


完成品ではトラックを動かす場面がなく、横のスライドドアを破壊する。

トラックの運転席でサビーニはここに書いた通りのセリフを言っているのに、日本のほとんどの字幕では‘畜生!カギが壊されてる’と訳される。

流れを分かりやすくする為の意訳なのだろうが、それで喜んでるサビーニたちは馬鹿にしか見えない(笑)。

ちなみに何故かここは、日本初公開プリントでの字幕がなかった。

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ロジャーの死は、残された三人の心に大きな空洞を残した。

明るい笑い声や誰にでも親しみやすい性格は、彼らを一つにまとめる役割を果たしていたのだ。

 

失ってみて、初めてそれがわかった。

 

三人は小さい別々の部屋を作って、プライバシーが保てるようにした。

真ん中にリビングルームがあり、食卓も食器棚もフランが新婚家庭を持ったら欲しいと思っていた物が揃っている。

 

ピーターは今でも‘なぁに、冗談だよ!’とでも言いながらロジャーがひょっこり出てくるような、そんな気がしてならなかった。
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スティーブは、ショッピングセンターの中にあるアイススケート場にフランと出てきた。

 

銃の練習は口実で、彼なりにフランとの関係に気を遣っていた。

これまでの恐ろしい体験が、彼女をすっかり違う人間に変えた。

知らぬ間に開いてしまった距離を、元に戻したかったのだ。

 

だが、二人の間に会話は少なかった。
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フランとスティーブの関係は、ピーターにも多少の責任があった。

ロジャーのいなくなった今、彼は変わろうとしていた。

 

その夜、二人はピーターに招待された。

場所はデパート内の、小さなレストラン。

ありったけの食材を使った彼の料理の腕は見事で、二人に笑顔がこぼれる。

 

ピーターはホッとした。

ロジャーの墓の前で一人、ワインボトルを開けた彼は心の中でつぶやく。

 

‘上手くいくといいな、戦友’

 


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二人の食事は、和やかに進んでいた。

 

スティーブがフランに向けて、握った両手を差し出す。

「どちらか選んで」

 

微笑みながらフランが選んだ彼の手の中には、結婚指輪が握られていた。

彼女の顔から、笑みが消えた。

 

一度は手にしたものの、スティーブの手のひらに指輪を戻すフラン。

「今は受け取れないわ、嘘になるから」

 

その言葉に、彼が深く傷付いたのが分かる。

それでも、自分の気持ちに嘘はつけない。

 

 

スティーブは掌の上で、二つの指輪を哀しく転がした。

 

 


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それからの毎日は、空虚な時間だけが過ぎて行く。

 

彼らは夢遊病者のように売り場から売り場へと、なんの喜びも示さず移動した。

 

何でも欲しい物が自由に手に入る面白さは、もうなくなっていた。

 

 

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フランは洋服売り場で、目的もなく着替え続ける。

退屈から正気を保つ為の、唯一の手段であるかのように。

 

 

スティーブは毎日違った店を歩き廻り、目に付いたものを片っ端から試すのが日課になった。

自分の気に入った物があると、ピーターやフランからも隠そうとした。

 

 

屋上では、壁を相手にテニスを続けるピーターの姿があった。

全力でボールを打ち込むその顔は、まるで怒っているかのように見える。

 

あの日以来、ロジャーが死の間際に見せた、何かを問いかけるかのような眼のイメージが頭から離れなかった。

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彼はあの眼から逃れようと、力一杯にボールを引っ叩いた。

転がり落ちたボールは、下の駐車場で倒れる射殺された怪物のそばで跳ね返った。

既にミイラ化している。

あれからもう、三ヶ月もの月日が流れたのだ。

 

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怪物の大群が入り口を塞ぐトラックの周りに集まり、呻き声を上げながら壁やガラスを引っ掻いている。

その数は減るどころか、今や広い駐車場全体を埋め尽くすまでに増殖していた。

生き残った三人は、完全に籠の鳥だった。

 

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無意味とは知りつつ、フランは誰に見せるわけでもなく化粧をする。お腹の大きさもかなり目立つようになった。

スティーブとの関係は冷え切り、最近では会話もない。

化粧を終えて鏡に映る自分の姿は、マネキン人形と変わらなかった。
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夕食の時間が来た。

フランは男たちの為にビーフシチューの缶詰を温め、野菜の缶詰を添える。

その間スティーブとピーターは、百ドル札の束を賭けてトランプ遊びをしていた。

食事の最中も、この部屋ではテレビが点けっ放しになっている。

 

「どうして消さないの?」

フランが感情のない声で、スティーブに尋ねる。

既に、どのチャンネルも映らなくなっていた。

「また放送を再開するかもしれないからね」

目を合わせようともせず、無表情に答えるスティーブ。

ピーターは食事にも手を付けず、黙って座っている。

 

フランは無性に腹が立ち、テレビのところに行って乱暴にスイッチを切る。

彼女がテーブルに戻ると、スティーブは再びテレビのスイッチを入れた。

「私たち、どうなってしまったの?」

 

フランの言葉に答えは返らず、レコードが奏でる哀しげな音楽だけが響いていた。


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次の朝、彼女は目を覚ますと隣に寝ているスティーブを揺り起こす。

これまで過ごして来た三ヶ月間の繰り返しはもうごめんだと、自分の心に決めていた。

朝食を終えると、大きなお腹を抱えながら二人で梯子を登って屋上に出る。

朝日を浴びながら、ヘリコプターに乗り込んだ。

操縦席に座るフランに、レバーやボタンの扱い方を教えるスティーブ。

やがて大きな音を立てて、エンジンが静かな朝の空気をふるわせた。

 

これまでにフランが学んだのは、生き残る為にはなんでも自分でやらねばならないという事だった。

実際彼女はお産に関する知識も本で学び、今ではひとりでも出産できる自信があった。

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ヘリコプターがふわりと舞い上がり、空中で停止する。

「いいぞ、ではゆっくりと着陸させるんだ」

スティーブは離陸に成功したフランの手を取り、落ち着いた声で操縦を教える。

久しぶりに見た、彼の頼もしい顔だった。

ヘリは、無事に着陸した。

 

「やったぞ、ハニー!出来たじゃないか!」

スティーブが興奮して、叫ぶ。

嬉しさのあまり、フランは思わず彼に抱きついた。

十歳の時に、初めて自転車に乗れた日の喜びが甦った。

二人ともこのショッピングセンターに閉じ込められて以来、こんなに心の底から喜びを感じたのは初めてだった。

 

遠くから見ると屋上のヘリはとても小さく、エンジン音もかろうじて聞こえるかどうかだった。

だがその一部始終を、じっと見続ける者がいる。

双眼鏡を持つその男は、生きた死体ではない!

 

「今やるか、それとも夜まで待つか?」

 

 

そいつは、一人ではなかった…

 

 


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~column~
ロジャーの尊い犠牲により手に入れた彼らの日常は、決して楽しいものではなかった。

閉塞的な空間の中での自由など幻想でしかなく、彼らは次第に心のバランスを崩してゆく。

生きるとは何なのか。

しかし、フランは踏みとどまった。

相手に不満をぶつけても、何も変わらない。

状況を変えるには、まず自分が変わるしかないのだ。

この日を境にして、きっと彼らの生活は小さな希望を守りながら続いていったに違いない。

だが、どんな事にも必ず終わりは訪れる。

ある日突然に…

このブロックは、ほとんどシナリオに書かれていない。

ピーターのテニスと哀しい食卓、その後のヘリの練習描写が完成品と同じくらいで、映像はほとんど現場の即興で撮影されたようだ。

相違点としてはデパート内にペットショップがあり、最上階の部屋で仔犬を飼っている。

アダムという名の小さなスパニエル。

撮影時に変更されたが、小説には登場している。

映像のみに存在するものの一つに、フランの写真を撮ったスティーブに向かって‘ドラッグストアに現像でも頼んだら?’と彼女が冷たく言い放ち、笑顔だった彼も凍りつく場面がある。

人間関係の崩壊を強く印象付けるのだが、「ディレクターズカット版」以外では残されていない。

上映時間の都合が理由だろうが、ロメロもアルジェントも割と印象的なドラマ部分を削り取っているとも言える。

フランが化粧する場面の音楽はCDに収録されておらず、これまで何かの流用曲だと思い込んでいたのだが、なんとこれもゴブリンのサントラだったとは!

新たにトラックダウンからやり直した、コンプリート盤CDの発売を期待する。

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雲が切れて、月が上がった。

 

駐車場の怪物の群れは、ショッピングセンターの入り口を塞ぐトラックの周りに集まっている。

連中はガラスを割ってでも中に入ろうと、激しく叩く。

 

月光の中での怪物たちの呻き声は、まるで犬の遠吠えのようだ。

ガラス戸を叩く音は、建物の内にこもって響いた。

 

白兵戦が終わったあとの戦場のように、怪物たちの死体がコンコースいっぱいに散らばっている。

かつては幸せな人々が笑いながら買い物を楽しんでいた場所は、今や奇怪な墓場と化した…


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二階のバルコニーから下を眺めて、四人は一言も喋らなかった。

彼らはこの戦いに勝った。

だが、勝利の興奮も喜びも、何一つ湧いては来ない。

死体の中にはほんの数日前まで、生きた普通の人間だった者もあるだろう。

食欲のみに支配された哀しい屍たちは、真に永遠の安らぎを得たのだ。


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「ここを壁で塞ごう」

最上階の部屋で、ピーターが図面を見ながらスティーブに説明している。

非常階段の入り口を通路の壁に埋め込み、店には今後もダクトを通って移動する。

「いずれパトロール隊がここにも来るだろう、あるいは略奪者かもしれない。

誰にもここへの通路を知られたくないんだ」

ピーターは、スティーブを見ながら静かに言った。

これまでのいざこざをくぐり抜けて、互いの間に友情が芽生えていた。

スティーブもフランも、立派に戦える事を証明した。

彼らは一つのチームとなったのだ。

もはや、生き残ろうと争うだけのバラバラな個人ではない。

 

隣室では、フランがロジャーを心配そうに見守っている。

彼の身体は、火のように熱かった。

モルヒネを打ち、濡れたタオルでロジャーの額を冷やしてやると彼女は部屋を出た。

「眠ったみたい…」

 

フランの言葉を、ピーターは無表情に聞き流す。

彼は、ロジャーに駆け寄りたい気持ちと知らぬふりを続ける気持ちの間で、引き裂かれていた。

子供の頃からの癖だった。

ピーターは感情が高ぶると、かえって知らん顔をしてしまう。

傷付きやすいからこそ、そんな態度をとってしまうのだ。

「足の化膿が拡がっているわ。病院に連れて行けないの?

フランの悲しげな問いに、スティーブは黙ってピーターを見つめる。

「怪物に食われた人間を半ダースほど見たが、3日以上生きていた奴は一人もいなかったよ」

ピーターが冷たい調子で平然と話すのに、フランは驚いた。

二人は親友だと思っていたのに。

だがすぐに彼女は、彼がいずれ訪れる事態に対して自分自身を慣らそうとしているのだと気付いた。

 

となりの部屋から、ロジャーの声がした。

「俺たちはやったよな、戦友?あいつらを全部退治したんだ」

どこにそんな力が残っていたのか、彼は座っていた。

「やったとも、そうだよ、戦友」

ピーターの、何かを抑えるような声が答える。

「俺たちの勝ちだ!ざまぁみろ!」

寒々とした独りの部屋に、ロジャーの叫びが響く…
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フランとスティーブは、ピーターと共にもう二時間以上も壁を作るのに没頭している。

「ここを締め切ってしまう前に、何か欲しい物はないかい?」

スティーブに聞かれたフランは、何もないと答えると壁が半分出来かかっている裏の方に出た。

彼女は、ロジャーの事を考えていた。

誰よりも元気に跳びまわっていた彼が、今一人で死に瀕している。

あんなふうにして死ぬのだけは、嫌だった。

 

突然フランは吐き気に襲われ、トイレに飛び込む。

スティーブがそれに気付いて、駆け寄って来た。

背中をさする彼に対し、フランが言う。

「お願いだから出て行って、ここにいて欲しくないの」

あまりにもあけすけに言われ、スティーブは一瞬自分の耳を疑った。

フランは戸惑う彼を見て、その手を固く握る。

怒っているわけではなく、ただ一人でいたいのだと知らせる為に。

スティーブは不承不承立ち上がり、トイレから出た。

フランは、自分の腹を見下ろす。

そろそろ目立ち始める頃だ。

 

これから産まれてくる子供に、この恐怖がどんな影響を及ぼすだろうかと、ふと考える。

堕ろす事を何度も考えた。

だがもし生きてこの惨劇を乗り越えられる日が来るなら、子供はこの地上での唯一の救いとなるだろう。

この子や他の多くの子供たちが、新しい世代をスタートさせるかもしれない。

両親が経験したような、絶望とは違う世代を!

 

 

スティーブはノロノロと洗面所から出てきて、ピーターの傍に立った。

「すぐに腐るぞ」

ピーターが、廊下の向こうの死体を見て言った。

「掃除しなくちゃいけないな、兄弟」


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このデパート内に、片付けた怪物を密封出来る場所は限られていた。

大型の台車に亡骸を山積みにし、ピーターとスティーブは何度も大きな冷蔵室を往復する。

(脚本では巨大な金庫室を使う設定だったが、撮影の都合上なのか冷蔵室に変更となる。)

 

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夥しい数の死体を抱えながら、二人にはそれらがもとは人間とはどうしても思えなかった。


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冷蔵室の重い扉が閉じられ、惨劇は暗闇の中に封印された…

過酷な重労働が終わり、生き残った四人はついにこの楽園の王となった。

 

 

ピーターはスティーブと、金庫室に来ていた。

二人とも、こんなにたくさんの現金が一ヶ所に置いてあるのを初めて見た。

だが今では、これらは何の価値もない紙切れに過ぎない。

 

「先のことは分からんからな」

そう言いながら、ピーターは札束をナップザックに詰め込んだ。
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彼らは、まるで子供のようにはしゃぎまわる。
ここには何でも揃っていた。

人間の欲望に際限がなくとも、それを満たして余りある程に。

 

男たちとは離れて一人の時間を過ごしていたフランだったが、やがてスティーブを床屋へ連れて行き、椅子に座らせると黙って彼の髪を切った。

二人は鏡の中で、互いの目を見合わせるのを避けた。
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それから30分後、彼らは二階のバルコニーに集まった。

まだ武器を身に付けていたが、それぞれが着飾っている。

下のコンコースに散らばっていた死体は全て片付けたが、入り口の方から怪物たちの呻き声やガラスを叩く音が聞こえていた。

虚ろな眼差しのフランが、独り言のように問いかける。

「あいつらは一体、なんなの?」

 

「俺たちと同じさ、地獄にはもう死人を受け入れる余裕がないんだろう」

ピーターの言葉に、スティーブがぎょっとして振り返る。

「昔、俺の爺さんが言っていたっけ。

‘地獄が満員になった時、死者が地上を歩き出す!’とな」

目を伏せたピーターの顔は、暗く沈んでいた。

フランはミンクのコートを着ていても、背筋が寒くなるのを感じた。

 

入り口の物音は、だんだん大きくなって来るようだ…

 

 

翌日ピーターは下の廊下で、出入り口を隠している壁と廊下とのつながり具合を確認していた。

その時、上の部屋から凄まじい叫び声がした。

彼は通気ダクトに入ると、仕切りの裏側に出て非常階段を駆け上る。

 

部屋に飛び込むと、ちょうどフランがモルヒネの注射をロジャーに打ち終えたところだった。

スティーブが押さえようとしたが、ロジャーは死にかけた病人とは思えない怪力で暴れ、手が付けられない。

 

ピーターが大きな手を、彼の肩に乗せた。

すると、ロジャーは不思議なくらい静かになった。

 

フランはその様子を目に涙をいっぱい溜めて見ていたが、たまらなくなって出て行った。

 

「行ってくれ、俺が一緒にいるから」

 

ピーターの言葉にスティーブは、‘君のやろうとしている事はわかっているよ’とでも言いたげな顔で部屋の外に去った。
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ロジャーは途切れがちの息で、こう言う。
「あいつらみたいに歩き廻りたくないんだ、ピーター…死んだ後に…」

 

ピーターは、心の準備を終えていたはずだった。

だが今、彼の目は潤み、顔が苦悩に歪む。

 

「俺の面倒はみてくれるよな…君ならやってくれる…」

 

「やってやるとも」

ほとんど機械的な声で、ピーターが答える。

 

焦点の合わなくなった目で、ロジャーは彼を見上げた。

「ピーター、やらないでくれ…間違いないと見届けるまでは…俺は生き返らないかもしれない…」

ロジャーの声は段々弱まり、身体に震えが走った。

 

「俺はなるべく…生き返らないようにする…頑張る…」

 

最後の痙攣で身体を硬直させ、ロジャーは息を引き取った。

 

ピーターは動かなくなった胸の上に手をのばし、見開いたままの瞼を閉じてやる。

それから何も言わずにじっと座っていた。

 

彼の頬を、涙が筋を引いた…

 

 

スティーブは、テレビを一心に見ていた。

フランは、隣の部屋のことは考えまいとした。

ロジャーが何も言わなくなってから、ずいぶん時間が経つ。

だが二人には、様子を見に行くだけの度胸はなかった。

 

テレビでは、科学者とコメンテーターが討論を繰り広げている。

スティーブは自分達以外に、まだ生きている人間を見るのが不思議に思えた。

あれからたった四日程しか経っていないのに、彼らの生活は引き裂かれ、時間もその意味を失っていた。

[生き残ったのは馬鹿ばかりだ!]

テレビから流れる科学者の声が、隣の部屋にも響いている。

 

ピーターは、銃を手に座っていた。

その顔はなんの表情も表していなかったが、彼の眼は一点を見つめていた。

 

ロジャーの遺体は、頭から毛布を被されている。

 

その下で、何かが動いた。

見間違いではないのか、想像でそんな風に見えたのではないかと目を見張る。

だが、間違いではなかった…

 

足が動き、手が動き、顔にかけた毛布が動き出した。


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ピーターは毛布がロジャーの顔からずり落ちて行くのを、信じられない気持ちで見つめる。

もはや人間ではなくなったその顔は、彼の感情を拒絶するかのようだ。

 

黒く落ち窪んだ眼が、開かれた。

 

ロジャーは、まるで獲物を探すような視線を左右に動かす。

 

ピーターと、目が合った。

 

ゆっくりと起き上がる怪物に、かつての戦友は銃口を向ける。


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テレビでは、罵詈雑言の飛び交う放送が続いている。

スティーブは、WGONのスタジオと同じだと思った。

状況だけが悪化し続けている…

 

科学者が、画面いっぱいに叫ぶ。

[感情的になるな!]

 

突然、隣の部屋から凄まじい銃声が轟いた。

フランはしっかりと目を閉じる。

スティーブは、自分の腕に顔を埋めた。

 

 

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それからしばらくして、ピーターとスティーブはシャベルを持って中央広場の植え込みに来た。

フランは一人でベンチに座り、二人の作業を見守る。

 

彼らは友人の亡骸を、人間らしく土の中に埋葬した。

 

ピーターは無意識にも、長い事忘れていた主への祈りを心の中で唱えていた…

 

 


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~column~
このブロックは、細かい点でシナリオと完成映像の違いがある。

ゾンビの被害者の生存時間を、長くても36時間だとピーターは言う。

撮影時は、三日という言葉に変更された。

死体処理の場面でも、フランがロジャーのカートを押して歩く描写は存在しない。

更に、彼らが物欲に溺れる描写は三人のみで、ロジャーは一人で寝込んでいる。

現場の即興で、四人の場面に変更されたようだ。

同様に、死体を仕舞う場所も冷蔵室ではなく巨大な金庫の中だった。

 

ロジャーの死に関する映像は現在見られるものが全てと思われ、ここに引用した彼の死に涙するピーターの描写は小説のみに存在する。

その後スティーブがテレビのチャンネルを変える映像が伊版に存在し、ロジャーの動きも多い。だが、顔のアップがなかったりもする。

テレビで流れる科学者とコメンテーターの討論は、撮影された映像の方が過激。

‘大都市に核爆弾を投下しろ’等はシナリオに存在しない。

ロジャーの遺体も、金庫に葬られる設定が変更された。

 

さて、ここで僕の見解をひとつ。

今回発売された「ゾンビ・新世紀完全版BOX」のブックレットにも書かれているが、「ラフカット版」には別テイク映像も存在するかどうかについて。

映画の撮影では、NGも含めて大量の素材映像が生まれる。

それらを全て現像し、OKテイクを大まかに繋げたものがラッシュフィルムだ。

この時点では効果音やBGMは存在せず、特撮場面は絵コンテのままだったりもする。

いわゆる設計図みたいなもので、これに不都合があれば別テイクの映像と差し替えたり、リテイクが行われる。

問題点がなければ、編集テスト等を重ねた後に撮影されたマスターネガをその長さに編集する。

効果音やBGMが付けられるのもこの時点だ。

 

イタリアに送られた「ラフカット版」とは、撮影素材ではなく完成品としての存在だったはずなのだ。

だから、一部のファンが想像するような別テイク映像はここにはないと考えるのが正しい。

尾崎一男氏の記事の中に例として挙げられたフランとスティーブの場面も、ペンキの缶を取りに行く前と後の映像を別テイクと勘違いしているだけで、「ラフカット版」では当然どちらも存在する。

更に、フランとの会話がその前に存在する可能性があり、スティーブが手に持っていたはずのファイルが消えている事からもまだ見ぬ映像が隠されているのは間違いない。

ちなみに、シナリオではペンキ缶を取りに行くのはフランの設定なのだが、撮影ではスティーブに変更されている。

理由は不明だが、完成作品だとフランが何をしていたのかが明確ではない。

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駐車場が再び静寂に包まれる頃には、もうすっかり日が暮れていた。

4箇所の出入り口は、大型トラックにより全て塞がれた。

怪物の群れは中に入ろうとしてひしめき合ったが、もはや出ることすら出来ない。

 

「問題は、あとどれだけ中に残っているかだ」

ピーターはスティーブと最上階の部屋で、図面を見ながら計画を練っている。

その近くで、ロジャーがフランの手当てを受けていた。

「頑張れそうかい?戦友」

心配そうに問いかけるピーターに、ロジャーはあっさり答える。

「やるべき事を早く片付けちまおうぜ」

 

本当は耐えられない程の痛みだった。

だが彼は、ピーターの前では弱音を吐きたくなかったのだ。

フランとロジャーを残し、ピーターはスティーブを連れてダクトの中を移動した。


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銃砲店の天井通気口から降り立つ二人。

彼らは、持てるだけの銃と弾薬をかき集める。
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ライフルのスコープを覗きながら、ピーターが言った。

「お前ら待ってろよ、すぐに行くぞ!用意は出来た」
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最上階の部屋に戻った彼らは、完全武装していた。

弾薬入りのベルトをぶら下げ、四人それぞれ腰に二丁拳銃のホルスターとライフルを肩に掛ける。

その姿は、少々マンガ的でもあった。

ピーターはロジャーを背負って非常階段を下りると、補給物資を運んだカートに乗せた。

 

廊下から二階のバルコニーに出た四人は、一度立ち止まると互いの顔を見た。

命がけの戦いだ。

果たして本当にやり遂げられるのか、どこまで走り抜けられるだろうか。

 

しかし、彼らの決意は変わらなかった。

スティーブとフランが、先頭を走った。

ピーターが、ロジャーのカートを押して後に続く。

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スティーブが鍵を開ける間、ピーターは高性能ライフルで迫る怪物を狙い撃つ。

ロジャーもカート上から数発撃ったが、上手く当たらずもどかしい。

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フランが店内に入り、続いて全員が中に入るとガラスドアを施錠する。

怪物の群れが密集する頃には、四人は一階に向かっていた。

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「乗り心地はどうだい?」

エレベーターのボタンを押しながら、ピーターがロジャーに聞く。

「いいとは言えないな」

ロジャーはユーモアを交えて答えたが、ひどく痛むことが見てとれた。

 

中に乗り込むと、ピーターはロジャーの肩に手を置く。

「なぁ、俺はな…」

彼の声は、少しかすれていた。

「わかってるよ、何も言うな」

ロジャーも、ぎこちなく答える。

 

二人は、まさに戦友だった。出会ってからの時間は短くとも。

そこには、言葉にはならない何かがあった。

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エスカレーターで一階に降りたスティーブとフランは、プロパントーチに火を点けて準備していた。

合流したピーターは、ガラスドアの鍵を外すよう指示する。

4箇所の出入り口を完全封鎖してから、中の怪物を一体残らず処分するのだ。

入り口までの長い通路を、無数の怪物が蠢いているのが見える。

 

「遠すぎるわ!あまりに危険が大き過ぎる」

フランが、恐怖をおさえながら反対した。

「やめるわけにはいかん、全てのドアを施錠するんだ」

ピーターの言葉は、男たち皆の決意でもあった。

「君はここに残って援護してくれ」

スティーブが彼女を気遣う。

 

突然、フランの目が輝いた。

「自動車!」

彼女は、広場に展示されていた一台のワゴン車を指差す。

ピーターはすぐに、フランの考えを読み取った。

 

「エンジンを動かせるかい?」

ピーターに聞かれたロジャーは、ニッコリ笑った。


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ガラスドアが開かれた。

スティーブとフランが、プロパントーチの炎で前列の怪物を威嚇する。

ピーターはその隙間を縫って、ロジャーのカートを押して出た。

 

「ドアを閉めろ!」

ピーターが叫ぶ。

怪物がなだれ込もうと押し寄せる中、続いて外に出たスティーブはフランに鍵を渡すのを忘れていた。

慌てて腰から外そうとしたが、ベルトに絡んで離れない!

怪物たちが、彼の背後に迫る。

 

ピーターはフランの叫びを聞いて立ち止まり、後ろを振り返る。

ガラスドアの周りには大勢の怪物たちが立ち塞がり、何が起きたのかよく見えない。


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「おい、どうした?そこはいいからこっちへ来い!」
ピーターが、スティーブに向けて怒鳴る。

 

苦痛を堪えながらもロジャーは、目前の怪物に向けて数発撃つが命中しなかった。

周りを怪物たちに囲まれ、ピーターは再びロジャーの乗ったカートを押して自動車を目指す。

 

一方スティーブが鍵をベルトから引き離し、ドアの隙間からフランに渡す。

同時に、背後から怪物が掴みかかる!

間一髪で魔手を逃れた彼は、ピーターを追って全速力で走った。

 

フランはガラスドアに施錠すると、男たちの行方を見守るしかなかった。
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ピーターは展示車両の前でカートを止め、続々と集まる怪物を狙撃する。

ロジャーは全身の力を振り絞り、カートから降りると車の後部ドアから上半身を潜り込ませる。

 

その時、一体の怪物が死角から飛び出し、ロジャーの足の傷をどす黒い爪で抉った!

白い包帯から、真っ赤な鮮血が吹き出す。

あまりの苦痛に、ロジャーの悲鳴が響く…

ピーターは至近距離から、その怪物の頭部を吹き飛ばした。

 

突き刺すような痛みと戦いながら、ロジャーはなおも運転席で電源配線を繋ぐ。

 

怪物の群れの中を駆け抜けたスティーブが、後部座席に乗り込んだ。

 

今やコンコースのあらゆる場所から、、怪物の大群が彼らめがけて押し寄せている。

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運転席に座るロジャーの身体は、汗と血で濡れていた。

歯をしっかりと噛み締めて、アクセルを踏み込む。

車はコンコースへ、直接向かって走り出す!

苦痛のあまりロジャーは一瞬、車のコントロールを失いもう少しで大理石の柱にぶつかるところだった。

からくも車を立て直し、目指す入り口の方へ向かう。

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ガラスの扉は大型トラックで塞がれてはいたが、怪物の一部はその下をくぐってなおも入り込もうとしていた。

ピーターとスティーブは車を降りると、ドアを開けようとしている怪物に向けてプロパントーチの炎を浴びせる。

無理にドアを閉めると、挟まっていた怪物の手が千切れて落ちる。

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スティーブは前に見たことのある、中世の地獄の門の壁画を思い出した。

一瞬、自分は何をしているのだろうかと思いかけたが、すぐにそんな考えは心の中から追い出す。

 

完全施錠後に警報装置をセットした二人が車に戻ると、ロジャーは次の入り口に向かった。

 

 

フランは店の内側から、三人を乗せた車がコンコースを走り去るのを見送る。

同じ仲間として行動するつもりだったのに、結局また自分ひとりが安全な場所に残された。

トランシーバーからスティーブの声が響く。

「作業は成功した、順調だよ!」

 

彼女は、小さなため息をついた。
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車は、すれ違う怪物たちを次々と狙撃しながら突き進む。

その中の一体が無謀にも立ち塞がったが、無慈悲に跳ね飛ばされ床に叩きつけられた。

二番目の入り口の前に停車すると、再びピーターとスティーブが飛び出してドアに鍵を掛ける。

コンコースを見渡すと、怪物の数は更に増えたようだった。

 

「どのくらい中にいるだろう」

不安そうに聞くスティーブに、ピーターが平然と答える。

「そう多くはないさ、簡単に始末出来る。ドアを全て閉めてから、狩りを始めるぞ」

 

スティーブはゾッとして、ライフルを構える大柄なSWAT隊員を見上げた。

引き金に力を入れる彼の眼は、残忍な光を帯びていた。

ピーターが覗くスコープの中で、怪物の頭が砕け散る。

スーパーガンの威力を楽しんでいた。

 

彼は、微かに笑っていた…


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巨大なショッピングセンターの中で、銃声が響く。

その音に引き寄せられた怪物たちが、車を追ってコンコースをふらふらと歩いて行く。

すでに百以上の死体が散らばり、その中には血を流しながらも再び起き上がり歩き出すものもあった。

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フランは、ガラスドア一枚を隔てた地獄絵図をぼんやり見ている。

一体の怪物が、群衆と離れて彼女の方に近寄って来た。

虚ろな目が合った。

赤子のような目だと、彼女は思う。

食欲という本能だけで動く彼らにも、人間らしい部分は残っているのだろうか?

 

銃声が近付いてきた。

フランの前に座り込んだ怪物は、襲いかかる様子もなくただじっと彼女を見つめている。

 

‘…あなたも、孤独なのね…’

フランはガラス越しに、寂しい笑みを浮かべた。

 

 

 


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~column~
普通に見ているとあまり意識しないが、ロジャーはあの傷で更に2箇所の入り口をトラックで閉鎖したわけだ。

 

無論、それらの描写も映像化もない。

四人が武装して階段を下りて来る描写があるが、映像としての構成では必要性がない為撮影されていないだろう。

ピーターがガラスドアに入るまでにライフルを撃つ場面で、伊版では「ラフカット版」の別の部分から頭部破壊の映像を抜き出し、編集を変えて米版よりも一人多く倒している。

メイキング映像を見る限りでは、終盤の大殺戮場面からのようだ。


さて、ここでネタをひとつ。

伊版の原版が「ラフカット版」なので、米版と同じ音楽がかすかに聞こえる場所があると前に書いた。

そして今回、なんと米版でも同様な状態を確認出来たのだ。

「ゾンビ・新世紀完全版DVD-BOX」のディレクターズカット版で、2箇所目の入り口に車を停めるところ。

日本語吹き替え音声で聞いて欲しい。

ゴブリンの曲の裏でかすかに聞こえる音楽こそ、ロメロが最初に選曲した「ラフカット版」での差し替え前のものと考えて間違いない。

 

磁気テープの音移りという、アナログ時代ならではの珍現象なのだろう。