
寒い夜だった。
夕食の後で、久々に和やかな時間が流れていた。
ソファーでうたた寝するスティーブの耳に、ラジオのノイズ音が聞こえてくる。
放送が再開されたのだろうか…
目を開くと、超短波無線のスピーカーの前にピーターが待機していた。
[我々は、君たちがそこにいる事を知っている・・・]
明らかに人の声だった。
他の生存者が、無線で交信を求めているのだ!
隣の部屋から、フランも顔を出す。
スティーブが口を開こうとするのを、ピーターは腕で制止する。
[通りすがりの者だ、少し補給物資が欲しい・・・]
訓練を積んだピーターの耳は、妙な違和感を感じ取った。
背後で複数の声が交差し、旅先で困っているにしてはやけに自信たっぷりだ。
[中には何人いるんだ?こちらは三人だ・・・]
自分たちの数をわざと言うのは、こちら側を話に引き込む為の戦術だ。
このずる賢さから見ても、相当の悪党らしい。
ピーターの恐れていた日が、ついに訪れた。
略奪者の襲撃だ!
話を真に受けて、分けてやろうと言い出すフランをピーターは厳しく黙らせる。
彼の顔は、以前の険しさを取り戻していた。
この2,3週間塞ぎ込んで感傷的になっていたピーターだったが、皮肉なことに新たな危機が彼を立ち直らせたようだった。
返事がないのに痺れを切らしたのか、再び横暴な声がこう告げた。
[お前らまずい事をしたな、俺たちは独り占めするような奴は大嫌いなんだよ!]
ピーターはその声を聞いた途端、行動を開始した。
「さあ行くぞ」
ピーターの冷ややかな声にスティーブは飛び上がり、後に続く。
フランだけが呆然と、お腹を押さえながら梯子を登る男たちを見つめていた。
略奪者は、次々と地方を荒らし廻る暴走族の集団だった。
大都市の生き残りが武装し、あらゆる悪行を重ねながらここまで来たのだ。
ボスのソアを中心に、様々な男女が一味に加わっていた。
二台のバンには銃や斧、ナイフ、爆弾まで何でも揃っている。
バイク十八台が先陣を切り、ショッピングセンターを目指して走り出した!

屋上で、双眼鏡を覗くピーターがつぶやく。
「あれが三人ってか?」
スティーブの目にも、暗闇を照らしながら突っ込んで来る集団がはっきり映った。
「奴らは入ってくるぞ、トラックを移動させてな」
そう言いながらも、ピーターの心臓は大きく波打っていた。
ロジャーがいないのが、今更ながらに響いた。
「下には何百という怪物がいるじゃないか」
スティーブの呑気な答えに、ピーターは我慢しきれずに言う。
「あいつらはプロの軍隊と同じだ!今日まで戦い抜いて来やがったんだ。
だが、そう簡単にはやらせんぞ、来い!」
ピーターは梯子を下りると、フランに目もくれずに通り過ぎる。
彼女は後から来たスティーブに、状況を聞く。
「二十人くらいいるよ、僕たちは店のゲートを全部閉めてくる」
取り乱す彼女に、スティーブはなだめるように言った。
「ただ閉めるだけさ、ここにいる事は気付かれないよ」
それが、フランが彼から聞いた最後の言葉だった。
ピーターはSWATの制服に身を包み、金のブレスレットや宝石入りの指輪を放り捨てる。
その手には、久々に重く冷たいライフルが光っていた。
屋外では騒ぎに反応した怪物の群れが巨大な壁となり、皮肉にもこのショッピングセンターを護るような形となった。
しかし略奪者は怯む事なく、銃弾の雨を浴びせる。
早くも駐車場は、怪物たちの血の海と化した。

デパートの一階では、ピーターとスティーブが店のゲートを次々と引き降ろす。
外で大きな爆発音がした。
入り口が破られるのも時間の問題だった。
大型トラックの運転席に乗り込んだ男が、笑いながら叫ぶ。
‘配線にテープが巻いたままだぜ!まるで俺たちを待っていたみたいだな!’
ロジャーの命を懸けた仕事は、無に帰した。
暴走族の音に引き寄せられて、他の入り口からも怪物の大群が一ヶ所に集まりだした。
機関銃で鍵が破壊される。
スライドドアは、力ずくでこじ開けられた…

エントランスホールに、非常ベルが鳴り響く。
万一に備えてセットした警報装置が作動したのだ。
スティーブの心臓が、早鐘のように打ち出す。
ついに、連中が内部に侵入した!

バイク部隊が突入すると、一気に怪物たちもなだれ込んだ。
「何百ものゾンビがご一緒だ、さすがに奴らも手を持て余すさ」
ピーターは無線でスティーブに告げると、二階で様子を見ることにした。

オートバイの集団は、地響きを立てて中央広場に侵入した。
コンコースを走り廻ると、血だらけの怪物たちも後を追う。
閉めたばかりの店のゲートも、連中は簡単にこじ開けてしまった。
欲望に溺れた集団は、死者と生者が入り乱れての地獄絵図を展開する…

好きなだけ荒らし回り、欲しい物を盗んだら連中は出ていくだろう。
ピーターは、手出しせずに隠れているようスティーブに指示する。

目の前に繰り広げられる光景に呆然としたスティーブだったが、ようやく退治した怪物が再び店内に溢れ返るのを見て憎悪に震える。
‘あんな奴らに、僕の店を荒らされてたまるか!’
スティーブの強い所有欲が怒りを増幅させ、ピーターの指示も忘れて飛び出した。
ライフルを構えると、略奪者を狙い撃つ!

だが、彼の腕では怪物にすら当たらなかった。
スティーブの存在に気付いた連中が、一斉に発砲して来た。
射撃の腕は、相手の方が数段上だった!
柱の陰に隠れた瞬間、頭に近い位置に弾丸が炸裂する。
彼は、店の奥に逃げ込むしかなかった。

最上階の部屋で銃声を聞いていたフランは、心配のあまり階段に出てきた。
ピーターとスティーブの二人だけで、怪物と略奪者を同時に相手にするなんて出来るわけがない。
今はただ、二人が無事に戻って来る事だけを信じて待つしかないのか。
彼女は、震える手で銃を握った。
ピーターは無線でスティーブを呼び出すが、応答はない。
忠告したにも関わらず、電源を切っているようだ。
二階で略奪者を静観していた彼だったが、さすがにイライラして来た。
‘スティーブは一体、何をしているのか!?’
バルコニーから下を覗いた時、暴走族の一人が目ざとくそれを見つけてピーターに向けて機関銃を乱射した。
走って逃げるピーターの身体を、弾丸がすれすれにかすめて飛んで行った!

デパートの一階は、まさに修羅場と化した。
略奪者たちは、怪物を惨殺するのを楽しんでいるようだ。
機関銃を浴びせ、首を切断し、頭を斧でかち割る。
中にはパイを顔にぶつけたり、水鉄砲で撃ったりとふざけ散らす者もいる。
スティーブは店舗に鍵を掛けて隠れながら、中央広場の様子を見ていた。
略奪者の余りの残虐ぶりに、もはや戦意を喪失し全身に震えが走る。
それは、これまでに怪物に対して抱いた以上の恐怖だった。
ガラスドアをこじ開けてこちらに迫る人影を見た瞬間、彼はピーターの事すら忘れて逃げ出した。
姿を見られたら、間違いなく殺される!

「分かったよ、バカ野郎!こうなりゃ戦争だ」
自分に牙を剥かれたピーターの怒りも、ついに爆発した。
バルコニーの手すりからライフルを構えると、狙い撃つ。

スコープの中で血に染まったのは、ゾンビではなく略奪者だった。
怪物以上に醜悪な…

ピーターは二階に上ってきた略奪者に、バルコニーから発砲し続ける。
突然、建物の電力が落ちた。
ついにこの地区の原子力発電所も、機能停止に陥ったようだ。
全員が暗闇の中で、怪物に囲まれてしまった!

その時スティーブは、二階へ向かうエレベーターの中にいた。
途中で閉じ込められた彼は、無線でピーターを何度も呼ぶが返事がない。
諦めて無線を下に置き、開いている天蓋からかごの上に登る。
二階のシャフト内にある通気口を抜けて、一人で隠れ家に戻ろうと考えた。
ピーターは通気ダクトから廊下に出ると、暗闇の中を走る。
途中で無線がしきりに音を立てていたが、無視した。
機械室に入ると、非常用の自家発電装置を起動する。
直後に全ての電力が、正常に戻った。
急にエレベーターが動き出した為に、ケーブルに掴まっていたスティーブは振動でライフルを落とした。
何故か、かごは下に動いている。
一階に止まると、下から人の声がする…
連中が呼びボタンを押したのだ!

乗り込んできた略奪者は、天蓋が開いているのに気付いた。
怒鳴りながら、上に向けて銃を乱射する。
そのうちの一発が、スティーブの腕を貫く!
必死で叫び声をかみ殺すと、連中は諦めて出て行った。
スティーブは腕から血を流し、全身を震わせていた…
略奪者たちは入り口にバンを横付けにし、戦利品を積み込み出した。

ピーターは天井ダクトから顔を出し、逃げ始めた連中を狙い撃ちする。
バイクから落ちた略奪者に、怪物たちが次々と群がる。


略奪品を満載したバンが出発した。
続いて、オートバイも夜の闇の中に走り去る。
ピーターの手で六人程度の人間が命を落としたが、目的を果たした略奪者たちは気にも留めていないようだった。
沈黙が訪れた。
フランは指の節が白くなるほど銃を固く握り締め、非常階段で二人が戻るのを待っていた。
傷を負ったスティーブは再びかごの中に降り、無線を拾い上げてピーターの名を呼んだ。
無線から、ピーターの声がした。
「今どこにいるんだ!?」
エレベーターの中だと答える。
「いたるところに怪物がいるぞ、かごの上に登るんだ。
シャフトの通気口から俺が引っ張り上げてやる。すぐ行くからな!」
妙な懐かしさを感じた。
厳しい中にあるピーターの優しさが、今のスティーブには分かっていた。
二階のボタンを押し、彼は再び天蓋の上に出ようとする。
だが、撃たれた片腕に力が入らず登りきれない。
なんとか上半身を乗り出すと、すぐ目の前に通気口が見えていた。
その時、止まったままの二階で、突然エレベーターのドアが開いた。
一瞬スティーブは、何が起きたのか分からなかった。
何本もの手に足を掴まれ、鋭い痛みが全身を突き抜ける!
そのまま、恐ろしい力で引きずり下ろされた。

ダクトの中で、ピーターは血の凍るような悲鳴を聞いた。
思わず這うのをやめ、無線でスティーブを何度も呼んでみる。
耳を澄ますが、もう何の物音もしない。
絶望感で、全身の力が抜けた。
無線を放り捨てると、彼はのろのろと非常階段の方へ引き返して行った…
だが、エレベーターの中ではスティーブが必死の抵抗を続けていた。
脚の刺すような痛みは、肉を大きく食いちぎられた為だ。
どんなに突き飛ばしても、五体の怪物たちは手を離そうとはしない。
まるでピラニアのように、次から次へと襲い掛かって来る。
一体が、彼の首に噛み付いた。
夥しい血を流しながら、スティーブはようやく銃を抜いた。
構えるのももどかしく、続けて引き金を引く。
天井の通気口を下りて通路に出たピーターは、銃声を聞いて凍りついた。スティーブが死んだと決め付けたのは、大きな思い違いだったのではないか!?
全身の血が引いていった。
彼は、戦友を見殺しにしてしまった!
すっかり混乱したピーターはダクトに戻りかけたが、足を止めた。
今更もう遅い。
あれは死に瀕した者の、絶望的な最後の銃声だったのだ。
自分自身に、ひどく腹が立った。
荒い息を吐きながら、彼はコンクリートの壁を殴る。
痛みが、心に響いた…
エレベーターの中では、スティーブの死闘が続いていた。
殴ったり蹴ったりと、死にもの狂いで怪物たちを追い出す。
頭部を撃ち抜かれた一体が外に倒れ、ようやくかごの扉が閉じる。
怪物たちが外から叩いているが、ボタンを押すという知恵はなかった。
スティーブは、かごの床に座り込んだ。
首からの出血が止まらない。
苦しい呼吸の中で、フランの顔が浮かぶ。
そして、まだ見ぬ子供の姿を…

非常階段を上がってきたのは、ピーターだけだった。
沈痛な彼の顔を見て、フランは全てを悟る。
銃を手に階段を駆け下りる彼女は、怪物への恐怖も何もなかった。
ただスティーブを想い、自分の命も顧みずに。

ピーターは両手で彼女をしっかりと抱き止め、静かに言った。
「たぶん大丈夫だよ、とにかくしばらく待ってみよう…」
フランの手から、優しく銃を取り上げる。
もう彼女は、抵抗しなかった。
二人はいつまでもその場に立ち尽くす。
じきに、夜が明けようとしていた…
~column~
最後に現れた最も恐ろしい敵は、同じ人間だった。
魂のないゾンビと、邪悪な魂を持つ略奪者との対比を通し、圧倒的な地獄絵図が展開する。
観る者は思考が止まり、ただひたすら傍観するしかない。
そしてこの光景に、一人一人が何らかのイメージを重ねるだろう。
この部分でのシナリオは、ほとんど粗筋に過ぎない。
全てに渡って即興の嵐だ。
完成品ではトラックを動かす場面がなく、横のスライドドアを破壊する。
トラックの運転席でサビーニはここに書いた通りのセリフを言っているのに、日本のほとんどの字幕では‘畜生!カギが壊されてる’と訳される。
流れを分かりやすくする為の意訳なのだろうが、それで喜んでるサビーニたちは馬鹿にしか見えない(笑)。
ちなみに何故かここは、日本初公開プリントでの字幕がなかった。