四人を乗せたヘリコプターは、ピッツバーグから60マイル北の上空を飛んでいた。
彼らが旅を共にしてから、二度目の夜明けを迎えた。
途中何度か燃料補給で立ち寄った場所は、既に人の気配がなかった。
少なくとも、生きた人間の姿は…
ラジオもない、水も残り少なく、食料すら持ち合わせていない現状は、この逃避行の限界を迎えようとしている。
ヘリを操縦するスティーブには、睡眠も必要だった。
前方に、広大な敷地にそびえる窓のない建物が見えて来た。
ショッピングセンターだった。
このあたりの山地に散らばっている炭鉱町の人々を目当てに、最近造られた大型店舗だ。
東西南北に4箇所出入り口がある。
窓がないのは、客を外に向けさせずに買い物に集中させる為なのだ。
中には食料から衣料、住宅用品、更にはレジャー用品まで、生活していく上で必要な全ての商品が揃っている。
建物の上空に近付くと、周囲に数台の車が乗り捨ててあるのが見えた。
この非常事態に通常営業しているはずもなく、ショッピングセンターは不気味な静けさを纏っている。
彼らは、無人の屋上にヘリを着陸させた。
(着陸映像は伊版が長い。使用曲はゴブリンだが、「ディレクターズカット版」のみ選曲が違う)
ヘリから降りると、ピーターは民間人を置いて素早く行動した。
彼はずっと前から、この世を生き抜くには自分の力と頑張りしかないと知っていた。

屋上から見下ろすと、フットボールの競技場を六つ合わせた程の大きな駐車場を歩く死体の一群が見える。
普通の人間と変わらないようだが、怪物独特の歩き方を見慣れた彼らには間違えようがなかった。
ヘリの爆音も、下の怪物の注意を引かないようだった。
慌てて飛び立とうとするスティーブとフランを、なだめるロジャー。
「急ぐ事はないさ、調べてみよう」
二人から離れ、ピーターを追う。
建物の入り口は大きなガラスドアになっていて、連中の何体かはすでに内部に侵入している。
ピーターは天井に作られてある、透明なプレキシガラスの明り取りの窓を透かして建物内部を覗いている。
ここからはほんの一部しか見えないが、下の中庭までは二階建ての高さがある。
中央の広場から出入り口まで通路が四方に延びていて、その両側に店舗が並んでいた。
どの店も、施錠されているようだ.
「まだ店内には入って来ていないようだな」
ピーターが、ロジャーに向けて言った。
屋上には太陽熱発電システムが設置されており、この地域の電力が切れていないのは原子力発電所からの供給が生きているようだ。
さらに別の明り取り窓を覗くと、中庭に面した二階の部分は手すりの付いたバルコニーになっている。
そこに、怪物の姿はなかった。
「二階に下りることができれば…」
そう言うとロジャーは、一人で行動するピーターの後に続いた。

フランとスティーブは、あても無く歩き続ける死人たちを見てこう思った。
まるで、今の自分らと同じではないか…
連中がこの場所へ引き寄せられて来るのは、何故だろう?
一種の本能か、記憶か。
生前のものが残っているならば、の話だが…
二人は、一刻も早く飛び立ちたかった。
日が沈まないうちに出来るだけ遠くへ飛び、カナダを目指したかったのだ。
その地ならば状況が違うかもしれないと、自分に言い聞かせていた。
恋人たちにとっては、それが精一杯の生きる希望だった。
ピーターとロジャーは、天窓のすぐ下に倉庫を発見した。
水や缶詰め等の緊急物資が山積みになっている。
興奮するロジャーの声を聞きつけて、後の二人もやって来た。
しかし、ガラス窓は施錠されている。
降りる方法はないかと、ロジャーに言うスティーブ。
その問いに蔑むような眼差しを向けると、ピーターはライフルの台尻で窓を砕いた。
(米版ではスティーブが窓を開けようとする映像がなく、伊版ではセリフが切られている)
梯子を降りて、彼らは対照的な行動をとった。
フランとスティーブは缶詰を手に取り、ピーターとロジャーは二箇所のドアをチェックした。
その大きな部屋は、内部の非常階段に直結していた。
ドアには鍵が掛からなかった。
ピーターは他の三人がまるでそこにいないかのように無視して、ドアの前にダンボール箱を積み上げてバリケードにした。
簡単な食事を終えると、スティーブンは泥のような眠りに落ちた。
ロジャーはダンボールに寄り掛かりながら、ピーターを見ていた。
最初に出会ってからまだ三十数時間しか経っていないのに、まるで一生が過ぎてしまったようだった。
ピーターがフランとスティーブにしびれを切らしていることは、ロジャーにもよくわかる。
だからこそ二人が自分の友人である以上、その分まで勇敢に行動しなければと彼は心に決めていた。
「この下には必要な物が山ほどあるんだぜ、兄弟」
ピーターが穏やかな声で、ロジャーに話しかけた。
フランは二人の話を聞いていて不安になった。一休みしたら出発するものとばかり思っていたのに、こんな場所で泥棒の相談なんて、もう我慢が出来なかった。
「あんたたち気でも狂ったの!?」
彼女の言葉を気にもせずに銃を点検するピーターに、彼女は詰め寄る。
「こんなことをしているから揉め事に巻き込まれるのよ、飛行場で起きた事を考えてごらんなさい!」
薄ら笑いを浮かべて、ピーターが答える。
「あそこでの問題は、銃弾が飛んできたことだけさ。あんな亡霊ども、盲目でも倒せるぜ」
(このセリフは映像には存在しない。前のフランのセリフが途中で終わり、スティーブを呼ぶので明らかに撮影されなかった。シナリオにあるものが全て撮影されたわけではない証明と言える)
スティーブを呼び起こそうとするフランを止めると、ピーターはライフルの使い方を簡単に教えてからこう言う。
「他の誰かがここへ上がって来たら、ヘリで逃げろ。俺たちは駐車場に出るから、そこで拾ってくれ。
もし出て来なければ・・・後で追いつくよ、わかったかい?」
その言葉の裏にある恐ろしい意味が、フランにも分かった。
(ここも本編にないが場面が変わるので、撮影された可能性はある)
ロジャーは、すでに部屋から出ていた。
彼らは最後に、下で銃声がしても驚くなと言って階下へと消えた。
その姿が見えなくなった後も、フランは一人階段の踊り場に立ち続ける。
彼女は、眠っているスティーブを起こそうかとためらっていた。
非常階段の先には、狭い廊下が続いている。
300フィート程先が、中央広場に面したバルコニーに通じているらしかった。
廊下にはドアがあり、そのうちの一つが開いている。
ここは管理室らしく、建物の図面や鍵が置いてある。トランシーバーも手に入れた。
二人の男はバルコニーに出て、手すりの間から下を見下ろす。
一階には怪物たちがうろついているが、やはり各店舗の扉は開かないようだった。
そこには、ありとあらゆる商品が揃っていた。
買い物客の笑顔があふれていたはずの場所が、今は静寂に包まれている。
全く異質な世界に紛れ込んだような気分で、しばらく二人は身動きが出来なかった。
かつて栄えた文明が永久に滅び去り、その遺跡の前に今、立っているかような…
管理室に戻った二人は、この建物の図面と鍵とを確認し、準備にかかった。
ロジャーが、音楽を流すのを提案した。
不審がるピーターに、彼はおどけて答える。
「音楽を流せば、俺たちが音を出してもごまかせるさ」
半ば呆れながら、ピーターは全てのスイッチを入れるよう指示した。
上の階では、奇妙な音楽に驚いたフランが堪りかねてスティーブを起こす。
このダンボールだらけの部屋がなんなのか、自分が何処にいるのかもスティーブは一瞬わからなかった。
だが、ライフルを持ったフランの姿を見てギョッとした。
彼女は、彼が寝ている間に起きたことを説明した。
「本当に連中はデパートを荒らしに行ったのか?そんな物をとってどうしようというんだ!」
自分を無視して行動を起こした二人に、スティーブは怒りを覚えた。
フランは怯えた表情で言う。
「あの人たち、まるで泥棒ごっこをやっている子供みたいに夢中なのよ」
スティーブはフランを引き寄せた。
「心配いらないよ、あいつらだって、それ程馬鹿じゃないさ」
今のスティーブにできることは、彼女をしっかり抱きしめることだけだった。
~column~
いよいよ本作のもうひとつの主役である、ショッピングセンターの登場だ。
この映画と出逢ったおかげで、似たようなつくりの建物を見ると何故かワクワクするようになってしまった(笑)。
あるブロガーが書いていたが、いつも見る度に子供の頃の秘密基地ごっこを思い出すと。
言われてみればその通り。
誰にも怒られず、デパートの中を走り回ったり隠れたり、好き放題に物を手に出来たならどんなに楽しいことだろう。
これは子供の夢を具現化したような映画でもあるのだ。
無論、とびきりの悪夢でもあるわけだが。
ショッピングセンターをヘリから見下ろす場面に被るセリフが、米版と伊版で違う。
言葉は同じでも、明らかに違うテイクを採用している。
このような部分が映画全体を通していくつか見られるが、伊のアルジェント側に「ラフカット版」を送った後で、ロメロが米版再編集時に差し替えた為と思われる。
フランが缶詰を手に取る場面は、米版では途中で切られた為に字幕が適当に処理され易い。
缶切りが無いという彼女にロジャーが教えているのは、缶の底に開けるためのキーが付いているという事。
かつては‘じゃあ食えんな’なんてひどいデタラメ翻訳もあった。
小説を読んでいた僕は、売り場に出るまでの二人の行動がやけに詳しく書かれているとは思っていた。
この場面は米版・伊版ともにほぼ同じ編集になっており、後年「ディレクターズカット版」を見るまではまさか実際にその通りに撮影されているとは思わなかったものだ。
だから初めて見た時は、この場面こそが最大の衝撃でもあったのだ。





