ゾンビの出現 ~「ゾンビ」新世紀検証その2~ | スクリーンに雨が降る

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低所得者向きのアパートの前を、SWAT部隊が取り囲んでいる。

この後起きるであろう銃撃戦の為、屋上扉の前でロジャーは長いこと待機していた。

 

現在時刻は、深夜0時。

 

今回の現象を、ほとんどの人が嘘だと思っていた。

株式市場は暴落、失業者の急増を手を拱いて見ているしか出来ない国家に対しての信頼はもはや無く、ことに教育程度の低い、まして宗教心の厚い下層階級の人々は決して従おうとはしない。

 

 

ロジャーの横には、少年の面影を残す新兵がいる。

さっきから興奮して叫んでいるのは、歴戦の勇士・ウーリーだ。

南部人である大男は、人種差別丸出しで口汚い独り言を繰り返す。

こんなボロアパートを‘俺の家よりいい’というウーリーの叫びには、ロジャーも苦笑する。

新兵のロッドは、そんな雑音すら聞こえないように緊張で固まっている。

 


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突如扉が開き、武装した住民が飛び出して来た。

彼らの放った一発の弾丸が、ロジャーの横の新兵を貫く。

頭部に被弾したロッドは、即死だった。

 

SWAT部隊が、屋上を駆けまわる武装住民を一掃する。

路上では指揮官の突入命令が響く。

打ち込まれるガス弾。

 

各隊員がガスマスクを付ける中、ロジャーは思う。

‘こいつは、ベトナムよりも酷いぞ…’

 

ここは彼の生まれた街で、母国なのだ。

なのに今は、その市民と戦っている。何故!?


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中の住民は、もう抵抗はしなかった。

しかし、ウーリーだけは発砲をやめない。

武器を持たない住民に向け、乱射を続ける。

興奮状態の彼は、味方にすら発砲しかねない。

 

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ロジャーは必死で止めようとするが、大男を押さえつける事は出来ない。

ウーリーは、もう正気ではないのだ。

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その時、ガスの靄の中から現れた男が、何の躊躇もなくウーリーを射殺した。

マスクの内の暗い射すような目に、ロジャーは身動きすら出来ない。

その場を去る不思議な隊員を止めようとする者は、誰もいなかった。

(上のスチールに注目してほしい。ウーリーの射撃から逃れたはずの住民が倒れている。脚本では、ウーリーの凶弾により射殺される描写が存在する。これがラフカット版にあると思われる場面の一つだ)


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引き裂くような叫びが、ロジャーを現実に戻した。

部屋の血の海の中で、男が蠢いていた。

足が一本取れて、身体の損傷も激しい。

明らかに死んでいる!

しかもその死体は、隊員に向かって這って来る。

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誰もが呆然とする中、若い女が組み付いて来た。

取り押さえようとした彼らは、女が身体中から血を流しているのに気付く。

彼女も生き返った死体なのだ!

隊員達は、頭部に銃弾を撃ち込む。

この怪物を永久の眠りに就かせてやるには、それしかない。

やっと一時の静寂が訪れた次の瞬間、ロジャーの背後で銃声が!

振り返ると、ショックのあまり正気を失くした隊員が、自分の頭を撃ち抜いていた…
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アパートの洗濯場に逃げ込んだロジャーは、背後に人の気配を感じる。

「小僧、ここはお前一人じゃないんだぜ」

声の主は、躊躇無くウーリーを射殺したあの隊員だ。

マスクを外したその素顔は、黒人だった。

ロジャーは警戒すると同時に、なるべく親しそうに話しかけた。

緊張の為か、余計な事まで喋ってしまう。

だがその黒人は、ロジャーの話に何の反応も示さない。

おかげで、友達とヘリで逃げる話までしてしまった。

 

黒人は彼の目を、じっと覗き込んだ。

冷血な殺人者の目だな、とロジャーは思った。と同時に、それはあらゆる物を見、あらゆる事をやって、しかも恐れを知らない男の目だった。


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いきなり背後のドアが開き、二人は身構えた。

ガスの中から現れたのは、近くの教会の牧師だった。

彼の教区の信者たちは大部分、この低所得者住宅街に住むプエルトリコ人なのだ。

 

妹を探しに行くと言う彼を、ロジャーは保護しようとする。

が、牧師は断るとこう言った。

 

「107号室の住民は、もうあなた方の思いのままです。

ここの人たちは単純だが、強い。

持つ物はほとんど何も無いが、それを簡単に手放しはしない。

それに彼らは、死者を誰にも渡さない」

 

最後の言葉に力を入れ過ぎたのか、年老いた牧師は咳き込む。

黒人隊員がその背中をさすってやるのを見て、ロジャーは意外だった。

 

凶悪な男だと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

 

牧師は話を続ける。


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「この数週間で大勢が死んだ。地下室にその死者たちがいる…」

 

二人は驚いて、目を見合わせる。

彼らの作戦目的は、それだったのだ。

 

「あなた方は、私たちより強い。

だが間もなく、彼らの方が強くなると私は思う。

歩く死者の事だよ。

殺し合いを止めなければ、私たちの負けだ…」

そう言い残して去る牧師の背中を、黙って見送るしかない二人だった。

 

 

その頃地下室では、別の部隊が倉庫を釘付けにした板をはがしていた。

一陣の風が吹き出すと同時に、ゾンビの大群が洪水のように飛び出して来た。
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隊員たちはあまりにも驚愕した為、すぐに攻撃出来ずホールまで押し出された。

後列の隊員は間隔をとって発砲、次々と怪物に命中する。

 

洗濯場から下りて来た二人は、その戦闘に巻き込まれた。

ロジャーが銃の台尻で殴り倒すと、黒人隊員はよろけるゾンビを撃ち倒す。

 

実戦経験豊富なベテラン指揮官もこの状況には途方に暮れ、ヒステリーのように叫んで退いた。

勇敢な何人かの隊員が、倉庫の中に飛び込む。

(映像を見ると、二人がどの経路で倉庫にやって来たのか分からない。この場面が入るとちゃんと繋がるので、ラフカット版に存在する可能性もある。)


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先発隊員が吐きながら逃げる中、黒人隊員はゆっくりと倉庫に入る。

中には損傷が激しく、外に出られない死体も多い。

それらが呻き声を上げながら、動こうとしているのだ。
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まさに、この世の地獄だ。

怪物と化した死人どもが貪り食う肉は、アパートの住人が与えているのか…


ロジャーが立ちすくむ前で、黒人隊員は次から次へ死体を処理する。

やがて、弾が切れた。

しかし彼は、助けを呼ぼうともしない。

 

ロジャーは驚いた。もう一度確かめるように見直した。

 

やはり、間違いではなかった。

 

黒人隊員は、涙を流していた…


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我に返ったロジャーは、黒人隊員に迫るゾンビを撃つと残りの連中に向けて発砲し続けた。

だが怪物たちは、彼らの方を見上げようともしなかった。

まったく気付かないように。

 

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黒人隊員は涙をぬぐうと、銃に弾丸を込めた。

 

ロジャーは、彼に問う。

何故住民は、死体を当局に引き渡さなかったのか?

 

黒人隊員は、静かに答える。

「死には尊厳があると、まだ信じているのさ…」

 

ここの住民たちは、テロリストでもなければ暴徒でもなかった。

自分の親や兄弟たちを、守りたいだけだったのだ。

 

たとえそれが、死んだ後でも。

 

 

今や二人の男は、強い絆で結ばれていた。

ロジャーが見守る中、黒人隊員は残りの死体に慈悲深い弾丸を再び撃ち始めた。

 


彼の名を、ピーターという。

 

 


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~column~
音楽の違いで全く印象が変わってしまう、アパート突入の場面。

米版の重苦しい雰囲気はロジャーの心情を表し、伊版のゴブリンサウンドは見る側のワクワク感すら醸し出す。オールドファンの多くは、このシーンの音楽は‘ZOMBI’でなきゃ!と思っている。

狂乱のSWAT隊員ウーリーは、ファンに人気が高いキャラ。

ロジャー達とゾンビとの乱闘は、小説にも忠実に書かれている。

後に米版で見た時、伊版になかったミグエル(小説表記)の登場場面がそのままだったので驚いた。

テレビ吹き替えでは、ロジャーとピーターは顔見知りとして設定された。

にも関わらず、洗濯場での二人の間に流れる緊張感を声で表現しきったロジャー役・石丸博也氏は見事!

片足神父の場面は、米版・伊版共に1分20秒と同じ時間ながら編集が違う。

その両方が入ったバージョンこそ、「ラフカット版」なのだ。

「ドキュメント・オブ・ザ・デッド」で使用されているのでご確認を。

ちなみに神父は‘妹は死んだから下に行っても会えない’とも言う。

彼は処理されたであろう妹の骸に、別れを告げに行きたかったのだ。

これはどの映像にも存在せず、シナリオの時点で削除された可能性も考えられる。

死体倉庫の編集は全バージョンで過不足があり、自分で編集しないと完全にはならない。

それらが全て揃うのが、「ラフカット版」である。

余談だが、ロジャーの制止を聞かずに射殺される武装住民は顔を黒く塗ったジョン・アンプラス。

「マーティン」や「死霊のえじき」でお馴染みだが、この映画でもキャスティング担当の他にちょい役で出演。