こんばんは!まずは皆さん、乾杯っ!![]()
今回ご紹介するのは、福岡県糸島市の日本酒「田中六五(たなかろくじゅうご) 糸島産山田錦純米酒 生」です。
この一本を手に入れたのは、去年の暮れごろ。ネットの酒販店「利田屋(カガタヤ)」さんで購入したものです。実はこのとき、一緒にもう一本ポチっていまして——それが、今年のお正月にいただいた「産土 2025 穂増 四農醸」。年末に「よし、正月は良い酒でいくぞ」と気合いを入れて選んだ、いわば"ハレの日セット"の片割れだったわけです![]()
さて、この「田中六五」。日本酒好きの間では、もはや説明不要の人気銘柄です。私がこの酒に強く惹かれた理由は、大きく2つあります。
ひとつは、田んぼの中にある酒蔵だということ。蔵が建っているのは、山田錦の産地として全国に名を馳せる糸島の、まさに田園のど真ん中。自分たちの蔵を囲む田んぼで穫れた米で、酒を醸す——こんなにロマンのある話があるでしょうか。しかも銘柄名の「六五」は、精米歩合65%を意味します。大吟醸のように米をピカピカに磨き上げるのではなく、あえて65%という"磨きすぎない"数字を看板に掲げる。これはもう、米そのものへの自信の表れですよね。
そしてもうひとつが、「ハネ木搾り」という搾り方です。これ、日本全国でも数えるほどの蔵にしか残っていないという、たいへん珍しい伝統製法。詳しくは後ほどお話ししますが、聞けば聞くほど気の遠くなるような手間がかかる方法なんです。そんな手間を、令和のいまも守り続けている蔵——。これは飲んでみたいと思うのが人情でしょう。
そして今回。この特別な一本を、いつもお世話になっているワインダイニング「GALA BAR MIZUNO」へ持ち込ませていただき、昼から愉しんでみようという趣向です。ワインのプロが揃うお店で、あえて日本酒を開ける。しかも真っ昼間から。……いやもう、これ以上の贅沢がありますでしょうか![]()
それにしても、冷蔵庫の奥で半年以上も出番を待っていたこの一本。「いつ開けようか」と何度も手に取っては戻し、そのたびに「まだだ、もっと良い日に」と先延ばしにしてきました。良い酒を前にしたときのあの逡巡、日本酒好きの方ならきっと分かっていただけるはずです。そして今日こそが、その"良い日"というわけです。
田んぼの真ん中で生まれた酒は、いったいどんな顔を見せてくれるのか。さっそくいってみましょう!
田中六五とは?
まずは造り手から。この「田中六五」を醸しているのは、福岡県糸島市にある有限会社 白糸酒造(しらいとしゅぞう)。創業は安政2年(1855年)という、160年を超える歴史を持つ蔵です。現在は八代目蔵元杜氏・田中克典氏が中心となって酒造りを行っています。
ここで、銘柄名の由来です。「田中六五」——この名前、実は二重の意味が込められているんです。まず「田中」は、蔵元である田中家の姓。そして同時に、「田んぼの中にある酒蔵」という意味も掛けられています。そして「六五」は、先ほどお話しした通り精米歩合65%のこと。蔵の名前と、立地と、造りの信念。それがたった4文字に凝縮されている。……この名づけ、あまりにも見事だと思いませんか![]()
糸島という土地は、全国的にも知られる山田錦の名産地です。山田錦といえば兵庫県が真っ先に思い浮かびますが、実は福岡県は生産量全国2位。その福岡産の多くを担っているのが、ここ糸島なんです。白糸酒造は、その糸島産の山田錦を100%使い、地元の水で仕込みます。究極の地産地消と言ってもいい造り。裏ラベルにも、蔵元さんの言葉としてこう記されています——「山田錦の田んぼの中から生まれた酒」。この一文に、すべてが詰まっている気がします。
そして、この蔵を語るうえで絶対に外せないのが「ハネ木搾り(撥ね木搾り)」です。これは、醪(もろみ)からお酒を搾る、昔ながらの上槽法。仕組みはこうです。一本の巨大な木の棒(ハネ木)を使い、テコの原理でゆっくりと圧力をかけていく。片側に酒袋を積み上げ、その反対側には重さ1トンを超えることもある巨大な石を吊るす。石の重みが、木を通じて、じわじわと醪に伝わっていくわけです。
では、搾り方が違うと何が変わるのか。ざっくり言えば、「どれだけ強く押すか」の差です。強い圧力をかければ短時間でたくさん搾れますが、そのぶん醪の中の雑味まで一緒に押し出されやすくなる。逆に弱い力でじっくり搾れば、必要な旨味だけが静かに落ちてくる。ハネ木搾りが「優しい搾り」と呼ばれるのは、まさにこの点なんですね。
機械で一気に搾れば、あっという間に終わる作業です。それを、あえて時間をかけて、優しく搾る。現在この方法を続けている蔵は、日本全国でも数えるほどしかないと言われています。まさに絶滅危惧種。手間もかかる、場所も取る、時間もかかる。それでも守り続けるのは、そこでしか生まれない味があるからなのでしょう。
そして今回いただくのは、その田中六五の「生」バージョン。火入れをしていない季節限定の生酒で、当然ながら要冷蔵。スペックは、糸島産山田錦100%、精米歩合65%、アルコール分14度。度数が低めなのも嬉しいところで、下戸の私にも優しい数字です。ちなみに田中六五は特約店限定流通のため、蔵元の直販やオンラインストアでは買えません。出会えたらご縁、という一本です。
田中六五をチェック!
白地に墨黒で大書きされた「田中六五」。
無駄のない潔いラベルが、かえって存在感を放ちます。
ワイングラスに注げば、うっすらと霞がかった優しい色合い。
生酒らしい瑞々しさが伝わってきます。
裏ラベルには蔵元さんの言葉が。
「その素晴らしいお米と真っ直ぐ向き合い、心意気で醸し 伝統のハネ木で優しく搾りました」
——読んでいるだけで、姿勢が正される思いです。
| 銘柄名 | 田中六五(たなかろくじゅうご) 糸島産山田錦純米酒 生 |
|---|---|
| 品目 | 日本酒(純米酒・生酒) |
| 原材料名 | 米(国産)、米麹(国産米) |
| 原料米品種 | 糸島産 山田錦 100% |
| 精米歩合 | 65% |
| アルコール分 | 14度 |
| 搾り | ハネ木搾り(伝統の上槽法) |
| 内容量 | 720ml(要冷蔵・生酒) |
| 製造者 | 有限会社 白糸酒造(福岡県糸島市本1986・安政2年創業) |
田中六五を飲んでみての評価
さあ、いよいよ実飲です。GALA BAR MIZUNOさんの落ち着いた店内で、ワイングラスに注いでいただきます。精米歩合65%という数字から、正直なところ「素朴で、もう少し武骨な酒」を想像していました。米をあまり磨いていないぶん、どっしりとした米感が前に出てくるのではないか、と。
昼下がりの柔らかな光の中、ワイングラスの脚を持って、ゆっくりと回してみます。生酒らしい、うっすらと霞がかったような優しい色合い。……ところが、グラスを鼻に近づけた瞬間、その予想は完全に、そして気持ちよく裏切られることになります。
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えっ、花陽浴みたいだ!
まず香り。立ち上ってきたのは、とても華やかなマスカット&バナナ系の香りでした。これには驚きました。精米65%の純米酒から、こんなにフルーティーな香りが出るとは。思わず「まるで花陽浴みたいだ」と口に出してしまったほど。あの濃密で華やかな香りの人気銘柄を彷彿とさせる、実に魅力的な立ち香です![]()
そして味わい。口当たりは、意外なほどスッキリとしていて、舌触りがとても滑らか。香りが華やかなので甘いのかと身構えると、これがまったく甘ったるくない。かわりに、気持ちの良い酸と、僅かな苦みが味わいをキュッと引き締めてくれます。その引き締めの中から、じんわりと米の旨味が顔を出してくる。この構成が、実に品が良いんです。
もちろん、精米歩合65%ならではの"荒々しさ"も、見え隠れします。大吟醸のようなツルンとした一本調子ではなく、ところどころに米の野性味がちらりと覗く。でも、それが不快な雑味にはまったくならないんです。むしろ、まろやかさとクリアさが全体を包んでいる。
そして、この酒の良さがいちばん際立ったのは、料理と合わせたときでした。白身魚の一皿や、海苔をあしらった長芋といった繊細なアテと一緒にいただくと、酒の細やかな旨味が、料理の輪郭をふわりと縁取ってくれる。強い香りで料理をねじ伏せるのではなく、隣にそっと座って、互いの良さを引き出し合う感じ。持ち込ませていただいた身としては、この相性の良さに思わずニヤニヤしてしまいました。
これはきっと、あのハネ木搾りのおかげなのだろうと思うのです。機械で強い圧をかけて一気に搾るのではなく、巨大な石の重みで、何時間もかけて、じわじわと優しく搾る。その時間の積み重ねが、角を取り、雑味を残さず、このまろやかでクリアな質感を生んでいる。65%という磨きの浅さから来る素朴さと、搾りの丁寧さから来る繊細さ。この相反する二つが同居しているのが、まさに田中六五らしさなのだと感じました。
正直に申し上げると、この繊細な味わいは、日本酒を飲み始めたばかりの方には、少し感じ取りにくいかもしれません。ドカンと甘い、ドカンと華やか、という分かりやすさで殴ってくるタイプではないからです。でも、これは欠点ではありません。色んな日本酒を飲み重ねていくと、その違いがだんだん分かってくる——そういう種類の美味しさなんです。私自身、100銘柄、200銘柄と飲み進めてきたからこそ、この良さが少しずつ見えてきた気がしています![]()
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白身魚の一皿や、海苔をあしらった長芋など、繊細な和のアテと一緒に。この酒の細やかな旨味が、料理とすっと手を結びます。
今日は映画でペアリング!
今回この「田中六五」に合わせたいのは、映画『天然コケッコー』(2007年/山下敦弘監督、原作・くらもちふさこ)です。
『天然コケッコー』は、島根の小さな田舎町が舞台。全校生徒わずか6人の小中学校に、東京から転校生がやってくる——ただそれだけの物語です。田んぼと山に囲まれた風景の中で、中学生の右田そよが、日々のささやかな出来事に揺れ、少しずつ大人になっていく。派手な事件など、何ひとつ起こりません。
なぜ、この映画を田中六五に合わせたいのか。それは、この二つがまったく同じ構造を持っているからです。
まず何より、舞台が「田んぼの中」だということ。画面いっぱいに広がる青い稲、あぜ道、遠くの山。そして田中六五もまた、山田錦の田んぼの真ん中に建つ蔵で生まれた酒です。土地の風景がそのまま作品になっている、という点で、この二つは同じ場所に立っています。糸島の田園を思い浮かべながらこの映画を観れば、風景と味が重なって、二重に沁みてくるはずです。
そして、もっと本質的な共通点。それは「素朴さと、驚くほどの繊細さが同居している」ことです。『天然コケッコー』は、田舎の何気ない日常を描いた素朴な映画に見えて、その演出の精度は恐ろしく高い。光の入り方、間の取り方、会話のちょっとした呼吸——そのすべてが緻密に計算され尽くしている。飾らない見た目の中に、極上の丁寧さが隠れているのです。
これ、まさに田中六五そのものではありませんか。精米歩合65%という素朴な佇まいでありながら、その中身は、ハネ木搾りで何時間もかけて優しく搾られた、極めて繊細な酒。派手に着飾らないけれど、丁寧さが桁違い。見た目の素朴さに騙されてはいけない一本、というわけです![]()
さらに言えば、この映画は「分かる人にはたまらなく沁みる」タイプの作品でもあります。刺激的な展開を求める人には退屈に映るかもしれない。けれど、細部を味わえる人ほど深く好きになる。……先ほど私が「この酒は初心者には少し分かりにくいかもしれない」と書いたのと、まったく同じ性質です。分かりにくさは、欠点ではなく奥行き。そのことを、この映画とこの酒は、静かに教えてくれます。
下戸の酒好き評価点
※下戸の酒好き評価は味の良し悪しを計るものではありません。
下戸で酒初心者の私があくまで個人的な感覚で評価したものになります。
★★☆
★★★ … 下戸にも酒初心者にもオススメしたい
★★☆ … 下戸、酒初心者に丁度良く幅が広がる
★☆☆ … 下戸、酒初心者には少し理解が難しい
田中六五の価格&どこで買える?
さて、気になるお値段です。「田中六五 糸島産山田錦純米酒 生」の実売価格は、720mlで2,200円前後、1800mlで4,200円前後(いずれも税込)が目安です。糸島産の山田錦を100%使い、しかも全国でも数えるほどの蔵しか続けていないハネ木搾りで仕込んだ純米酒。この造りの手間を思えば、驚くほど良心的な価格だと思います。プレミア価格が当たり前になっている人気銘柄が多いなか、この価格を守ってくれているのは本当にありがたい話です。
ただし、購入には少し注意が必要です。田中六五は特約店限定流通の銘柄。蔵元さんは公式に、「特約店以外の店舗、白糸酒造の店頭、電話、自社オンラインストアでの取り扱いはありません」と明言されています。つまり、蔵に直接お願いしても買えないのです。
ではどこで買えるかというと、全国の特約店(正規取扱店)です。住吉酒販さん、はせがわ酒店さん、伊勢五本店さんなど、日本酒に強いお店が名を連ねています。私が今回購入した「利田屋(カガタヤ)」さんのように、ネット通販に対応している特約店もありますので、「近所にお店がない」という方はそちらを探してみるのがおすすめです。
なお、今回の「生」は季節限定品。時期を逃すと出会えませんので、見かけたら迷わず確保が鉄則です。もちろん生酒なので要冷蔵、開けたら早めに飲み切ってくださいね。通年商品の火入れタイプもありますので、まずはそちらから試してみるのも良い入り口だと思います![]()
下に楽天市場とAmazonのリンクを貼っておきますので、気になった方はぜひチェックしてみてください。田んぼの真ん中から生まれた、心意気の一本。ぜひ味わってみてほしいです。
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