マスネ唯一のピアノ協奏曲
曲目/
マスネ/ピアノ協奏曲変ホ長調-1903
1.アンダンテ・モデラート 13:28
2.ラルゴ 9:39
3.スロヴァキアの歌-アレグロ 7:00
4.サンサーンス/アフリカ幻想曲Op.89 11:58
5.グノー/ロシア国家による幻想曲 10:07
ピアノ/マリレーヌ・ドッス
指揮/ジークフリート・ランダウ
演奏/ウェストファーレン交響楽団
録音/1973/03
ワーナー・パイオニア H-5054V(VOX原盤)
このレコードは1970年代にワーナー・パイオニアから発売されたボックス原盤のレコードです。日本コロムビアとのライセンスが切れた1973年ごろからはワーナー・パイオニアに発売権が移っていました。ただアメリカ本国もそうでしたが、VOXは廉価版のイメージが定着していたので、1,700円での発売は中途半端というイメージがつきまとっていました。また、当時は個人でアメリカやイギリスから直接輸入していましたからこのワーナー・パイオニア盤には全く触手が動きませんでした。このマスネは「フランス近代ピアノ協奏曲選」の2として発売されています。録音は当時としては最新のもので1973年8月に録音されています。このアルバムには表題曲を始め、サンサーンスの「アフリカ幻想曲」、グノーの「ロシア国家による幻想曲」も収録されています。
ここでピアノを弾いているマリレーヌ・ドッセはフランスのノルマンディー地方ドンフロンで生まれました。そ幼い頃からピアノを学び、彼女はパリ音楽院に入学し、最初はジャン・バタラに師事し、その後ジャック・フェヴリエからピアノと室内楽の講義を受けました。後にバタラの上級ピアノクラスを引き継いだジャンヌ=マリー・ダレに師事しました。1960年に音楽院で一等賞を受賞しました。ザルツブルクとナポリのコンクールで入賞した後、彼女はコンサート活動を開始しています。バドゥラ=スコダがウィスコンシン大学のアーティスト・イン・レジデンスのポジションをオファーされたとき、彼は彼女をアシスタントとして招きました。その後、彼女はウィスコンシン大学の7つのキャンパスのアーティスト・イン・レジデンスとなり、同大学の学部長の一人であるウィリアム・R・ピーターズと結婚し米国市民となっています。
こののち彼女は、Vox Records の社長である George de Mendelssohn からアプローチを受け、High Fidelity 誌の今月の批評家チョイスに選ばれたグラナドスの全ソロピアノ作品やサン=サーンス、そしてピアノとオーケストラのための数多くの忘れられた作品を含む、フランスとスペインのピアノ作品の広範な録音シリーズを残しています。このアルバムもその中の一枚になります。主な録音がVOXということで日本ではほとんど知られていないのが実情ですが。小生は彼女のサンサーンスのピアノ協奏曲全集も以前所有していました。
さて、マスネといえば歌劇「マスネ」の中の「タイスの瞑想曲」が有名なのでしょうが、小生は昔から彼の「管弦楽組曲」をよく聴いています。このブログでもガーディナーのアルバムを以前取り上げています。
wikiのマスネのページにもピアノ協奏曲は載っていませんからねぇ。ただ、小生は2枚組の「FRENCH PIANO CONCERTOS」というCDを所有していますから、その中には含まれていたなぁという記憶はありました。このアルバムにはこのピアノ協奏曲を捧げたボイエルデューやピエルネ、ラロ、ジャック・フランセなどの作品も収録されています。いずれ取り上げたいと思っています。
第1楽章
穏やかで美しいオーケストラのメロディーに乗ってピアノが煌くような響きを奏で、曲は始まります。そして、ピアノが極上の美を奏でます。ロマンティックです。その後、しばらくすると穏やかな雰囲気の演奏が展開されます。ロマンティックなピアノのメロディーが木漏れ日のように優しく身体を包みこんでくれるかのようです。やがて、やや高揚感のある演奏も登場しますが、再び穏やかな演奏となり、ヴァイオリンの切ない響きとピアノの華麗な響きが絶妙に絡み合い、その後は一旦高揚感のある演奏となります。そして、ピアノが軽やかな演奏を展開し、やがて強い響きとなり、オーケストラの高揚感のある演奏とピアノの美しい響きが溶け合います。その後、比較的穏やかな演奏となり、ピアノの煌くような響きとなり、最後は高揚感の中で終わります。やや控えめなように聴こえるピアノのタッチですが、オーケストラとのバランスはいいです。もともとの4チャンネルを意識しての音作りでしょうか。関節音は多めです。
第2楽章
ピアノの穏やかな美しい響きで曲は始まります。やがて、ピアノの力強い響きの後に続いて、オーケストラがゆったりと穏やかな雰囲気で登場します。時折りピアノの力強い響きが登場します。やがてオーケストラが抒情的なメロディーを演奏し、ピアノもそれに続きます。美しいピアノ独奏の後には、穏やかで美しいオーケストラの響きが聴こえ、最後は静かに終わります。オーケストラはVOXによく登場していて馴染みがありますが、指揮者のジークフリート・ランダウは無名です。無難な指揮ですがやや線が弱いようで音をまとめることに腐心しているようです。
第3楽章
劇的な演奏で曲は始まります。ピアノが力強くリズミカルな演奏を展開し、オーケストラも力強い響きを合間に入れてきます。その後、チャーミングなメロディーが奏でられますが、再び力強いピアノとオーケストラの響きが登場し、その後ピアノが抒情的なメロディーを奏でます。やがて、再びピアノとオーケストラの力強い響きが登場し、その後チャーミングな演奏と高揚感のある演奏が交互に繰り返され、最後は華やかに幕を閉じます。この楽章でようやくピアノがオーケストラを引っ張っていって音楽のまとまりを作り出しています。
このレコードはもともとは4チャンネル録音されていました。ただ、4チャンネルで発売されたのは本国のアメリカだけです。この当時VOXは「キャンディード」というレーベルを発売していて、このレコードもそのシリーズに投入されていました。
2曲目はサン・サーンスの「アフリカ幻想曲Op.89」です。これも珍しい作品の範疇なのでしょうが、なかなかいい曲です。サンサーンスはピアノ協奏曲でもエジプト風と言う作品があるように旅行での印象を曲にまとめたものが結構存在します。これはアフリカをイメージした作品で、灼熱の太陽が頭上に輝いているような描写で始まります。
最後は全く珍品のグノーの「ロシア国家による幻想曲」です。この曲は、我々の中ではチャイコフスキーの「大序曲1812年」でそのテーマを聴くことができますが、ここではゆったりとしたオーケストラでの主題の提示の後はもう一度ピアノが繰り返します。ただオーケストラの全奏ではないために、どちらかと言うとちょっと肩透かしをくったような感じで、曲の冒頭を聴くことになります。その後も変奏曲のような進み方でテーマが変化していきます。一般にグノーの作品というイメージからは、ちょっとかけ離れた印象ではないかと思います。