カラヤン ツァラトゥストラはかく語りき | geezenstacの森

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カラヤン/ウィーンフィル

ツァラトゥストラはかく語りき

 

曲目/R.シュトラウス

交響詩/ツァラトゥストラはかく語りきOp.30 17:00、15:45

 

指揮/ヘルベルト・フォン・カラヤン

ヴァイオリン・ソロ/ウィリー・ボスコフスキー

オルガン/レイ・ミンシェル

演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音/1959/03/09,10 ソフィエンザール

P:ジョン・カールショー

E:ジェイムズ・ブラウン

 

ロンドン GT9001  原盤デッカZAL4449,4450

 

 

 日本盤は再発ものですから、レコーディングに関する詳しい情報はほとんど欠如しています。しすし、頼りになるのはネットです。上の情報はその情報によって補完してあります。下が初出時のジャケットですが、レコードがいかに高級な贅沢品であったかがわかる値段です。それにしても、1000円板のジャケットもカラヤンがきっちりとネクタイを締めた姿の写真を採用しているのは偶然の一致なんでしょうかねぇ。

 

 

初出日本盤 SLB12 これ2,800円もしました

 

英デッカ盤 SXL2154

 

米ロンドン盤 CS6129

 

 ところでデータを調べていてちよっと気になるところがあります。ヴァイオリン独奏のウィリー・ボスコフスキーは理解できるもののオルガニストとしてレイ・ミンシェルの名前があるではありませんか。何、これ?と調べてみたらなかなか面白いエピソードがありました。デッカが1959年1月にカラヤンと契約を結んだとき、他の契約指揮者たちは自分たちの得意なレパートリーを彼に奪われるのではないかと心配したというのですが、カラヤンが最初に録音を望んだのが「ツァラトゥストラはかく語りき」だと聞いて、ほっとしたと言います。当時はこの曲が珍曲扱いされていましたが、1958年4月にベームがベルリンフィルとこの曲をDGに録音したばかりでしたから、カラヤンとしてはすぐには録音できないだろうと考えウィーンフィルと録音しようと考えたようです。

 

 しかし録音を始めるとたちまち難題が生じます。ゾフィエンザールにはオルガンがないのです。カラヤンは別録りすればいいと気にしなかったものの、スタッフは条件の合うオルガン探しに苦労します。そこで採用されたのがノイシュタットの軍用教会のオルガンでした。しかし、ようやく見つけたオルガンもピッチを合わせるためパイプを加工しなくてはならない状況でした。オルガニストの口からこの件が関係者にバレぬようオルガンを弾かされたのは、なんとカルショーの当時の助手レイ・ミンシャルだったというのです。そんなことで、彼の名前がオルガニストとしてクレジットされることになりました。なんとも凄い話しですなぁ。

 

 まあ、この録音には後日談があり、例の「2001年宇宙の旅」のクレジットのことになるのですが、監督のキューブリックはサントラの作曲をアレックス・ノースに依頼していましたが、これを没にして既存のクラシック曲を採用しました。そのとき選んだのはこのカラヤンの演奏だったのですが、映画ではその音源のクレジットが付いていませんでした。デッカが拒否をしたというのです。カラヤンの演奏でもう一つの「美しく青きドナウ」はちゃんとDGのクレジットがついています。ここらあたりがメーカーのスタンスの違いなんでしょうなぁ。これより先に、デッカはビートルズをオーディションで落としていますからねぇ。そして、皮肉にもDGのベームの演奏がサントラに収録されることになりました。カラヤンが激怒したようですが、後の祭りです。

 これらのエピソードは下記の本に書かれています。

 

 

 冒頭はウィーンフィルとは思えないモダンなサウンドで、新しい時代の夜明けを感じさせる壮大さです。1959年からは現実に宇宙開発競争が始まり、組曲『惑星』も同じカラヤン=ウィーンフィルの組み合わせで再度注目されるようになったのですが、この冒頭もその時代のリアリティがひしひしと感じられます。当時のレコ芸では1959年の1月号でベーム/ベルリンフィルの演奏が推薦盤に、そしてその年の10月号でこのカラヤン/ウィーンフィル盤が推薦盤になっています。どうみても組み合わせの妙からいってカラヤン盤に軍配が上がりそうです。音の厚みからしてカラヤン盤の方が重厚でデッカの録音の方に軍配が上がります。冒頭のオルガンの響きも合成ながらデッカの方が広がりがありバランスが取れています。第2曲の弦のアンサンブルはウィーンフィルらしく暖かみがあるものです。第3曲になるとまたダイナミックになってきますが、カラヤンはこういう力強い部分はとても得意です。スコアに忠実に新しい音楽を作りながらも、ドイツ的な伝統を残している部分も多いです。「病から回復するもの」以降はまた聴きどころが多く、色彩的なオーケストレーションもよく再現していますし、ボスコフスキーがVnソロを務めた個所は、華麗で後年の『ばらの騎士』を思わせます。リヒャルト・シュトラウスのもう一つの特徴ですね。カラヤンの演奏は、冒頭の前奏曲の締めのオルガンはサッと切って残響にとどめています。

 

 

 下がサントラとして流通したベーム/ベルリンフィルの冒頭部分です。このカラヤンの処理に対してベームは前走の最後はオルガンを鳴らしたままにしています。


 

 

 明らかに違いますわな。ティンパニの鳴らし方もカラヤンはダイナミックですが、ベームは会場のイエス・キリスト教会のバランスの中で淡々と鳴らしているに留まっています。小生でも、ドラマチックな映画のシーンに当て込むなら盛り上がるカラヤンの演奏を取り上げるところです。

 

 冒頭以降、大きな曲の流れはのちのベルリンフィルの演奏とそんなに変わりませんが、ポイントとなるのは3拍子の「舞踏の歌」の部分ではないでしょうか。ここではコンサートマスターのソロがあり、その音色やテクニックが楽しめる部分です。ウィーン・フィル盤はかの有名なウィリー・ボスコフスキーが、1973年版はベルリン・フィルの顔とうたわれたミシェル・シュヴァルベが、1983年版はトマス・ブランディスがそれぞれ受け持っています。艶やかで味のあるソロはやはりボスコフスキーでしょうか。
 

 カラヤンはセッションでは2回ベルリンフィルと録音を残しています。実演ではウィーンフィルとも何度も演奏しているようですが、正式な音源として残っているウィーンフィルの音をしっかりと捉えた「ツァラトゥストラ」はこの演奏だけです。60年ごろのどこか懐かしいウィーンフィルのサウンドはここでしか聞けません。そして、この響きを楽しめるのはやはり、レコードが一番ということで墓場まで持って行ってもいい一枚でしょうなぁ。

 

 

 

 

下は国内でしか発売されなかったデザインのCDです。